仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 >    

多数回の暴言・暴行について慰謝料30万円の支払を命じた地裁判決紹介

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 7年11月 4日(火):初稿
○暴行に対する慰謝料を認めた裁判例を探していますが、暴行だけを理由としての慰謝料請求に対する判決は余り見つからず、暴行だけの理由ではなかなか慰謝料は認められないようです。

○原告が、同じ勤務先の知人であった被告から、多数回暴言や暴行を受けるなどし、これが原告に対する不法行為に該当すると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料200万円と弁護士費用等を請求しました。

○原告は被告の不法行為として、約4か月間、周囲に止める者等がいない状態で、本件ロッカー室内で「いじめ殺す」等の粗暴で攻撃的な言葉を告げるとともに、身体(主に背中)を叩く、後ろから首付近に腕を回して強く絞めるなどの暴行を多数回、継続的に行ったと主張しました。

○これに対し被告は休憩時間中に本件ロッカー室において、本件各発言を行ったり、その際に原告の身体を触ったり叩いたりしたことは認めるも、時期を争い、原告に対する好意的な感情から発せられたもので、原告は発達障害により他人との距離感が把握しにくい特性があり、原告の対応から自身が原告に受け入れられていると認識して気が緩み、ふざけて不適切な言動に及んだもので不法行為には該当しないと答弁しました。

○この事案について、原告がその場で強い抵抗を示さなかったこと、原告が休憩時間に本件ロッカー室に来ることをしばらくの間やめなかったことを踏まえても、原告がこれに同意して受け入れていたとは認められず、被告においても原告がこれらの行為に真に同意していたものでないことを認識していたと認められ、「殺す」や「奥さん襲う」等が直ちに現実的にこれらを実行することを示す趣旨で発言されたとまでは認め難いものの、これらが、原告に対する実際の暴行を伴って一定期間継続して多数回行われていることなどの本件不法行為の態様等に照らせば、全体として、原告に身体的攻撃による痛みのほか、相当な不快感、不安感を与える言動の一部と評価するのが相当で、被告が主張するような冗談や悪ふざけとして許容されるものとはいえないとして、慰謝料30万円の支払を命じた令和6年8月21日東京地裁判決(LEXDB)全文を紹介します。

○認定した事実関係でも慰謝料は200万円の請求に対し僅か30万円しか認められておらず、原告としては納得できない判決と思われます。

********************************************

主   文
1 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和4年5月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを20分し、その17を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

 被告は、原告に対し、220万円及びこれに対する令和4年5月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、同じ勤務先の知人であった被告から、令和4年1月頃から同年5月24日にかけて、多数回暴言や暴行を受けるなどし、これが原告に対する不法行為に該当すると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料及び弁護士費用計220万円及びこれに対する不法行為の最終日である令和4年5月24日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、証拠番号は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)
(1)原告及び被告は,本件当時、東京都葛飾区所在の医療法人財団C病院(以下「本件病院」という。)の従業員であった。なお、被告は、令和4年10月31日から休職し、令和5年11月30日、自然退職となった。

(2)被告は、令和4年4月15日(以下、同年の出来事については年の記載を省略する。)から5月24日の本件病院での休憩時間中、本件病院4階男子ロッカー室(以下「本件ロッカー室」という。)において、原告に対し、別紙「2暴言」記載の各発言をした(以下「本件各発言」という。)。 

2 争点及びこれに対する当事者の主張
 本件の主要な争点は、被告による不法行為の有無及び損害額である。
(1)不法行為の有無
(原告の主張)
 被告は、1月頃から、原告に対し、本件ロッカー室において、休憩時間中、「殺すぞこの野郎」等の暴言をかけるようになり、その後、暴言のほか、原告に対し、背中や頬を殴る、首を絞めるなどの暴行を毎日のように行うようになり、その一部が本件各発言及び別紙「1暴行」記載の各暴行(以下「本件各暴行」といい、個別の機会の暴行については別紙記載の番号を付して「本件暴行1」などという。)である。
 被告による上記暴言、暴行が社会通念上許容されないものであることはその内容から明らかであり、原告に対する不法行為が成立する。

(被告の主張)
ア 被告が、原告に対し、休憩時間中に本件ロッカー室において、本件各発言を行ったり、その際に原告の身体を触ったり叩いたりしたことがあることは認めるが、1月頃から毎日のように行ったとする点は否認する。

イ 被告による原告への言動には不適切なものが含まれるが、原告に対する好意的な感情から発せられたものである。被告は、発達障害により他人との距離感が把握しにくい特性があるところ、原告の対応から自身が原告に受け入れられていると認識して気が緩み、ふざけて不適切な言動に及んでしまったものである。

ウ 原告は、5月24日までの被告の言動を録音した後、本件ロッカー室での休憩を止めて被告の言動についてカウンセラーに相談を始め、被告との接点がほぼなくなった後に通院を開始していることなどから、原告が被告の言動により適応障害を発症したことには疑義がある。

エ 上記事情からすれば、被告の原告に対する言動は不法行為に当たらない。

(2)損害額
(原告の主張)
ア 慰謝料 200万円
 原告は、被告による暴言、暴行を直接の原因として適応障害に陥った。その精神的損害を評価すれば200万円を下らない。
イ 弁護士費用 20万円

(被告の主張)
 争う。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告と被告は、本件病院における職務上の関係は特になかったが、休憩時間等に本件ロッカー室で顔を合わせることなどから、1月頃には、本件ロッカー室で会話等をする関係となった。被告は、1月頃以降、原告に対し、「殺すぞ」などと言ったり、背中を叩いたりするようになった。被告による上記のような発言や暴行は、4月までに頻度が高くなったため、原告は、被告に処分を受けさせようと考え、4月15日から5月30日まで、本件ロッカー室での被告の言動を録音した。本件病院には、原告が休憩時間を過ごせる場所は他にも存在したが、原告は、仮眠をとるには本件ロッカー室が最適だと考えており、5月までは、被告の言動を理由に休憩時間に過ごす場所を変更することはしなかった。(甲2~8、13、原告本人、被告本人)

(2)被告は、4月15日から5月24日の間、休憩時間中に、本件ロッカー室において、原告に対し、本件各発言をした。また、被告は、本件各発言のされた休憩時間中に、原告に対し、背中を平手で叩く、肩を拳骨で叩く、後ろから首付近に腕を回して強く抱き締める等の行為を行った。上記各行為の内容等は、具体的な殴打の部位・回数等について詳細な認定が困難な部分があるものの、概ね本件各暴行のとおりである(ただし、「首を絞める」とは上記のような行為の限度で認められ、本件暴行13の「頬を1回叩く」及び同14の「ロッカーへ1回突き飛ばす」は、録音反訳でも対応する出来事は判然とせず、具体的な事実経過も明らかでないところ、原告の供述のみからこれらを認めるに足りない。)。(甲2~8、13、乙5、原告本人、被告本人)

(3)原告は、6月以降、休憩時間に本件ロッカー室で休憩することをやめ、原告は、6月6日頃、本件病院のカウンセラーに対し、メールで人間関係についての悩み相談を申込み、同年7月11日、カウンセラーに対し、被告の本件各発言や本件各暴行等の言動について、刑事事件として書類送検されることを希望していることなどの相談をした(甲1、原告本人)。

(4)原告は、7月上旬頃、本件病院に対し、被告による本件各発言及び本件各暴行の被害を訴えた。被告は、7月13日、本件病院の事務長に呼び出され、原告に対する言動について厳重注意を受けた。被告は、同日、本件ロッカー室で原告と出会い、謝罪の弁を述べた。同日頃以降、被告が休憩時間を本件ロッカー室で過ごすことはなくなり、原告と被告が病院内で接触する機会はほとんどなくなった。(甲13、乙5、原告本人、被告本人)

(5)原告は、7月30日、強度の不安やイライラ等を訴え、神経科D病院を受診し、「うつ病(適応障害)」の診断を受け、同日から令和6年1月27日まで通院した(甲9)。

2 不法行為の有無について
(1)前記認定のとおり、被告が、少なくとも4月以降、原告に対し、本件各発言をし、その機会に本件各暴行と概ね一致する暴行(本件暴行13、14については一部を除く。)を行ったこと、同様の言動は、1月頃以降に始まり、頻度は4月以降より低かったものの、3月までの間にも行われていたことが認められる(以下「本件不法行為」という。)。なお、被告は録音開始前の暴行、暴言の事実を否認するが、それまでに何ら問題となる暴行等がないにもかかわらず、原告において録音を開始し、録音開始間もなく暴行や暴言が始まるに至るとは考え難く、1月頃以降に暴行、暴言が始まった旨の原告の供述は信用でき、この認定を妨げるに足りる証拠はない。

(2)本件不法行為は、散発的に行われていた期間を含めれば約4か月間、頻回の行為態様が具体的に認定できる期間に限っても1か月余りの間、周囲に止める者等がいない状態で、本件ロッカー室内で「いじめ殺す」等の粗暴で攻撃的な言葉を告げるとともに、身体(主に背中)を叩く、後ろから首付近に腕を回して強く絞めるなどの暴行を多数回、継続的に行ったものであり、原告がその場で強い抵抗を示さなかったこと、原告が休憩時間に本件ロッカー室に来ることをしばらくの間やめなかったことを踏まえても、原告がこれに同意して受け入れていたとは認められず、当時の録音から窺えるやりとりに照らし、被告においても原告がこれらの行為に真に同意していたものでないことを認識していたと認められる。

本件各発言を個別に見ると、友人間の悪ふざけの域を出ないと見る余地があるものも含まれており、その文脈に照らし、「殺す」や「奥さん襲う」等が直ちに現実的にこれらを実行することを示す趣旨で発言されたとまでは認め難いものの、これらが、原告に対する実際の暴行を伴って一定期間継続して多数回行われていることなどの本件不法行為の態様等に照らせば、全体として、原告に身体的攻撃による痛みのほか、相当な不快感、不安感を与える言動の一部と評価するのが相当であり、被告が主張するような冗談や悪ふざけとして許容されるものとはいえない。

 したがって、本件不法行為は、原告に対する不法行為に該当し、被告はこれにより生じた原告の損害を賠償する義務を負う。
 被告は、発達障害を有していたため原告が自分を受け入れてくれていると思って本件不法行為に及んでしまったなどとも主張するが、被告が上記のような障害を有していたとしても、他人に粗暴な声をかけながら身体を殴る等の加害行為を継続的に行うことが許されないことは明らかであり、被告においてそのことが理解できなかったとも解されない。前記のとおり、原告と被告のやりとりからも、原告が被告からの攻撃について真に同意していないことは把握していたと認められるのであって、被告の上記主張は不法行為の成立を妨げるものとはいえない。

3 損害額
(1)慰謝料 30万円
 原告は、本件不法行為によりうつ病ないし適応障害に罹患したことを前提に、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は200万円を下らないと主張する。
 しかし、前記各認定事実によれば、原告は、被告の本件不法行為を受けている間、被告との接触を避けることはせず、本件ロッカー室での仮眠を優先して休憩場所を変えなかったこと、原告が具体的な症状を訴えて精神科を受診したのは、被害がなくなってから2か月以上後であり、かつ、被告が勤務先から処分を受けた後の7月30日であること、原告の適応障害の診断は、専ら原告からの主観的愁訴を前提としたものであると考えられるところ、その具体的な診療経過等も必ずしも明らかでないこと、以上の事実が認められる。

これらの事実からすれば、原告が罹患したとされる適応障害が、被告の言動(本件不法行為)により発症したものであることを直ちに認めることは困難である。また、原告の精神科への受診が本件不法行為を契機とするものであること自体は否定できないとしても、当該通院等により、原告の業務等に具体的な影響が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

 以上を踏まえ、被告の発言及び暴行の態様や頻度、継続期間等を含む本件不法行為の内容、被告の身体的暴行により原告が治療を要するような傷害を受けた事実は認められないこと、その他、本件に顕れた一切の事情を総合すると、本件不法行為により原告が被った精神的損害に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当である。

(2)弁護士費用 3万円
 本件事案の内容、訴訟の難易、認容額等に照らし、原告が負担した弁護士費用は3万円の限度で本件不法行為と相当因果関係にある損害と認められる。

第4 結論
 よって、原告の被告に対する請求は、不法行為に基づく損害賠償請求として33万円及びこれに対する不法行為の最終日である令和4年5月24日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部 裁判官 伊藤吾朗

別紙

以上:5,836文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > なんでも参考判例 > 多数回の暴言・暴行について慰謝料30万円の支払を命じた地裁判決紹介