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管理会社名義預金は管理会社に帰属するとした地裁裁判決紹介2

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平成31年 1月21日(月):初稿
○「管理会社名義預金は管理会社に帰属するとした地裁裁判決紹介1」の続きです。

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三 参加人らの請求について
1 預託金返還請求1(参加人らの請求の原因二及び三の各1参照)
 前項において判断したとおり、区分所有者らの支払った金員による普通預金が破産会社に帰属する以上、右普通預金から預け入れられた預金1及び2も破産会社に帰属すると解せざるを得ず、参加人らの請求は、失当である。

2 預託金返還請求2(同二及び三の各2参照)
(一)破産会社は、決算書類上、従前、自社の管理するマンションの区分所有者から送金を受けた管理費等を預託した普通預金及び同預金口座の金員から預託した定期預金を自社の資産としていたのを、昭和61年以降止め、その後になって、預金1及び2を預け入れている。

(二)しかしながら、区分所有者らの支払った金員による普通預金は破産会社に帰属し、右預金口座の金員から預金1及び2が破産会社名義をもって預け入れられたのであり、かかる事情の下においては、右の破産会社における帳簿上の取扱いのみで、破産会社が区分所有者らのためにする意思で預金1及び2を預け入れたと認めることはできない。そうである以上、被告(東京駅前支店)担当者において、破産会社が区分所有者らのためにする意思で各預金を預け入れたことを知り、又は知らなかったことに過失があるかどうかを問うまでもなく、参加人らの請求は、失当である。

3 参加人ルイマーブルの不当利得返還請求(同二4参照)について
 先に判断したとおり、破産会社は、管理者として、区分所有者らから管理委託契約に基づき、その費用の前払い等として管理費や修繕積立金等の送金を破産会社名義の普通預金口座宛てに受け、右普通預金は破産会社に帰属し、その一部が定期預金された預金1及び2も区分所有者のためのものと認められない以上、これについて質権を設定することは、横領に当たるものではない。したがって、被告担当者による事情の知不知を問わず、被告が質権の実行によって豊栄の被告に対する債務の弁済に当てたことが法律上の原因を欠くとはいえず、参加人ルイマーブルの右請求も、失当である。

四 被告の抗弁及び原告の再抗弁について
1 被告による質権の設定とその実行

 被告が各預金について質権を設定し、その実行により弁済を受けた事実(事案の概要六1の事実)は、当事者間に争いがない。

2 質権設定契約の締結に至る経緯
(一)Pは、昭和42年ころ豊栄が設立されて以来、同社の代表取締役を務めるとともに、昭和50年ころ、豊栄の分譲したマンションの管理を主目的として破産会社を設立し、昭和61年ころ以降、破産に至るまでその代表取締役を務めていた〈証拠略〉。

(二)Qは、昭和58年1月ころ、Pの依頼により破産会社の代表取締役に就任したが、経営は専らPが行い、破産会社の業務執行には関与していなかった〈証拠略〉。

(三)平成元年当時、破産会社の取締役はP、Q、T、Rの四名、監査役はUであったが、同2年5月28日、Vが取締役に就任(同年6月4日登記)し、同3年2月15日、Tが取締役を辞任(同年5月10日登記)し、同4年11月まで、P、Q、V、Rの四名が取締役であった〈証拠略〉。
 破産会社においては取締役会は開催されておらず、破産会社の登録印鑑及び銀行への届出印は豊栄の本社経理担当役員が管理しており、破産会社の印鑑が必要な場合には、破産会社従業員らが豊栄経理担当役員に捺印を依頼する扱いとなっていた〈証拠略〉。

(四)Pは、昭和58年2月ころ、豊栄が被告荻窪支店から約2億円の借入をするに際して追加の担保を求められ、豊栄の経理担当者であったZに対し、右担保として、破産会社が管理するマンションの管理費剰余金等を預け入れた定期預金について質権を設定するよう指示し、被告担当者から提示された議事録の書式に倣い、破産会社の取締役会議事録を作成させ、同支店との間で、同支店の破産会社名義の定期預金五口(口座番号〈略〉、預金合計3000万円)に被告に対する質権を設定する旨の契約を締結し,その後も、別紙預金担保設定一覧表〈略〉のとおり、取扱支店を被告東京駅前支店に移し、破産会社の取締役会議事録を豊栄経理又は総務担当者に作成させるなどして、同支店担当者との間で、同支店の破産会社名義の定期預金に質権を設定する旨の契約を締結した。

 被告担当者は、右各質権設定契約を締結するに当たり、右破産会社の商業登記簿謄本の交付を受け、豊栄の担当者から破産会社の取締役会議事録を受け取ったが、破産会社には直接問合せ等はしなかった。
 右質権設定契約に関する取締役会議事録には、質権設定の承認決議につき、預金1については、平成4年2月20日、Q、P、R及び監査役Uの出席を得て、預金2については平成3年2月25日、Q、T、R及び監査役Uの出席を得て、預金3については平成4年3月6日、Q、P、R及び監査役Uの出席を得て、それぞれ満場一致で可決されたと記載されていたものの、右各取締役会が開催された事実はなかった。〈証拠略〉

3 破産会社の取締役会の承認のない質権設定契約の効力
(一)右認定事実によれば、Pは、自己が代表取締役を務める豊栄の被告に対する債務を担保するため、預金1から3までに質権設定契約を締結したのであり、右契約は、商法265条一項に定める会社と取締役との利益が相反する取引に当たる。会社以外の第三者と会社代表者との間で行われた取締役と会社の利益の相反する取引は、取締役会の承認を得なければ、その効力を生じないが、右のような取引であっても、相手方が右承認がないことを知り、又はこれを知らない場合であっても、信義則上これを知っていたのと同視すべき重大な過失がある場合に限り、会社は第三者に対して無効を主張することができる。

(二)本件において、前記認定のとおり、被告担当者は、破産会社から質権の設定を受けるに際し、豊栄の従業員とのみ連絡をとり、同社従業員から質権設定に関する契約書類を受領し、破産会社の取締役会議事録も同社従業員に提出を求め、その書類の作成形式について助言し、破産会社に問合せ等をしなかったものの、被告担当者が右質権設定契約について破産会社の取締役会の承認がなかったことを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、右認定の事実の下では、右承認がなかったことを知らなかったことについて被告担当者に重大な過失があると認めることもできない。

(三)もっとも、証人Zは破産会社の取締役会が開かれていなかったことを被告担当者に報告した旨証言しており、被告担当者の法廷における証言から見て、被告担当者において破産会社の取締役会の承認を得る目的を正解していたかどうか疑わしいこととも考えあわせると、あるいは、証人Zの供述するとおり、Zから被告担当者への右報告がされながら、右報告の含む意味の重大さを理解しなかったために見過ごしたのではないかとの疑いを拭えない。しかしながら、証人Zの供述に係る報告の時期及び相手方は曖昧であり、被告担当者が、破産会社の取締役会の議事録の提出を求めた趣旨自体を無視するに等しい事実の報告を受けながら、なお、質権設定契約を締結したとも考え難く、他に証拠がない以上、破産会社の取締役会の承認がなかったことについて、被告担当者がこれを知っていたか、又は知らなかったことについて重大な過失があったことを認めるには足りない。

(四)また、前記認定のとおり、預金1及び3についての各質権設定の承認決議当時、破産会社の取締役は、Q、P、R、Vの四名であり、右決議のされた取締役会の議事録には、
Q、P、Rの三名が出席したと記録され、特別利害関係人Pは右決議の関係では取締役の数に算入されず、取締役三名中二名が出席して承認決議をしたとの記載がされている以上、被告担当者において、承認決議が定足数に欠け、その効力を生じないと知っており、又はそれを知らないことに重大な過失があると認めることもできず、ひいては、右質権設定が破産会社の取締役会の承認のないままにされたことを知っていたか、又はこれを知らなかったことに重過失があると認めることはできない。

4 質権設定契約の公序良俗違反による無効の主張について
 前記認定のとおり、区分所有者は管理委託契約(委任又は準委任)に基づき、その費用の前払い等として破産会社に管理費等を破産会社名義の普通預金口座に送金し、右金員は、右送金とともに破産会社に帰属するのであり、破産会社において同口座の金員を定期預金として預け入れることが横領に当たるものでないことも明らかで、被告担当者が横領に当たることを知るかどうかを問うまでもなく、原告の右主張は失当である。

五 結論
 以上のとおり、原告及び参加人らの請求は、いずれも理由がなく、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 江見弘武 裁判官 柴崎哲夫 森倫洋
(別紙)預金目録〈略〉
(別紙)預金担保設定一覧表〈略〉


以上:3,724文字

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