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死亡逸失利益に国民年金振替加算額も基礎収入に認めた地裁判例紹介

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令和 1年11月11日(月):初稿
○80歳女子の死亡逸失利益は国民年金の振替加算額も基礎収入に認め生活費控除4割で認定した平成28年10月31日東京地裁判決(交民集49巻5号1320頁)全文を紹介します。

○80歳女子Aの死亡逸失利益につき、国民年金の振替加算額部分にも逸失利益性を認め、年金収入のみであったことから、生活費控除率を4割とし、国民年金を基礎収入に平均余命の12年間につき認定し、死亡慰謝料につき、被告の前方不注視による事故であること、被害者の年齢及び家族構成等から、本人分2000万円認め、長男である原告には200万円認定しました。

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主    文
1 被告は、原告に対し、2985万1752円及びこれに対する平成26年4月10日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その7を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、4042万1607円及びこれに対する平成26年4月10日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 本件は、被告が運転する自動車(トヨタハイエース)(以下「被告車」という。)が歩行中の甲野花子(以下「被害者」という。)に衝突した後述の交通事故(以下「本件事故」という。)につき、被害者の唯一の相続人である原告が、本件事故によって被害者に生じた損害賠償請求権を相続するとともに固有の損害が発生したとして、被告に対し、民法709条に基づき、損害賠償金合計4042万1607円及びこれに対する本件事故日である平成26年4月10日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 当事者間に争いのない前提事実
(1) 次のとおり、本件事故が発生した。
 日 時 平成26年4月10日午後0時35分
 場 所 東京都新宿区<地番略>先路上
 態 様 上記場所において、被害者が横断歩道様の表示がされている路上を歩行していたところ、被告運転の被告車が被害者に衝突した。

(2) 被告は、被告車を運転するに際し、前方注視等の安全確認をして運転走行する注意義務があるのに、これを怠って、わき見をして被告車を運転した結果、本件事故を発生させた。

(3) 被害者は、本件事故により死亡した。

(4) 原告は、被害者の長男であり、唯一の相続人である。

3 争点と争点についての当事者の主張
 本件の争点は、本件事故によって被害者及び原告に発生した損害及びその額であり、この点についての当事者の主張は次のとおりである。
(1) 原告の主張
 本件事故により、次の損害が発生した。
ア 被害者に生じた損害
(ア) 逸失利益 606万9587円
 被害者は、本件事故当時、年金を受給していたところ、そのうち遺族厚生年金(年額186万2800円)のみで生活をしており、国民年金(68万4800円)は生活費として費消していなかった。したがって、国民、年金を基礎として、被害者の平均余命までの中間利息を控除した逸失利益は606万9587円である。なお、被害者は、亡夫から相続した遺産により生活しており、受給した年金を生活費として費消することはなかったのであるから、生活費控除は認められない。

(イ) 慰謝料 2200万円
 被害者は、本件事故により突如として生命を奪われており、その無念は大きく、慰謝料は2200万円を下らない。

イ 原告に生じた損害
(ア) 慰謝料 500万円
 原告は、本件事故により母である被害者を失っており、その精神的苦痛は大きく、慰謝料は500万円を下らない。
(イ) 葬儀費用 367万7329円
 原告は、喪主として被害者の葬儀を執り行い、その費用として367万7329円を支出した。

ウ 弁護士費用 367万4691円

(2) 被告の主張
ア 被害者の損害について
(ア) 被害者の逸失利益は争う。基礎となるのは国民年金の基本部分の年額50万4000円のみで、振替加算額の年額18万0800円は算入されない。喪失期間は11年とし、生活費控除率は70%とすべきである。
(イ) 被害者の慰謝料は争う。原告の固有慰謝料も含めた総額2000万円が限度とされるべきである。

イ 原告の損害について
(ア) 原告の慰謝料は争う。上記ア(イ)と同じである。
(イ) 葬儀費用は争う。本件事故と相当因果関係があるのは150万円までである。

第三 当裁判所の判断
1 前記当事者間に争いのない前提事実(第二の2)によれば、被告は、原告に対し、民法709条に基づき、本件事故により発生した被害者及び原告に生じた損害賠償責任を負う。

2 争点についての判断
 争点である本件事故によって発生した被害者及び原告の損害及びその額について検討する。
(1) 被害者の逸失利益 364万1752円
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被害者は、昭和8年11月生まれで、本件事故当時80歳であり、国民年金(老齢基礎年金)として年額68万4800円 (基本額50万4000円、振替加算額18万0800円)を受給していたことが認められる。
 ここで、他人の不法行為により死亡した者の得べかりし国民年金は、その逸失利益として相続人が相続によりこれを取得し、加害者に対してその賠償を請求することができるものと解されるところ(最高裁平成元年(オ)第297号同5年9月21日第3小法廷判決・裁判集民事169号793頁参照)、被告は、被害者の国民年金のうち振替加算額部分には逸失利益性がないと主張して争っているが、振替加算額は、一定の要件のもとに受給者自身の国民年金として加算される性質のものであるから、逸失利益性が認められると解する

 また、被害者の平均余命については、平成26年簡易生命表(女)が11.71年であることを踏まえ、12年(ライプニッツ係数8.8633)とするのが相当である。
 そして、被害者は、本件事故当時、遺族厚生年金(年額186万2800円)を受給し、その余の資産を有していたこともうかがわれるものの、その年齢等を考慮すると就労の蓋然性もなく年金収入のみであったことも踏まえ、その生活費控除率を40%とするのが相当である。
 以上を踏まえると、次の計算式のとおり、被害者の逸失利益は364万1752円となる。
 (計算式)
 68万4800円×(1-0.4)×8.8633=364万1752円

(2) 被害者の慰謝料 2,000万円
 本件事故の態様や被告の過失の内容・程度、被害者の年齢及び家族構成に加え、本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、被害者の死亡慰謝料としては2000万円とするのが相当である。

(3) 原告の慰謝料 200万円
 原告は、被害者の長男であり、唯一の相続人であるところ、原告と被害者との関係、被害者と原告の妻や子供(被害者の孫)との関係等の事情も考慮すると、原告が本件事故によって被害者を失ったことにつき相当の精神的苦痛を被ったことが認められるので、原告の慰謝料を200万円とするのが相当である。

(4) 葬儀費用 150万円
 原告は、被害者の葬儀等に関連して合計367万7329円の支出をしたことが認められる(証拠(略)及び弁論の全趣旨)が、本件事故と相当因果関係のある費用は150万円であると認める。

(5) 弁護士費用 271万円
 原告は、その訴訟代理人弁護士を委任して訴訟追行しているところ、審理の経過、認容額その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、271万円を相当と認める。

3 以上の検討によれば、被告は、原告に対し、損害合計2985万1752円及びこれに対する本件事故日である平成26年4月10日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の遅延損害金を支払う義務を負う。

4 よって、原告の請求は、上記の限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求には理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
   東京地方裁判所 裁判官 影山智彦
以上:3,386文字

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