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面会交流拒否についての間接強制金支払を否認した高裁決定紹介

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令和 4年 7月17日(日):初稿
○「面会拒否1回につき4万円の支払を認めた家裁決定紹介」の続きで、その抗告審令和3年8月2日大阪高裁決定(判時2518号○頁、家庭の法と裁判38号55頁)の判断部分を紹介します。

○相手方(父)が抗告人(母)に対し,抗告人と相手方との間で成立した面会交流調停事件の調停条項に基づき,相手方と未成年者らとを面会交流させるよう求めるとともに,間接強制を申し立て、原審は,少なくとも令和3年4月に履行すべき義務を履行していないとして,相手方の申立てを認容し、面会交流拒否1回に付き4万円の支払を認めました。

○抗告審大阪高裁決定は,面会交流を定めた調停条項には,新型コロナウイルス感染症等のり患,流行があった場合や未成年者らの意思や状況に応じて面会方法を変更する必要が生じた場合の条項が定められているところ,上記感染症の影響等により,令和2年12月から令和3年3月まで及び5月は,当事者の了解に基づき直接的面会交流の代替としてビデオ通話の方法により実施されていることから,緊急事態宣言が発令された令和3年4月の面会交流が実施されなかったことのみをもって,抗告人(母)に義務の不履行があったと評価することは過酷執行に当たり,加えて相手方(父)自身は調停条項やその趣旨を順守する対応をしない一方で,抗告人(母)に対しては義務の履行の強制を求める点においても権利の濫用に当たるとして,原決定を取り消し,本件申立てを却下しました。

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主    文
1 原決定を取り消す。
2 相手方の本件間接強制の申立てを却下する。
3 手続費用は,原審及び当審を通じ,相手方の負担とする。

理    由

         (中略)

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件申立ては却下すべきものと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。

2 認定事実
 一件記録によれば,次の事実を認めることができる。

         (中略)


3 検討
(1) 上記2(1),(2)で認定したとおり,抗告人と相手方との間では,両者間の調停において,相手方と未成年者らとの面会交流の具体的内容につき合意しているところ,その内容を定めた本件条項は,相手方と未成年者らとの面会交流の実施に当たって抗告人がすべき未成年者らの引渡しの日時,場所を一義的に定めたものであるから,抗告人が本件条項に定める上記の引渡義務を履行しない場合には,間接強制の方法によりその履行を強制することが可能なものであると認められる。

(2) 上記2(3),(5),(6),(7),(9)で認定したところによれば,本件条項に基づいて実施されるべきであった相手方と未成年者らの面会交流については,
①本件条項1項(2)に基づき令和2年12月19日(同月第3土曜日)に実施予定であった面会交流については,抗告人の職場で新型コロナウイルス感染の陽性者が出たためビデオ通話で実施したいとの抗告人の申入れを相手方も受諾して,代替としてビデオ通話の方法により,
②当事者間の調整により令和3年1月23日(同月第4土曜日)に実施予定であった面会交流については,相手方の職場で同ウイルス感染の陽性者が出たためビデオ通話で実施したいとの相手方の申入れを抗告人も受諾して,同様に代替としてビデオ通話の方法により,
③同様に当事者間の調整により同年2月13日に実施予定であった面会交流については,相手方の同ウイルス感染症の発症,入院のため,当事者間の調整により実施日を同月27日に変更した上で,同様にビデオ通話の方法により,
④本件条項1項(2)に基づき同年3月20日に実施予定であった面会交流については,抗告人及び相手方の双方の了解のもとで,ビデオ通話により実施される予定であったが,相手方が通話を忘れており,予定時刻から1時間程度遅れて長男の発信によってビデオ通話の方法で,それぞれ実施されたものの(いずれも長男のみが参加),
⑤本件条項1項(2)に基づき同年4月17日に実施予定であった面会交流については,抗告人が上記感染症の拡大等を懸念してビデオ通話による実施を申し入れたものの,相手方がこれを拒否したことから,直接的面会交流もビデオ通話の方法による交流も実施されなかったものと認められる。

これらによれば,令和2年12月から令和3年3月までは,当事者の了解に基づき直接的面会交流の代替としてビデオ通話の方法により相手方と長男の交流が実施されており,本件申立てがされるまでの間において,本件条項に基づく相手方と未成年者らとの面会交流が実施されなかったのは,令和3年4月の実施予定分のみであった。

 なお,長女は,上記のとおり令和2年12月から令和3年3月までに実施されたビデオ通話の方法による相手方との交流にいずれも参加していないが,長女の年齢や抗告人がそのように働きかけたとはうかがえないことからすると(抗告人は,後記のとおり,複数回にわたって相手方と長女とを直接交流させている。),長女の不参加は,長女自身が相手方との積極的な交流を望む意思を有していないことの表明であったと認めるのが相当である。

本件条項は,面会交流中であっても,未成年者らが帰宅したいとの意向を示したときには,未成年者らを抗告人宅に帰宅させることを定めており(本件条項4項,上記2(2)イ),面会交流の実施に当たって未成年者らの意向を重視する内容となっている。また,相手方も,長女の年齢等の事情を考慮して,長女との面会交流を必須のものとは考えていないことがうかがえる(上記2(10))。これらによれば,長女のビデオ通話への不参加をもって,本件条項に基づく面会交流が実施されていないと評価するのは相当でない。

 他方において,抗告人は,相手方の申入れを受けて,相手方が未成年者らそれぞれと直接会ってクリスマスプレゼントや誕生日プレゼントを手渡して交流する機会を設けたほか(上記2(4),(6)),長女の小学校卒業に当たっては,長女を伴って相手方やその両親に挨拶に出向き,相手方と長女の交流の機会を設けたことも認められる(同2(8))。

 また,本件申立て後の令和3年5月15日には,相手方も了解した上で,直接的面会交流の代替としてビデオ通話により相手方と長男との交流が実施されたことも認められる(同2(11))。

 本件において認められるこれらの事情を総合考慮すると,上記のとおり本件条項に基づく令和3年4月実施予定分の面会交流が実施されなかったことのみをもって,抗告人に本件条項が定める未成年者らを相手方と面会交流させる義務の不履行があったと評価することは,極めて酷であるから,こうした状況において,抗告人に対して本件条項が定める義務の間接強制を求めること(本件申立て)は,過酷執行に当たり,権利の濫用として許されないというべきである。

(3) 加えて,本件条項においては,新型コロナウイルス感染症等のり患,流行があった場合には,抗告人と相手方の双方において他方当事者に連絡し面会の日程について協議する旨が定められているほか(本件条項1項(8),上記2(2)ウ),未成年者らの意思や状況に応じて面会方法を変更する必要が生じた場合には,その具体的変更内容につき誠実に協議する旨も定められている(同4項,上記2(2)エ)。これらの条項は,相手方と未成年者らの面会交流が未成年者らの利益に資するものとなるように,未成年者らにとって安全な状況で行われるよう配慮することを当事者双方に求めたものといえる。

しかし,上記に認定したところによれば,これまでの経緯においては,令和3年2月における面会交流に関する当事者間のやり取り(上記2(6))のように,相手方において面会方法の変更に当たって誠実に対応したとは認め難い場面が多かったものと認められる。また,同年4月には,抗告人又は相手方の身辺や未成年者らの通学先において実際に上記感染症のり患者が出たという事態ではなかったものの,その当時,E下において同感染症の拡大が強く懸念されており,同月○○日にはまん延防止等重点措置が適用され,同月25日には緊急事態宣言が発令されたという客観的な情勢にあったことも考慮すると,同月の面会交流につき直接的面会交流を強く求めビデオ通話による面会交流の実施を拒否したという相手方の態度は,上記の趣旨に合致したものとは認められない。

こうした点からすると,本件申立ては,相手方が,相手方においては本件条項やその趣旨を順守する対応をしない一方で,抗告人に対しては本件条項に基づく未成年者らと直接的面会交流させる義務の履行の強制を求めるものであるといえるから,この点においても権利の濫用に当たるというべきである。

 なお,相手方は,上記2(11)でみたとおり,同年5月には,同年4月と同様の状況下で,代替としてのビデオ通話による面会交流の実施に応じているのであるから,同年4月実施分の面会交流について直接的面会交流の実施を強く求め,ビデオ通話による交流を拒否したことに合理的理由があるとは認め難い。

(4) 上記(2),(3)によれば,本件申立ては,過酷執行,権利の濫用に当たると認められるから,却下すべきである。

4 よって,上記と異なる原決定は失当であるから,これを取り消し,本件申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第9民事部 (裁判長裁判官 永井裕之 裁判官 井川真志 裁判官 空閑直樹)
以上:3,890文字

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