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頚椎神経根症について後遺障害等級第12級を認定した地裁判決紹介

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令和 2年 6月25日(木):初稿
○乗用車を運転中の32歳男子会社員が乗用車に追突され頸椎捻挫等から多彩な症状の訴えで「安静と投薬等を真面目に行った結果筋力低下が起こった」、「治療の遷延に原告の側に帰責させるべき事情が窺われないこと等に照らせば、同判断は相当」であり、「原告の症状は、平成19年5月17日に固定したと認めるのが相当である」等、1802日後の症状固定及び残存する神経症状は、第4、5、6頚椎神経根症によるものであり、別表12級相当の後遺障害が残存したものと認められると認定した平成21年11月4日東京地裁判決(交民集42巻6号1456頁)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告は、原告に対し、金3273万7572円及びこれに対する平成14年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、3448万0443円及びこれに対する平成14年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 本件は、追突事故の被害者が、追突車の保有者に対し、自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任に基づく損害賠償として、損害金及び事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めたという事案である。

2 前提事実(争いのない事実及び掲記証拠により認められる事実)


     (中略)


3争点
(1) 症状固定時期

ア 原告の主張
 適切な治療がなされなかったこと等も影響し、長期にわたり症状が改善されない状況が続いたばかりか、多彩な症状の蔓延を来していたが、平成19年から通院し始めたI病院で適切な治療やアドバイスを受けたことで症状が改善しそれなりの安定を示した平成19年5月17日が症状固定日である。

イ 被告の主張
 本件事故後3ヶ月か6ヶ月程度で症状固定状態となっていた。被告は、原告の強い希望に応じ平成15年11月30日まで治療費等の支払に応じていたが、いかに遅くとも同日より後ではあり得ない。

(2) 後遺障害の程度
ア 原告の主張
 原告に残存する神経症状は、第4、5、6頚椎神経根症によるものであり、自動車損害賠償法施行令別表(以下「別表」という。)第2の12級相当のものである。

イ 被告の主張
 原告に残存する症状は、他覚的所見を伴わない自覚症状のみであり、せいぜい別表第2の14級10号「局部に神経症状を残すもの」にとどまる。



     (中略)


第三 争点に対する判断
1 争点(1)(症状固定日)について

 原告は、本件事故による受傷後、「頚~後側頭部痛」、「左上肢しびれ」や「腰臀部痛」等を訴えていた(前提事実(2))ところ、H病院整形外科での平成16年12月3日の頚椎、胸椎、腰椎のMRI所見によれば、「第3、4、5、6頚椎高位軽度後方突出が見られ、脊柱管が圧排されています。特に第5、6頚椎高位では軸断画像でも脊柱管の狭窄が認められる。」とあること、I病院の戌田三郎医師は、明らかな脊柱管の狭窄や圧排は認められないとしつつも、脊椎第4、5、6間での不安定性を認めていること(前提事実)から、原告の訴えと上記所見とが神経学的に一致しており、原告の症状は、第4、5、6頚椎神経根症によるものと認められる。

 この点、甲山四郎医師は、原告の症状は、他覚的所見のない頚椎捻挫、腰椎捻挫であるから、長期治療を必要とする医学的根拠はないとして、事故後3ヶ月から6ヶ月程度で症状固定状態となっていた旨述べるが、前提が異なることになる。

 他方、原告の症状が第4、5、6頚椎神経根症によるものだとしても、症状固定まで約5年を要するというのは異常ともいえる。この点、I病院の戌田三郎医師は、原告が同病院を受診するに至るまで病状について十分な説明が行われず、多科間での連携もないため、原告の訴えに対して不安を煽る結果となった、症状の遷延や、頚部や腰痛の病状ばかりでなく、目まいなどの耳鼻科症状、消化器症状、精神科的症状の悪化等の多彩化は、漫然とした治療方針やその内容である安静と投薬等を真面目に行った結果筋力低下等が起こったためとしており、I病院での適切な治療の結果、症状の安定が得られたとして、平成19年5月17日をもって症状固定日と診断しているところ、A整形外科の丙川一郎医師は、平成18年2月24日作成の労働者災害補償保険診断書において、原告の症状が「一進一退」であったと判断しており、症状が改善、増悪を繰り返し安定していなかったことが窺われるばかりか、適切な治療を受ければ症状改善を図る余地があったこと、治療の遷延に原告の側に帰責させるべき事情が窺われないこと等に照らせば、同判断は相当であろう。
 よって、原告の症状は、平成19年5月17日に固定したと認めるのが相当である。

2 争点(2)(後遺障害の程度)について
 上記1のとおり、原告に残存する神経症状は、第4、5、6頚椎神経根症によるものであり、別表12級相当の後遺障害が残存したものと認められる。

3 争点(3)(損害の多寡)について
(1) 治療費 351万0511円
 証拠(略)によれば、平成14年6月10日から平成19年5月17日までの治療に要した費用が351万0511円であると認められ、同額は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(2) 薬剤費 51万9060円
 証拠(略)によれば、薬剤費として51万9060円を要したことが認められ、同額は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(3) 通院交通費 15万0046円
 証拠(略)、弁論の全趣旨によれば、通院交通費として15万0046円を要したことが認められ、同額は本件事故と相当因果関係のある損害である。

(4) 休業損害 3131万0710円
 基礎日額1万0855円は当事者間に争いがない。
 証拠(略)、原告本人によれば、原告は、本件事故当時、精密板金・試作板金の専門会社であるJ株式会社に勤務し、デジタルカメラの部品等、高精度のメカ部品の試作製造やISO9001認定取得の業務に従事していたこと、本件事故後の症状のため就労できない状態が続き、職場復帰の目処が立たないため平成18年7月29日付けで同社を退職せざるを得なかったこと、以後も就労できない状態が続き、平成21年8月からガソリンスタンドでのアルバイトを始めたことが認められる上、原告の状態については、証拠(略)によれば、A整形外科の丙川一郎医師は、労働者災害補償保険に対し、同医院への通院期間中(平成19年2月14日まで)の間、療養のため労働することができなかった旨の証明書を作成している上、前提事実のとおり、同医師、I病院の戌田三郎医師は、通院可能であるが就労できない状態であることを認めた労働者災害補償保険診断書を作成していることが認められる。
 以上によれば、原告は、症状固定日である平成19年5月17日まで就労不能であったと認められる。
 (日額1万0855円×1802日=1956万0710円)
 また、証拠(略)によれば、原告が健康な状態で勤務していれば、1175万円の賞与、臨時賞与を得られたと認められる。

(5) 後遺障害逸失利益 1228万9852円
 証拠(略)によれば、原告は、本件事故の前年である平成13年には、508万2997円の賃金を得ていたことが認められ、同額は、同年度の賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者、30~34歳の平均賃金(497万4600円)を上回っていたことや、事故当時、原告は32歳であったことを併せ考慮すると、逸失利益の基礎収入は、症状固定日の属する平成19年度の賃金セン サス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者、35~39歳の平均賃金である571万0500円とするのが相当である。
 労働能力喪失14%、67歳までの喪失期間30年(ライプニッツ係数15.3725)として計算すると、1228万9852円となる。

(6) 傷害慰謝料 170万円
 通院期間、原告の症状や期間中の精神的苦痛等、諸般の事情を総合考慮すれば、慰謝料として170万円を認めるのが相当である。

(7) 後遺障害慰謝料 290万円
 別表12級相当の後遺障害が残存しており、慰謝料として290万円を認めるのが相当である。

(8) 弁護士費用
 (1)~(7)の小計は、538万0179円から1175万5491円が支払われたことは当事者間に争いがなく、証拠(略)によれば、労働者災害補償保険から1003万7116円(休業補償832万4704円、障害一時金171万2412円)が支払われたこと、弁論の全趣旨によれば、自賠責保険から75万円が支払われたことが認められ(合計2254万2607円)、これらを損害元本に充当すると、2983万7572円となる。
 本件訴訟に至る経緯、審理経過、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、290万円が相当である。

4 よって、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所 裁判官 鈴木正弘

以上:3,880文字

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