仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 >    

経由プロバイダは特定電気通信役務提供者非該当とした地裁判決紹介

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 1年11月24日(日):初稿
○「経由プロバイダは特定電気通信役務提供者に該当するとした最高裁判決紹介」の続きで、その第一審である平成20年9月19日東京地裁判決(最高裁判所民事判例集64巻3号706頁)関連部分を紹介します。東京地裁は、経由プロバイダは特定電気通信役務提供者非該当として原告の請求を棄却していました。

○事案は以下の通りです。
・被告は株式会社NTTドコモで、原告らは、ウエブサイト「しずちゃん」内の電子掲示板に名誉毀損事実を記載された土木工事業を営む会社とその代表者・妻・従業員
・原告らは、静岡地方裁判所浜松支部に対し、「しずちゃん」管理者から委託を受けたホステイング業者を相手に仮処分命令を申立てて、投稿した者のIPアドレス及びタイムスタンプ等の情報取得
・これにより、本件発信者らは、被告Yの管理するサービスのユーザーで、Y経営の携帯電話からの発信と判明
・原告らは、東京地裁へ、被告相手に発信者情報の消去の禁止を求める仮処分命令申立をしたが、自動消去されていたので、同地裁から却下決定
・原告らは、コンテンツプロバイダ「しずちゃん」管理者に発信者の携帯端末機の機種、シリアルナンバー及びFOMAカード個体識別子がアクセスログとして記録されているので、経由プロバイダの被告に発信者情報開示請求の訴え
・被告は、被告は経由プロバイダであるから、法4条1項、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当しないと主張


○これに対し東京地裁判決は、特定電気通信の始点に位置して「送信」を行う者が、特定電気通信設備たる送信装置を用いる、プロバイダ責任法4条1項、プロバイダ責任法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」であり、経由プロバイダを同法4条1項所定の「開示関係役務提供者」に含めることはできないから、携帯電話事業、PHS事業を主な事業として行う株式会社である被告は、特定電気通信役務提供者には該当せず、原告らの本件請求はいずれも理由がないとして、原告らの請求をいずれも棄却しました。

****************************************

主   文
1 原告らの各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事   実
第1 当事者の求める裁判

1 請求の趣旨
(1)被告は,原告会社に対し,別紙アクセスログ目録(1)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(2)被告は,原告X2に対し,別紙アクセスログ目録(2)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(3)被告は,原告X3に対し,別紙アクセスログ目録(3)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(4)被告は,原告X4に対し,別紙アクセスログ目録(4)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(5)訴訟費用は被告の負担とする。

2 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨

第2 当事者の主張
1 請求原因

(1)ア 原告会社は,とび・土木工事業等を目的とする株式会社である。
イ 原告X2は,原告会社の代表取締役である。
ウ 原告X3は,原告X2の妻である。
エ 原告X4は,原告会社の従業員である。
オ 被告は,携帯電話事業,PHS事業を主な事業として行う株式会社である。

(2)原告らに対する名誉毀損
ア メッセージの投稿
 被告は,複数の氏名等不詳者(以下「本件発信者ら」という。)からのアクセスを受けて,本件発信者らに対し,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)記載の日時ころ,インターネット接続サービスを提供し,これを受けて,本件発信者らは,インターネットに接続して,ウエブサイト「しずちゃん」内の電子掲示板にアクセスし,同目録記載の各スレッドに対し,同目録記載の各スレッドに対し,同目録記載の各メッセージをそれぞれ投稿した。


(ア)原告会社について
〔1〕別紙アクセスログ目録(1)のNo.1について
 この発言は,雇主である原告会社が従業員に対して不当な服従を求めている旨の事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。
〔2〕同No.2について
 この発言は,原告会社内において,いじめがはげしい,陰険な人間が多いといった社内環境・風紀に関する事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。


         (中略)

理   由
1「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)について
(1)請求原因(1)オは,PHS事業の点を除き,当事者間に争いがなく,また,証拠(甲1ないし10)及び弁論の全趣旨によると,請求原因(1)アないしエ,同(2)ア並びに同(3)イの各事実が認められ,これに反する証拠はない。
 そして,請求原因(3)ウの事実加えて,本件においては被告が直接インターネットのウエブサイトを開設している者ではないこと,被告において,既に原告主張の通信記録が消去されていることは,いずれも当事者間に争いがない。

(2)ところで,原告らは,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)の発信については,携帯電話端末機の機種から被告の携帯電話より発信されていることが判明しているところ,コンテンツブロバイダである「しずちゃん」管理者において,発信者の携帯端末機の「機種」「シリアルナンバー」及び「FOMAカード個体識別子」がアクセスログとして記録されていたので,被告が識別子から特定されるFOMAサービスの契約者情報を現在も保有しているため,個別識別子より「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称及び住所」を特定することが可能であるとして,経由プロバイダである被告に対し,発信者情報の開示請求をしている。

 しかし,法4条1項所定の発信者情報開示請求権の行使が認められるためには,被告が「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)に当たる必要があるというべきである。
 そして,法2条1号において,「特定電気通信」とは,その始点に位置する者において「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信の用に供される電気通信の送信を除く。)」をいうと規定されている。また,法2条1号所定の「送信」とは,電気通信事業法2条1号所定の「送り」,つまり,符号,音響又は映像を電気的信号に変換して送り出すことを指すものであるから,その始点に位置する者において「不特定の者によって送信されることを目的とする電気通信」を「送信」することであると解される。

 さらに,法2条4号の規定文言に照らすと,法は,特定電気通信について,特定電気通信設備の記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものと,特定電気通信設備の送信装置に入力された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものとを予定しており,いずれの場合においても,上記記録媒体への情報の記録又は上記送信装置への情報の入力とその後の当該情報の送信,すなわち,法2条1号所定の「送信」とを区別し,特定電気通信設備たる上記記録媒体又は上記送信装置を用いる特定電気通信役務提供者が,同号にいう「送信」を行い,特定電気通信の始点に位置することを前提としているものと解される。

 そうすると,特定電気通信設備の送信装置に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力することは,当該特定電気通信設備を用いる電気通信役務提供者による特定電気通信以前の,これとは別個の,当該情報の記録又は入力を目的とする発信者から特定電気通信役務提供者に対する1対1の電気通信にすぎないから,それを媒介するにすぎない経由プロバイダを直ちに特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)と解することはできないといわなければならない。

 したがって,特定電気通信の始点に位置して「送信」を行う者が,特定電気通信設備たる送信装置を用いる特定電気通信役務提供者(法4条1項,2条3号)であるというべきであって,経由プロバイダを法4条1項所定の「開示関係役務提供者」(当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)に含めることは文理上もできないというべきである。

 もっとも,原告らは,法の解釈に当たっては,誹謗中傷を受けた被害者の権利にも十分に配慮すべきであるから,経由プロバイダであっても,「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には当たると主張する。しかし,発信者の端末から経由プロバイダを経てホスティングサービスを行っているプロバイダまでの通信と,ホスティングサービスを行っているプロバイダから不特定の者との間の通信の性質とは異なっているところ,発信者情報は,その性質上いったん開示されるとその原状回復が困難であるから,その開示の判断は厳格になされるべきである。のみならず,通信に関わる事実がプライバシーの権利(憲法13条)や表現の自由(憲法21条1項)の保障の対象でもあり,その拡大解釈は慎重であるべきであるので,原告らの上記主張を採用することはできない。

(3)以上のとおり,被告は「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には該当しないというべきであるから,原告らの本件請求はいずれも理由がない。

2 原告ら主張の「発信者情報」等について
(1)次に,被告が「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)に当たるとしても,本件訴訟記録によると,原告らは,本件訴えにおいて,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)の開示を求めている。

(2)ところで,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(平成14年5月22日総務省令第57号)によると,法4条1項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報として,「一 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称 二 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所,三 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字,記号その他の符号をいう。) 四 侵害情報に係るIPアドレス(インターネットに接続された個々の電気通信設備(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。) 五 前号のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」と定められている。

 そして,証拠(乙3,5)及び弁論の全趣旨によると,被告が提供している携帯電話サービス「FOMAサービス」は,利用者が被告との間でFOMAサービス契約を締結すると,被告から利用者に対し「FOMAカード」というICカードが発行・交付されて特定の電話番号を利用することができること,この利用者は,自ら購入等した携帯電話端末に「FOMAカード」を挿入することによって,「FOMAサービス」を利用することができるから,特定の電話番号と結びついているのは「FOMAカード」であり,その携帯電話端末自体は特定の電話番号と結びついてはいないこと,このため,被告においては,「FOMAカード」情報によって契約者の管理をしているので,携帯電話端末の製造番号(シリアルナンバー)によっては契約者の管理を行っていないことが認められる。

 また,法4条1項所定の「発信者情報」は,特定電気通信による情報の流通による権利侵害に係る発信者情報であるところ,原告らの開示請求に係る情報は,被告が有する電気通信設備を用いてなされた特定電気通信の発信者情報ではない。そして,更に前掲証拠及び弁論の全趣旨によると,「FOMAカード個体識別子」は,「FOMAカード」情報そのものではなく,これを被告が管理しているものではないこと,被告においては,現在,保存期間の経過により,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)記載に係る「発信者情報」を特定するための通信記録が消滅して存在しないこと,しかも,経由プロバイダである被告は,接続記録を保有する通信の内容については知り得ず,権利を侵害した情報がどの通信によってされたかにつき特定することができないので,インターネットのウエブサイトを開設している者から開示される発信元のIPアドレス,受信元のURL及び時刻に基づいて通信が特定されなければ,どの通信の「発信者情報」を開示すべきかが判断できないことが認められる。

 してみると,原告が主張する「FOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)」は,発信元のIPアドレス,受信元のURL及び時刻によって通信が特定されていないので,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」ではないというべきである。

(3)以上のとおり,原告主張に係るFOMAカード個体識別子により特定される情報は,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」ではなく,被告は発信者情報を保有していないから,原告らの本件請求はいずれも理由がない。

3 結論
 以上の次第で,原告らの被告に対する各請求は,いずれの観点からしてもその前提を欠いており,その余の点について判断するまでもなく失当である。
 よって,原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(東京地方裁判所民事第37部)

「別紙省略」
以上:5,827文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 > 経由プロバイダは特定電気通信役務提供者非該当とした地裁判決紹介