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婚姻費用分担始期は分担意思を明確にした時とした家裁審判紹介

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令和 4年 7月 5日(火):初稿
○妻が夫に対し、婚姻費用の支払を求めた事案において、
①分担の始期は、内容証明郵便により分担を求める意思を確定的に表明した時点を基準とし、
②その算定に関し、標準算定方式及び算定表は、法規範ではなく、合理的な裁量の目安であるとして、改定前の算定表等を用いる合意があるなどの事情がない限り、改定後の算定表等による算定に合理性がある以上、同算定表等の公表前の未払分を含め、同算定表等により分担額を算定するのが相当
であるとした令和2年11月30日宇都宮家裁審判(判時2516号87頁)を紹介します。

○本件は、申立人妻と相手方夫は令和元年7月頃から別居し、同日以降申立人がその実家で長男を養育監護していると認定しています。だとすると別居時から要扶養状態になっていますので、その時から婚姻費用の請求を認めても良さそうです。しかし、家裁実務では請求時以降として運用され、請求時が請求の意思表示をしたときか、調停ないし審判申立をしたときかが争いになり、本件では内容証明郵便により分担を求める意思を確定的に表明した時点からの婚姻費用を認めました。

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主   文
1 相手方は,申立人に対し,41万円を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,令和2年11月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日限り,月額4万円を支払え。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 相手方は,申立人に対し,婚姻費用分担金として,毎月相当額を支払え。

第2 当裁判所の判断
1 本件記録及び手続の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和63年○○月○○日生)と相手方(平成元年○○月○○日生)は,平成30年1月7日に婚姻した夫婦である。申立人と相手方との間には,長男(平成30年○○月○○日生,以下「長男」という。)がいる。

(2) 申立人と相手方は,令和元年7月頃から別居しており,同日以降,申立人が,申立人の実家において長男を監護養育している。

(3) 申立人は,相手方に対し,令和元年8月21日付け内容証明郵便により,婚姻費用として月額8万円を請求し,同月23日,同内容証明郵便が相手方に配達された(甲1の1,1の2)。
 令和元年9月24日,申立人は,宇都宮家庭裁判所大田原支部に対し,婚姻費用分担調停(以下「前件調停」という。)を申し立てた(争いがない事実)。申立人は,婚姻費用の支払の始期を,遅くとも前件調停の申立日とすることを相手方と合意した上,前件調停を取り下げた。

 申立人は,相手方に対し,令和元年11月22日,婚姻費用分担調停(以下「本件調停」という。)を申し立てたが(当庁令和元年(家イ)第858号),令和2年8月20日,本件調停は不成立となり,本件審判手続に移行した。

(4) 申立人は,平成30年○○月に長男を出産し,遅くとも平成31年○○月5日頃から令和2年3月まで育児休業給付金を受給していた。申立人は,同給付金として,令和元年7月5日から令和2年3月までの間,月額(支給日数30日)8万2905円を受給した(甲6,7,手続の全趣旨)。

 その後,申立人は,株式会社Cから,令和2年4月及び同年5月の各給与収入(ただし,申立人は,同社から休業手当としての支給である旨説明された。)として,同年4月分5万9333円(甲8)及び同年5月分17万8000円(甲9)を得た。令和2年6月,申立人は,上記会社を退職した。

 同月23日,申立人は,現勤務先との間で,基本賃金15万2500円,精勤手当5000円,通勤手当5340円とすることなどの条件で雇用契約を締結した(甲10)。申立人は,令和2年7月から同年10月までの各給与収入(いずれも支給総額)として,令和2年7月分15万1165円(甲11),同年8月分15万6856円(甲12),同年9月分15万2847円(甲13)及び同年10月分14万3346円(甲14)を得た。

(5) 相手方は,平成25年12月以降,株式会社Cで勤務していたが,令和元年10月18日自己都合により同社を退職した(退職証明書)。相手方の令和元年分の源泉徴収票(支払者株式会社C)によれば,令和元年分の給与収入は,369万3865円である。
 相手方は,令和元年12月から令和2年3月までの間,失業等給付金として,令和元年12月に合計2万4660円,令和2年1月に21万5775円,同年2月に17万2620円及び同年3月に14万1795円を受給した。その後,相手方は,令和2年4月末頃から同年6月末頃までの間,有限会社Dにおいて清掃業のアルバイトとして稼働した。相手方の令和2年度の源泉徴収票によれば,相手方は,同社から合計36万6000円の給与収入を得た。

 令和2年6月26日,相手方は,株式会社Eとの間で,雇用期間につき同年7月7日から期限の定めなし,基本給18万5000円,固定時間外労働手当7万5000円として,雇用契約を締結し,同年7月7日から稼働している(乙1)。相手方は,令和2年7月から同年9月までの各給与収入(いずれも支給総額)として,令和2年7月分(8月支給)21万9071円(乙7),同年8月分(9月支給)27万2820円(乙8)及び同年9月分(10月支給)37万1160円(特別手当10万円を含む。乙9)を得た。

(6) 相手方は,申立人に対し,婚姻期間中の生活費として,令和2年2月26日に7万円,同年7月27日に4万円,同年9月に4万円及び同年10月に8万円の合計23万円を支払った。なお,同年2月26日以前の支払はない(争いがない事実のほか,相手方の審問結果)。

2 婚姻費用分担額等について
(1) 夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障する生活保持義務として,婚姻費用分担義務を負う。

(2) そして,相手方が負担すべき婚姻費用の分担額を算定するに当たっては,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし,これを生活保護基準等から導き出される標準的な生活費指数によって算出された生活費で按分して,義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定する,東京・大阪養育費等研究会提言の標準算定方式及び算定表(判例タイムズ1111号285頁以下参照,以下「標準算定方式」又は「算定表」という。)に改良を加えた改定標準算定方式及び改定算定表(司法研究報告書第70輯第2号養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究参照,以下「改定標準算定方式」又は「改定算定表」という。)に基づいて算定するのが合理的である。

(3) 基礎収入
ア 申立人
(ア) 令和元年8月から令和2年6月まで
 前記認定のとおり,申立人は,令和元年8月から令和2年3月までの間,月額8万2905円の育児休業給付金(合計66万3240円)を,令和2年4月から同年6月までの間,合計23万7333円の給与収入を,それぞれ取得した。そうすると,申立人の総収入については,上記各収入を年額に換算した(ただし,育児休業給付金については,職業費を控除する必要がないから,職業費を15%程度として,同給付金額を0.85で除した78万0282円(小数点以下切捨て)と給与収入とを合計する。)111万0125円(=101万7615円÷11×12か月,小数点以下切捨て)程度と認めるのが相当である。
 そして,上記収入額に照らし,基礎収入割合を46%とするのが相当であるから,申立人の基礎収入は,51万0657円(小数点以下切捨て)と算定される。

(イ) 令和2年7月以降
 申立人の総収入については,上記1(4)記載の令和2年7月以降の各給与収入を年額に換算した年収181万2642円〔(15万1165円+15万6856円+15万2847円+14万3346円)÷4×12か月〕程度と認めるのが相当である。
 そして,上記収入額に照らし,基礎収入割合を43%とするのが相当であるから,申立人の基礎収入は,77万9436円(小数点以下切捨て)と算定される。

イ 相手方
(ア) 令和元年8月から同年10月まで
 前記1(5)で認定したとおり,相手方の令和元年分の源泉徴収票(支払者株式会社C)によれば,令和元年分の給与収入は,369万3865円である。相手方は,上記会社を令和元年10月に退職していることから,相手方の総収入については,上記給与収入を年額に換算した443万2638円程度と認めるのが相当である。
 そして,上記収入額に照らし,基礎収入割合を42%とするのが相当であるから,相手方の基礎収入は,186万1707円(小数点以下切捨て)と算定される。

(イ) 令和元年11月から令和2年6月まで
 前記1(5)で認定したとおり,当時,相手方は,株式会社Cを退職して無職となり,失業等給付金を受給しながら求職活動を行い,また,短期間のアルバイト勤務に従事するなどし,令和2年7月以降,現在の勤務先での稼働を開始したものである。申立人の退職理由,退職直前の収入額,退職後に受給していた失業等給付金の額や稼働状況のほか,再就職までの期間等に照らせば,少なくとも従前の総収入である上記(ア)記載の総収入の5割である年収220万円程度の収入を得られる稼働能力を有するものと推認するのが相当である。
 そして,上記のとおり認定した収入額に照らし,基礎収入割合を43%とするのが相当であるから,相手方の基礎収入は,94万6000円と算定される。

(ウ) 令和2年7月以降
 相手方の総収入については,上記1(5)記載の令和2年7月以降の各給与収入を年額に換算した年収305万2204円〔21万9071円+27万2820円+27万1160円(特別手当10万円を除く。))÷3×12か月〕程度と認めるのが相当である。
 そして,上記収入額に照らし,基礎収入割合を42%とするのが相当であるから,相手方の基礎収入は,128万1925円(小数点以下切捨て)と算定される。

(4) 生活費指数
 生活費指数は,申立人及び相手方を各100とし,長男を62とする。

(5) 婚姻費用分担の始期
 前記1(3)で認定したとおり,申立人は,相手方に対し,令和元年8月21日付け内容証明郵便により,婚姻費用として月額8万円を請求しているから,婚姻費用分担の始期は,同月からとするのが相当である。
 これに対し,相手方は,婚姻費用分担の始期について調停申立時とするのが通例であると主張する。

この点,前記認定のとおり,婚姻費用分担義務が生活保持義務に基づくものであるという性質及び当事者の公平の観点に照らし,婚姻費用分担の始期については,請求時を基準とするのが相当である。そして,本件においては,申立人が相手方に対し,内容証明郵便をもって婚姻費用の分担を求める意思を確定的に表明しているのであって,この時点をもって婚姻費用分担の始期とするのが相当であると認められる。相手方の主張は採用の限りでない。

(6) 相手方が負担すべき婚姻費用分担額
ア 令和元年8月から令和元年10月まで
 前記基礎収入及び生活費指数を前提として,改定標準算定方式に当てはめると,以下の計算式のとおりであり,相手方の婚姻費用分担額は,月額7万9685円(小数点以下切捨て)と算定される。
 以上を踏まえ,本件記録に現れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対して負担すべき婚姻費用分担額は,月額8万円とするのが相当である。

【計算式】
 [(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×(権利者とその扶養する子の生活費指数)÷(権利者,義務者及び双方の扶養する子の生活費指数)-(権利者の基礎収入)]÷12
 [(186万1707円+51万0657円)×(100+62)÷(100+100+62)-51万0657円]÷12=7万9685円(小数点以下切捨て)

イ 令和元年11月から令和2年6月まで
 前記基礎収入及び生活費指数を前提として,改定標準算定方式に当てはめると,以下の計算式のとおりであり,相手方の婚姻費用分担額は,月額3万2502円(小数点以下切捨て)と算定される。
 以上を踏まえ,本件記録に現れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対して負担すべき婚姻費用分担額は,月額3万円とするのが相当である。

【計算式】
 [(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×(権利者とその扶養する子の生活費指数)÷(権利者,義務者及び双方の扶養する子の生活費指数)-(権利者の基礎収入)]÷12
 [(94万6000円+51万0657円)×(100+62)÷(100+100+62)-51万0657円]÷12=3万2502円(小数点以下切捨て)

ウ 令和2年7月以降
 前記基礎収入及び生活費指数を前提として,改定標準算定方式に当てはめると,以下の計算式のとおりであり,相手方の婚姻費用分担額は,月額4万1262円(小数点以下切捨て)と算定される。
 以上を踏まえ,本件記録に現れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に対して負担すべき婚姻費用分担額は,月額4万円とするのが相当である。

【計算式】
 [(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×(権利者とその扶養する子の生活費指数)÷(権利者,義務者及び双方の扶養する子の生活費指数)-(権利者の基礎収入)]÷12
 [(128万1925円+77万9436円)×(100+62)÷(100+100+62)-77万9436円]÷12=4万1262円(小数点以下切捨て)

(7) 未払の婚姻費用分担額
 前記認定のとおり,相手方は,申立人に対し,令和2年2月26日以降,婚姻期間中の生活費として,合計23万円を支払ったことが認められるから,令和元年8月から令和2年10月までの未払の婚姻費用分担金として41万円(=8万円×3か月+3万円×8か月+4万円×4か月-23万円)を直ちに支払うべきである。

(8) 相手方の主張に対する判断
 相手方は,法の不遡及の原則に照らし,改定算定表はその公表後である令和元年12月23日以降の婚姻費用分担額について適用されるべきであり,同日より前に生じた婚姻費用については算定表を用いるべきである旨主張する。
 婚姻費用分担額を算定するに当たっては,「資産,収入その他一切の事情を考慮して」(民法760条),合理的な分担額を定めるのが相当であるところ,改定標準算定方式及び改定算定表は,そもそも法規範ではなく,標準算定方式及び算定表と同様,婚姻費用分担額等を算定するに当たっての合理的な裁量の目安であると認めるのが相当である。

 また,改定標準算定方式及び改定算定表は,標準算定方式及び算定表の提案から15年余りが経過していることから,公租公課,職業費,特別経費の割合及び子等の生活費指数の基礎となる税制等の法改正,社会情勢の変化及び生活保護基準の改定等を受けて,現在の家庭の収入や支出の実態等,より現状の社会実態に即したものといえるから(前記司法研究報告書参照),本件においても改定標準算定方式及び改定算定表に基づいて算定するのが相当である。

 さらに,改定標準算定方式及び改定算定表公表前である令和元年12月以前の未払の婚姻費用分担額についても,前記のとおり,改定標準算定方式及び改定算定表が,あくまでも婚姻費用分担額等を算定するに当たっての合理的な裁量の目安であることに照らせば,当事者間で標準算定方式及び算定表を用いることの合意が形成されているなどの事情がない限り,改定標準算定方式及び改定算定表による算定に合理性が認められる以上は,その公表前の未払分を含めて,改定標準算定方式及び改定算定表により婚姻費用分担額を算定するのが相当である。

そして,改定標準算定方式及び改定算定表は,前記のとおり,税制等の法改正や生活保護基準の改定等を踏まえて,現状の社会実態を反映させたものであるところ,公租公課に関する税率及び保険料率については,平成30年7月時点のもの,職業費に関する統計資料としては,標準算定方式及び算定表の提案当時の資料に相当する資料のうち平成25年から平成29年までの平均値を用いたもの,特別経費に関する統計資料についても,職業費と同様に平成25年から平成29年までの平均値を用いたもの,並びに生活費指数の算出のための生活保護基準及び学校教育費に関する統計資料については,基本的には平成25年度から平成29年度までのもの(ただし,学校教育費のうち子が15歳以上の区分については,平成26年度から平成29年度までのもの)をそれぞれ用いるなどして算出した結果を取りまとめたものである(前記司法研究報告書参照)。

 以上によれば,改定標準算定方式及び改定算定表は,本件において未払の婚姻費用を算定するに際しても,当時の社会実態を踏まえて,これを反映させた考え方であるといえ,十分な合理性を有するものと認められる。
 したがって,本件婚姻費用分担額を算定するに当たっては,未払分を含めて,改定標準算定方式及び改定算定表を用いるのが相当である。
相手方の前記主張は採用の限りでない。

3 結論
 以上によれば,相手方は,申立人に対し,令和元年8月から令和2年10月までの15か月分の未払の婚姻費用として合計41万円を直ちに,同年11月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日限り,月額4万円を支払うべきである。
 よって,主文のとおり審判する。 宇都宮家庭裁判所 (裁判官 本間明日香)
以上:7,266文字

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