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一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定地裁判決紹介

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令和 2年 9月14日(月):初稿
○牛乳小売業者Aの債権者である原告が、被告に対して支払遅滞を生じたAにおいて、被告からの取引の打切りや本件建物の上の根抵当権の実行等を免れ、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続することを目的として、Aが本件建物を被告に対して譲渡担保に提供しました。

○そこで牛乳小売業者Aの債権者の原告が、Aが被告に譲渡担保に提供した行為が詐害行為に当たるとして、詐害行為取消権を行使しました。この事案で、本来、債権者詐害の行為は、単に計算的に債務者の総債権者のため一般担保財産を減少する行為があったのみでは足りず、その減少行為が不当性を有する場合に初めて成立するものであり、Aは、本件建物で牛乳販売業を営まないかぎり、被告に対する債務はもとより、仮に原告に債務を負担していたとしても、その債務の支払もまた全く不可能であったのであるから、本件譲渡担保のための建物の譲受行為は不当性を欠き、詐害行為とならないとした昭和39年7月27日東京地裁判決(最高裁判所民事判例集23巻12号2523頁)を紹介します。

○掲載された地裁判決には、理由文がありません。この事案は、最高裁まで争われており、高裁・最高裁判決での理由文を別コンテンツで紹介します。

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主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事   実
第一、当事者の求める裁判

原告訴訟代理人は、「一、被告が訴外有限会社A食品から昭和36年7月25日付和解に基づき、別紙物件目録(一)記載の建物の所有権を譲り受けた行為および被告が訴外Bから同和解に基づき別紙物件目録(二)記載の建物の所有権を譲り受けた行為は、いずれも、これを取り消す。二、被告は、原告に対し、金80万円およびこれに対する昭和38年9月22日より右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。
被告訴訟代理人は、主文第1、2項と同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張
一、原告訴訟代理人は次のとおり述べた。

(一)請求原因
1 原告は、昭和36年6月1日訴外有限会社A食品(以下訴外会社という。)同B外2名を連帯債務者として金80万円を弁済期同月30日、利息日歩4銭9厘と定めて貸し渡し、同人らに同額の債権を有している。

2 被告は、昭和36年7月25日訴外会社および訴外Bと和解をなし、右訴外会社の所有である別紙物件目録(一)の建物および右Bの所有である同目録(二)の建物の所有権を取得し,右(一)の建物につき、東京法務局世田谷出張所昭和36年8月23日受付第22477号所有権移転登記を、右(二)の建物につき同出張所同日受付第22478号所有権移転登記をそれぞれ経由した。

3 右和解当時、右訴外会社およびBは、原告その他の者に多額の債務(抵当権付債務を除き、訴外会社は230万円、Bは190万円)を負つており、倒産状態にあつて、それぞれ唯一の財産である右建物(当時の価格は(一)の建物は約280万円、(二)の建物は約270万円、ただし、(一)の建物については被告に対する150万円の根抵当権を含め215万円、(二)の建物については同じく200万円の抵当権が設定されていた。)を被告に譲渡したならば、原告その他の債権者に対する弁済能力をなくし、その債権を害するに至ることを熟知しており、被告もこの事実を知つていたのであるから、右(一)、(二)の建物の譲渡行為は取り消されるべきものであるところ、被告は昭和37年10月10日右(一)、(二)の建物を訴外大商不動産株式会社に売渡してその代金900万円を取得したが、右金員は原告ら一般債権者に分配されるべきであるから、原告は、自己の債権の範囲で、右金員のうち、金80万円およびこれに対する右80万円を被告に請求した日の翌日である昭和38年9月22日から完済に至るまで年5分の遅延損害金の支払いを求める。

(二)被告の主張に対する反論
1 被告が、その主張の如き根抵当権および停止条件附所有権移転請求権を有していたことは認めるが、右権利は、被告が昭和36年7月25日に放棄し、あらためて和解に基づき右(一)、(二)の建物が譲渡されたもので、担保権の実行をしたのではなく、かつ、被告の有していた担保権は、目的物件の価値中金150万円を限度とするものであるから、その余は一般担保財産である。

2 被告は、本件譲渡行為の正当性を主張するが、被告および訴外会社は自己の利益追及のためのみに右行為をしたものであるから、不当であり、詐害行為が成立する。

二、被告訴訟代理人は次のとおり述べた。
(一)請求原因に対する答弁
1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実中、被告が原告主張のころ、別紙物件目録(一)、(二)の建物を訴外大商不動産株式会社に代金900万円(ただし、右900万円は、被告が、その後地主より代金260万円で買い取つた右建物敷地を含めての代金額であり、900万円より、被告の債権および売却経費を控除した残額204万円余は有限会社A食品に交付して精算した。)で売り渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)被告の主張
1 被告は、訴外会社と昭和30年6月10日牛乳等の継続的売買契約を締結し、昭和33年5月16日同契約に基づく同会社の一切の債務を担保させるため、同会社およびB所有の別紙物件目録(一)、(二)の各建物の上に債権極度額を150万円とする順位2番の根抵当権および同債務不履行のときは残存債権中金150万円をもつて、もし、残存債権額が150万円にみたないときは不足分を提供して、同不動産を代物弁済として所有権を取得する旨の停止条件付所有権移転請求権(代物弁済の予約完結権)の設定を受け、根抵当権の設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を了し、かつ、訴外Bより右債務の連帯保証を受けて牛乳等の売買を継続してきたが、右訴外会社は昭和36年5月25日までに金244万円の売買代金の支払を遅延するに至つた。

 そこで被告は右訴外会社およびBに対し、右未納代金を直ちに支払うべく、その支払のないときは右牛乳等売買契約を解除し、右根抵当権又は所有権移転請求権(代物弁済の予約完結権)を撰択行使する旨通知したところ、右訴外会社およびBより和解の申出があり、昭和36年7月25日渋谷簡易裁判所において同庁昭和36年(イ)第171号事件として和解が成立し、被告は右訴外会社およびBより、右未払債務および将来の牛乳等代金債務の支払を担保するため、右各建物の所有権の移転を受け、同年8月23日各建物につき所有権移転登記を経るに至つた。

 したがつて、別紙物件目録(一)、(二)の建物は、本来総債権者のための一般担保財産ではなかつたのであり、かつ、昭和36年7月25日当時すでに右停止条件は成就しており、被告は代物弁済としてその所有権を取得しうる立場にあつたのであるから昭和36年7月25日に至り譲渡担保として右建物を取得しても、なんら債権者を詐害するものではない。

2 本来、債権者詐害の行為は、単に計算的に債務者の総債権者のため一般担保財産を減少する行為があつたのみでは足りず、なお、その減少行為が不当性を有する場合にはじめて成立するものであるところ、被告は昭和36年7月25日訴外会社に対する牛乳等代金債権244万円の支払を猶予して分割払とすることを承認するとともに、今後とも牛乳等を売り渡すこととし、右債権および将来の牛乳等代金債権の譲渡担保として別紙物件目録(一)、(二)の建物の所有権を取得したものであつて、右訴外会社およびBは、右建物で牛乳販売業を営まないかぎり、被告に対する債務はもとより、仮に原告に債務を負担していたとしても、その債務の支払もまた全く不可能であつたのであるから、右譲渡担保のための建物の譲受行為は不当性を欠き詐害行為とならない。

3 被告は、昭和36年7月25日当時右訴外会社およびBが原告らに債務を負担していた事実は全く知らなかつた。

第三、証拠関係(省略)
(昭和39年7月27日 東京地方裁判所民事第二部)

別紙
物件目録

(一)東京都世田谷区世田谷3丁目2255番地
家屋番号 同町548番1、
木造亜鉛葺平家建店舗 一棟 建坪 26坪

(二)東京都世田谷区世田谷3丁目2253番地
家屋番号 同町2253番21、コンクリートブロツク造亜鉛メツキ鋼板葺二階建
居宅 1棟
建坪 9坪7合4勺
二階 9坪7合4勺
以上:3,526文字

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