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令和 7年 9月20日(土):初稿 |
○歯科医師女性の原告が、元交際相手である歯科医師男性の被告に対し、被告が原告を騙して原告の貞操権を侵害した慰謝料300万円、被告が原告を騙して負担すると約束した原告宅のリフォーム代約1958万円、被告が原告を騙して被告のソファ及びマットレス代58万円を負担させたと主張して、不法行為又は立替金支払合意に基づき、損害賠償金合計2309万円の支払を求めました。 ○被告は、原告を騙したことはなく、リフォーム代を負担すると言ったこともなく、マットレス代は支払済みであると主張しました。 ○これに対し、被告が原告に虚偽の供述をし、原告を騙したとは認められず、原告と被告はいずれも歯科医師として就業して長年の社会経験も有する成人の男女であるところ、原告は、被告が既婚者であり、被告妻と同居中であることを知りつつ交際を開始していることからすれば、原告が被告と肉体関係を結んだことにつき、被告の方の違法性が著しく大きいと評価することはできないから、貞操権侵害についての被告の不法行為をいう原告の主張は理由がなく、被告がリフォーム代を負担すると認めたことはなく、マットレス代等は弁済済みであるとして、被告の主張を全て認め、原告の請求を全て棄却した令和6年4月23日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。 ○長年の社会経験も有する成人の男女が男女関係となるも、その後、その関係が破綻したことについて、騙した等の理由をつけて安易に慰謝料請求をすることについて、戒めとなる妥当な判決です。 ******************************************** 主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、2309万9097円及びこれに対する令和5年1月27日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、元交際相手である被告に対し、〔1〕被告が原告を騙して原告の貞操権を侵害した、〔2〕被告が原告を騙して原告宅のリフォーム代を支出させた、〔3〕被告が原告に被告のソファ及びマットレス代を負担させたと主張して、上記〔1〕及び〔2〕については不法行為に基づき、上記〔3〕については不法行為又は立替金支払合意に基づき、損害賠償金(上記〔3〕については選択的に立替金)として、合計2309万9097円(上記〔1〕につき300万円、上記〔2〕につき1951万5087円、上記〔3〕につき58万4010円)及びこれに対する令和5年1月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)原告(昭和42年生まれ)は歯科医師の女性であり、平成31年当時、肩書住居地所在の4階建ての建物(以下「原告自宅建物」という。)を所有し、その2階ないし4階(1階は原告の歯科クリニック)に子とともに居住していた。 (2)被告(昭和30年生まれ)は歯科医師の男性であり、平成31年当時、既婚者であった。 (3)原告と被告は、平成31年1月5日に知り合い、同年3月下旬から交際を開始し、同月末に肉体関係をもった。原告は、交際開始時において、被告が既婚者であることを認識していた。(乙4、5) (4)被告は、令和元年5月25日、被告の妻(以下、単に「被告妻」という。)と同居していた自宅を出て、被告妻との別居を開始し、同年8月1日、被告妻を相手方とする離婚調停(以下「本件調停」という。)を申し立てた。 被告は、同年12月25日、本件調停を取り下げた。 (5)原告と被告は、交際期間中の平成31年4月20日、被告が被告妻と別居するに際して必要なソファ及びベッドのマットレスを一緒に買いに行き、原告がこれを原告名義のクレジットカードで購入して、その代金58万4010円(以下「本件マットレス代等」という。)を支出した。被告はこれを原告に対して支払う旨を述べた。 2 争点及びこれについての当事者の主張 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告の貞操権侵害に係る不法行為の成否)について (1)原告は、被告が「婚姻関係が破綻しており、離婚は確実である。」との虚偽の事実を述べたため、被告と肉体関係をもった旨主張し、原告及び原告の友人であるCはこれに沿う陳述をする(甲2、18)。 (2)しかし、被告が「離婚は確実である」と述べたという点については、被告はこれを否定している上、被告は原告との交際開始前の平成31年3月中旬に原告から紹介を受けた弁護士と会い、同年4月中旬頃には同弁護士に委任して着手金を支払い本件調停を申し立てたことが認められるところ(乙2、5〔4頁〕、6、12、前提事実(4))、被告妻との離婚が確実なのであれば、協議離婚が成立しているはずであり、弁護士に委任して調停の申立てをする必要はないのであるから、被告が客観的事実として離婚が確実であると述べ、これを原告が信じたとは考え難い。したがって、この点についての原告及びCの上記各陳述は採用することができない。 (3)また、被告が「婚姻関係が破綻している」と述べたという点については、確かに、被告が原告との交際開始時にそのような認識を有し、原告に対してその旨を述べたこと及び被告妻と離婚する意思がある旨を述べたことが認められる(甲17、乙6〔13頁〕)。しかし、上記(2)のとおり、現に被告は、原告との交際開始前から離婚調停申立てのために弁護士と会い、原告との交際開始直後には別居を考えて移転先を探すようになり(乙5〔26頁〕、前提事実(5))、交際開始2か月後には被告妻との別居を開始して本件調停を申し立てる(前提事実(4))など、離婚に向けて具体的な行動を取っていたものであるし、原告と被告は令和元年9月26日を最後に会っていないところ(争いがない。)、被告が本件調停を取り下げたのはその約3か月後になってからであること(前提事実(4))からすると、被告が上記のとおり原告に述べたからといって、被告が原告に対して故意に自己の認識と異なる虚偽の事実を述べていたものとは認められない。 (4)以上によれば、被告が原告に虚偽の供述をし、原告を騙したとは認められない。そして、前提事実(1)及び(2)によれば、原告と被告はいずれも歯科医師として就業して長年の社会経験も有する成人の男女であるところ、原告は、被告が既婚者であり、被告妻と同居中であることを知りつつ交際を開始していることからすれば(前提事実(3)、弁論の全趣旨)、原告が被告と肉体関係を結んだことにつき、被告の方の違法性が著しく大きいと評価することはできないから、貞操権侵害についての被告の不法行為をいう原告の主張は理由がない。 2 争点2(リフォーム代に係る不法行為の成否)について (1)原告は、被告が令和元年7月頃にリフォーム工事代金は全て被告が負担するとの虚偽の事実を述べたため、同代金を支出したと主張し、これに沿う供述をするとともに(甲3)、同旨のCの陳述書(甲2)を提出する。 (2)しかし、原告の主張によれば、原告自宅建物のリフォームは被告と同居するためのものであるにもかかわらず、本件全証拠によっても、原告が被告に対して本件自宅建物のリフォームの具体的な内容や必要な総額を相談したり図面を見せたりした様子は窺われないこと、原告は令和元年9月1日付けでリフォームの見積書を取得しており(甲5の1)、その後、原告自宅建物のリフォーム工事が完成し原告が工事代金全額を支払ったのは令和2年7月頃であるというところ(甲5の2)、被告が同居を前提に同工事代金を負担すると述べたために同工事を行ったというのであれば、原告が、令和元年9月26日を最後に被告と会わなくなってからも令和2年7月まで同工事を何ら中断することもなく継続し、その間被告に対してリフォームの進行や代金の弁済について相談することも、被告と同居できなくなったことについての不満をLINEで伝えることもしていない(乙5〔29・30頁〕、弁論の全趣旨)のは不自然である。そうすると、上記原告及びCの各供述ないし陳述は直ちに採用することができず、他に原告の上記(1)の主張を認めるに足りる証拠はない。 (3)したがって、原告の上記(1)の主張は理由がない。 3 争点3(本件マットレス代等に係る不法行為の成否及び弁済の有無)について (1)原告と被告の間で本件マットレス代等につき本件立替金支払合意が成立したことは、当事者間に争いがない。 (中略) (3)そうすると、本件マットレス代等は弁済済みであるから、本件立替金支払合意に基づく請求は理由がない。また、不法行為に基づく請求も損害がないから理由がない。 第4 結論 以上によれば、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第1部 裁判官 大寄麻代 以上:3,719文字
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