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一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介2

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令和 2年 9月16日(水):初稿
○「一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介1」の続きで、昭和42年12月20日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集23巻12号2528頁)の理由文です。内容については、上告審の最高裁判所判決紹介と一緒に別コンテンツで解説します。

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理   由
控訴人が訴外有限会社AおよびBに対し、控訴人主張のような債権を有することは、その成立に争いのない甲第3号証および原審証人Bの証言、原審における原告本人尋問の結果により認められる。
控訴人の第一次的請求の当否について判断する。

被控訴人は、控訴人主張の日その主張のように右訴外会社およびBとの間にいわゆる即決和解をなし、その主張の財産権を取得したことは当事者間に争いがない。そして原審における証人Bの証言によれば、当時右訴外会社およびBは、右財産以外には格別の資産を有せず、一方、控訴人に対する前記債務、後記の被控訴人に対する債務のほか、他にも債務を負担し、債務総額が570万円ないし590万円に上つていたことが認められる。

控訴人は、訴外会社およびBが、このように多額の債務を負担しているのに、その財産の全部を被控訴人に譲渡するのは、被控訴人以外の他の債権者に対する詐害行為になるという。
その成立に争いのない甲第1、2号証、乙第1、2、5、6、7号証、原審証人Cの証言によりその成立を認めうる乙第3号証、原審証人Bの証言によりその成立を認めうる乙第4号証、証人Bの証言(原審および当審1、2回、ただし後記信用しない部分を除く)、証人Cの証言(原審および当審)を総合すると、つぎの事実が認められる。

訴外会社(代表取締役B)は、昭和8年頃から被控訴人より牛乳の卸売りを受け牛乳小売業を営んできたが、代金の支払が円滑を欠くようになつたので、昭和30年6月10日には被控訴人との間に牛乳等の継続的売買契約を締結し、昭和33年5月16日被控訴人主張のように第一目録(一)、(二)の建物につき極度額150万円の根抵当権設定および停止条件附代物弁済予約契約をなし、その登記手続を経た。

しかるに、昭和36年5月25日締切の債務が6月14日現在で244万円に達したので、被控訴人は訴外会社に対し右代金の支払がないときは、前記根抵当権または代物弁済の予約完結権を選択行使し、かつ、右継続的牛乳等売買契約を解除する旨通告をなした。そこで、訴外会社およびBより被控訴人に対し示談の申入れをなし、その結果、前記の裁判上の和解がなされるに至つたものである。

この和解においては、
訴外会社は被控訴人に対し右未払債務244万円と昭和40年6月末日まで年5分の割合による遅延損害金48万8000円との合計292万8000円を、昭和36年7月より昭和37年6月まで毎月末日限り金3万円宛、昭和37年7月より同年12月まで毎月末日限り金4万円宛、昭和38年1月より同年6月まで毎月末日限り金5万円宛,昭和38年7月より昭和39年6月まで毎月末日限り金7万円宛、昭和39年7月より昭和40年5月まで毎月末日限り金10万円宛、昭和40年6月末日8万8000円を支払う。

債務者が右分割債務の支払を2回分以上怠つたときは当然に期限の利益を失う。訴外会社は、被控訴人より現在販売を受けている牛乳等の買受代金は毎月25日締切りその翌月10日限り支払う。訴外会社およびBは、右既存債務および将来生ずべき牛乳等買受代金債務の支払を担保するため、前認定のように別紙目録第一、第二記載の財産上の権利を被控訴人に移転し、前記のように既存債務の支払を怠つて期限の利益を失つた場合のほか、将来生ずべき毎月の買受牛乳代金の支払を一回でも怠つたときも被控訴人において通知催告を要しないで前記既存債務の期限の利益を失わしめ、かつ、牛乳等の継続販売契約を解除することができる。

この場合は、訴外会社およびBは、被控訴人に対し別紙第一目録の建物より退去して明渡し、第二目録記載の動産を引渡し、営業権を返還し、牛乳得意先名簿を引渡すこと。この場合、被控訴人は、右建物敷地に対する借地権を取得し、右建物(借地権を含む)、動産、営業権の一または全部を任意に売却処分し、売却代金中より売却に要した諸経費一切を差引いた残額を既存債務全部の支払に充当し、なお不足額を生じたときはこれを訴外会社、Bに請求し、残余を生じたときはこれらに支払う。以上を骨子とする約定がなされた。

しかし、その後1年位の間に再び旧債務の分割弁済金の支払が行われなくなり、また、新取引による牛乳等代金の未払が生じたので(昭和37年10月10日の精算時には、旧債務の未払金は元金217万円、遅延損害金9万2000円以上、新取引による牛乳等代金未払181万70円であつた)、被控訴人は、昭和37年7月、前記の約定に基き、被控訴人と訴外会社間の取引を打切り、被控訴人が譲渡担保として取得した前記財産権を処分して精算を開始する旨を訴外会社およびBに通告した。

そして、被控訴人は、前記(一)(二)の建物の敷地の所有権を所有者Dから260万円で取得して、同年8月27日に右建物および敷地を大商不動産株式会社に900万円で売却し、また、その頃牛乳小売販売の営業権を100万円で他に売却し、また、訴外会社の売掛金38万0715円を回収し、一方、右建物の負担していた抵当権附債務であるところの西南信用組合分48万1332円、住宅金融公庫分55万6385円、国民金融公庫分5万4355円、右建物に入居していた喫茶店鹿の園立退料50万円その他諸経費7万1615円を立替払をした上、訴外会社およびBに対し、同年9月8日5万円、9月18日15万円、9月22日10万円、10月2日30万円、10月10日144万4958円を交付して精算を終えた(訴外会社の旧債務遅延損害金は、9万2000円超過分を免除)。

以上の事実が認められる。Bの精算金受取額に関する証人Bの当審第1回証言は信用できない。

右認定事実によれば、本件和解前に被控訴人が訴外会社およびBに対し有していた担保権は150万円を限度とするものであつて、右金額を超える債権は無担保債権であつたが、本件和解により被控訴人は244万円に及ぶ既存債権全額について担保権を有することになり、そして新たに担保として取得した財産権は右債権全額の支払を担保するに足る価額であつたと認めざるをえない。

しかしながら、右和解によつて被控訴人の取得した財産権は、右既存債務を担保するだけでなく、新しく被控訴人が訴外会社に対し売却する牛乳等売掛代金債権をも担保するものであるが、昭和36年6月当時前記のように未払金が累増して信用が失われ、一旦は訴外会社との取引を打ち切つて既存の担保権の実行を決意するに至つた被控訴人が、再び訴外会社に対する牛乳供給を継続し、新しく信用を供与するには(販売条件は代金後払である)、担保の増加を要求するのも無理からぬところである。そして、前認定程度の担保の増加は、必ずしも必要の限度を超えた増担保ともいえない。一方、訴外会社としてもこのような窮状を打開して何とか更生の道を見出すには、被控訴人からの牛乳供給を継続して貰つて営業を続けるのが最良の方策であつたものというべきである。

けだし、当審証人B(第2回)の証言によれば、右和解当時訴外会社の被控訴人からの牛乳仕入額は一ケ月8、90万円であり純利益は仕入値段の1割5分位であつて、和解条項で定められた既存債務の分割弁済は十分履行し得る状態であつたことが認められるからである。しかも、当審証人Cの証言によれば、被控訴人としても、訴外会社およびBと前記の和解をしたのは、訴外会社が被控訴人の古い顧客であるところから、訴外会社をして更生せしめる目的以外に他意がなかつたことが認められる。

また、訴外会社としても、被控訴人の提案した条件で和解を成立せしめて永年にわたり継続してきた本業に専念し、冗費を節するのが安全かつ効果的な更生手段であつたこと前認定の事実に徴し明かである。原審における原告本人尋問の結果、その成立に争いない甲4号証、甲7号証によれば、控訴人はBに対し本件建物をアパートに改造して利殖の方法を講ずべき旨献策していたことが認められるが、それは必ずしも堅実な更生策ともいえない。

以上の次第であるから、前記和解による被控訴人の財産権取得については、訴外会社およびBの債権者に対する詐害行為に当らない特段の事情があるものというべく、これを詐害行為としてその取消しと取得財産の価額の償還を求める控訴人の第一次請求は失当であり、これを排斥した原判決は正当である。

つぎに、控訴人の第二次的請求について判断する。
控訴人の第二次的請求は、当審第16回口頭弁論期日(昭和41年11月4日)において始めて申出でられたものであつて、本件訴提起(昭和38年6月12日)以来3年有余を経過しており、しかも、当時第一次請求に対する証拠調がすでに終了し、第二次請求の審理のためにはなお相当の証拠調を要するから、訴訟手続を著しく遅滞せしめるものというべきである。
よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人の第二次的請求はこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条に従い、主文のとおり判決する。

(昭和42年12月20日 東京高等裁判所第三民事部)

(別紙)
第一目録
(一)東京都世田谷区世田谷三丁目2255番地
家屋番号同町548番
木造亜鉛葺平家建店舗一棟 建坪 26坪

(二)東京都世田谷区世田谷三丁目2253番地
家屋番号同町2253番二
コンクリートブロツク造亜鉛メツキ鋼板葺二階居宅一棟
建坪 9坪7合5勺
二階 9坪7合5勺

(三)東京都世田谷区世田谷三丁目2253番の1
宅地378坪5合9勺の内東南隅55坪6合3勺に対する借地権
期間 昭和33年2月10日より向う20年間
借賃 1ケ月金1500円
目的 普通建物所有
貸主 D

第二目録
(一)(1)冷凍機 一馬力モーター付(三井精機株式会社製) 1台
(2)冷蔵庫 タイル張80ケース入り 1個
(3)自転車 10台
(4)牛乳販売営業用什器 一切
(配達箱10個、配達袋20袋、雨具10枚、金銭登録器1台、カウンター1台、木製テーブル1台、木製椅子5脚)

(二)牛乳小売販売営業権(得意先1500軒)
以上:4,265文字

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