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長女を夫、二女・三女を妻と分離して監護者を指定した高裁決定紹介

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令和 3年 5月 8日(土):初稿
○「父と生活する小学6年生について父を監護者と指定した高裁決定紹介」の続きで、監護者指定事件の裁判例で令和2年2月18日東京高裁決定(家庭の法と裁判30号63頁、判時2473号88頁)を紹介します。

○相手方夫が,別居中の妻である抗告人に対し,未成年者らの監護者を相手方夫と指定するとともに,現在,抗告人妻の下で養育されている二女及び三女を相手方に引き渡すことを求め、抗告人妻が,相手方夫に対し,未成年者らの監護者を抗告人妻と指定するとともに,現在,相手方夫の下で養育されている長女を抗告人妻に引き渡すことを求め、原審長野家庭裁判所飯田支部(判例掲載なし)は,未成年者らの監護者をいずれも相手方夫と指定し,二女及び三女を相手方夫に引き渡すよう命じました。

○そこで抗告人妻が抗告し、抗告審令和2年2月18日東京高裁は,姉妹分離の点については,監護者指定に当たっての一考慮要素にすぎないとした上で,二女及び三女との関係では,従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致するとして,長女の監護者を相手方夫と,二女及び三女の監護者を抗告人妻とそれぞれ定め,抗告人妻及び相手方夫のその余の申立てはいずれも却下しました。

○原審は、未成年者3人とも夫を監護者と指定する珍しい例でした。抗告審でも長女については、家庭裁判所調査官に対し,抗告人妻の異性関係についての不信感や,同居中の抗告人の生活態度等についての不満を述べ,抗告人妻との同居生活を拒否する意向を示し、この意向は真摯なものと認められ、現在,11歳という長女の年齢にも照らすと,その意向は,一定程度尊重すべきものであるとし、相手方夫を監護者としました。

○二女と三女は,長女とは異なり,抗告人妻と生活することに何ら拒否感を有しておらず,抗告人夫との関係性も良好であり,健やかに成長していることが認められ、従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致するものと認められるとして、抗告人妻を監護者と定めるのが相当としました。

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主   文
1 第1事件の原審判を次のとおり変更する。
(1)未成年者Cの監護者を相手方と定める。
(2)相手方のその余の本件申立てをいずれも却下する。
2 第2事件の原審判を次のとおり変更する。
(1)未成年者D及び同Eの監護者をいずれも抗告人と定める。
(2)抗告人のその余の本件申立てをいずれも却下する。
3 手続費用は,第1事件,第2事件とも,原審及び当審を通じ,各自の負担とする。

理   由
(以下において略称を用いるときは,別途定めるほか,第1事件の原審判に同じ。)
第1 抗告の趣旨
1 第1事件について
(1)原審判を取り消す。
(2)相手方の各申立てをいずれも却下する。
(3)((2)と択一的に)本件を長野家庭裁判所飯田支部に差し戻す。

2 第2事件について
(1)原審判を取り消す。
(2)ア 長女,二女及び三女の監護者をいずれも抗告人と定める。
イ 相手方は,抗告人に対し,長女を引き渡せ。
(3)((2)と択一的に)本件を長野家庭裁判所飯田支部に差し戻す。

第2 事案の概要
1 本件は,〔1〕夫である相手方において,別居中の妻である抗告人に対し,未成年者らの監護者を相手方と指定するとともに,現在,抗告人の下で養育されている二女及び三女を相手方に引き渡すことを求め(第1事件),他方,〔2〕抗告人において,相手方に対し,未成年者らの監護者を抗告人と指定するとともに,現在,相手方の下で養育されている長女を抗告人に引き渡すことを求めた(第2事件)事案である。

 原審は,第1事件については,未成年者らの監護者をいずれも相手方と定め,二女及び三女を相手方に引き渡すように抗告人に命じ,第2事件については,抗告人の各申立てをいずれも却下する審判をしたため,抗告人がこれらを不服として即時抗告をした。

2 抗告理由の要旨
(1)同居中,未成年者らの監護を全般的に担ってきたのは抗告人である上,二女及び三女については,別居後も継続して抗告人の下で安定して生活しているのであるから,監護の継続性の原則からして,抗告人を監護者として指定すべきことは明らかである。原審判は,姉妹分離の解消が最も子の利益に資する旨説示したが,これまで抗告人と一緒の時間を過ごしてきた低年齢の二女及び三女を相手方に引き渡すことにより不可避的に発生する母子分離の及ぼす弊害の方がはるかに深刻なものである。

抗告人と相手方の家は近く,小学校も同じであるから,現在でも継続的に姉妹の交流は図られているし,そもそも,仕事で長時間自宅を不在にする相手方が,長女のみならず,未だ幼い二女及び三女の監護をも継続的に行うことは,現実的に不可能であって,あえて二女及び三女をそのようなリスクの高い環境に置くべき理由は全く存在しない。

(2)長女については,現在は相手方宅に戻っているものの,出生から別居までの10年弱もの期間,抗告人が長女の監護を担ってきたという実績を重視すべきである。

長女は,同居中,抗告人が食事を作ってくれなかったから相手方と暮らしたい旨家庭裁判所調査官に発言したが,そのような事実は存在しないのであり,長女の上記発言は,抗告人の不貞行為を疑って探偵を依頼するなどしていた相手方の影響を強く受けてされたものと考えられる。実際には,相手方こそが,長女を放置して,女性宅に連日,宿泊しており,明らかに子の福祉に反する状況にあるから,長女の監護者を抗告人と定め,長女が二女及び三女とも一緒に生活できるようにすべきである。

3 相手方の主張の要旨
(1)抗告人が未成年者らを連れて別居を開始した直後,長女は,自らの意思で相手方の下に戻ってきて,それ以降,相手方と生活しており,その後,抗告人宅に遊びに行くことはあっても,宿泊したことはほとんどないのであるから,このような長女の一貫した行動が,単に相手方への忠誠心からとられた行動であるはずがない。

家庭裁判所調査官による調査の当時,小学校4年生であった長女は,十分に自分の意向を表明できる年齢であったから,その意向を重視すべきである。なお,相手方が長女を放置して女性宅への宿泊を繰り返しているというのは全くの事実無根であって,長女の監護状況に問題点はなく,長女は,生活面でも情緒面でも安定している。

(2)相手方の自宅は,二女及び三女にとって,別居前まで生活していた馴染みの深い住居であるし,相手方の両親の協力も含めた監護態勢が確立しているから,相手方が二女及び三女を監護することに何の問題もない。

監護の継続性の原則は,あくまで1つの考慮要素にすぎないものである上,相手方は,同居期間中から,未成年者らの朝食の準備,登校・登園準備等,積極的に監護を行ってきており,未成年者らの性格や行動様式を十分理解して,情緒的な結びつきも強く有しているし,相手方の両親も,抗告人と相手方が夫婦で外出する際に,未成年者らの監護を任されることが何度もあった。二女及び三女が相手方に引き渡されることにより,同人らに一定の負担が生じるとしても,姉妹分離の解消により実現できる利益は,それを上回るものである。

 また,抗告人は,不貞相手と疑われる男性や友人の協力を得て,相手方の生活状況を監視し,自らに有利な証拠を作出しようとしているところ,このような抗告人の問題行動は,いたずらに紛争を激化させ、父母の信頼関係を失わせ,ひいては,未成年者らの福祉に反することになるから,監護者としての適格性を疑わせるものである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所が判断に先立ち認定する事実
は,以下のとおり補正するほかは,第1事件の原審判「理由」第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 
(1)3頁4行目冒頭から14行目末尾までを削る。

(2)4頁4行目冒頭から6行目末尾までを以下のとおり改める。
 「別居直前の平成30年3月には,抗告人が,未成年者らを連れて,上記男性が賃借しているアパートを訪れたこともあった。」

(3)5頁2行目の「6月にかけて,」の後に「後記(6)のとおり,」を加え,同25行目の「本件の」を「第1事件原審の」と改め,6頁4行目の「81号」の後に「。第2事件原審」を加える。

(4)6頁7行目冒頭から7頁15行目末尾までを以下のとおり改める。
 「その後,平成30年8月,家庭裁判所調査官は,抗告人宅や相手方宅をそれぞれ訪問し,未成年者らの監護状況を確認したり,未成年者らが通学・通園する小学校や保育園に対する調査を行ったりしたが,それらの結果,特段の問題点は見当たらなかった。また,家庭裁判所調査官は,同年10月,未成年者らの意向調査を行った。」

(5)9頁2行目冒頭から5行目末尾までを削り,同19行目末尾に行を改めて以下のとおり加える。
「(9)長女は,健康上の問題はなく,出席状況は良好であるものの,学習面では国語や算数で努力を要する課題が指摘されているほか,「学習で使用する物や宿題を忘れずに持ってくることができる。」等の項目で改善を要する旨の評価を受けている。

相手方は,宿泊を伴う出張で自宅を不在にすることが時々あるものの,そのような時は,相手方の母親が宿泊して長女の面倒を見ている。相手方は,連絡帳を活用して長女の担任教諭とのコミュニケーションを積極的に図っており,令和元年10月頃には,長女が友人と自宅で遊んでいた際,好きな子のことでからかわれたことが原因で,その友人にハサミを向けるといったトラブルが発生したが,長女を連れて謝罪に行き長女への指導を行った上で,その旨を担任教諭にも報告した。

 二女は,歯科検診で些細な異常が見つかったほかは,健康状態に特段の問題はなく,生活面,対人関係面での改善項目の指摘も受けてはいない。学習面で,図書館の利用を課題として指摘された際は,抗告人が積極的に働きかけを行い,その結果,二女は,意欲的に読書に取り組むようになった。

 三女は,必要な予防接種を接種しており,健康状態に問題はない。保育園への登園状況も良好であり,抗告人は,家庭での三女の状況を細かく担任保育士に伝えており,特に,発熱,胃腸炎等の体調不良時の報告,対応を適切に行っている。抗告人は,保育園の行事についても積極的にアイデアを出すなど,協力的な姿勢で臨んでいる。」

2 長女の監護者について
(1)引用に係る第1事件の原審判「理由」第3の1の認定事実(以下,単に「認定事実」という。)(2)及び(4)(いずれも補正後のもの)のとおり,長女の従前の主たる監護者は抗告人であったと認められるものの,抗告人に別居先に連れて行かれた長女は,その翌日,自らの意思で相手方宅に戻り,その後,現在までの2年弱にわたって,相手方に監護されていることが認められる。

そして,長女は,家庭裁判所調査官に対し,抗告人の異性関係についての不信感や,同居中の抗告人の生活態度等についての不満を述べたりしながら,抗告人との同居生活を拒否する意向を示しているところ,上記の長女の行動内容も併せ考慮すると,長女の上記意向は真摯なものと認められるし,現在,11歳という長女の年齢にも照らすと,その意向は,一定程度尊重すべきものである。

 また,相手方の下での長女の監護状況を見るに,相手方は,仕事のために,平日や土曜日の日中は不在にしており,また,宿泊を伴う出張もあるものの,相手方の父母が中心となって監護補助に当たっており,家庭裁判所調査官による調査の結果を踏まえても,その監護態勢に具体的な問題は見当たらない(認定事実(6)(補正後のもの)参照)。当審において提出を求めた資料を精査した結果,長女の生活態度等に若干不安定な部分がうかがえるものの,相手方は,それに適切に対処しており(認定事実(9)(補正後のもの)参照),格別問題視すべき状況にあると評価することはできない。
 以上によれば,別居前の長女の主たる監護者が抗告人であったことを考慮しても,現時点においては,長女の監護者を相手方と定めるのが相当である。

(2)これに対し,抗告人は,前記第2の2(2)のとおり,〔1〕別居までの長期間の監護の実績があること,〔2〕長女の発言が相手方の影響を受けたものであること,〔3〕相手方が連日,長女を放置して女性宅に宿泊していること等を理由として,長女の監護者を抗告人と定めるべきである旨主張する。

 しかし,長女の出生後,別居するまでの監護の実績は,監護者を定めるに当たっての重要な考慮要素ではあるものの,本件においては,前記(1)で説示したとおり,長女が,自ら抗告人の下を離れて相手方宅に戻り,その後,2年弱もの間,相手方が長女を監護しているといった事情こそを重視すべきである。

そして,抗告人と相手方がそれぞれ他方の不貞行為を疑って探偵会社に素行調査を依頼するといった状況にあること等からすると,長女が両親の対立の影響を受けている可能性は否定し得ないものの,長女は,抗告人に別居先に連れて行かれた直後の時点で,自らの意思で,相手方の下に戻る意向を抗告人に伝えているのであるから,それが相手方の影響によるものであったとは考え難いし,その後,抗告人と長女が面会する機会がそれ相応にあった中でも,長女の意向が変化したことはうかがえず,引き続き相手方宅での生活を選択し続けていることからすると,長女の上記意向は,自らの考えに基づく部分が大きいというべきである。

また,相手方が長女を放置して女性宅に宿泊しているといった事実を認めるに足りる資料は存在せず,審理終結の直前に抗告人から提出された調査報告書(乙40)が,相手方が長女を連れて女性宅に宿泊した事実を示すものであるとしても,その経緯等は判然としないから,仮に,そのような事実があったとしても直ちに相手方が長女の監護者としての適格性を欠くということにもならない。
 したがって,抗告人の上記主張を採用することはできない。

3 二女及び三女の監護者について
(1)二女及び三女については,認定事実(2),(6)及び(9)(いずれも補正後のもの)のとおり,同居中から抗告人が主として監護を担当しており,別居後も現在に至るまで,抗告人と同居して生活しているところ,その監護状況に特段の問題点は認められない。また,二女と三女は,長女とは異なり,抗告人と生活することに何ら拒否感を有しておらず,抗告人との関係性は良好であり,健やかに成長していることが認められる。

 そうすると,二女及び三女については,従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致するものと認められるから,抗告人を監護者と定めるのが相当である。

(2)これに対し,相手方は,前記第2の3(2)のとおり,〔1〕住居環境や監護補助者の点も含め,相手方には,二女及び三女を監護する態勢が整備されていること,〔2〕相手方は,未成年者らの性格や行動様式を十分理解し,情緒的な結びつきを強く有していること,〔3〕抗告人の問題行動が監護者としての適格性を疑わせるものであること,〔4〕本件では,姉妹分離の解消の利益を重視すべきであること等を理由として,二女及び三女の監護者を相手方に定めるべきである旨主張する。

 しかし,従前,いずれの親に監護されていたかといった人的なつながりと比較すれば,物理的な居住場所に馴染みがあるか否かという点は大きな問題とはいえないし,同居中,相手方が保育園への送迎等の一定の監護を担当したり,あるいは,相手方の両親が二女及び三女を時折預かって面倒を見たりしていたからといって,これらが主たる監護者であった抗告人の監護実績に匹敵するものであったとは到底認め難い。

実際上の問題として,長女1人を監護している現状と比較して,いまだ幼い二女や三女も引き取って日常的に監護する場合の負担が格段に大きくなることは明らかであって,相手方にその態勢が整っているといえるかは疑問が残るところであるし,面会交流において,二女や三女が父親である相手方のことを慕っていることは認められるものの,それが抗告人に対する以上の情緒的な結び付きであると認めるべき事情も見当たらない。

また,相手方の指摘する抗告人の問題行動の存否はさて措くとしても,いずれにせよ,抗告人の下での二女及び三女の監護状況に特段の問題はなく,二女及び三女が健やかに成長していると認められることは,前記説示したとおりである。

 なお,一般的に,低年齢の姉妹を同一の監護者の下で養育した方が望ましいとはいい得るものの,これは,監護者を定める上での一考慮要素にすぎないものであって,父母のいずれを監護者と定めるのが子の福祉に合致するのかについては,個々の未成年者ごとに個別具体的に検討すべき事柄である。そして,二女及び三女との関係では,従前ないし現在の監護環境を維持することが最も子の福祉に合致すると考えられることは,前記説示したとおりであるし,長女と二女及び三女とで監護者を異ならせたとしても,本件においては,抗告人と相手方が比較的近い距離に居住しており,実際に,長女と二女・三女間の交流も相当程度頻繁に行われていることが認められるから,監護親が異なることによる弊害が大きいとはいえない。
 したがって,相手方の上記主張を採用することはできない。

4 引渡し申立てについて
 前記2において説示したとおり,長女の監護者は相手方と指定すべきであるから,長女の引渡しを求める抗告人の申立ては理由がなく,また,前記3において説示したとおり,二女及び三女の監護者はいずれも抗告人と指定すべきであるから,二女及び三女の引渡しを求める相手方の申立ては理由がない。

第4 結論
 よって,長女の監護者を相手方と,二女及び三女の監護者を抗告人とそれぞれ定め,抗告人及び相手方のその余の申立てはいずれも却下すべきところ,二女及び三女の監護者を相手方と定め,相手方への引渡しを命じ,抗告人の申立てを全て却下した第1事件及び第2事件の原審判はいずれもこの点においては失当であるから,各原審判を上記のとおり変更することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 今岡健 裁判官 橋爪信)

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