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夫の退職等による減収を理由に大幅な婚姻費用減額を認めた家裁審判紹介

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令和 3年 4月24日(土):初稿
○いったん成立した婚姻費用分担調停で取り決めた月額20万円の婚姻費用額について、その後の退職等事情変更による減収を理由に夫が申立人として婚姻費用減額を求めた事案について判断した令和元年9月6日東京家裁審判(判時2471号72頁)全文を紹介します。

○事案概要は以下の通りです。
・平成16年10月申立人夫と相手方妻は婚姻届
・平成29年8月夫が家を出て別居し、同年9月妻が婚姻費用分担調停申立
・平成30年3月、夫が妻に月額20万円の婚姻費用を支払うとの調停成立
・同年6月夫が妻に婚姻費用減額調停申立するも不成立・審判移行
・夫は平成30年6月までは年収1600万円、同年7月から再雇用で年収660万円に減額
・夫は平成31年3月退職、その後は給与収入なし、但し株式配当収入あり


○夫の収入減少による婚姻費用減額請求に対し、妻は、夫の収入が大幅に減額されることは予想し得た事情であり,そのため,妻は、当時の夫の収入からすれば極めて低額な月額20万円の婚姻費用とする前件調停を成立させた旨主張しましたが、審判は、前件調停においては,申立人の収入額自体に争いがあり,当事者間で具体的な収入額の合意があったとは認められず,また,夫が主張した収入の減少や退職は抽象的には予想し得るとしても、具体的な減少額や減少時期が確定していたわけでもないとして、妻の主張を退けました。

○妻は、夫は経営者として豊富な経験と実績を有しており,年齢にかかわらず,従前と同等の収入を得ることができる職に転職することは容易であり潜在的稼働能力があると主張しましたが、審判は、夫が従前,会社の代表取締役に就任するなどの経歴があったとしても,転職を繰り返してきたわけでもなく,同じ会社に勤め,再雇用を経て退職していることに照らせば,容易に転職でき,従前と同等の高額な収入を得られるとはいえないとして妻の主張を退けました。

○夫には給与収入以外に株式配当収入等があることを理由に最終的には、平成30年3月20万円と取り決めた月額婚姻費用について、平成30年7月以降15万2000円、平成31年4月以降3万2000円を大幅な減額を認めました。妻は、到底、納得出来ないとして東京高裁に抗告して、一部変更になっており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 東京家庭裁判所平成29年(家イ)第7442号婚姻費用分担調停事件において平成30年3月12日に成立した調停の調停条項第1項を,平成30年7月以降,以下のとおり変更する。
 「申立人は,相手方に対し,別居期間中の婚姻費用の分担として,①平成30年7月から平成31年3月まで月額15万2000円を,②平成31年4月から離婚又は別居解消に至るまで月額3万2000円を,それぞれ毎月末日限り,C銀行D支店の相手方名義の普通預金口座(口座番号○○)に振り込んで支払う。振込手数料は申立人の負担とする。」
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

 本件は,夫である申立人が,妻である相手方に対し,平成30年3月12日に成立した当事者間の婚姻費用分担調停(東京家庭裁判所平成29年(家イ)第7442号。以下「前件調停」という。)で定めた婚姻費用20万円の減額を求める事案である。

第2 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和28年○○月○○日生)と相手方(昭和23年○○月○○日生)は,平成16年10月16日に婚姻の届出をした夫婦であるが,平成29年8月21日に申立人が自宅を出て,以降相手方とは別居状態にある。

(2) 相手方は,平成29年9月29日,本件申立人を相手方として,婚姻費用分担調停(前件調停)を申し立てた。申立人と相手方は,平成30年3月12日,前件調停で,申立人は,相手方に対し,婚姻費用の分担として,同月から離婚又は別居解消に至るまで,毎月末日限り月額20万円を支払う旨の合意をした。

(3) 申立人は,平成29年11月7日,相手方に離婚を求める夫婦関係調整調停(東京家庭裁判所平成29年(家イ)第8459号)を申し立てたが,同調停は,平成30年5月15日に不成立となって終了した。
 その後,申立人は,同年6月28日に,婚姻費用の減額を求める調停(東京家庭裁判所平成30年(家イ)第4964号)を申し立て,同月29日に,相手方との同居を求める調停(同第5013号)を申し立てたが,平成31年2月12日,いずれの調停も不成立となり,審判手続に移行した。

(4) 申立人は,平成18年に株式会社Eの取締役兼F株式会社の代表取締役社長に就任し,平成28年4月に同社の取締役会長に就任し,平成29年に給与収入として1652万円を得た。また,平成30年6月に同社と再雇用契約を結び,給与の支給が開始された同年7月から平成31年3月まで月額55万円の給与収入を得たが,同月31日に同社を退職した。(甲1,甲4,甲6,甲7,甲10,甲14)

 申立人は,所有する株式の配当収入として,平成28年に382万8636円,平成30年に429万8793円を得た。平成30年の株式の配当収入のうち,株式会社Eの株式6万7112株に係る配当収入は401万0867円であった。申立人は,同社の株を平成31年3月20日に1万株,同月22日に1万株を売却した。(甲8,甲19(枝番号含む),甲25(枝番号含む),乙9)

 申立人は,年金受給資格はあるが現在受給しておらず,70歳まで受給するつもりがないとしている。
 前件調停時,申立人は,自己の収入については,平成29年の給与収入を1633万0760円,平成28年の株式の配当収入を382万8643円とし,株式の一部が特有財産であるなどとしてその配当収入の一部を控除して,婚姻費用の算定に当たっての収入は合計1693万2267円であると主張し,相手方の収入については,後記(5)の平成28年の営業等所得額や年金収入額は争わないとした上で,申立人が自宅の住宅ローンや管理費等を負担しているとして婚姻費用から合計11万円を控除し,婚姻費用は月額11万円と主張した。(乙8)

(5) 相手方は,平成29年に年金収入63万2845円,平成30年に年金収入63万2632円を得た。(乙1,乙7の2)
 前件調停時,相手方は,自己の収入については平成28年に営業等所得14万6976円,年金収入63万3242円であり,申立人の収入は,平成28年の給与収入を1882万円,株式の配当収入を382万8643円とした上で,住宅ローン等の負担は考慮せず,婚姻費用は33万7869円であると主張した。(乙2)

(6) 申立人は,前件調停において定められた婚姻費用20万円のほか,自宅の住宅ローン及び管理費等を負担し,平成31年1月から同年4月までは住宅ローンが毎月約21万5000円,管理費等として毎月約2万4000円である。(甲22)

2 検討
(1) 調停は,当事者双方の話合いの結果,調停委員会の関与の下で成立し,確定した家事審判と同一の効力を有するものであるから,その内容は尊重されなければならず,前件調停成立時に予想し得なかった事情又は前提とされていなかった事情の変更が後に生じ,調停の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合に限り,調停の内容を変更し又は取り消すことができるというべきである。

(2) 前記1(4)によれば,前件調停時には,申立人は,少なくとも給与収入1600万円(相手方の主張は1800万円)以上を得ていたものであるが,その給与収入は平成30年7月からは再雇用により月額55万円,年額換算して660万円に減額され,平成31年3月に退職して同年4月以降は給与収入を得ていないことが認められ,前件調停時に前提とされていた申立人の稼働状況が変化したことに伴いその収入状況も大きく変動したことに照らすと,本件においては,調停成立時に前提としていなかった事情の変更が生じ,調停の内容が実情に適合していないものとして,改めて婚姻費用分担額を定めるのが相当である。

 そして,婚姻費用の減額を求める調停の申立てが平成30年6月28日であること,減額された申立人の給与の支給が同年7月からであることなど前記1の経緯等に照らし,婚姻費用変更の始期は,当事者の公平の観点から平成30年7月からとするのが相当である。
 相手方は,前件調停時において,申立人が平成29年12月時点で64歳であり,平成31年には定年退職の予定であるから,年収は年々減額されていると主張しており,申立人の収入が大幅に減額されることは予想し得た事情であり,そのため,相手方は,当時の申立人の収入からすれば極めて低額な婚姻費用であったにもかかわらず,前件調停を成立させた旨主張する。

 しかし,前件調停においては,申立人の収入額自体に争いがあり,当事者間で具体的な収入額の合意があったとは認められず,また,申立人が主張した申立人の収入の減少や退職は抽象的には予想し得るとしても,具体的な減少額や減少時期が確定していたわけでもないから,当時の給与収入から半分以下の減少になることが前提になっていたとはいえない(後記(3)の標準算定方式に基づく算定表〔表10・夫婦のみの表〕に,相手方の収入を仮に63万円程度として当てはめた場合,申立人の収入は1500万円前後となり,その程度の減少は前提としていたものと解される。)。
 よって,相手方の主張は採用できない。

(3) そこで検討するに,婚姻費用分担額の算定にあたっては,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各基礎収入(総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して推計した額)の合計額を世帯収入とみなし,これを,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して割り振られる権利者世帯の婚姻費用から権利者の基礎収入を控除して,義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式(以下「標準算定方式」という。判例タイムズ1111号285頁以下)を基本として定めるのが相当である。

(4) 申立人の収入につき,株式の配当収入を給与収入に換算するにあたっては配当収入には職業費が不要であることを考慮する必要があり,標準算定方式において職業費は概ね20%とされていることから,平成30年の株式の配当収入429万8793円については,基礎収入割合38%に20%を加えて基礎収入額を算定し,基礎収入額を基礎収入割合37%で除した673万8648円(≒429万8793円×0.58÷0.37)となる。

 平成30年の株式の配当収入のうち,株式会社Eの株式6万7112株に係る配当収入は401万0867円であるところ,申立人が平成31年3月に株式会社Eの株式2万株を売却したため,同年4月以降の配当収入は281万5591円(≒401万0867円÷6万7112株×4万7112株)と見込まれる。これを給与収入に換算すると,基礎収入割合38%に20%を加えて基礎収入額を算定し,基礎収入額を基礎収入割合38%で除した429万7481円となる。
 そうすると,平成30年7月から平成31年3月までの申立人の収入は,株式の配当収入を給与換算した673万8648円に年額換算した給与収入660万円を加えた1333万8648円,同年4月以降については,株式の配当収入を給与換算した429万7481円を申立人の収入とみるのが相当である。

(5) 相手方は,申立人は経営者として豊富な経験と実績を有しており,年齢にかかわらず,従前と同等の収入を得ることができる職に転職することは容易であるとして潜在的稼働能力がある旨主張するが,申立人が従前,会社の代表取締役に就任するなどの経歴があったとしても,転職を繰り返してきたわけでもなく,同じ会社に勤め,再雇用を経て退職していることに照らせば,容易に転職でき,従前と同等の高額な収入を得られるとはいえず,また,現在申立人に一定程度の配当収入があることに照らせば,稼働しないことが直ちに不当であるともいえないから,相手方の主張は採用できない。

 申立人は,株式の配当収入につき,株式の一部は申立人の特有財産であり,特有財産からの収入については,婚姻費用算定の基礎にすべきでない旨主張する。しかし,相手方は,申立人とは婚姻前から内縁関係にあったと主張してその特有財産性を争っているほか,そもそも婚姻費用分担義務は,いわゆる生活保持義務として自己と同程度の生活を保持させるものであることを前提に,当事者双方の収入に基づき婚姻費用を算定しており,仮に株式の一部が申立人の特有財産であったとしても,本件において,特有財産からの収入をその他の継続的に発生する収入と別異に取り扱う理由は見当たらない。

申立人は,裁判例(甲18)を引用して,特有財産からの収入を算定の基礎にするかは特有財産からの収入が同居中に直接生計の資とされていたかで判断されるべきと主張するが,同裁判例は,婚姻から別居に至るまでの間,専ら義務者が勤務先から得る給与所得によって家庭生活を営んでおり,権利者が従前と同等の生活を保持することができれば足りると解するのが相当であるから,婚姻費用の分担額を決定するに際し,考慮すべき収入は主として義務者の給与所得であるとし,特有財産からの収入を考慮しない旨判示しているものと解され,特有財産の収入の取扱いについて一般的に判断しているものではなく,本件とは事案を異にし,例えば事情変更により給与所得が減少あるいは給与所得がなくなるなどして,従前と同等の生活を保持するに足りない場合の特有財産からの収入の取扱いについてまでその射程が及ぶものということはできない。

 また,申立人は,平成30年6月から平成31年3月までの相手方の健康保険料を負担したこと,平成30年度の住民税について,前年度の高額な給与所得を基準として高額な住民税を負担していることを婚姻費用の算定にあたって考慮すべきと主張するが,健康保険料については,当事者間での立替の問題であって,算定にあたって考慮すべきものとはいえず,住民税については,標準算定方式での基礎収入の算定の際公租公課が考慮されており,従前の婚姻費用の算定において既に考慮されているものであるから,本件で考慮すべきものとはいえない。

(6) 相手方には63万2632円の年金収入があるところ,これを給与収入に換算するにあたっては職業費が不要であることを考慮する必要があり,標準算定方式において職業費は概ね20%とされていることから,基礎収入割合40%に20%を加えて基礎収入額を算定し,基礎収入額を基礎収入割合42%で除した90万3760円(≒63万2632円×0.6÷0.42)となる。

(7) 前記(4)及び(6)のとおり,当事者双方の給与収入(申立人の収入は①平成31年3月までは1334万円程度,②同年4月以降は430万円程度,相手方の収入は90万円程度)を,標準算定方式に基づく算定表〔表10・夫婦のみの表〕に当てはめると,①同年3月までは月額16万円から月額18万円の幅の上方付近,②同年4月以降は月額4万円から月額6万円の幅の中から上方付近に位置づけられ,そのほか本件に現れた一切の事情を考慮すると,相手方が負担する婚姻費用分担額は,①については月額18万円,②については月額6万円とするのが相当である。

(8) 次に,申立人は,相手方が居住する自宅の住宅ローン及び管理費等を負担していることを考慮すべき旨主張するが,住宅ローンには住居を確保するための費用と資産形成のための支出の両面があり,標準的な住居関係費については,申立人の収入からあらかじめ控除され,前記住居関係費を超える部分は資産形成的側面を有するものとして,財産分与等の手続で清算すべきであり,これを婚姻費用分担額の算定にあたって考慮するのは相当ではない。

 もっとも,婚姻費用の算定に当たっては,別居中の権利者世帯と義務者世帯が,統計的数値に照らして標準的な住居関係費をそれぞれ負担していることを前提としており,申立人は相手方が居住する自宅につき住宅ローン及び管理費等を負担し,相手方の住居関係費をも二重に負担し,相手方が住居関係費の負担を免れているといえるから,当事者の公平の観点から,前記(7)の婚姻費用分担額から,相手方の収入に対応する標準的な住居関係費(約2万8000円)を控除するのが相当である。

(9) 以上によれば,申立人は,相手方に対して,婚姻費用として,平成30年7月から平成31年3月まで月額15万2000円を,同年4月から離婚又は別居解消に至るまで月額3万2000円を支払うべきである。

3 よって,主文のとおり審判する。
 東京家庭裁判所家事第2部 (裁判官 那波郁香)
 
以上:6,990文字

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