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弁護士法照会に対する報告義務確認の利益を欠くとした最高裁判決紹介

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令和 1年 8月23日(金):初稿
○「弁護士法照会拒否回答で弁護士会に損害賠償義務を否認した最高裁判決紹介」の続きで、弁護士法照会をした弁護士会が、その相手方に対し、その照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠き不適法であるとした平成30年12月21日最高裁判決(判タ1460号51頁、判時2410号○頁)を紹介します。

○弁護士法23条の2第1項は、「弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。」などと定め,第2項において「弁護士会は,前項の規定による申出に基き,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」と定めており、弁護士法照会と呼ばれます。

○警察署・銀行等に問い合わせをしても、特に個人情報保護法が規定されてからは、弁護士個人の照会には回答できないので弁護士法照会として弁護士会を通じて照会して下さいと断られることが多くなりました。交通事故事件での現場見取図等を警察署に被害者側弁護士として取寄申請するのも、昔は被害者個人の代理人弁護士として申請しても開示してくれたのですが、今は、弁護士法照会手続で弁護士会を通じないと開示してくれなくなりました。

○「弁護士法照会拒否回答で弁護士会に損害賠償義務を否認した最高裁判決紹介」の事案は、名古屋弁護士会の日本郵便に対する民事訴訟の和解金を払わない相手先に強制執行を求める男性から依頼を受け、日本郵便に相手先の転居情報の回答を求めたが、「郵便法の守秘義務がある」と拒否したことについて、名古屋弁護士会として日本郵便に不法行為として損害賠償の訴えを提起し、名古屋高裁は不法行為の成立を認め日本郵便に1万円の支払を命じました。

○これについて平成28年10月18日最高裁判決(裁判所ウェブサイト)は、弁護士法照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないとし、同時に名古屋弁護士会の日本郵便に対する弁護士法照会に報告義務があることの確認を求める訴えについては、名古屋高裁に差し戻されていました。

○差し戻し後の名古屋高裁は、確認の利益があるとしたのですが、平成30年12月21日最高裁判決は、確認の利益は確認判決を求める法律上の利益であるとした上,弁護士法照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力が報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するとはいえないことを理由として,名古屋弁護士会には報告義務の確認を求める法律上の利益がないと判示しました。弁護士法照会に対する拒絶は、不法行為も成立せず、また、照会に対する報告義務の確認も求められないとされ、その弁護士法照会の効果は、照会先の「任意の履行を期待するほかはない」ものになりました。

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主   文
1 原判決を破棄する。
2 原判決別紙の照会についての報告義務確認請求に係る訴えを却下する。
3 前項の請求についての訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 

理   由
第1 事案の概要

1 本件は,郵便事業株式会社に対して弁護士法23条の2第2項に基づき原判決別紙の照会(以下「本件照会」という。)をした弁護士会である被上告人が,上記会社を吸収合併した上告人に対し,本件照会についての報告義務があることの確認を求める事案である。

2 原審は,上記の確認請求(以下「本件確認請求」という。)に係る訴えの確認の利益について次のとおり判断し,上記訴えが適法であることを前提として,本件確認請求の一部を認容し,その余を棄却した。
 本件確認請求が認容されれば,上告人が報告義務を任意に履行することが期待できること,上告人は,認容判決に従って報告をすれば,第三者から当該報告が違法であるとして損害賠償を請求されたとしても,違法性がないことを理由にこれを拒むことができること,被上告人は,本件確認請求が棄却されれば本件照会と同一事項について再度の照会をしないと明言していることからすれば,本件照会についての報告義務の存否に関する紛争は,判決によって収束する可能性が高いと認められる。したがって,本件確認請求に係る訴えには,確認の利益が認められる。

第2 上告代理人○○○○ほかの上告受理申立て理由第1の6について
1 所論は,本件確認請求に係る訴えに確認の利益を認めて本件確認請求の一部を認容した原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというものである。

2 弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。)の制度は,弁護士の職務の公共性に鑑み,公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことなどからすれば,弁護士会に23条照会の相手方に対して報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえず,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない(最高裁平成27年(受)第1036号同28年10月18日第三小法廷判決・民集70巻7号1725頁)。

 これに加え,23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても,弁護士会は,専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはないといえる。そして,確認の利益は,確認判決を求める法律上の利益であるところ,上記に照らせば,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力は,上記報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから,23条照会をした弁護士会に,上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。

 本件確認請求を認容する判決がされれば上告人が報告義務を任意に履行することが期待できることなどの原審の指摘する事情は,いずれも判決の効力と異なる事実上の影響にすぎず,上記の判断を左右するものではない。

 したがって,23条照会をした弁護士会が,その相手方に対し,当該照会に対する報告をする義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。

3 以上によれば,本件確認請求に係る訴えは却下すべきであり,原審の判断のうち本件確認請求の一部を認容した部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

第3 職権による検討
 前記第2の説示のとおり,本件確認請求に係る訴えは却下すべきであり,原審の判断のうち本件確認請求の一部を棄却した部分にも,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

第4 結論
 以上によれば,原判決の全部を破棄し,本件確認請求に係る訴えを却下すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 三浦守) 
以上:2,939文字

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