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最高裁に覆された東京高裁判決一部紹介2

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平成25年 3月 3日(日):初稿
○「最高裁に覆された東京高裁判決一部紹介1」を続けます。
全文で2万字近くにも及ぶ平成21年1月14日東京高等裁判所判決ですが、受付終了時刻直前に来院し、検査結果の確認だけとの条件で面会するも、検査結果等に色々質問を繰り返す控訴人(患者)に対し、簡単にBDP(人格障害)と決め付ける診断を下して突き放したA精神科医の対応にショックを受けPTSDを発症したことについて、この精神科医の対応が違法性があるとして約680万円の慰謝料請求の内約201万円が認容されたものです。

○この精神科医の対応の違法性について、同高裁判決は次のように詳細に認定しています。
ウ A医師の本件面接におけるBPDの告知等の違法性について
 精神科の面接においては、患者が気持ちよく面接に参加できるように面接を進め、診療や治療について分かりやすく、患者に伝えることが重要であることは前記のとおりである。

また、「精神障害の臨床」(平成16年6月15日発行)には、
「患者-医師関係のなかで臨床医の最も重要な活動は、患者と話をすることであるのはいうまでもない。」、
「面接の開始 最初の受診時には社交的な礼儀正しさを示し、患者を歓迎し、名前を尋ね、患者を大切な人とみなしていることを伝えることが肝要となる。自己紹介の後、相談に来ることになった問題について尋ねることから始める。」、
「面接では、患者が自分の言葉で自分のストーリーを語ることをどんどん勧めていくようにする。これはバイアス(先入見、先入観によって歪むこと)を最小限にする。」、
「主訴となった症状の一つひとつについて、症状の発生や症状が伸展してきた道筋を問うのが有効である。」
「発症の時期、持続期間、頻度、そして時間経過…は、はっきりさせるべきである。これは、ふつう、患者の症状を明確化し、組織だてて理解するのに最も役に立つ。」
と記載されているところからも明らかである。

 また、患者にPTSDの可能性がある場合、精神的負荷に対し脆弱であり、些細な言葉が症状憎悪を来しうるため、精神科医としては、まずは、患者に安心感を与え、受容的になり、患者との間に信頼関係を築くべきである。これに対し、本件面接における丙川医師の言動は、上記のとおり、控訴人の生活歴や青年期周辺状況について問診をすることなく、患者である控訴人の悩みを聞くとか、温かい態度で患者に接するという本来の精神科における面接とは全く逆に、控訴人の悩みを聞こうとはせず、逆に、控訴人を突き放すような言動に終始し、また、BPDとの病名を告知するのであれば、本来、十分に問診をし、医師と患者との信頼関係が形成されたところで、治療行為の開始として、これを告知すべきであるのに、そのような信頼関係もなく、治療行為を開始する具体的な予定もないのに、看護師からは興奮した状態で受診を求めていると報告を受け、しかも自己の状態に不安を抱いている控訴人に対してBPDの病識を得させるための十分な説明や配慮もなしに、告知したものであり、PTSDの可能性も疑われる患者に対し、『人格障害』との病名を告知した上記行為は、精神科医としての注意義務に反する行為であったといわざるを得ない。

 なお、控訴人が被控訴人病院を受診した本件面接当時は、PTSDは、診断基準を満たさない程度に軽快していたものであった。しかし、控訴人が被控訴人病院受診前にPTSDに該当する症状が明確には認められなかったとしても、ストーカーによる被害を受けていたことなどからすれば、丙川医師としては、それによる影響は考慮すべきであったのであり、PTSDは、いったん外傷体験を想起させるような出来事などに直面すると一気に再燃することもあることを考慮すると、控訴人への対応については、慎重な対応をすべき状況であったというべきである。

 なお、BPDとの病名の告知については、前記のとおり、「初診時にBPDの診断を下し、患者の病理、とりわけ行動面での問題をある程度同定し、それを治療すべく契約を結ぶ、ということまで一気に行う必要がある。」とする文献(「精神科臨床ニューアプローチ5パーソナリティ障害・摂食障害」に収載の「診断のための鍵」山下満著)も存在するが、この文献に収載された「外来治療の治療構造」市橋秀夫著を、よく読めば、「パーソナリティ障害の治療に当たっては初診時面接がその後の治療を容易にするか困難にするかの勝負所となる。初診時面接だけは十分に時間をかけるべきである(40分から50分)。この時間の中で以下のことを行う必要がある。…〈1〉早期に診断する〈2〉病名の告知〈3〉治療同盟と治療目標の設定〈4〉治療契約」と記載されているのであり、初診時面接に十分に時間をかけること、及び、その後の治療契約と治療目標の設定などを行うことが記載されているのであり、A医師のように、十分な問診をすることなく、控訴人の質問を断ち切るような応答の中で、BPDの治療を行う予定がない(少なくとも行うかどうかが不明の)患者に対し、病名告知を早期にすべきであるとの記載はどこにもないのである。
○要するに、PTSD発症の可能性のある精神の脆弱な患者に対し、十分な聞き取りもせず、安易にBDP(人格障害)との重大な診断名を告知したA医師の行為は、精神科医としての注意義務に違反する即ち違法だとしており、なかなか説得力があります。我々弁護士の法律相談でも、回答に納得せず、質問を繰り返し、困らせる相談者が居て、その異常な執拗さに、「人格」に問題があると感じることがあります。しかし、弁護士は精神科医ではありませんから、「あなたは『人格障害』です」なんては決して言いません。しかし、精神科医としても安易に断定できない診断名と思います。

○この「人格障害」発言と患者のPTSD発症の因果関係については次のように断定しています。
4 争点(2)(障害の結果及び因果関係の有無)について
(1) A医師によるBPDの告知行為による損害について
ア 前記認定のとおり、控訴人は、平成16年1月30日に被控訴人病院精神科を受診し、A医師と面談してから、PTSDを発症している。すなわち、当日のA医師は、控訴人をBPDであると短絡的に判断していたため、控訴人に対し、「あなたは普通じゃない」などと拒絶的で厳しい言動をし、かつ、控訴人に対し「人格障害」との病名を告知した後、「帰りなさい」などといって、診療を打ち切ったことにより、控訴人は、診察場面におけるA医師の一方的な決めつけと、控訴人の主体性や控訴人の意思ないし人格を否定されたと感じたことから、これが心的外傷となり、そのときに保侍されていたバランスが崩れ、過去の外傷体験が一挙に噴出し、控訴人においてPTSDの症状が現れる結果となったものである。このように、精神科の診察においては、患者が医師に信頼を寄せ、心理的に無防備な状態となることが多く、控訴人も、A医師との診察場面において、このような状態の中で、思いがけず過去の外傷体験と類似の体験をすることにより、これまで抑えられていた情緒体験が噴出し、PTSDの症状が現れる結果となったと認められる。

(中略)

イ A医師は、精神科医としては、控訴人が過去においてストーカー行為の被害にあったことをカルテから知り得たはずであるし(カルテの記載が不足であれば、過去の生活歴について必要な情報を聴取してこれを補足するのが診療行為として当然必要な行為である。)、また、患者としての控訴人の情動の不安定さから、トラウマの存在を念頭に置き、PTSDの可能性をも考慮すべき義務があったにもかかわらず、十分な問診をせずに短絡的に控訴人をBPDであると判断し、控訴人に対し、前記認定のとおりの厳しい対応をした上で、人格障害との病名を告知し、その治療に入ると閉鎖病棟に行かなければならなくなるなどの言動を取り、その結果として、控訴人にPTSDを発症させる結果となったものである。

ウ 以上によれば、A医師の本件面接における控訴人に対するBPDの病名告知と前記認定の厳しい言動により、控訴人にPTSDを発症させる結果となったものと認められる。
○この患者の言動からは、正に「普通じゃない」精神状況が良く判ります。法律相談でも前記の通り「普通じゃない」と感じる相談者が居ますが、「あなたは普通じゃない」とは言い切りません。「普通じゃない」方に「普通じゃない」と言っても理解されず反発されるだけだからです。精神科いともあろう方が、安易に「あなたは普通じゃない」と発言するのは正に注意義務違反と思われますが、問題はPTSD発症との因果関係です。後に最高裁で否定されますが、高裁判決は明快に認めて居ます。

以上:3,562文字

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