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土留工事完成後の地盤沈下損害について消滅時効を認めた地裁判決紹介

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令和 7年10月30日(木):初稿
○原告らが、被告甲府市が原告ら所有の土地及びその周辺土地の土留改修工事を業者に発注し、当該業者は工事を実施したところ、被告甲府市の不適切な指示監督等により本件土地の地盤沈下が生じた旨主張して、被告に対し、それぞれ民法709条に基づく損害賠償金等の支払を求めました。

○原告X1は、被告発注土留改修工事の不備により沈下した所有地の地盤を回復するために、敷地等の調査を行い、建物を解体撤去・地盤改良工事を行い、建物及びコンクリート路面の復元工事を行う必要があり、これらに要する費用8900万1000円が被告の不法行為と相当因果関係が認められるというものです。

○これに対し、被告甲府市は、原告らが主張する本件工事の不備は、本件工事の完成までに生じたもので、消滅時効の起算点は、遅くとも本件工事の完成検査日の平成15年3月19日であり、本訴提起は、同日から20年以上が経過した令和5年3月27日なので、被告の不法行為による損害賠償請求権は、被告の消滅時効の援用により時効消滅したと主張しました。

○この事案について、被告主張を全面的に認めて原告ら請求を棄却した令和6年2月20日甲府地裁判決(判時2629号72頁、参考収録)全文を紹介します。この判決は控訴審東京高裁に判決で、取り消されて甲府地裁に差し戻されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は
、原告X1に対し、8900万1000円及びこれに対する令和5年4月26日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告X2に対し、1487万2000円及びこれに対する令和5年4月26日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告は、原告X3に対し、996万6000円及びこれに対する令和5年4月26日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告は、原告X4に対し、1552万1000円及びこれに対する令和5年4月26日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 被告は、平成14年、現在原告らがそれぞれ所有する各土地について擁壁の土留改修工事を発注し、同工事は、平成15年3月に完成した。
 本件は、原告らが、上記工事における被告の不適切な指示等により上記各土地に地盤沈下が生じたと主張して、被告に対し、民法709条に基づき、原告X1につき8900万1000円、原告X2につき1487万2000円、原告X3につき996万6000円、原告X4につき1552万1000円及びこれらに対する不法行為後の日である令和5年4月26日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、争いがない事実は認定根拠を摘示しない。)
(1)
ア 亡Aは、昭和61年5月28日、甲府市■■■所在の地番1250番17の土地を購入し、原告X1は、令和3年×月×日、同土地を相続した。
イ 亡B及び原告X2は、昭和60年8月31日、甲府市■■■所在の地番1250番1の土地を上記Bの持分を3分の2、原告X2の持分を3分の1として購入し、原告X2は、平成17年×月×日、上記Bの持分3分の2を相続した。
ウ 亡Cは、昭和57年6月10日、甲府市■■■所在の地番1249番7の土地を購入し、原告X3は、平成30年×月×日、同土地を相続した。
エ Dは、昭和57年6月23日当時、甲府市■■■所在の地番1250番18の土地(以下、前記アないしウの各土地と併せて「本件各土地」という。)を所有していたところ、亡Eは、平成13年10月8日までに、同土地を取得し、原告X4は、平成28年×月×日、同土地を相続した。

(2)被告は、平成14年頃、本件土地と接する隣接地(甲府市■■■所在の地番1250番5の土地)との間の土留擁壁改修工事の一部(以下「本件工事」という。)を発注した。本件工事は平成15年3月に完成した。

(3)原告らは、令和5年3月27日、本訴を提起した。

(4)被告は、令和5年7月27日に行われた第1回弁論準備手続期日において、原告らに対し、本訴請求債権について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)被告の不法行為責任の成否

(原告らの主張)
 本件工事における被告の不適切な指示及び監督並びに本件工事の施工内容に不備があったにもかかわらず完成検査により「合格」と決定したことにより、
〔1〕本件工事において十分な転圧がされず、
〔2〕甲府市■■■所在の地番1250番17の土地の自宅建物の下に施工されるべき8本の支柱が施工されず、
〔3〕もともと存在した水路が廃止された。
その結果、本件各土地には、地盤沈下が生じたから、被告は、原告らに対し、不法行為責任を負う。

(被告の認否)
 本件各土地に地盤沈下が生じたことは不知。その余は、否認ないし争う。

(2)損害及び因果関係
(原告らの主張)
ア 原告X1は、沈下した所有地の地盤を回復するために、敷地等の調査を行い、建物を解体撤去したうえで地盤改良工事を行い、建物及びコンクリート路面の復元工事を行う必要がある。したがって、これらに要する費用8900万1000円が被告の不法行為と相当因果関係が認められるというべきである。

イ 原告X2は、沈下した所有地の地盤を回復するために、敷地等の調査を行い、損傷したコンクリート路面を撤去したうえで地盤改良工事を行い、コンクリート路面を復元する必要がある。したがって、これらに要する費用1487万2000円が被告の不法行為と相当因果関係が認められるというべきである。

ウ 原告X3は、沈下した所有地の地盤を回復するために、敷地等の調査を行い、損傷した境界壁を撤去したうえで地盤改良工事を行い、境界壁を復元する必要がある。したがって、これらに要する費用996万6000円が被告の不法行為と相当因果関係が認められるというべきである。

エ 原告X4は、沈下した所有地の地盤を回復するために、敷地等の調査を行い、損傷した擁壁を撤去したうえで地盤改良工事を行い、擁壁を復元する必要がある。したがって、これらに要する費用1552万1000円が被告の不法行為と相当因果関係が認められるというべきである。

(被告の認否)
 否認ないし争う。

(3)消滅時効の成否
(被告の主張)
 完成検査日には、本件工事が終了していることから、被告の不適切な指示及び監督を不法行為とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、遅くとも、本件工事の完成検査日である平成15年3月19日である。また、本件工事の施工内容に不備があったにもかかわらず完成検査により「合格」と決定したことを不法行為とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、本件工事の完成検査日である同日である。そして、本訴提起は、同日から20年以上が経過した令和5年3月27日であることから、消滅時効が完成している。

(原告らの主張)
 本件工事の完成検査は、「甲府市低入札価格調査実施要項」で定められた段階検査や「承諾書」で定められた変更工事に当たっての協議がされていないことからすれば、重大な瑕疵が存在し、無効というべきであって、完成検査日である平成15年3月19日を消滅時効の起算点とすることはできない。
 また、被告の工事検査調書によれば、「都市整備部都市整備課」による完成検査の他に、「総務部指導検査課」による合否の判断がされ、合格となった後に更に下部に「検査報告」なる欄が存在し、施工主管部及び契約主管部の各担当者全員が検査報告を受けた又は行ったのは,平成15年3月27日であるところ、同日をもって本件工事は終了したと考えるのが相当であるから、消滅時効の起算点は同日である。

第3 当裁判所の判断
1 争点(3)(消滅時効の成否)について

(1)不法行為による損害賠償の請求権は、不法行為の時から20年間行使しないときは時効によって消滅するところ(民法724条2号)、その文言からして、加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には、加害行為の時がその起算点となると解すべきである(最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁参照)。 

(2)原告らの主張する不法行為は、本件工事における被告の不適切な指示及び監督並びに本件工事の施工内容に不備があったにもかかわらず完成検査により「合格」と決定したことであるところ、証拠《略》によれば、本件工事は、平成15年3月12日まで行われ、被告は、同月19日、完成検査を行い、引渡しを受けたことが認められるから、加害行為の終期は、遅くとも平成15年3月19日であるというべきである。

 そして、原告らは、上記不法行為により、
〔1〕本件工事において十分な転圧がされず、
〔2〕甲府市■■■所在の地番1250番17の土地の自宅建物の下に施工されるべき8本の支柱が施工されず、
〔3〕もともと存在した水路が廃止され、その結果、本件各土地に地盤沈下が生じ、損害が生じた
と主張するところ、原告らが主張する上記〔1〕ないし〔3〕の不備は本件工事の完成までに生じていたものであるから、原告らが主張する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、遅くとも平成15年3月19日であるというべきであり、上記請求権は、被告の消滅時効の援用(前提事実(4))により、時効消滅したというべきである。

(3)これに対し、原告らは、本件工事の完成検査は、重大な瑕疵が存在し、無効というべきであって、完成検査日である平成15年3月19日を消滅時効の起算点とすることはできないと主張するが、同検査の法的効力如何によって原告らが主張する加害行為の終期が変わるということはできないから、原告らの上記主張は、前記(2)の説示を覆すに足りない。

 また、原告らは、施工主管部及び契約主管部の各担当者全員が検査報告を受けた又は行った平成15年3月27日をもって本件工事は終了したと考えるのが相当であるから、消滅時効の起算点は同日であると主張し、証拠《略》によれば、施工主管部及び契約主管部の各担当者全員が検査報告を受けた又は行ったのは、同日であると認められる。しかし、上記検査報告は、完成検査を行い、請負業者から引渡しを受けた後の被告内部の報告にすぎず、原告らが主張する加害行為の終期は、被告が完成検査を行い引渡しを受けた同月19日であるというべきであるから、上記事実は、前記(2)の説示を覆すには足りない。

 他に、前記(2)の説示を覆すに足りる証拠はない。

2 以上の検討によれば、その余の争点について検討するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 新田和憲 裁判官 井上有紀 今澤俊樹)

以上:4,573文字

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