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全店一括順位付方式による差押債権特定を適法とした高裁決定紹介

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令和 1年 6月 4日(火):初稿
○「これは使えない判例紹介-支店不明な銀行預金差押方法4」で、平成25年1月17日最高裁決定(判タ1386号182頁、判時2176号29頁)は、銀行預金の差押について、「預金額最大店舗指定方式」は、差押債権の特定を欠き不適法とした平成24年10月10日東京高裁決定(判タ1383号374頁)を支持し、残念ながら、銀行預金の差押は支店まで特定しないと出来ないことになった旨記載していました。

○しかし、平成30年6月20日名古屋高等裁判所金沢支部決定(判時2399号33頁)は、差し押さえるべき預金債権について、「複数の店舗に預金があるときは、店舗番号の若い順による」とした特定(「全店一括順位付け方式」)は、平成23年9月20日最高裁決定とは、第三債務者である金融機関の個性ないし特性が異なり、差押債権の特定に欠けるところはないと判断しました。以下、全文を紹介します。

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主   文
1 原決定を取り消す。
2 本件を富山地方裁判所に差し戻す。

理   由
第1 事案の概要

 本件は、抗告人が、原決定別紙請求債権目録記載の執行力ある債務名義に基づく強制執行として、同債務名義に表示された請求権(元金946万円、確定遅延損害金77万2875円、遅延損害金60万9988円)及び執行費用1万1286円の合計1085万4149円を請求債権として、債務者が第三債務者に対して有する預金債権について、差押債権額585万4149円に満つるまで差し押さえることを求める旨の申立てをした事案である。

 抗告人は、差し押さえるべき預金債権について、第三債務者の「複数の店舗に預金があるときは、店舗番号の若い順による」とした上で、同一店舗扱いの預金債権については差押えの有無やその種別等による順位を付して差し押さえることを求めた。

 原審は、抗告人の本件申立てにつき、まずは大規模金融機関である第三債務者の全ての店舗を対象として順位付けをするものであり、第三債務者において、差押命令の送達時点で速やかにかつ確実に差し押さえられた債権を識別することができないなどとして、差押債権の特定を欠き不適法であることを理由に却下したので、これを不服とする抗告人が執行抗告した。抗告理由は、別紙抗告理由書に記載されたとおりである。

第2 当裁判所の判断
 当裁判所は、原審と異なり、本件申立ては差押債権の特定に欠けるところはなく、申立てに従って上記預金債権を差し押さえるべきであると判断する。その理由は次のとおりである。
1 債権差押命令の申立てに際しては、差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項を明らかにしなければならない(民事執行規則133条2項)。ここでいう差押債権の特定とは、差押命令の送達を受けた第三債務者において、直ちにとはいえないまでも、差押の効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別できるものでなければならない(最高裁平成23年9月20日第三小法廷決定・民集65巻6号2710頁)。

 本件のように、第三債務者が大規模な金融機関である場合において、その全ての店舗を対象として順位付けをし、先順位の店舗の預金債権の額が差押債権額に満たないときは、順次予備的に後順位の店舗の預金債権を差押債権とする方式(いわゆる全店一括順位付け方式)については、一般的に、第三債務者において、先順位の店舗の預金債権の全てについて、その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無、定期預金、普通預金等の種別,差押命令送達時点での残高等を調査して、差押えの効力が生ずる預金債権の総額を把握する作業が完了しない限り、後順位の店舗の預金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないから、送達を受けた第三債務者において、上記の程度に速やかにかつ確実に差し押さえられた債権を識別することができるとはいえないと解される(前掲最高裁決定参照。また、全店一括順位付け方式のうち、預金額最大店舗指定方式による預金債権の差押命令の申立ての適否につき、最高裁平成25年1月17日第一小法廷決定参照。)。

 すなわち、差押債権の特定の有無は、差押債権の表示それ自体(特定のために示された抽象的基準の内容が迅速かつ確実に当該債権を識別し得るか否か)を基準とすべきであるが、預金債権の差押命令の送達を受けた大規模金融機関である第三債務者において、差押債権を特定して支払停止措置をとるなどするためには、
〔1〕本店等において預金者の氏名・住所等により該当する預金債権を抽出する作業、
〔2〕抽出された預金債権の取扱店舗において、差押命令に表示された預金の属性についての順位付けに従い、対象となる預金債権を確認して支払停止措置をとる作業、
〔3〕先順位の取扱店舗の預金債権のみでは差押債権額に不足し、他に後順位の取扱店舗の預金債権があるときは、先順位の取扱店舗から直接に又は本店を介してその旨の連絡を受けた上で、後順位の取扱店舗において〔2〕と同様の作業を行う
といった作業が必要になると解されるところ、これだけの作業を要するとすると、基本的に全店一括順位付け方式では、当該第三債務者において、上記の程度に速やかにかつ確実に差し押さえられた債権を識別することができないものといえる。

2 ただし、上記の理は、およそ全ての金融機関に当てはまるのではなく、当該金融機関の個性ないし特性によっては、取扱店舗の表示を1箇所に固定せずとも差押債権の特定の要請を満たす場合があり、そのような場合についてまで一律に差押命令の申立てを不適当とすべきものとは解されない。

 すなわち、前掲最高裁平成23年9月20日決定の判示するところは、本店及び複数の支店(人的・物的設備を有する店舗等)を持つ大規模金融機関を念頭に置き、当該金融機関においては、従前から預金債権の取扱口座を開設した本支店等の店舗名をもって預金債権を識別・管理している社会的実態を背景として、これに応じた差押債権の特定の要請を図っているのである。

 これに対し、近時はいわゆるインターネット専業銀行が増加しているところ、かかる専業銀行においては、便宜上、口座に支店名を付している金融機関もあるが、人的・物的設備を有する実店舗を設けず、これを設けていたとしても預金債権の管理を本店等の1箇所で行っていて、預金債権の差押命令の送達を受けたとしても、上記1の〔3〕の作業を要しない金融機関が存する。このような金融機関を第三債務者とする債権差押命令の申立てにおいては、差押債権である預金債権の表示において、取扱店舗を特定せずとも、上記にいう差押債権の特定の要請を満たすものとみて差し支えない。

3 本件の第三債務者については、その公式ウェブサイトその他一般に公表されているところによれば、実店舗は首都圏や関西圏を中心に十数店舗を設けているが、実店舗を訪れなくとも、電話やインターネットの利用により、預金口座の新規開設を始めとする多くの手続・取引等を行うことができるのであり、預金債権の管理について、取扱店舗を設けていないか、これを設けている場合であっても、少なくとも取扱店舗の特定は重要な要素でないことが推認される。

 また、一件記録によれば、本件の第三債務者は、弁護士法23条の2に基づく照会に対して、「個人の預金口座に対する差押えについては、当行本支店に債権差押命令が送達された場合、全店を対象として口座の確認を行っております。」と回答し、次いで、抗告人代理人の特定の条件に関する照会に対して、「氏名と住所により全店検索を行っているため、複数の店舗に預金債権が存在する場合でも、口座の検索につき時間及び確実性に違いはありません。差押債権の特定については、第三債務者が格別の負担や危険を伴わずに差押対象債権を誤認混同することなく識別し得る様、差押債権目録にご記載ください。」と回答し、更に「照会事項1-(3)が望ましい。(なお、ここにいう照会事項1-(3)とは、本件申立てと同様、全店一括順位付け方式のうち、複数の店舗に預金があるときは、店舗番号の若い順によるとの方式である。)」と回答したことが認められる。

 上記事実に照らすと、本件の第三債務者は、預金債権の差押えにおいて、取扱店舗を特定していなくとも、本店等いずれかの担当部署において、氏名と住所により全店検索を行って対象債権の特定作業をしており、このような取扱いは本件についての個別の対応ではなく、一般的な対応であるものと認められる。そうすると、本件の第三債務者は、預金債権の差押命令の送達を受けた場合の作業において、取扱店舗の特定の有無にかかわらず、全店検索及びその後の対処を同一部署で一括して実施しており、上記1の〔3〕の作業を行っていないか、これを行っているとしても差押債権の識別について格別の負担を要しないことが推認される。

 しかも、本件の第三債務者自身、差押債権の特定の方法として、全店一括順位付け方式のうち複数の店舗に預金があるときは店舗番号の若い順によるとの方式を望ましいと回答していることからも明らかであるとおり、抗告人がした差し押さえるべき預金債権の特定によって、差押債権の識別に格別の負担をかけないことが容易に認めうるのである。

4 以上によれば、本件の第三債務者については、その金融機関としての個性ないし特性に鑑み、差し押さえるべき預金債権について、「複数の店舗に預金があるときは、店舗番号の若い順による」とした上で、同一店舗扱いの預金債権については差押えの有無やその種別等による順位を付したとしても、差押債権の特定に欠けるところはないと認めるのが相当である。

第3 結論
 よって、抗告人の本件申立ては理由があり、これを却下した原決定は相当でないから、原決定を取消し、本件を富山地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
裁判長裁判官 内藤正之 裁判官 中野達也 能登謙太郎

(別紙)〈略〉
以上:4,137文字

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