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事実上離婚状態戸籍上配偶者を中退金共済法上配偶者としない高裁判決紹介

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令和 4年 2月23日(水):初稿
○「事実上離婚状態戸籍上配偶者も中退金共済法上配偶者とした地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和元年12月24日東京高裁判決(ウエストロージャパン)全文を紹介します。

○一審平成30年9月21日東京地裁判決(ウエストロージャパン)は、亡Aと訴外Cとの婚姻関係の実態から訴外Cの配偶者性を検討するまでもなく、訴外Cは配偶者であると法的安定性を重視した形式論に終始していました。

○しかし東京高裁判決は、Cは,被共済者等である亡Aの戸籍上の配偶者ではあったが,その婚姻関係は実体を失って形骸化し,かつその状態が固定化して解消される見込みはなく,事実上の離婚状態にあったから,Cはもはや法及び規約上の配偶者に該当しないというべきで,被共済者等の子である控訴人が,法所定の前記退職金,被控訴人Y2基金の前記遺族給付金及び被控訴人Y3基金の前記遺族一時金をいずれも受給する権利を有するとして一審判決を覆し、長女の控訴人に軍配を上げました。形式より実質を重視した妥当な結論です。

○これを不服として共済基金側で上告しましたが、「事実上離婚状態配偶者は中退金配偶者に該当しないとした最高裁判決紹介」記載の通り、最高裁も、民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのなく事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないとして高裁判決を支持しました。

○この民法上の配偶者であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのなく事実上の離婚状態にある場合は、配偶者としての権利は行使できないとの結論は、他の場面でも使えそうで、極めて重要な意義を有する判決です。

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主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人Y1機構は,控訴人に対し,928万2803円及び内100万円に対する平成29年11月25日から,内828万2803円に対する平成30年5月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人Y2基金は,控訴人に対し,503万0300円及び内100万円に対する平成29年11月25日から,内403万0300円に対する平成30年5月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人Y3基金は,控訴人に対し,243万3000円及び内100万円に対する平成29年11月25日から,内143万3000円に対する平成30年5月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
6 この判決は,第2項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

 主文と同旨

第2 事案の概要
1 本件は,株式会社a(以下「a社」という。)の従業員であった亡A(以下「亡A」という。平成26年10月15日死亡)の子である控訴人が,
①亡Aが被共済者である被控訴人Y1機構に対し,中小企業退職金共済法に基づく退職金928万2803円及び内100万円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年11月25日から,内828万2803円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成30年5月15日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,
②亡Aが加入していた被控訴人Y2基金に対し,被控訴人Y2基金規約に基づく遺族給付金として503万0300円及び内100万円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年11月25日から,内403万0300円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成30年5月12日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,
③亡Aが加入していた被控訴人Y3基金に対し,被控訴人Y3基金規約に基づく遺族一時金として243万3000円及び内100万円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年11月25日から,内143万3000円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成30年5月12日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。なお,控訴人は,当審において,被控訴人Y2基金に対する403万0300円の請求の遅延損害金の起算日及び被控訴人Y3基金に対する143万3000円の請求の遅延損害金の起算日を平成30年5月12日から同月15日と変更し,請求の減縮をした。

 被控訴人らは,中小企業退職金共済法,被控訴人Y2基金規約及び被控訴人Y3基金規約(以下,これらを併せて「法及び各規約」ということがある。)に基づく第1順位の受給権者は「配偶者」であるところ,亡Aの法律上の夫であるC(以下「C」という。)が配偶者に該当し第1順位の受給権者であるとして控訴人に対する支払を拒むのに対し,控訴人は,亡AとCは,平成4年頃から別居を開始し,Cは現在に至るまで不貞相手と生活を共にしており,亡AとCは20年以上にわたって夫婦として共同生活を営んでいた実態がないことからすれば,Cは,法及び各規約に規定される「配偶者」に該当せず,次順位の受給権者である「子」に該当する控訴人が受給権者と認められるべきであると主張している(なお,Cは,原審において訴訟告知を受けている。)。

2 原審は,控訴人の請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴をした。

3 前提事実,争点及び当事者の主張は,次の4のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2及び3(原判決3頁10行目から7頁18行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

4 原判決の補正
(1) 原判決3頁13行目の「大学生であった」を「大学(薬学部)を同年9月に卒業した直後であった」と改め,14行目の「8」の後に「,控訴人本人」を加える。
(2) 原判決3頁24行目の「時点において」の後に「戸籍上は」を加える。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原判決とは異なり,控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は次のとおりである。

2 認定事実
 前提事実に,甲1,4,5の1及び2,甲8,10,11及び控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を併せれば以下の事実が認められる。
(1) Cと亡Aは,昭和63年6月1日に婚姻し,平成元年○月○日に控訴人が生まれた。Cと亡Aの間には,控訴人以外に子はいない。

(2) Cは,平成4年頃,亡A及び控訴人と別居し,不貞相手の下で生活を始めた。

(3) その後,Cと亡A及び控訴人は,連絡を取り合うこともなく共に生活をしたこともなかった。しかし,亡Aは,控訴人が小学校6年生の時に乳がんにり患したこともあってCと連絡を取り,控訴人が小学校を卒業し中学校に入学する直前の平成14年3月に,別居後初めて3名で会って食事をし,Cは控訴人の中学校の入学式にも出席した。

(4) 控訴人は,中学2年の時に,Cから贈られた携帯電話の機種変更のために1度Cと会い,その後,Cは,控訴人に対し,携帯電話の使用料が多すぎるなどとメールを数回送信したり,控訴人が高校を卒業するまでの間に,Cが控訴人の養育費を10回(1回2万円から5万円,合計27万円)振り込んだりしたこともあったが,控訴人の中学校の卒業式に出席した後は,亡Aとも控訴人とも会うことはなかった(なお,乙8では,平成15年3月から平成19年4月までの間,Cの戸籍附票上の住所が控訴人や亡Aと同一となったことが認められるが,その経緯は不明であり,上記認定を左右しない。)。

(5) Cは,平成21年頃,亡Aに対し,弁護士に委任して離婚協議を求める書面を送付した。しかし,亡Aは離婚の意思はあったが,控訴人が就職への影響が出ないようにするため大学卒業まで離婚を待って欲しいとの希望を有していたため,Cからの離婚協議の申入れに応じなかった。

(6) 亡Aは,平成25年頃,乳がんが再発したため,Cと連絡を取り,控訴人の中学校の卒業式以来初めて再会し,控訴人も併せて3名で食事をした。しかし,Cと亡Aは言い争いをし,Cは,その後亡Aと会うことはなかった。

(7) その後,亡Aの症状は悪化して入退院を繰り返した。平成26年9月に控訴人が大学を卒業し,亡Aは,Cとの離婚を実現させるために,控訴人に離婚届を取りに行かせたり,控訴人からCに対して離婚の意思を伝えさせたりした。また,亡Aは,同年10月11日,控訴人を通じて,弁護士に離婚の相談を行った。

(8) しかし,亡Aは,病状が悪化していたため自ら離婚届を作成することができなかったこともあって,離婚の手続を進めることを断念し,同月14日に,危急時遺言の方式によって,Cを推定相続人から排除し控訴人に全ての遺産を相続させるとの内容の遺言書を作成し,翌15日に死亡した。Cは,控訴人から亡A死亡の連絡を受けながら葬儀等について控訴人と相談することもなく,出席もしなかった。

(9) 東京家庭裁判所は,平成28年10月5日,Cについて,平成4年頃には不貞相手の下で生活を開始し,以後亡Aが死亡するまでの20年以上もの間別居を継続した上,十分な婚姻費用の負担もしていなかったと認められ,Cの行為は,相続的協同関係を破壊するに足る著しい非行に該当するとして,推定相続人から廃除する審判をした(同庁平成28年(家)第5168号推定相続人廃除申立事件)。

3 争点に対する判断
(1) 上記認定のとおり,Cは,不貞相手と同居を開始して亡Aと別居を開始したところ,その別居期間は20年以上に及び,その間,亡AとCが面会したのは数回に過ぎず,Cは亡Aの婚姻費用をほとんど分担することもなく,離婚の意思が表明されていた。そして,Cは,亡Aの葬儀にも出席することなく,平成29年10月3日に,他の女性との間の婚姻届を提出しているから(甲11),亡Aの死亡当時も,離婚の意思を維持していたことが容易に推認できる。

他方,亡Aも,Cとの離婚の意思があったが,控訴人の就職に支障が生ずることを慮って,控訴人の大学卒業までは離婚届の提出を待っていたところ,控訴人が大学を卒業した平成26年9月には病状が進んで協議離婚届を作成することができなくなり,やむを得ず,危急時遺言の方式により,Cを推定相続人から廃除することとした(なお,前記2(6)の再会の際に離婚についての話合いがされていないが,その再会の目的は,がんの再発によりAが死を意識し,Cに控訴人を託する意図であったと解され,また,控訴人の大学卒業は翌年であるから,この時点で離婚の話合いがされなくとも,亡Aが離婚意思を有していたとの上記認定を左右しない。)。

そうすると,亡Aの死亡時点において,Cの婚姻関係は,実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して解消される見込みのないとき,すなわち,事実上の離婚状態にあったことが認められる。

(2) ところで,法及び各規約に基づく第1順位の遺族の受給権者は,「配偶者」とされているところ,婚姻の届出をしていないが,被共済者,加入者又は加算適用加入員(以下「被共済者等」という。)の死亡の当時,その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含むとされ,また,受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは異なった定め方がされている。

その内容からすると,法及び各規約は,専ら被共済者等の収入に依拠していた遺族の生活の安定を図ることが被共済者等の意思に沿うことからそのような定め方をしているものと認められ,その遺族の範囲は,被共済者等の生活実態に即し,現実的な観点から理解すべきで,遺族に属する配偶者についても,被共済者等との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいうと解するのが相当であり,たとえ戸籍上配偶者とされている者が存在していても,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して解消される見込みのないとき,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,もはや上記遺族の受給権者である配偶者に該当しないというべきである。

(3) これを本件についてみると,Cは,被共済者等である亡Aの戸籍上の配偶者ではあったが,上記(1)のとおり,その婚姻関係は実体を失って形骸化し,かつその状態が固定化して解消される見込みはなく,事実上の離婚状態にあったから,Cはもはや法及び規約上の配偶者に該当しないというべきで,被共済者等の子である控訴人が,法所定の前記退職金,被控訴人Y2基金の前記遺族給付金及び被控訴人Y3基金の前記遺族一時金をいずれも受給する権利を有するというべきである。

(4) これに対し,被控訴人らは,法及び各規約は,事実上婚姻関係にないとの理由で配偶者に該当しないとはしていないし,調査権限を有していない被控訴人らに対し,事実上の離婚状態にある配偶者であるか否かの判断を行わせることを前提とするような解釈は,法的安定性を害し,法及び各規約が予定する解釈の範囲を超えるものである旨主張する。

しかし,法及び各規約を合理的に解釈すれば,上記(2)のように解するほかなく,法及び規約自体が事実上の婚姻関係について規定し,被控訴人らに婚姻関係の実体についての判断を求めているのであるから,事実上の離婚状態についても上記のように解したからといって,法的安定性を害するとはいえない。
 したがって,被控訴人らの主張を採用することはできない。

4 そうすると,控訴人の請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これを棄却した原判決は失当であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,控訴人の請求をいずれも認容することとして,主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第19民事部 (裁判長裁判官 都築政則 裁判官 飯塚圭一 裁判官 新田和憲)
以上:5,739文字

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