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輸血用血清の給血者に対する医師の問診義務についての最高裁判決紹介

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令和 2年 3月31日(火):初稿
○給血者がいわゆる職業的給血者で、血清反応陰性の検査証明書を持参し、健康診断および血液検査を経たことを証する血液斡旋所の会員証を所持していた場合でも、同人が医師から問われないためその後梅毒感染の危険のあつたことを言わなかつたにすぎないような場合、医師が、単に「身体は丈夫か」と尋ねただけで、梅毒感染の危険の有無を推知するに足る問診をせずに同人から採血して患者に輸血し、その患者に給血者の罹患していた梅毒を感染させるに至つたときは、同医師は右患者の梅毒感染につき過失の責を免れないとした昭和36年2月16日最高裁判決(判例タイムズ115号76頁)全文を紹介します。  

○国立病院の医師が血清検査証明書等を持参した給血者に対して、たんに「身体は丈夫か」ときいただけで、それ以上の検査をしなかつたため、輸血を受けた婦人がばい毒に感染してしまつたというので、国に不法行為に因る損害賠償義務をみとめた原審昭和31年9月17日東京高裁判決(判タ63号55頁)の上告審です。

○判旨は、医師が給血者に対し問診を怠つたという点に過失ありとする原審の見解を是認するもので、所定の証明書等を持参したものに対しては問診を省略するのが医師の慣行であるとの国の主張に対しては、仮にそのような慣行が行われていたとしても、注意義務存否の法的判断には影響がない、とし、また、仮に問診したとしても真実を述べなかつたであろう、という所論に対しては、必ずしもそう断定することはできないので、本件は必要な問診をしたのになおかつ結果の発生を予見し得なかつたというのではなく、相当の問診をすれば予見し得たであろうと推測されるのにそれをしないで、そのため不幸な事態をひき起すにいたつたものであるから、医師の注意義務違背の責を負うべきは当然である、としました。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由について。
 しかし、医師が直接診察を受ける者の身体自体から知覚し得る以外の症状その他判断の資料となるべき事項は、その正確性からいつて、血清反応検査、視診、触診、聴診等に対し従属的であるにもせよ、問診により外ない場合もあるのであるから、原判決が本件において、たとい給血者が、信頼するに足る血清反応陰性の検査証明書を持参し、健康診断及び血液検査を経たことを証する血液斡旋所の会員証を所持する場合であつても、これらによつて直ちに輸血による梅毒感染の危険なしと速断することができず、また陰性又は潜伏期間中の梅毒につき、現在、確定的な診断を下すに足る利用可能な科学的方法がないとされている以上、たとい従属的であるにもせよ、梅毒感染の危険の有無について最もよく了知している給血者自身に対し、梅毒感染の危険の有無を推知するに足る事項を診問し、その危険を確かめた上、事情の許すかぎり(本件の場合は、一刻を争うほど緊急の必要に迫られてはいなかつた)そのような危険がないと認められる給血者から輸血すべきであり、それが医師としての当然の注意義務であるとした判断は、その確定した事実関係の下において正当といわなければならない。

 所論は、医師の間では従来、給血者が右のような証明書、会員証等を持参するときは、問診を省略する慣行が行なわれていたから、A医師が右の場合に処し、これを省略したとしても注意義務懈怠の責はない旨主張するが、注意義務の存否は、もともと法的判断によつて決定さるべき事項であつて、仮に所論のような慣行が行なわれていたとしても、それは唯だ過失の軽重及びその度合を判定するについて参酌さるべき事項であるにとどまり、そのことの故に直ちに注意義務が否定さるべきいわれはない。

 所論は、仮に医師に右の如き問診の注意義務があるとしても、給血を以つて職業とする者、ことに性病感染の危険をもつ者に対し、性病感染の危険の有無につき発問してみても、それらの者から真実の答述を期待するが如きことは、統計的にも不可能であるから、かかる者に対してもまた問診の義務ありとする原判示は、実験則ないし条理に反して医師に対し不当の注意義務を課するものである旨主張するが、たとい所論のような職業的給血者であつても、職業的給血者であるというだけで直ちに、なんらの個人差も例外も認めず、常に悉く真実を述べないと速断する所論には、にわかに左祖することはできない。

 現に本件給血者Bは、職業的給血者ではあつたが、原判決及びその引用する第一審判決の確定した事実によれば、当時別段給血によつて生活の資を得なければならぬ事情にはなかつたというのであり、また梅毒感染の危険の有無についても、問われなかつたから答えなかつたに過ぎないというのであるから、これに携わつたA医師が、懇ろに同人に対し、真実の答述をなさしめるように誘導し、具体的かつ詳細な問診をなせば、同人の血液に梅毒感染の危険あることを推知し得べき結果を得られなかつたとは断言し得ない。

 されば原判決がこの点に関し、「一面職業的給血者と雖も、医師がかかる危険の有無の判断資料となるべき事項について具体的に詳細な問診をなせば、一々答える必要があり、質問に対する反応を見る機会も多く、その心理的影響によつて真実を述べる場合のあることも相当予想される」旨判断したのは、その確定された事情の下において正当とすべく、所論の違法があるとは認められない。所論はひつきよう抽象的にこの問題を論定しようとするものであるから採ることができない。

 所論はまた、仮に担当医師に問診の義務があるとしても、この原判旨のような問診は、医師に過度の注意義務を課するものである旨主張するが、いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ないところといわざるを得ない。

 然るに本件の場合は、A医師が、医師として必要な問診をしたに拘らず、なおかつ結果の発生を予見し得なかつたというのではなく、相当の問診をすれば結果の発生を予見し得たであろうと推測されるのに、敢てそれをなさず、ただ単に「からだは丈夫か」と尋ねただけで直ちに輸血を行ない、以つて本件の如き事態をひき起すに至つたというのであるから、原判決が医師としての業務に照し、注意義務違背による過失の責ありとしたのは相当であり、所論違法のかどありとは認められない。
 よつて、民訴396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 高木常七、裁判官 斎藤悠輔、裁判官 入江俊郎、裁判官 下飯坂潤夫


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