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事実上離婚状態でも中退金配偶者に該当するとした地裁判決紹介

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令和 3年 9月15日(水):初稿
○「事実上離婚状態配偶者は中退金配偶者に該当しないとした最高裁判決紹介」の続きで、その第一審の平成30年9月21日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

○原告は、母亡Aの形式上配偶者父Cが生存中に、母亡Aの被告独立行政法人勤労者退職金共済機構に中小企業退職金共済法に基づく退職金928万2803円を、被告日本出版産業企業年金基金にJPP基金規約に基づく遺族給付金として503万0300円、被告出版企業年金基金に出版基金規約に基づく遺族一時金として243万3000円を、父Cは亡母Aと事実上離婚状態で受給資格が無く、自分が受給権者であるとして請求しました。

○これに対し平成30年9月21日東京地裁判決は、中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約は、配偶者が存在する場合は他の遺族は全く支給を受けないとされ、配偶者が存在する場合に他の遺族が退職金,遺族給付金及び遺族一時金を受給することは予定されていないので、配偶者であるCよりも後順位である原告が受給できないとして請求を棄却しました。

○一審判決は、事実状態より形式を重んじた判決ですが、控訴審令和元年12月24日東京高裁判決は、この認定を覆して、原告の請求を認めています。その内容を確認したいのですが、現時点では確認できません。そのような重要判例が公刊されていないのが不思議です。

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主    文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告独立行政法人勤労者退職金共済機構は,原告に対し,928万2803円及び内100万円に対する平成29年11月25日から並びに内828万2803円に対する平成30年5月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告日本出版産業企業年金基金は,原告に対し,503万0300円及び内100万円に対する平成29年11月25日から並びに内403万0300円に対する平成30年5月12日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告出版企業年金基金は,原告に対し,243万3000円及び内100万円に対する平成29年11月25日から並びに内143万3000円に対する平成30年5月12日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 本件は,株式会社a(以下「a社」という。)の従業員であった亡A(以下「亡A」という。平成26年10月15日死亡)の子である原告(平成元年○月○日生)が,次の各請求をした事案である。
(1) 亡Aが被共済者である被告独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「被告中退共」という。)に対し,中小企業退職金共済法に基づく退職金928万2803円及び内100万円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年11月25日から並びに内828万2803円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成30年5月15日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求

(2) 亡Aが加入していた被告日本出版産業企業年金基金(以下「被告JPP基金」という。)に対し,被告JPP基金規約に基づく遺族給付金として503万0300円及び内100万円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年11月25日から並びに内403万0300円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成30年5月12日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求

(3) 亡Aが加入していた被告日本出版産業企業年金基金(以下「被告出版基金」という。)に対し,被告出版基金規約に基づく遺族一時金として243万3000円及び内100万円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年11月25日から並びに内143万3000円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成30年5月12日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求

2 前提事実(争いがない事実,各項掲記の証拠等により認定した事実)
(1) 原告は,亡Aの子である。亡Aは,平成13年頃から乳がんを患っていたところ,平成25年11月にがんが肺へ転移し,平成26年10月15日に死亡した。亡Aは,死亡時,a社に在職しており,原告は大学生であった。(甲1,8)

(2) a社は,被告中退共の共済契約者であり,亡Aはその被共済者であった(被共済番号〈省略〉)。(弁論の全趣旨)

(3) a社は,被告JPP基金及び被告出版基金にそれぞれ加入する事業主であり,亡Aは,被告JPP基金及び被告出版基金の前身である出版厚生年金基金の加入者であった。出版厚生年金基金は,確定給付企業年金法(平成25年6月26日法律第63号による改正前のもの)112条4項により,平成28年10月1日に消滅し,その権利義務を被告出版基金が承継した。亡Aの被告出版基金における加算適用加入員期間は3年以上であった。(争いがない)

(4)
ア C(以下「C」という。)は,昭和63年6月1日に亡Aと婚姻し,同人が平成26年10月15日に死亡した時点において配偶者であった。(甲1)

イ 原告は,平成28年,亡Aが平成26年10月14日(死亡の前日である。)付けで危急時遺言の方式により作成された遺言書において,Cを推定相続人から廃除する意思表示をしたとして,Cを亡Aの推定相続人から廃除する審判を東京家庭裁判所に求めたところ,同裁判所は,Cを亡Aの推定相続人から廃除する審判をした。(同庁平成28年(家)第5168号推定相続人廃除申立事件,甲4,5)

(5)
ア 中小企業退職金共済法所定の退職金の額は,928万2803円である。(争いがない事実)

イ 被告JPP基金の遺族給付金の額は503万0300円である。(争いがない事実)

ウ 被告出版基金の遺族一時金の額は243万3000円である。(争いがない事実)

(6) 中小企業退職金共済法の退職金に関する定め(争いがない)
ア 10条1項
 機構(引用者注:被告中退共を指す。)は、被共済者が退職したときは、その者(退職が死亡によるものであるときは、その遺族)に退職金を支給する。(以下略)

イ 14条
(ア) 1項
第10条第1項の規定により退職金の支給を受けるべき遺族は、次の各号に掲げる者とする。
一 配偶者(届出をしていないが、被共済者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)
二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で被共済者の死亡の当時主としてその収入によつて生計を維持していたもの

 (以下略)

(イ) 2項
 退職金を受けるべき遺族の順位は前項各号の順位により、同項第二号及び第四号に掲げる者のうちにあつては同号に掲げる順位による。(略)

(7) 被告JPP基金の規約(争いがない,甲2,以下「被告JPP基金規約」という。)
ア 65条
 次に掲げる者が死亡したときは,その者の遺族に遺族給付金を一時金として支給する。
1号 加入者

 (以下略)

イ 66条
 遺族給付金を受けることができる遺族は,次に掲げる者とする。この場合において,遺族給付金を受けることが出来る遺族の順位は,次の各号の順位とし,第2号に掲げる者のうちにあっては同号に掲げる順位による。
1号 配偶者(婚姻の届出をしていないが,給付対象者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)
2号 子(略),父母,孫,祖父母又は兄弟姉妹

 (以下略)

(8) 出版厚生年金基金当時の被告出版基金の規約(争いがない,甲3,以下「被告出版基金の規約」という。)
ア 60条
 遺族一時金は,加算適用加入員又は加算適用加入員であった者が,次の各号のいずれかに該当する場合に,その者の遺族に支給する。
1号 加算適用加入員期間が3年以上である加算適用加入員が死亡したとき

イ 62条
(ア) 1項
 遺族一時金を受けることができる遺族は,次の各号に定める者とする。
1号 死亡した加算適用加入員又は加算適用加入員であった者の配偶者(婚姻の届出をしていないが,その者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)
2号 死亡した加算適用加入員又は加算適用加入員であった者の子(略),父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹
3号 略

(イ) 2項
 遺族一時金を受け取ることができる遺族の順位は,前項に規定する順序による。

3 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,受給権の有無である。当事者の主張は次のとおりである。
(原告の主張)
 中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約は,受給権者につき,民法の規定する相続人の範囲及び順位の決定とは異なる内容の規定をしているが,それは,専ら死亡した者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的として,敢えて民法とは別の立場で受給権者を定めたという点にある。そうであるとすれば,それぞれの生活実態から事実上の婚姻関係がないと認められ,かつ客観的に見て法律上の婚姻関係が破綻していると評価できる場合には,生活保障をすべきとする前提事実に欠けることから,上記趣旨に則り,その者は各規定の配偶者に該当しないというべきである。

Cは,亡Aの死亡時,戸籍上は同人の配偶者であったが,婚姻関係の実態をみると,Cは,平成4年頃から別居を開始し,その後亡Aが死亡するまで不貞相手の元で生活していたし,それを理由として,推定相続人から廃除されている。そうすると,亡AとCとの間に夫婦として共同生活を営んでいた実態は長期にわたって全くなく,かつ,20年以上の別居は客観的に見て婚姻関係が破綻したと評価するのに十分であるから,Cは,中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約に定める配偶者には該当しない。

 なお,Cは,平成14年4月から平成17年12月まで原告の養育費を,平成14年4月から平成20年3月までの原告の携帯電話代を負担していたが,その事実があるからといって婚姻関係が存在していたということはできない。

(被告中退共の主張)
 中小企業退職金共済法は事実上婚姻関係にある者を配偶者として受給資格を認めているが,事実上婚姻関係にないとの理由で配偶者に該当しない又は配偶者に該当しても受給資格がないとまで規定してはいない。

(被告JPP基金及び被告出版基金の主張)
ア 被告JPP基金規約及び被告出版基金規約上,遺族給付金又は遺族一時金の受給権者となる遺族の範囲及び順位について,第1順位の配偶者とは,法律上の婚姻関係にある者又は事実上の婚姻関係にある者(いわゆる内縁の配偶者)を指しており,法律上の婚姻関係がある者について実態としての婚姻関係の破綻の有無や状態に鑑みて,配偶者であることを否定することがあるとは定めていない。

イ 推定相続人の廃除の効力は廃除を請求した被相続人との関係で,相手方である被廃除者の相続権を剥奪することにあり,被廃除者のその他の身分関係及びそれに基づく権利義務に影響を及ぼすことはない。また,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約に基づく遺族給付金又は遺族一時金の受給権は,亡Aの相続財産ではなく,両規約が受給権者として定める遺族固有の権利である。そうすると,Cが配偶者としての地位に基づき固有の権利として取得した遺族給付金の受給権が推定相続人廃除によって消滅することはない。

第3 当裁判所の判断
1 甲8及び弁論の全趣旨によれば,Cは,平成4年頃には,亡A及び原告と別居して不貞相手の元で生活をしていたこと,Cは,原告が中高生の頃に,養育費や携帯電話使用料を負担したことがあったこと,亡Aは,原告が大学に入学するまでは同人のために離婚しないままでおり,その後,平成20年頃,原告が大学に入学してCから離婚を求められた時には,原告から就職が決まるまでは離婚を待って欲しいと言われたため,離婚に応じなかったことが認められ,これらの事実によれば,平成20年頃,亡AとCの婚姻関係が形骸化していたが,亡Aは法律上の夫婦であることを解消する意思まではなかったと認められる。

そして,甲4,5の1及び2,甲8並びに弁論の全趣旨によれば,亡Aは,平成26年10月頃に,相続やCとの離婚について弁護士と相談し,相続に関してはCを相続人から排除する旨の遺言を残すことができたものの,離婚手続に時間を要することから離婚手続を執ることができないまま死亡したこと,Cを亡Aの推定相続人から排除する審判がされたことが認められる。

2 中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約の文言によれば,法律上の婚姻関係がある者について,婚姻関係の破綻の有無やその状態に鑑みて,その配偶者性を判断する規定は置かれていない。また,亡AがC以外の者と事実上の婚姻関係にあったという事実は認められず,亡Aの配偶者に該当する者はCのみであり,他に配偶者に該当する者はいない。

中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約に定める配偶者としてCが存在し,他に配偶者であると主張して争う者がいないことを踏まえると,亡AとCとの婚姻関係の実態からCの配偶者性を検討するまでもなく,Cは配偶者であって,退職金,遺族給付金及び遺族一時金の受給権者はCであると認められる。

 また,中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約によれば,配偶者が存在する場合は他の遺族は全く支給を受けないとされており,配偶者に該当する者が存在する場合に他の遺族が退職金,遺族給付金及び遺族一時金を受給することができなくなるのは予定されているから,配偶者であるCよりも後順位である原告が受給できない結果となってもやむを得ない。


3 この点,原告は,中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約が敢えて民法とは別の立場で受給権者を定めたのは,専ら死亡した者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的としているとして,生活実態から事実上の婚姻関係がないと認められ,かつ客観的に見て法律上の婚姻関係が破綻していると評価できる場合には生活保障をすべきという前提事実に欠け,その者は配偶者に当たらないと主張する。

しかし,上記1によれば,亡Aは,協議離婚をする機会があったにも関わらず,その際は自らの意思で法律婚を継続し,その後死亡までの間に離婚手続を執ることがなかったと認められるから,法律上の婚姻関係が破綻していると評価することはできない。したがって,原告の上記主張は採用しない。

4 したがって,原告は,中小企業退職金共済法,被告JPP基金規約及び被告出版基金規約に基づく退職金,遺族給付金及び遺族一時金の受給権を有しない。


第4 結論
 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第19部 (裁判官 石川真紀子)
以上:6,134文字

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