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上司の言動をパワハラと認定して慰謝料100万円認めた地裁判例紹介

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令和 1年12月18日(水):初稿
○「上司の言動をパワハラと認定せず会社の責任を否定した地裁判例紹介」の続きで、被告銀行の従業員であった原告が、上司のパワーハラスメントにより退職を余儀なくされたとして、当該上司らを被告として不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに、被告銀行に対しても、各上司についての使用者責任を追及し、さらに、被告銀行が、雇用する労働者の業務の管理を適切に行い、心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているにもかかわらず、その注意義務を怠ったとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案について判断した平成24年4月19日岡山地裁判決関連部分(労働判例ジャーナル6号1頁)を紹介します。

○原告は、勤務していた被告銀行と上司3名を被告として、被告銀行には約3900万円の逸失利益、上司3名には200~400万円の慰謝料と弁護士費用の請求しましたが、上司1人についてのみ金100万円の慰謝料と10万円の弁護士費用を被告銀行と連帯しての支払が認められ、その余の請求は全て棄却されました。

○1人の上司の言動は、ミスをした原告に対し,厳しい口調で,「辞めてしまえ,(他人と比較して)以下だ」などといった表現を用いて,叱責していたことが認められ,それも1回限りではなく,頻繁に行っていたと認められ,本件で行われたような叱責は,健常者であっても精神的にかなりの負担を負うものであるところ,脊髄空洞症による療養復帰直後であり,かつ,同症状の後遺症等が存する元従業員にとっては,さらに精神的に厳しいものであったと考えられること等から,ワーハラスメントに該当するとされましたが、他の2人の上司の言動は、注意・指導の限度を超えたものとはできない等から,パワーハラスメントに該当するとは認められないとされた

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主   文
1 被告株式会社トマト銀行及び被告cは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の160分の1及び被告株式会社トマト銀行に生じた費用の40分の1を被告株式会社トマト銀行の,原告に生じた費用の12分の1及び被告cに生じた費用の3分の1を被告cの負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項につき,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告株式会社トマト銀行は,原告に対し,3899万0886円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告cは,原告に対し,330万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告dは,原告に対し,220万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告eは,原告に対し,440万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 本件は,被告株式会社トマト銀行(以下「被告銀行」という。)の従業員であった原告が,上司のパワーハラスメントにより退職を余儀なくされたとして,当該上司らを被告として不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに,被告銀行に対しても,各上司についての使用者責任を追及し,さらに,被告銀行が,雇用する労働者の業務の管理を適切に行い,心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているにもかかわらず,その注意義務を怠ったとして,不法行為に基づく損害賠償及びこれらに対する退社時からの遅延損害金を請求する事案である。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点〔1〕(パワーハラスメント)について

(1)被告cについて
ア 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告cは,時期は不明であるが,ミスをした原告に対し,「もうええ加減にせえ,ほんま。代弁の一つもまともにできんのんか。辞めてしまえ。足がけ引っ張るな。」「一生懸命しようとしても一緒じゃが,そら,注意しよらんのじゃもん。同じことを何回も何回も。もう,貸付は合わん,やめとかれ。何ぼしても貸付は無理じゃ,もう,性格的に合わんのじゃと思う。そら,もう1回外出られとった方がええかもしれん。」「足引っ張るばあすんじゃったら,おらん方がええ。」などと言った。(甲14)

(イ)また,被告cは,(ア)と別の時(原告の主張(カ)に該当すると推察される。)に,延滞金の回収ができず,代位弁済の処理もしなかった原告に対し,「今まで何回だまされとんで。あほじゃねんかな,もう。普通じゃねえわ。あほうじゃ,そら。」「県信から来た人だって…そら,すごい人もおる。けど,僕はもう県信から来た人っていったら,もう今は係長(原告)。だから,僕がペケになったように県信から来た人を僕はもうペケしとるからな。」などと言った。(甲14)

(ウ)被告cは,平成19年3月ころ(正確な時期は不明。),ミスをした原告に対し,「何をとぼけたこと言いよんだ,早う帰れ言うからできん。冗談言うな。」「鍵を渡してあげるからいつまでもそこ居れ。」「何をバカなことを言わんべ,仕事ができん理由は何なら,時間できん理由は何なら言うたら,早う帰れ言うからできんのじゃて言うたな自分が。」などと言った。(甲43)

(エ)さらに,原告のメモの記載(甲9,10。甲10では,日程以外の部分に書かれているのはfのことだけである。)に加え,人事総務部長との面談(甲37[甲40])でも,原告からf以下と言われている話が出てきていることなどからすると,被告cは,原告に対し,f以下だという趣旨の発言をしていたと認められる。

 これに対し,被告cは,fをよく知らないので,同人を引き合いに出して,それ以下だなどと言うことはないと主張するが,上記のとおり原告のメモにf以下という表現が頻繁に出てくることに加え,被告cよりさらに接点が少ない(甲10の記載からもそれがうかがえる)原告が,あえてf以下という表現を作出するとは考え難いこと,被告cは,甲14においても,原告を引き合いに出して県信から来た人がペケという話をしていることからすると,被告cがfを引き合いに出し,それ以下であると言っていたと考えるのが自然であり,この主張は採用できない。

イ そして,以上の認定事実によれば,被告cは,原告のミスに対し不満を募らせ,強い口調で原告を責めていたことがうかがえること,及び対応する原告のメモ(甲11,12)からすると,原告の主張(キ),(ク),(コ),(サ)及び(シ)についても,かかる言動があったと推認できる。
 一方,原告の主張(ア)については,原告のミスの類ではなく,その内容を異にしており,これに対し被告cが原告を責める必要があったとは考え難いこと,裏付けるメモもないことに照らすと,同主張事実の存在は認めることができない。

ウ また,甲14,43及び被告cの尋問の結果からすると,被告cは気が高ぶってくると,口調が早くて強くなっていく傾向があると認められる。

エ 被告cの尋問結果によると,被告cは,原告の病状,体調について,退院されて職場復帰した以上,通常の業務はできる体で来ていると思っていたとして,ほとんど把握も配慮もしていなかった。

オ 以上を前提に判断するに,被告cは,ミスをした原告に対し,厳しい口調で,辞めてしまえ,(他人と比較して)以下だなどといった表現を用いて,叱責していたことが認められ,それも1回限りではなく,頻繁に行っていたと認められる。
 確かに,乙4の1ないし3に記載されたミス及び顧客トラブル,甲14及び甲43で被告cに叱責されている内容からすると,原告が通常に比して仕事が遅く,役席に期待される水準の仕事ができてはいなかったとはいえる。

 しかしながら,本件で行われたような叱責は,健常者であっても精神的にかなりの負担を負うものであるところ,脊髄空洞症による療養復帰直後であり,かつ,同症状の後遺症等が存する原告にとっては,さらに精神的に厳しいものであったと考えられること,それについて被告cが全くの無配慮であったことに照らすと,上記原告自身の問題を踏まえても,被告cの行為はパワーハラスメントに該当するといえる。

(2)被告dについて
ア 原告が主張する,被告dが,仕事が遅いとことあるごとに言っていたという事実については,これを裏付ける事実は原告の供述以外になく,特に,被告c,被告eについてはメモに記載があるが,被告dについての言動についてのメモは提出されていないことからすると,当該事実の存在を認めるに足る証拠はないといえる。

イ また,債権処理紛失の責任を原告に押しつけたと主張するが,報告書(乙5)の記載からすると,紛失の原因究明と,再発防止の検討を行っており,責任を押しつけようとしていたとは考え難い。また,このミスにより,原告が何らかの不利益処分を受けたとは証拠上認められない。

ウ さらに,被告dが,原告の居眠りについて注意したこと,原告は取り上げられた,被告dは手伝ったという認識の違いはあるが,原告の仕事を持って行ったことがあることは争いがないところ,この点も上記ア同様,原告の主張するような恫喝等がなされたとは認められない。

 なお,仮に被告dが寝ていたのかと強い口調で言ったり,原告から貸せと言って書類を取上げた事実があったとしても,原告を含め部下が働きやすい職場環境を構築する配慮も必要ではあるが、仕事を勤務時間内や期限内に終わらせるようにすることが上司であり会社員である被告dの務めであると考えられること,本件で被告dの置かれた状況に鑑みれば,多少口調がきつくなったとしても無理からぬことなどによれば,原告の病状を踏まえても,それだけでパワーハラスメントに当たるとはいえないと解する。

(3)被告eについて

         (中略)


3 争点〔3〕(配転についての不法行為)について
(1)原告の職務復帰後の渉外係からの配転
 被告銀行が,病気及びその後遺症を患っている原告について,自動車の運転を長時間伴う可能性のある渉外の業務を行わせなかったことは,勤務中の交通事故等のリスクを考えたためであり,この内容は是認できること,また,上記1(1)によれば,原告の業務遂行能力は不慣れであることを考慮に入れたとしてもかなり低かったと認められ,出先のトラブルを予防する必要があったことからすると,むしろ妥当な判断であったと解する。

(2)本店への異動
 常務会議事録(乙25)によれば,被告銀行の人事異動は人事総務部が作成した異動案を,常務会に諮り,賛成を得た上で内示,発令という手順を踏んでいると認められ,原告が主張するような恣意的な異動をすることは困難であるといえる。そして,同議事録では,本店への原告の異動に際し,常務取締役から自宅から通えるのかと質問がなされ,それに対し,人事総務部長が寮に入ることとなるが,単身赴任は可能であることを本人に確認していると答えていることからすると,原告に予め相談の上,その情報に基づいて議題が話し合われていると解するのが相当である。

 もちろん,支店長の雰囲気等から断れば解雇等の不利益を受けるため,断れない状況であったとの主張も考えられるが,それを理由に解雇等した場合はまさに不当解雇であり,被告銀行の社会的立場に鑑みると,そして,常務会での原告に対する配慮を考えると,原告が断ったとしても,被告銀行が解雇等を行ったとは考え難い。

(3)現金精査室の異動
 乙22及び証人hの証言によれば,原告がサポートセンターから現金精査室へ異動したのは,原告の事務作業が遅かったこと,周囲の従業員との関係及び原告が居眠りをしておりその対策の必要があることなどの理由により,事務内容が固定的であり,残業のない部署へ異動させたためということであるから,その内容には合理性があるといえる。

 加えて,上記各証拠及び甲38によれば,異動を検討した段階では,被告銀行は,原告の障害について詳細までは把握しておらず,非常に重い物を持つことが良くないことも把握していなかったと認められる。原告は,現金精査室への異動を止めるように取締役らに言いに行ったが無視されたと主張するが,甲38での原告の説明内容は,原告の病状のヒアリングと,現金精査室での原告の業務内容の話のみであり,原告が現金精査室への異動の再考を依頼したような事情は見られない。

 そして,上記の機会に原告から詳細な病状を把握したことや,それにより原告の仕事を他の者がサポートする必要が生じたことが,9月30日から12月14日までの約2か月半という極めて短期間での現金精査室からの異動の機序及び理由であったといえ,証人hの証言においても,そのことはうかがえる。また,原告が明確に身体障害者と認定されたことも,この判断の一助となったと考えられる。

 もっとも,原告が,現金精査室から人事総務部への異動について,身体障害者手帳を被告銀行に提出したその日に異動することになったと主張する点については,上記(2)のとおり,被告銀行での異動は手続を踏む必要があるから,即日異動は考え難いこと,原告が身体障害者手帳の交付を受けたのは平成19年11月16日である(甲35)ところ,現金精査室異動前に取締役に相談に行っている原告が,同年12月14日まで同手帳を被告銀行に提出しなかったとは考え難いことに照らすと,かかる主張を採用することはできない。

(4)上記検討してきた事情からすると,被告銀行としては,原告が病気明けであることを踏まえ,外勤から内勤へと異動させ,次いで原告の事務能力,被告cとの関係(甲37によれば,かかる関係については人事総務部長も把握していたと認められる。)及び被告銀行津山支店の繁忙度などから,本店のサポートセンターへの異動を行い,残業や情報処理能力の問題の解消のため現金精査室へ異動させたが,原告の体調面の問題から,最後に人事総務部への異動となったものといえる。

 確かに,短期間で各部署へ移されている上,その結果,各部署で不都合が生じたことから次の異動を行ったという場当たり的な対応である感は否めないものの,被告銀行が能力的な制約のある原告を含めた従業員全体の職場環境に配慮した結果の対応であり,もとより従業員の配置転換には,被用者にある程度広範な裁量が認められていることにも鑑みると,被告銀行に安全配慮義務違反(健康管理義務違反)があるとして,不法行為に問うことは相当ではないと解する。

 また,内示が急に告げられることについては,被告も争っていないところではあるが,原告にだけ特別(不利益な)扱いをしたなどの事情の認められない本件においては,このことが不法行為を構成するとは考えられない。

 よって,この点の原告の主張には理由がない。

4 争点〔4〕(損害額)について
(1)逸失利益
 以上検討したところによると,被告銀行に責任が認められるのは,被告cのパワーハラスメントに対する使用者責任となること,原告が被告cとともに勤務していたのは平成19年4月30日までであり,その後退職までは2年近くの期間があることからすると,被告c及び被告銀行の行為により原告が退職を余儀なくされたとまでは言い難い。

 また,原告は被告銀行に対して送った「感謝」と題する書面(乙3)で,退職の理由を記載していないだけでなく(会社に対して出すため,本音は書けなかったということがあり得るとしても),原告がうつ状態の診断を受けた際の外来診療録(甲34)にも,不安事項は,痛みやそれによる不眠により仕事上,社会生活上の大きな支障を来しており,失職(解雇)の可能性があること,それによる家庭の崩壊などが記載されているのみであって,上司のパワーハラスメントや,会社の対応の問題が記載されていない。

 加えて,被告銀行は,原告を本店へと異動させているが,これは残業をしなくてすむようにという配慮だけでなく,被告cと原告との関係に問題があったことから,その解消のためという意図もあったと考えられる。なお,その場合,原告ではなく,被告cを津山支店に残した判断は,事務能力などを考慮して決定したと考えられ,被告銀行の人事裁量を逸脱するものではないといえる。

 これらのことからすると,本件で認められる不法行為と,原告の退職との間に相当因果関係があるとまでは認められず,本件では,逸失利益まで損害に含めることは相当ではない。

(2)慰謝料
ア 被告c(及び被告銀行)について
 本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,原告の精神的苦痛を慰謝するには,100万円を支払うことが相当である。

イ その余の被告らに対する請求は,上記のとおり理由がない。

(3)弁護士費用
 上記検討してきたところによると,本件の弁護士費用としては,10万円が相当である。

(4)過失相殺について
 本件で現れた諸般の事情に照らすと,本件で過失相殺を行うことは相当ではないと思料する。

(5)合計 110万円

(6)被告銀行への損害賠償請求権と被告cへの損害賠償請求権との関係
 なお,本件は,途中で併合されたため訴え提起段階では両者の関係につき主張がなされていないが,原告の主張する被告銀行の責任は,使用者責任か,共同不法行為に該当するといえるから,いわゆる不真正連帯債務となる(使用者責任につき大審院昭和12年6月30日判決,共同不法行為につき最高裁昭和57年3月4日判決参照)。

第4 結論
 以上によれば,本件では,原告の請求は,被告c及び被告銀行に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第1民事部 裁判官 井上直樹

以上:7,446文字

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