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小学5・6年生時の暴行等について慰謝料80万円を認めた地裁判決紹介

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令和 7年 9月 3日(水):初稿
○「外傷性末梢性右顔面神経不全麻痺残す暴行慰謝料100万円地裁判決紹介」の続きで、暴行・傷害等による精神的苦痛に対する慰謝料等請求事件として平成25年6月5日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告aが小学校5、6年生時、同級生であったdから二度にわたる暴行行為を中心とする常習的ないじめを受け、これにより、原告aは解離性障害を伴う急性ストレス反応を発症し、その母である原告bもうつ病に罹患するなどの損害を被ったと主張して、原告らが、dの親権者である被告に対し、民法714条1項又は709条に基づき、原告aが約410万円、原告bが約241万円の損害賠償を求めました。

○これに対し母親原告bについてはうつ状態の発症に関する損害は,本件加害行為との間に相当因果関係が認められないとして棄却し、原告aについては、本件加害行為と解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症との間には相当因果関係を認定することはできないとしながら、本件加害行為が解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症の一つの誘因になったことは否めないとして80万円の慰謝料を認めました。

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主   文
1 被告は,原告aに対し,95万5602円及びこれに対する平成22年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告aのその余の請求及び原告bの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告aに生じた費用の5分の4と被告に生じた費用の5分の2を原告aの負担とし,原告bに生じた費用と被告に生じた費用の2分の1を原告bの負担とし,原告aに生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告aに対し,410万5196円及びこれに対する平成22年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告bに対し,241万8669円及びこれに対する平成22年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告a(以下「原告a」という。)が小学校5,6年生時,同級生であったd(以下「d」という。)から二度にわたる暴行行為を中心とする常習的ないじめを受け,これにより,原告aのほか,その母である原告b(以下「原告b」という。)もうつ病に罹患するなどの損害を被ったと主張して,原告らが,dの親権者である被告に対し,民法714条1項又は709条に基づき,損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1)原告aは,平成11年○月○日生まれの男児であり,平成21年4月に渋谷区立幡代小学校(以下「本件小学校」という。)に転入学し,以後,5年1組(同月から平成22年3月まで)及び6年1組(同年4月から平成23年3月まで)に在籍した。
 原告bは,原告aの母親である。

(2)dは,平成10年○○月○○日生まれの男児であり,原告aと同時期に本件小学校の5年1組及び6年1組に在籍した同級生であった。
 被告は,dの親権者母である。

2 争点

     (中略)

第4 当裁判所の判断
1 認定事実

(1)前記第2の1(争いのない事実)に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 1月事件までの経緯
 原告aは,平成21年4月に本件小学校に転入学した後,dと同じ5年1組に在籍した。原告aとdは,休み時間や放課後,休日に他の児童を交えて一緒に話したり,遊んだりしていたほか,互いの家が近かったこともあり,一緒に下校することもあった。
(甲18の6,27の7,乙5,7,証人d)

イ 1月事件の態様
 平成22年1月,原告aとdは,原告ら主張(前記第3の1(1)イ)のとおりの内容の遊びをしていた。その際,原告aからボールを当てられたdは,その直後に,未だ雲梯に登る途中であった原告aに対してボールを投げてぶつけた。これに原告aが抗議したことをきっかけとして,両者は揉み合いとなり,その最中,dの手が当たったことで原告aの掛けていた眼鏡が飛んだが,揉み合いが終わった時点で,同眼鏡は破損(〔1〕左智部とフロント上部の接合部分が破損,〔2〕丁番の亀裂破損,〔3〕左フロントの歪み)していた。
(甲4,証人d〔4,5,18~20頁〕)

ウ 1月事件後,本件傷害事件までの経緯
 1月事件があってから間もなくして,dは,原告aの眼鏡を取り上げて,それを隠したり,あるいは取り返そうと追いかけてくる原告aから逃げたりするなどして,原告aをからかう行為を繰り返すようになった。原告aは,このようなdの行為について,嫌がらせと感じ,不快に思っていた。
(甲16の4,34,証人d)

エ 本件傷害事件の態様
 平成22年9月24日,原告ら主張(前記第3の1(1)ウ)のとおりの態様で,dが原告aの眼鏡を取り上げて逃げ出し,原告aが追いかけてこれを取り返すという出来事があった。
 その後,両者は6年1組の教室に戻り,そこで他の児童数名が行っていた鬼ごっこに参加した。その際,鬼に近づかれないようにdの椅子を持ち出した原告aがその椅子を倒したことから,dは,仕返しに,原告aの椅子を女子児童の机の上に置いた。これを受けて原告aがdの椅子を蹴飛ばしたところ,dは近くにあった椅子を用いて原告aの体を挟み込むようにして押さえ付ける行動に出たが,これに対して,原告aはその椅子の脚に付けてあったテニスボールを外して,それをdに投げ付けた。それから両者は取っ組み合いの喧嘩を始め,dは,教室前の廊下で原告aの上に馬乗りになり,起き上がろうとする原告aの髪の毛をつかんで頭を押さえ付けた。

 周囲に居た数名の児童がdを制止し,dは他の児童と共に教室内へ戻ろうとしたが,そこに原告aが飛びかかってdと揉み合いになり,再びdが原告aの上に馬乗りになって,原告aと言い争いをしながら,原告aの髪の毛をつかんで頭を押さえ付けた。それから2人の児童が間に割って入り,原告aとdを引き離し,原告aは一人で保健室へ行った。
 dは,原告aの上に馬乗りになってその髪の毛をつかんで頭を押さえ付けていた際に,興奮の余り,更に原告aの左側頭部を数回にわたってPタイル製の床に叩き付ける暴行行為にも及んだ。
(甲18の6,乙2,5,7,証人d)

オ 本件傷害事件直後の状況
 原告aは,保健室で養護教諭からの応急処置を受けて休んでいたが,そこへ担任教諭に伴われてdがやってきた。原告aは,そのときのdの態度に立腹してdに飛びかかろうとし,両者は言い争いとなったので,担任教諭はdを連れて退室した。

 それから原告aは,養護教諭と共にJR病院へ赴き,脳外科を受診して頭部CT検査を受けたが,異常なしとの結果であった。
 検査後,原告aは学校へ戻ったが,養護教諭らに対し,教室へ戻ることやdと会うのは嫌である旨を申告した。そこで校長が原告aから事情を聞き,その日の放課後には,校長,担任教諭,原告a及びdの4人で話し合いをした。このときの校長や担任教諭の言動につき,原告aは,無理矢理仲直りをさせようとしていると受け止め,不快に感じていた。
(甲18の4・6,22,34,乙1~3,5)

カ その後の経緯

     (中略)

2 争点1(dによる加害行為の有無及び内容)について
 原告らは,dによる加害行為につき,〔1〕1月事件では,dの暴行によって眼鏡を損壊され,〔2〕本件傷害事件では,dにより,原告aが繰り返し頭を床に打ち付けられたことに起因して,原告ら主張のその余の損害を被った旨を主張している。

 しかしながら,1月事件の態様は上記1(1)イのとおり認定するのが相当であるところ,これによれば,小学校5年生である同級生同士のいざこざの域を超えた違法性のある行為がdにあったと認めることはできないし,また,同(2)で説示したとおり,証拠上認定できる事実からは眼鏡がいかなる理由で損壊したのか明らかでないといわざるを得ないから,その損壊と相当因果関係のあるdの加害行為を認定することはできない。

 他方,本件傷害事件の態様は,上記1(1)エのとおりであり,dは,原告aの左側頭部を数回にわたってPタイル製の床に叩き付けるという加害行為(以下「本件加害行為」という。)に及んだもので,このような行為に違法性がないとはいえないことは明らかである。

3 争点2(被告の責任の有無)について

     (中略)

4 争点3(被告が賠償すべき損害)について
(1)1月事件における損害
 原告aが主張する損害のうち,1月事件で損壊した眼鏡代については,それに対応する違法な加害行為が認められないことは上記2のとおりであり,被告が賠償すべき損害と認めるに足りない。

(2)本件加害行為と原告らの症状との関係について
ア 上記1(1)カの認定によれば,原告aは,本件加害行為によって,左頭部打撲,皮下血腫,頸椎捻挫の傷害を負ったものと認められる。

イ 原告らは,本件加害行為によって,原告aが,上記アの外傷のほか,解離性障害を伴う急性ストレス反応を発症したと主張するところ,被告は,その発症と本件加害行為との間には相当因果関係がない旨を主張する。

(ア)そこで検討するに,証拠(甲3の3,39)によれば,本件傷害事件後,平成22年10月15日の時点で,e医師は,原告aについて解離性障害を伴う急性ストレス反応を発症したと診断したところ,解離性障害とは,生活上の極めて困難な事態に直面したときに,当面の困難から逃れるために,現実と離れて解離を示す状態であり,急性ストレス反応とは,自然災害や暴行・脅迫など重大な心理的ストレスを受けた場合に,感情が麻痺し,不安・落込みなどの抑うつ症状や不眠・発汗などの神経症状を示す病気であることが認められる。

(イ)上記1(1)の認定事実によれば,本件加害行為がなされる以前,原告aは,dから眼鏡を取られてからかわれており,それを不快に思ってはいたものの,それゆえ,dに対して恐怖心を抱いていた様子は見受けられず,むしろ,本件加害行為の前後において自らdに飛びかかっていくなど,dと対等であるとの意識の強かったことがうかがわれる。また,本件加害行為の態様は,確かに悪質ではあるものの,これによって受けた外傷は,上記アのとおり左頭部打撲,皮下血腫及び頸椎捻挫にとどまっている上,〔1〕当日受診した病院では,原告aの意識は清明で,異常所見は認められないことが確認されていること(甲22),〔2〕その後,学校へ戻った際にも,その言動や様子に異常があった事実はうかがわれないこと(乙5参照),〔3〕それ以降,平成22年9月28日まで医療機関を受診していないが,その受診の際も,原告aは,医師に対して自分の考えや感じたことを説明できており,神経学的所見も含めて問題はなく,PTSDとしての強い病的な症状があるとはいえないことが確認されていること(甲27の1),以上の事情が認められ,これらの事情にかんがみると,本件加害行為を受けたことそれ自体が,原告aにとって重大な心理的ストレスになったとは認め難い。

 その一方で,上記1(1)の認定事実に加え,証拠(甲27,39〔枝番を含む。〕)によれば,原告aは,平成22年9月28日以降,医師に対して,自分は何も悪くないのにdから一方的な暴行を受け,それに対してdはしっかりとした謝罪をしておらず,それにもかかわらず校長や担任教諭らはどちらが悪かったのかをはっきりさせないままに,dと無理矢理仲直りをさせたとして,その不満を繰り返し述べていることが認められる。

 そうすると,原告aは,本件加害行為につき,自分には何ら落ち度がないのに被害に遭ったと受け止め,それに対してdや学校の教師らの言動は理不尽であると感じて不満と怒りを覚えるとともに,その不満と怒りを原告aの望む形で解消することが期待できないという不安をも抱いていたもので,それが原告aにとっては,生活上の極めて困難な事態に直面したものとなり,重大な心理的ストレスとなって,解離性障害を伴う急性ストレス反応を発症したと認めるのが相当である。

(ウ)ところで,証拠(乙2,5,7,証人d)及び弁論の全趣旨によれば,本件加害行為の後,校長や担任教諭らは,dに対し,本件加害行為について指導をしており,dも,原告aに対して謝罪をしたことが認められる。もとより本件加害行為による被害を原告aが受けたその心情にかんがみれば,原告aが,あるいは原告bにおいても,上記のような不満と怒りを覚え,その後のdや教諭らの言動に誠意がなくおよそ十分なものではないなどと感じることにはやむを得ない面があったともいい得るが,証拠(甲23,34,35,原告b)によれば,原告らの主張にも一部表れているように,原告らの本件加害行為に対する受け止め方は,原告aに何らの落ち度もなかったという点,dが原告aを殊更にいたぶる意図を有して本件加害行為を継続したとの点などにおいて,必ずしも客観的な事実に沿うものではないところがあり,それに伴い,dや教諭らに対する原告らの要求も過大になった面があることを否めないものと認められ,このような事情にも照らすと,本件においては,本件加害行為により,原告aが上記の重大な心理的ストレスを抱くことが相当なものであると認めるには足りないというべきである。

(エ)以上によれば,本件加害行為と解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症との間には相当因果関係を認定することはできない。

 なお,e医師の意見書(甲39)では,原告aが理不尽な暴行や扱いを受けたことが,上記症状の発症の原因である旨の記載があるが,上記(イ)のとおり,本件加害行為それ自体が重大な心理的ストレスになったとは認め難いことや,同意見書は,本件加害行為に至る経緯や本件加害行為後のdらの言動等につき,原告らの主張を前提に作成されたものであることからすれば,同意見書をもって,本件加害行為と解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症との間の相当因果関係を認めるのは困難である。

ウ 原告らは,原告bにおいても,原告aが本件加害行為による被害を受けた心労から,うつ病になったと主張する。
 しかしながら,上記イのとおり,本件加害行為と原告aの解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症との間には相当因果関係が認められないこと,原告bの本件加害行為に関する認識は,必ずしも客観的な事実に沿うものではないことなどの事情に照らすと,診断書(甲5)の記載のとおり原告bがうつ状態になったのだとして,その症状の発症と本件加害行為との間に相当因果関係を認めるに足りる証拠はないというべきである。

エ 以上によれば,本件加害行為により,被告が原告らに対して賠償責任を負うべき損害の中には,原告aの解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症及び原告bのうつ状態の発症に関する損害は含まれないものと認めるのが相当である。

(3)本件加害行為に基づき被告が賠償すべき損害額


     (中略)

(キ)慰謝料 80万円
 上記1(1)の認定事実によれば,原告aは,本件加害行為によって頭部を負傷しており,解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症がなかったとしても,2か月程度は経過観察のために通院の必要があったと考えられること,上記(2)のとおり,相当因果関係までは認定できないものの,本件加害行為が解離性障害を伴う急性ストレス反応の発症の一つの誘因になったことは否めず,その発症により,学校や当時希望していた中学受験のために通っていた塾を休まざるを得なくなった原告aの心情については,慰謝料の算定に当たって一定程度斟酌することが相当であることなどの本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,本件加害行為によって原告aの受けた精神的苦痛を慰謝するには80万円が相当であると認められる。


     (中略)

イ 原告bについて
 上記(2)のとおり,原告bのうつ状態の発症に関する損害は,本件加害行為との間に相当因果関係が認められない。原告bの慰謝料の主張につき,原告aが被害を被ったことについての精神的苦痛に対する慰謝料を含むものとみても,上記で説示したところに照らせば,その苦痛が生命侵害の場合にも比肩すべきものであったと認めるに足りない。
 したがって,原告bが,本件加害行為と相当因果関係のある損害を被ったと認めることはできない。

第5 結論
 以上によれば,原告aの請求は,被告に対し,95万5602円及びこれに対する平成22年9月25日(本件加害行為日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでその限度で認容し,原告aのその余の請求及び原告bの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第17部
裁判長裁判官 戸田久 裁判官 石井義規 裁判官 中野雄壱
以上:6,972文字

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