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自動車保険契約の酒気帯び免責条項による免責を認めた地裁判決紹介

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令和 2年 7月31日(金):初稿
○事故前日の晩に缶ビール500ミリリットル1本と焼酎の水割り3杯を飲んでいた加害者が、加害車両(普通貨物自動車)を運転して走行中、前方に停止していた被害者運転の原動機付自転車に衝突して被害者をはね飛ばした事案について、自動車保険契約における、被保険者が「道路交通法第65条第1項に定める酒気帯び運転又はこれに相当する状態で被保険自動車を運転している場合に生じた損害に対しては、保険金を支払わない」との免責条項に該当するかどうかが争いになった平成30年12月19日神戸地裁判決(判例時報2444号23頁)判断理由部分を紹介します。

○損害保険会社である原告が、被告との間で締結した自動車保険契約に基づいて被告に保険金を支払ったことについて、被告の起こした交通事故は被告が酒気帯び運転をしていた際に発生した事故であるから、保険約款上の保険金支払の免責事由に該当すると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、既払の保険金と同額の金員及び遅延損害金の支払を求めました(本訴)。

○これに対し、被告が、原告に対し、上記自動車保険契約に基づき、上記事故によって被告に生じた人的損害に係る人身傷害保険金のうち未払保険金及び遅延損害金の支払を求めました(反訴)。

○神戸地裁判決は、本件事故当時、被告は、通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等により、外観上認知することができるような状態にあったと推認されるから、本件事故による被告の人身傷害、本件車両の損害、レッカー代は、被告が酒気を帯びた状態で本件車両(被保険自動車)を運転しているときに生じた、又は、そのときに生じた走行不能事故によって生じたというべきであり、本件免責条項による免責事由が存在し、他方で、本件免責条項により原告の人身傷害保険金の支払が免責されるから、被告の請求は理由がないとして、原告の本訴請求を認容し、被告の反訴請求を棄却しました。

○缶ビール500ミリリットル1本と焼酎の水割り3杯を飲んだのは事故の前の晩であり、酔いは完全に醒めていると思ったのでしょうが、事故後の検査において、呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出されたことは、酔いが残っていたことになります。お酒に弱い人、私もそうですが、前の晩に飲んだら翌日は運転禁止とすべきでしょう。

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主   文
1 被告は、原告に対し、213万3510円及びこれに対する平成30年5月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 本訴請求
 主文1項同旨

2 反訴請求
 原告は、被告に対し、366万0411円及びこれに対する平成30年10月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、損害保険会社である原告が、被告との間で締結した自動車保険契約に基づいて被告に保険金を支払ったことについて、被告の起こした交通事故は被告が酒気帯び運転をしていた際に発生した事故であるから、保険約款上の保険金支払の免責事由に該当すると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、既払の保険金合計213万3510円と同額の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年5月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(本訴)のに対し、被告が、原告に対し、上記自動車保険契約に基づき、上記事故によって被告に生じた人的損害に係る人身傷害保険金のうち未払保険金366万0411円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である同年10月23日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。
1 判断の前提となる事実

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 判断の前提となる事実並びに括弧内に摘示する証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。ただし、上記証拠のうち、次の認定に反する部分は採用しない。
(1)被告は、本件事故前日の平成28年4月9日の晩、自宅において少なくとも500ミリリットルの缶ビール1缶及び焼酎の水割りを3杯飲んだ(争いがない。)。

(2)被告は、平成28年4月10日午前8時28分ころ、本道西行車線の第2通行帯を時速約75kmの速度で西進していたところ、別紙図面の〔ア〕(〔×〕)地点付近で北を向いて停止していた丙川車を、その前方約9.1mにおいて認め、急制動の措置を講じたものの間に合わず、本件車両前部を丙川車の側面に衝突させた。丙川は、本件事故によって負った胸椎脱臼骨折、胸髄損傷により、同日午前9時41分、死亡した。
 被告は、本件事故当時、本件事故現場を何度も通行したことがあり、本件事故現場付近の道路状況を把握していた(甲8)。

(3)被告は、本件事故現場で逮捕され、C警察署で実施された飲酒検知において、呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出されたが(判断の前提となる事実(4))、酒気帯び運転については起訴されていない(弁論の全趣旨)。

(4)本件事故現場付近の本道西行車線の前方の見通しは良好であり、本件事故後に行われた実況見分において、被告が、本件事故現場付近の100m以上手前の地点から本件事故現場付近に佇立する人の姿を確認することができ、約70m手前の地点からその姿をはっきりと確認することができることが確認された(甲8)。


(1)
ア 判断の前提となる事実(2)オのとおり、本件免責条項は、被保険者が「道路交通法第65条第1項に定める酒気帯び運転またはこれに相当する状態」で被保険自動車を運転している場合に生じた損害及びこの場合に生じた走行不能事故によって被保険者が被る損害に対しては保険金を支払わない旨規定している。

 ここで、道路交通法65条1項にいう「酒気を帯びて」とは、およそ社会通念上酒気を帯びているといわれる状態をいい、具体的には、通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等により、外観上認知することができるような状態にあることをいうものと解される。

 なお、同法は、刑事罰の対象を、酒気を帯びて運転した者のうち、酒に酔った(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある)状態(同法117条の2第1号)か、政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態(同法117条の2の2第3号)の場合に限っているが、同法65条1項は、刑事罰の対象となる場合に当たらない程度の酒気帯び運転も含めて禁止する趣旨であると解される。

 そうすると、本件免責条項にいう同法65条1項に定める酒気帯びとは、社会通念上酒気を帯びているといわれる状態をいい、具体的には、通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等により、外観上認知することができるような状態にあることをいうものと解するのが相当である。

イ これに対し、被告は、本件免責条項にいう酒気帯びとは呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを含有する状態をいうと主張する。
 しかし、被告が主張するのは、道路交通法65条1項で禁止される酒気帯び運転のうち、処罰の対象となる酒気帯び運転を定めるための基準であることは、同法117条の2の2第3号の規定から明らかである。これに対し、本件免責条項の文言においては、「処罰の対象となる酒気帯び運転」などと、免責条項が適用される酒気帯び運転について何ら限定を加えていないから、本件免責条項にいう酒気帯びが被告の主張するとおりに限定されると解することはできない。

ウ また、被告は、本件保険契約約款が違法薬物に関する免責事由として、麻薬等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転している場合を挙げていることとの均衡を考慮し、本件免責条項にいう酒気帯び運転とは、同法65条1項の酒気帯び運転のうち、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある場合に限定されるべきであると主張する。

 しかし、本件免責条項は、違法薬物に関する免責事由と異なり、明文上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態であることまでを要件としていない。本件免責条項は、同法65条1項が、酒気を帯びて自動車を運転する行為を禁止していることに対応しており、同条項に違反して運転している場合に生じた事故については、運転者自らが責任を負うべきであるとして、保険金の支払を免責する趣旨の規定と解される。

 他方、被告の主張する違法薬物に関する免責事由は、同法が、麻薬等を服用して自動車を運転すること自体を禁止するのではなく、「薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態」での自動車の運転を禁止していること(同法66条)に対応しており、麻薬等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転している場合に生じた傷害に限って免責事由とする趣旨の規定と解される。本件保険契約約款は、このように、免責事由を規定するに際して、それぞれの免責事由ごとにふさわしい要件を定めていると解されるのであって、他の免責事由の規定の仕方から本件免責条項を限定的に解釈することはできない。

(2)前記認定の事実によれば、
〔1〕被告は,本件事故前日の晩に少なくとも500ミリリットルの缶ビール1本と焼酎の水割り3杯を飲んでいること(上記1(1))、
〔2〕本件事故態様は、被告が、制限速度を時速約25km超過して本件車両を走行させただけでなく、通り慣れた見通しの良い直線道路である幹線道路を直進中に、前方正面にいた丙川車を、その手前約9.1mの地点に至るまで気付かなかったというものであり(上記1(2)、(4))、仮に、被告が本件車両を左方に進路変更させるためにバックミラーを確認していたという事情があったとしても、その前方不注視の程度は著しく、通常の運転者としての注意力、判断力を明らかに欠いたといえ、飲酒の影響がうかがわれること、
〔3〕本件事故後の検査において、呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出されたこと(上記1(3))
を総合考慮すれば、本件事故当時、被告は、通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有していることが、顔色、呼気等により、外観上認知することができるような状態にあったと推認される。
 したがって、本件事故による被告の人身傷害、本件車両の損害、レッカー代は、被告が酒気を帯びた状態で本件車両(被保険自動車)を運転しているときに生じた、又は、そのときに生じた走行不能事故によって生じたというべきであり、本件免責条項による免責事由が存在する。


(3)なお、道路交通法65条1項は、その文言及び趣旨からみて、客観的に酒気を帯びた状態にある者の自動車の運転をすべて禁止しており、酒気を帯びて運転することについての故意を要件としていないと解され、本件免責条項においても同様に解されるから、被告に酒気を帯びて運転することについての故意が認められないとしても、上記判断を左右しない。 

(4)したがって、被告は、本件事故に基づく保険金として原告が支払った金員213万3510円(人身傷害保険金21万9510円、車両保険金188万5644円、運搬・搬送費用特約保険金2万8356円の合計)を原告の損失において、法律上の原因なく利得している。よって、被告は、原告に対し、不当利得に基づき213万3510円の返還義務及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年5月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
 他方で、本件免責条項により原告の人身傷害保険金の支払が免責されるから、被告の請求は理由がない。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求はすべて理由があるから認容し、被告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 黒田豊 裁判官 岸本寛成 竝木信明

(別紙)交通事故現場見取図〈略〉

以上:5,050文字

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