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高浜原発3・4号機再稼働差し止め福井地裁仮処分決定理由全文紹介3

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平成27年 4月22日(水):初稿
○「高浜原発:3・4号機再稼働差し止め福井地裁仮処分決定理由全文紹介2」の続きです。

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(4) 小括
 日本列島は太平洋プレート,オホーツクプレート,ユーラシアプレート及びフィリピンプレートの4つのプレートの境目に位置しており,全世界の地震の1割が狭い我が国の国土で発生する。1991年から2010年までに発生したマグニチュード4以上,深さ100キロメートル以下の地震を世界地図に点描すると,日本列島の形さえ覆い隠されてしまうほどであり,日本国内に地震の空白地帯は存在しないことが認められる。債務者は前記岩手・宮城内陸地震の発生地域や基準地震動を超える地震が到来してしまった原発敷地には固有の地域の特性があるとし,高浜原発との地域差があることを強調しているが,これらの主張の根拠はそれ自体確たるものではないし,我が国全体が置かれている上に述べた厳然たる事実の前では大きな意味を持つことはないと考えられる。各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎないといえる。さらに,基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば,そこでの危険は,万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。このような施設のあり方は原子力発電所が有する前記の本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない。

3 閉じ込めるという構造について(使用済み核燃料の危険性)
(1) 使用済み核燃料の現在の保管状況

 原子力発電所は,いったん内部で事故があったとしても放射性物質が原子力発電所敷地外部に出ることのないようにする必要があることから,その構造は堅固なものでなければならない。
 そのため,本件原発においても核燃料部分は堅固な構造をもつ原子炉格納容器の中に存する。他方,使用済み核燃料は本件原発においては原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に多量に置かれており,使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れたときこれが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない(前提事実(5)ア)。

(2) 使用済み核燃料の危険性
 使用済み核燃料は,原子炉から取り出された後の核燃料であるが,なお崩壊熱を発し続けているので,水と電気で冷却を継続しなければならないところ(前提事実(5)イ),その危険性は極めて高い。福島原発事故においては,4号機の使用済み核燃料プールに納められた使用済み核燃料が危機的状況に陥り,この危険性ゆえに原子力委員会委員長によって避難計画が立てられた。同計画での被害想定のうち,最も重大な被害を及ぼすと想定されたのは使用済み核燃料プールからの放射能汚染であり,他の号機の使用済み核燃料プールからの汚染も考えると,強制移転を求めるべき地域が170キロメートル以遠にも生じる可能性や,住民が移転を希望する場合にこれを認めるべき地域が東京都のほぼ全域や横浜市の一部を含む250キロメートル以遠にも発生する可能性があり,これらの範囲は自然に任せておくならば,数十年は続くとされた。

 平成23年3月11日当時4号機は計画停止期間中で,使用済み核燃料プールに隣接する原子炉ウエルと呼ばれる場所に普段は張られていない水が入れられており,同月15日以前に全電源喪失による使用済み核燃料の温度上昇に伴って水が蒸発し水位が低下した使用済み核燃料プールに原子炉ウエルから水圧の差で両方のプールを遮る防壁がずれることによって,期せずして水が流れ込んだ。また,4号機に水素爆発が起きたにもかかわらず使用済み核燃料プールの保水機能が維持されたこと,かえって水素爆発によって原子炉建屋の屋根が吹き飛んだためそこから水の注入が容易となったということが重なった。そうすると,4号機の使用済み核燃料プールが破滅的事態を免れ,上記の避難計画が現実のものにならなかったのは僥倖といえる。

(3) 債務者の主張について
 債務者は,原子炉格納容器の中の炉心部分は高温,高圧の一次冷却水で満たされており,仮に配管等の破損により一次冷却水の喪失が発生した場合には放射性物質が放出されるおそれがあるのに対し,使用済み核燃料は通常40度以下に保たれた水により冠水状態で貯蔵されているので冠水状態を保てばよいだけであるから堅固な施設で囲い込む必要はないとするが,以下のとおり失当である。

ア 冷却水喪失事故について
 使用済み核燃料においても破損により冷却水が失われれば債務者のいう冠水状態が保てなくなるのであり,その場合の危険性は原子炉格納容器の一次冷却水の配管破断の場合と大きな違いはない。むしろ,使用済み核燃料は原子炉内の核燃料よりも核分裂生成物(いわゆる死の灰)をはるかに多く含むから(前提事実(5)イ),(2)に摘示したように被害の大きさだけを比較すれば使用済み核燃料の方が危険であるともいえる。原子炉格納容器という堅固な施設で核燃料を閉じ込めるという技術は,核燃料に係る放射性物質を外部に漏らさないということを目的とするが,原子炉格納容器の外部からの事故から核燃料を守るという側面もあり,たとえば建屋内での不測の事態に対しても核燃料を守ることができる。

 そして,五重の壁の第1の壁である燃料ペレットの熔解温度が原子炉格納容器の溶解温度よりもはるかに高いことからすると(大飯原発差止訴訟における債務者の主張によると,①核燃料ペレット,②燃料被覆管,③原子炉圧力容器,④原子炉格納容器,⑤建屋の溶解温度は,それぞれ,①が2800度,②が1800度,③及び④が1500度,⑤が1300度であり,外に向かうほど溶解温度が低くなっている。),原子炉格納容器は崩壊熱による核燃料の溶融事故に対しては確たる防御機能を果たし得ないことになるから,原子炉格納容器の機能として原子炉格納容器の外部における不測の事態に対して核燃料を守るという役割を軽視することはできないといえる。なお,債務者はかような機能は原子炉格納容器には求められていないと主張するが,他方では原子炉格納容器が竜巻防御施設の外殻となる施設であると位置づけており,債務者の主張は採用できない。

 福島原発事故において原子炉格納容器のような堅固な施設に囲まれていなかったにもかかわらず4号機の使用済み核燃料プールが建屋内の水素爆発に耐えて破断等による冷却水喪失に至らなかったこと,あるいは瓦礫がなだれ込むなどによって使用済み核燃料が大きな損傷を被ることがなかったことは誠に幸運と言うしかない。使用済み核燃料も原子炉格納容器の中の炉心部分と同様に外部からの不測の事態に対して堅固な施設によって防御を固められる必要がある。

イ 電源喪失事故について
 上記のような破断等による冷却水喪失事故ではなく全電源が喪失し空だき状態が生じた場合においては,核燃料は全交流電源喪失から5時間余で炉心損傷が開始する。これに対し,使用済み核燃料も崩壊熱を発し続けるから全電源喪失によって危険性が高まるものの,時間単位で危険性が発生するものでない。しかし,上記5時間という時間は異常に短いのであって,それと比較しても意味がない。

 債務者は,電源を喪失しても使用済み核燃料プールに危険性が発生する前に確実に給水ができると主張し,また使用済み核燃料プールの冷却設備は耐震クラスとしてはBクラスであるが(別紙3の別記2の第4条2二参照),安全余裕があることからすると実際は基準地震動に対しても十分な耐震安全性を有しているなどと主張しているが,債務者の主張する安全余裕の考えが採用できないことは2(2)オにおいて摘示したとおりであり,地震が基準地震動を超えるものであればもちろん,超えるものでなくても,使用済み核燃料プールの冷却設備が損壊する具体的可能性がある。また,2に摘示した原子炉の冷却機能の問題点に照らすと,使用済み核燃料プールが地震によって危機的状況に陥る場合にはこれと並行してあるいはこれに先行して隣接する原子炉も危機的状態に陥っていることが多いということを念頭に置かなければならないのであって,このような状況下において債務者の主張どおりに確実に給水作業ができるとは認め難い。たとえば,高濃度の放射性物質が隣接する原子炉格納容器から噴出すれば使用済み核燃料プールへの水の注入作業は不可能となる。

 本件使用済み核燃料プールにおいては全交流電源喪失から2日余で冠水状態が維持できなくなる。我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼすにもかかわらず,全交流電源喪失から2日余で危機的状態に陥いる。そのようなものが,堅固な設備によって閉じ込められていないままいわばむき出しに近い状態になっているのである。

 なお,債務者は上記認定を含む当裁判所の各認定が具体的な蓋然性の検討をしないままなされており抽象的な危険性の認定にとどまっていると主張しているが,当裁判所の認定はその多くが福島原発事故において実際に生じた事実ないしは生じるおそれがあった事実を基礎に置くものであるから債務者の上記主張は当を得ないものといえる。

(4) 小括
 使用済み核燃料は本件原発の稼動によって日々生み出されていくものであるところ,使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え,国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく,深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。

4 本件原発の現在の安全性(被保全債権の存在)
 上記に摘示したところによると,本件原発の安全施設,安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといえる。そして,この脆弱性は,①基準地震動の策定基準を見直し,基準地震動を大幅に引き上げ,それに応じた根本的な耐震工事を実施する,②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする,③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む,④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。また,2(2)ウにおいて摘示した事態の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし,中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに,これらのいずれの対策もとられていない。

 原子力規制委員会はこれらの各問題について適切に対処し本件原発の安全性を確保する役割を果たすことが求められているが(設置法1条,3条,4条),原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの,猶予期間が事実上設けられているところ,地震が人間の計画,意図とは全く無関係に起こるものである以上,かような規制方法に合理性がないことは自明である。そのため,本件原発の危険性は,原子炉設置変更許可(改正原子炉規制法43条の3の8第1項)がなされた現在に至るも改善されていない。

 この設置変更許可をするためには,申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし,新規制基準自体も合理的なものでなければならないが,その趣旨は,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員や周辺住民の生命,身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,十分な審査を行わせることにある(最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決(民集46巻7号1174頁,伊方最高裁判決)参照)。

 そうすると,新規制基準に求められるべき合理性とは,原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに,新規制基準は緩やかにすぎ,これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。原子力規制委員会委員長の「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない。」という川内原発に関しての発言は,安全に向けてでき得る限りの厳格な基準を定めたがそれでも残余の危険が否定できないという意味と解することはできない。同発言は,文字どおり基準に適合しても安全性が確保されているわけではないことを認めたにほかならないと解される。

 新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上,その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく,債権者らの人格権侵害の具体的危険性が肯定できるということになる。これを要するに,具体的危険性の有無を直接審理の対象とする場合であっても,規制基準の合理性と適合性に係る判断を通じて間接的に具体的危険性の有無を審理する場合のいずれにおいても,具体的危険性即ち被保全債権の存在が肯定できるといえる。

 以上の次第であり,高浜原発から250キロメートル圏内に居住する債権者らは,本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があることが疎明されているといえる。なお,本件原子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の危険性は運転差止めによって直ちに消失するものではない。しかし,本件原子炉内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネルギーを発出することになる一方,運転停止後においては時の経過に従って確実にエネルギーを失っていくのであって,時間単位の電源喪失で重大な事故に至るようなことはなくなり,我が国に破滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき,また運転停止によってその増加を防ぐことができる。そうすると,本件原子炉の運転差止めは上記具体的危険性を大幅に軽減する適切で有効な手段であると認められる。

5 保全の必要性について
 本件原発の事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり,本案訴訟の結論を待つ余裕がなく,また,原子力規制委員会の上記許可がなされた現時点においては,保全の必要性はこれを肯定できる。

6 結論
 以上の次第であり,債権者らの仮処分申請を認容すべきであるところ,本件事案の性質上,債権者らに担保を求めることは相当でない。
 (別紙部分はすべて省略)
 (裁判長裁判官 樋口英明 裁判官 原島麻由 裁判官 三宅由子) 


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