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長男・長女監護中夫に妻を監護者と指定し引渡を命じた家裁審判紹介2

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令和 3年 5月 9日(日):初稿
○「長男・長女監護中夫に妻を監護者と指定し引渡を命じた家裁審判紹介1」の続きで、平成28年12月16日福岡家裁審判(ウエストロージャパン)の判断部分です。

○小学6年の長男Aは、事実に反して申立人妻(母)から捨てられたとの思いがあり、相手方夫(父)は、申立人妻と長男・長女の面会交流に応じない構えを示しているところ、未成年者らの年齢,心情等に鑑みれば,未成年者らにとって,その福祉上,双方の親から大事にされ,愛されていることを実感することが望ましく,母である申立人との継続的な関わりやその愛情を実感することが重要として、本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すれば,未成年者らの各監護者をいずれも申立人と定めるとともに,相手方に対し,未成年者らを申立人に引き渡すことを命ずるのが相当としています。極めて妥当な判断です。

○長男Aは、「長男の言うことを信じるならば,長男をあげる。」との申立人妻(母)の言葉を聞いて、申立人妻(母)に捨てられたと感じ,ショックを受け、申立人妻(母)の方から捨てておいて,今更会いたいとか,一緒に住みたいと言われても無理であると、申立人妻(母)に強い反発を示しているにも拘わらず申立人妻が監護者に指定され、引渡も認められたことに相手方夫は、到底納得出来ないとして抗告しました。

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2 以上の事実関係を前提として,未成年者らの各監護者を申立人と定めること及び申立人に対し未成年者らを引き渡すことの当否について検討する。

(1) 申立人側の事情について
ア 前記認定事実に照らし,申立人は,未成年者らに対する愛情や監護意欲を備えているということができる。
 これに対し,長男は,申立人に捨てられたとの思いを強く表明しているが,申立人が家を出た経緯は,父方伯父から首を押さえつけられるなどして緊急搬送され,以降,帰宅できなくなったというものであり,かかる経緯や,別居からさほど間を置かずに本件申立てがされていること,申立人が手続代理人らから相手方らとの接触を控えるよう助言されていたこと,申立人は未成年者らを連れて相手方と別居するつもりであり,未成年者らを連れて転居先を探すなどしていたことも併せ考慮すれば,申立人は,その意に反して未成年者らと別居するに至ったというべきであり,申立人が未成年者らを捨てて別居したなどということはできない。

 また,長男は,申立人が,申立人の不貞の有無をめぐる相手方との言い争いの中で「長男の言うことを信じるならば,長男をあげる。」と言った際,捨てられたと感じ,ショックを受けたと述べている。申立人は,そのような言動には及んでいないとしてこれを否認しており,事実認定は困難であるが,仮に長男の述べるとおり申立人が前記言動に及んだものであるとすれば,長男が隠れて聞いていたことを申立人が知らなかったとしても,長男の福祉上,問題であるといわざるを得ない。他方で,申立人が未成年者らを連れて転居先を探すなどしていたことや本件申立てをしていること等の前記事実関係にも鑑みれば,申立人の本意とみることはできない。

イ 前記認定事実のとおり,申立人と相手方が同居していた際,申立人が主として未成年者らの監護養育を担っていたこと等に照らせば,申立人は,未成年者らの監護養育について相応の実績を有しているということができる。

 これに対し,相手方は,申立人が平成28年3月頃から食事の準備をしなくなったなどと述べているが,他方で,申立人は,同月頃,交通事故後の体調不良によって食事の準備ができないこともあったが,そのような場合には,知人から差入れをもらったり,外食に連れて行ったりして未成年者らに欠かさず食事を与えていたと述べており,相手方の述べる点から直ちに申立人の監護養育に問題があるということはできない。

 また,相手方は,申立人は,同じ頃,週末の夜に出掛けて行き,朝方に帰宅するようになったなどとも述べて申立人の不貞を疑っているが,他方で,申立人は,平成28年4月頃の夜,TOEIC等の勉強のためファーストフード店に行ったり,朝,ジョギングをしたりしていたなどと述べているところ,申立人の不貞を裏付けるものは提出されておらず,また,申立人が未成年者らのみを自宅に残して夜間外出していたなどともいえず,相手方の述べる点を踏まえても,申立人が子らの監護養育を怠っていたということはできない。

 さらに,長男は,申立人から何度も叩かれたなどと述べ,他方,申立人は,長男の臀部を2回叩いたことがあるなどと述べており,その言い分は食い違っている。長男が叩かれたと述べる具体的な状況は明らかでないが,仮に躾の一環であったとしても,子を叩く行為は問題といわざるを得ない。他方で,長男は,申立人に捨てられたと繰り返し述べており,さらには,相手方から本件審判手続における一連の資料を読み上げられ,申立人の不貞を疑い,申立人をうそ付きであると非難しており,父を良い人,母を悪い人と二分している様子がうかがわれるほか,別居以前は,長男と申立人との関係性に特段の問題はうかがわれず,相手方も,長男と申立人の仲は近かったなどと述べていること,別居後は,長男が一部誇大的な供述をしていること,相手方や父方伯父らの影響も否定し得ないこと等に鑑みれば,長男の前記供述をもって,申立人の監護者としての適格性を直ちに否定すべきであるとまではいえない。

 相手方は,その他に,申立人の監護者としての不適格性について,①申立人がうそ付きであること,②別居時に未成年者らの金を持ち出していること,③申立人は,「C」や「D」という男性らから物を買い与えられたり,金銭をもらったりしており,このような生活は未成年者らに悪影響であること,④申立人に経済力がないことを挙げている。

 しかし,前記①については,申立人と相手方との間で,申立人の不貞の有無をめぐり,その言い分は大きく食い違っているところ,前記のとおり申立人の不貞を裏付けるものは提出されておらず,また,相手方が指摘する申立人のその余のうそについても,これを裏付けるものは提出されていない。前記②については,申立人は,これを否定しているところ,同事実を裏付けるものもない。前記③については,申立人は,Cは,申立人がバーで働いているときに知り合ったタクシー運転手で,申立人より30歳程年上の「日本のお父さん」のような存在であり,Cとの間で男女関係はないが,未成年者らもCと一緒に出掛けることがあり,Cに物を買ってもらったことがあったこと,申立人が,Cに車検代を立て替えてもらった礼として,Cを同人の職場まで車で送迎し,送迎代としてCから数千円を受け取ったことがあったことを認めている。

また,申立人は,Dも申立人より30歳程年上の「日本のお父さん」のような存在であり,男女関係はないが,相手方が無職の間の家計を助けるため,相手方の助言もあり,金銭の援助を受けたことがあったことも認めている。もっとも,前記のとおり同男性らと申立人の不貞を裏付けるものは提出されておらず,また,相手方が述べ,申立人が自認する事実関係から直ちに申立人の不貞や監護者としての不適格性をいうこともできない。

前記④については,確かに,申立人は,通帳の写しを提出するなどしておらず,その経済的基盤は心許ないといわざるを得ない。他方で,申立人の自宅には,長男の机やベッド等が準備されており,申立人は,自宅等で英会話教室を開き,これを主な収入源とするとともに,その合間に福岡市博多区内の会社においても稼働するなど,経済的にも未成年者らの受け入れ態勢を整えつつあるということができる。

(2) 相手方側の事情について
ア 前記認定事実に照らし,相手方も,未成年者らに対する愛情や監護意欲を備えているということができる。

イ 前記認定事実のとおり,相手方は,申立人の別居後,父方祖母らの全面的な支援を受けながら,未成年者らの監護養育を行っている。
 相手方の月収は,30万円から50万円程度であり,その経済的基盤は安定している。

 これに対し,申立人は,相手方の監護者としての不適格性について,
①相手方は,精神的に未成熟な長男の前で,申立人の主張書面を読み聞かせるなどして長男の申立人に対する不信感を増幅させ,その心の傷をより深いものとしていること,
②相手方は,申立人と未成年者らとの間の面会交流を一切拒否する姿勢を示していること,
③父方伯父は,申立人に暴行を加え,これに起因して,申立人は,その意思に反して未成年者らと別居するに至ったものであるところ,その後,父方伯父は,相手方と同居して未成年者らを監護していたものの,相手方との意見の食い違いから家を出て行き,ところが,その後も頻繁に相手方方に滞在して未成年者らを監護しているところ,父方伯父は,申立人を待ち伏せして接触したりするなど規範意識に欠ける行動がみられることや,精神疾患を抱え,通院中であることから,監護補助者としての適格性に疑問があること,
④父方祖母も,長女を連れて父方祖母方に帰るなど,未成年者らを分離させているおそれがあること,その年齢にも鑑み,父方祖母による監護の継続性には不安があること
を挙げている。

 前記①については,相手方は,長男には真実を伝えなければならないなどと述べているが,申立人不在の状況下で,その主張書面等をそのまま読み上げること自体,長男の福祉に沿わないものといわざるを得ない。なお,長男は,事実に反して申立人に捨てられたとの心情を有しているところ,相手方は,申立人が自分で問題を起こして出て行ったと述べて申立人に対する非難に終始している。

前記②については,相手方は,長男は,交流場面観察後,「なんでこんな無駄なことをした。なんでうそ付きに会わないかんと。」と言っており,長女も「もういい。」と言っているとして,未成年者らの意向等を理由として,面会交流に応じない構えを示している。

この点,相手方も,別居前は申立人と長男の仲が近かったと述べていること,長男は,事実に反して申立人に捨てられたとの思いを有していること,長女も,交流場面観察において,母を求める気持ちを表現していること等に加え,未成年者らの年齢に鑑みれば,未成年者らの前記意向等を理由に面会交流に応じないことは,未成年者らの福祉上,問題が大きいといわざるを得ない。前記③④については,相手方は,父方祖母や父方伯父の監護補助に頼る部分が大きいところ,その監護の安定性には若干の疑問があるといわざるを得ない。


(3) 以上のとおり,申立人には,経済的基盤や,長男との関係性の点で不安があるが,他方で,相手方にも,申立人の意に反する別居を境に変化した申立人と未成年者らとの間の関係性の改善に目が向けられていないことや,その監護の安定性等に問題がある。

 この点,前記認定事実のとおり,別居前の未成年者らの主たる監護者は申立人であり,申立人は相応の監護実績を有し,申立人が監護者としての適格性を欠くというまでの事情を裏付けるものはないこと,申立人による未成年者らの受け入れ態勢は整いつつあること,交流場面観察の実施状況に照らせば,長女は母である申立人を求める気持ちを表しており,申立人との愛着関係がうかがわれること,別居以前の長男と申立人との関係性について,相手方は,長男と申立人の仲は近かったなどと述べており,

長男も,以前は申立人と行動することが多かった旨述べているところ,申立人と長男との関係性の悪化は申立人との別居が契機となったものであり,これには,父方伯父が申立人の首を押さえつけるなどし,申立人が緊急搬送され,以降,自宅に帰ることができなくなったという経緯が介在しており,長男は,その後,申立人不在の状況が続く中で,相手方や父方伯父,父方祖母と生活し,申立人に捨てられたなどの思いを強くしていること,

かかる状況や未成年者らの年齢,心情等に鑑みれば,未成年者らにとって,その福祉上,双方の親から大事にされ,愛されていることを実感することが望ましく,母である申立人との継続的な関わりやその愛情を実感することが重要であるが,相手方は,申立人に対する非難に終始し,かかる重要性に思いを寄せておらず,面会交流を拒んでいること,他方で,申立人は,相手方と未成年者らとの間の面会交流に応じる構えを示していること,未成年者らのきょうだい仲は良好であり,きょうだい不分離が望ましいこと,その他,本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すれば,未成年者らの各監護者をいずれも申立人と定めるとともに,相手方に対し,未成年者らを申立人に引き渡すことを命ずるのが相当である。


3 よって,主文のとおり審判する。
 福岡家庭裁判所
 (裁判官 松井ひとみ)
以上:5,261文字

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