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特別養護老人ホームの食事介助過失責任を認めた地裁判決紹介1

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令和 6年 4月10日(水):初稿
○判例時報令和6年4月1日号に掲載された特別養護老人ホームの食事介助についての過失責任を一部認めた令和5年2月28日名古屋地裁判決(判時2582号64頁)の事案を2回に分けて紹介します。特別養護老人ホームとは、主に社会福祉法人や自治体が運営する主に要介護3~5の方を対象とした施設と説明されていますが、要介護3以上になると介護レベルの厳しさを実感できる事案でした。

○dは、被告・社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームに入所していましたが、食事の提供を受けていた際に意識不明となり死亡し、、dの相続人である原告らが、被告老人ホームに対し、dの食事を全介助するか、少なくともこれを常時見守るべき注意義務等を負っていたのにこれを怠り、dは食事を誤嚥して死亡したと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、合計約3552万円の損害賠償金等の支払を求めました。

○これに対し、名古屋地裁判決は、、被告は、dが食事する際には、職員をしてこれを常時見守らせるべき注意義務を負っていたところ、ほかの職員がほかの利用者の食事介助をしながら、その合間にdの様子をうかがうということでは上記注意義務を履行したものとはいえず、また被告の債務不履行(注意義務違反)とdの死亡との間には因果関係が認められるとし、被告がdの食事形態を「全粥+刻み食」にしていたという経緯、dが誤嚥による窒息で死亡したという事実に照らして、食事形態の変更がdの死亡という結果の発生に相当程度寄与していたものというべきであるから、被害者側の過失として5割の過失相殺をするのが相当として、約1378万円の支払を命じました。

○判決の理由での認定事実まで紹介します。その概要は以下の通り、介護の厳しさを実感します。
dは、昭和13年生まれで死亡時令和元年12月時は81歳
平成20年頃70歳時にアルツハイマー型認知症診断、家族が介助
平成30年80歳時に要介護3認定、同年10月被告施設入所申込
平成31年2月、被告施設と入所契約締結し、入所
同年5月要介護5認定、当時身長160㎝、体重70㎏
行動障害として、
夜間は余り寝ておらず、シーツや枕カバーを外したり、おむつを外して便こね
着替える時に嫌がって職員の手を振り払い、介助をさせてもらえない。夜間の失禁時等ほぼ毎日
突然夜中にベッドから立ち上がることがあるためセンサーを使用している。まめに職員も訪室しており、転倒は防げている
適切に食事をすることができず、また、食事中に嘔吐が度々ある
7月医師から食事形態を「米食+常菜」から「全粥+刻み食」に変更指示に従う
原告aの意向で「全粥」から「軟飯に近い普通食」に変更
その後も、適切に食事をすることができず、食事中に嘔吐度々
12月12日午後5時頃の食事中誤嚥で心肺停止、同日午後7時10分頃死亡


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主   文
1 被告は、原告らに対し、それぞれ689万2117円及びこれに対する令和元年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その4を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が原告らに対してそれぞれ640万円の担保を供するときは、それぞれその仮執行を免れることができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は、原告aに対し、1776万5666円及びこれに対する令和元年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告bに対し、1776万5666円及びこれに対する令和元年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 d(以下「d」という。)は、被告が運営する特別養護老人ホームに入所していたが、令和元年12月12日、食事の提供を受けていた際に意識不明となり、死亡した。本件は、dの相続人である原告らが、被告は、dの食事を全介助するか、少なくともこれを常時見守るべき注意義務等を負っていたのにこれを怠ったものであり、これにより、dは食事を誤嚥して死亡したと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金合計3553万1332円及びこれに対するdが死亡した日である令和元年12月12日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告らは、dの子である。
イ 被告は、特別養護老人ホームの経営等を行うことを目的とする社会福祉法人であり、特別養護老人ホームほのぼのホーム西尾(以下「本件施設」という。)を運営している(甲2、6、弁論の全趣旨)。

(2)d(代理人原告a(以下「原告a」という。))と被告は、平成31年2月1日、dが本件施設に入所し、被告がdに対して介護保険法所定の地域密着型サービス(同法8条14項。具体的には、同条22項所定の地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護をいうものと解される。)を提供する旨の契約を締結した(以下「本件入所契約」という。)。

(3)dは、令和元年12月12日午後5時頃、本件施設の食堂において食事を開始したが、その途中口の中に食物を含んだまま動かなくなり、被告の職員の対応により食物を吐き出したものの意識不明となった(以下「本件事故」という。)。dは、病院に救急搬送されたが、同日午後7時10分に死亡が確認された。

2 主な争点
(1)被告の債務不履行(注意義務違反)の有無
(2)被告の債務不履行(注意義務違反)とdの死亡との間の因果関係
(3)損害額
(4)過失相殺

3 主な争点に関する当事者の主張の要旨

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実に当事者間に争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1)d(昭和13年○月生まれ)は、平成20年頃、アルツハイマー型認知症の診断を受け、自宅において、長男である原告aの家族から日常的に援助を受けていた。

 dは、要介護認定を受けていたが、認知症の進行により、平成30年3月に要介護状態区分の変更の認定を申請し、要介護3の認定を受けた。そして、原告aは、同年10月、dについて、徘徊が多く、家の物を壊すなどして自宅で介護することができないなどとして、本件施設に入所を申し込んだ。これを受けて、dと被告は、平成31年2月1日、本件入所契約を締結した(甲1、2、6、弁論の全趣旨)。
(2)dは、平成31年4月頃、要介護状態区分の変更の認定を申請し、令和元年5月、要介護5の認定を受けた。その際の認定調査(介護保険法29条2項、27条2項参照)によれば、dの状態は、次のようなものであった(甲1・7~10頁)。

ア かなり体格がよく(身長160cm台、体重70kg台)で気力もなく体重を預けてくるため、職員数人で介助をしており、職員も大分腰に負担がかかっている。認知症があり、昼夜逆転や介護抵抗もある。

イ 食事
 調子が良いとはしやスプーンを持ち食べることがあるが、まれである。はしやスプーンを持っても遊んでしまい、全て介助で食べさせることが多いと職員より聴取した。

ウ 精神・行動障害
(昼夜逆転)夜間は余り寝ておらず、シーツや枕カバーを外したり、おむつを外して便こねがあったり、パットもちぎったりすることがほぼ毎晩ある。センサーのコードを引っ張りセンサーが鳴ることも何回かあり、夜勤は2人対応であるが、職員2人とも本人の介助でとられてしまう。日中は声掛け起こすようにしているが傾眠傾向であり、眠剤を飲んで夜しっかりと寝てもらいたいが、家族が眠剤は体に良くないことから希望しないと聞く。

(介護抵抗)着替える時に嫌がって職員の手を振り払い、介助をさせてもらえない。夜間の失禁時等ほぼ毎日あり、職員2人対応で介助する。
(自分勝手に行動する)おやつなど好きな食べ物が出ると隣の人の物に手を伸ばすことがあり、なるべく隣の人と離すようにしているが、机の関係から週に何回かある。ほかにも隣の人のことが気になって、世話をしたい気持ちから、危ないのに立ち上がっていこうとすることがあったり、突然夜中にベッドから立ち上がることがあるためセンサーを使用している。まめに職員も訪室しており、転倒は防げている。
(話がまとまらない)聞いたこととは違ったことを言うことは毎日の話の中である。

(3)
ア dが本件施設に入所していた間、次のとおり、適切に食事をすることができず、また、食事中に嘔吐することがあった(甲7。以下、(3)項の日付は平成31年又は令和元年のものである。)。
〔1〕3月8日
 昼食時、食材で遊んでいるため、声掛けをし介助するが拒否する。食べ方が分からない様子である。
〔2〕3月9日
 昼食時、遊び、接取拒否。
〔3〕3月24日
 昼食をほぼ全量摂取した後、食物残渣物を2回嘔吐した。

〔4〕4月4日
 昼食時何度声掛けをしても起きず、時間をずらして提供するが食べず、食物で遊ぶ。
 夕食時、昼と同様、食べ遊びを行っている。
〔5〕4月10日
 夕食の終了時、嘔吐した。

〔6〕4月18日
 ほかの利用者の食事を食べようとする。
〔7〕4月29日
 隣の利用者のおやつを目を離したすきに食べてしまう。

〔8〕5月15日
 夕食時、全くはしに手を付けようとせず、職員による声掛けで食事を促すが拒否し、一部食事介助を試みるものの、口を閉じ、拒否する。見守りを開始するが、スプーンで副菜のさわらと主菜のご飯を左手に乗せ、握りしめている状態であり、その一連の行為がやむ様子がなく、提供後1時間を経過した時点で下膳する。
〔9〕5月19日
 家族と外出し、車に乗ったところ嘔吐した。

〔10〕5月20日
 朝食時、食べ物を手に遊び始める。5割のみ摂取した。
〔11〕5月22日
 朝食時、おかずを手づかみするなど遊ぶため、食事介助を行う。

〔12〕5月25日
 おやつのゼリーを提供するが、口の中に入れず、カップの中で細かく砕いている。声掛けをするが分かっていない。拒否するため下膳する。
 夕食時、おかずを手で持ちはしで刺したりちぎったりして食べようとしない。食事を促すが全く食べようとしないため、介助をしようとすると拒否される。しばらく様子を見ていたが、「もういらない。下げてくれ。」と言われるので下膳する。3割摂取した。

〔13〕5月26日
 家族と外出し、天ぷら、刺身、ご飯、貝汁を食べ、2回嘔吐した。
〔14〕5月29日
 夕食後に嘔吐した。

〔15〕6月3日
 夕食中に嘔吐し、食事中止にする。
〔16〕6月8日
 昼食時、食べようとせず米の上におしぼりをのせたりして遊んでいる。食事を促すが、もう食べたくないと言われる。2割摂取した。

〔17〕6月13日
 夕食途中嘔吐した。しばらくうなり、うがいをすると落ち着いた。
〔18〕7月7日
 息子と共に夕食に外出した。焼肉と冷麺を食べ、嘔吐した。

イ 原告a(医療法人北陽会かちがわ北病院の診療録(乙10)において「KP」(判決注:キーパーソンの意味)と記載される。)は、7月8日、本件施設に配置された医師(老人福祉法17条、特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準12条1項2号参照)に電話をかけて、最近食事中の嘔吐が気になる旨を相談した。これを受けて、同医師は、被告に対し、dの食事形態を「米食+常菜」から「全粥+刻み食」に変更するように指示し、被告はこの指示に従った(乙10・16頁、弁論の全趣旨)。

 その後、dは、7月15日、息子と共に外出し、焼き肉を食べて嘔吐し、本件施設に戻った後、薬を飲ませようとすると嘔吐した(甲7)。
 原告aは、dが食事をする際にむせたり嘔吐したりすることが気になるとして、7月22日頃、被告に対し、医師による精査を強く希望した。そのため、上記の配置医師は、同月23日、医療法人北陽会北陽会病院の医師に宛てて、上腹部のCT検査等を依頼する紹介状を作成した。この紹介状には、本件施設からの説明も踏まえて、「嘔吐はかき込むような食事の摂取によるムセが主要因のようである」旨が記載されている。(甲8、乙10・19頁)

 被告は、原告aの意向を受けて、令和元年8月10日以降、dの食事形態のうち主食を「全粥」から「軟飯に近い普通食」に変更した(乙27、弁論の全趣旨)。

ウ その後も、次のとおり、dが適切に食事をすることができず、また、食事中に嘔吐することがあった(甲7)。
〔1〕8月16日
 昼食時、食物残渣物を少量ずつ3回嘔吐した。
〔2〕11月23日
 昼食で遊びだす。職員が声掛けをし食事介助をすると,食べ始める。

〔3〕12月2日
 昼食時、味噌汁を飲んだ後、せき込み、大量に嘔吐した。 
〔4〕12月11日
 昼食時、嘔吐した。せきが出た時にその勢いで嘔吐してしまった様子である。昼食6割で中止とし、様子を観察する。

(4)被告がdについて作成した平成31年4月1日付け及び令和元年10月1日付けの施設サービス計画書には、いずれも要介護状態区分として「要介護5」が選択されており、平成31年4月から令和2年3月までの援助内容として、「嘔吐しやすいので食後観察を怠らない。」ことなどが記載されている(乙25の1、2)。

(5)被告がdについて作成した「栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリング(施設)」(甲9)には、令和元年12月10日時点の食生活状況等について、食事の留意事項として、かき込み食べがあるため小分けにして対応することを、食事時の摂食・嚥下状況として、時々むせること(入れすぎによるものか。)があり、嘔吐することが記載されているほか、原因不明の嘔吐(むせ込みからの嘔吐)があること、問題点として、食べたら嘔吐してしまうことなどが記載されている。

(6)dは、令和元年12月12日午後5時頃、本件施設の食堂において食事を開始した。この際提供された食事は、アジの塩焼き、甘酢生姜、なすの煮物、木耳酢物及び味噌汁であった(甲12。以下、(6)項の時刻は同日のものである。時刻は被告の防犯カメラの映像から確認することができるが、救急隊が接触した時刻は午後5時25分49秒であるとされるところ(甲13)、防犯カメラの映像には午後5時6分32秒と表示されることから(甲11・写真12)、防犯カメラの時刻に約19分加算するのが相当である。)。

 被告の職員は、午後5時11分頃、dの顔をのぞき込んで異常がないことを確認した上、dの食事を小皿に取り分けて提供し、その場を離れた。その直後、dはやや前屈みになり食事を始めた。その頃、当時被告の職員であったe(以下「e」という。)は、本件施設の食堂において、dの座っていた席と対角線上の最も遠い席の利用者に対して食事介助をしていた。

eは、食堂の全体を見たところ、被告の職員がdのそばを離れてから約7秒後、dの食事が進まず手が止まっているように見えたことから、声掛けをするために小走りでdに近付いた(eは、小走りになる前からdの方に向かって歩き出しているが(乙22・6~8頁)、この時dは前屈みになって食事をしていたのであるから、eの証言によれば、この時点では単にdの方に近付いていたというにすぎないものと認められる。)。(乙3、22、証人e)

 dが食べ物を口に含んでいるように見えたことから、eは、dに対し、食べ物を口から出すように声掛けを繰り返し、dの背中をたたいた。dは、声掛けに反応して少しずつ食べ物を口から出したが、eは、食べ物が喉に詰まっていると判断し、グローブをはめてdの口の中に手を入れて食べかすを少量取り出した。(甲37、40、乙3、22、39、証人e)
 dは、午後5時13分頃、心肺が停止した(甲46)。被告の職員は、午後5時14分頃、119番通報をし、救急隊は、午後5時23分頃に現場に到着し、dを救急搬送
した(甲13、46)。

(7)dは、午後7時10分頃、死亡した。dの死体検案書には、dの死因は誤嚥による窒息であるとの記載がある。(甲10)


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