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会社従業員死傷交通事故企業損害を全部否認した高裁判決紹介

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令和 2年 8月18日(火):初稿
○「会社従業員死傷交通事故企業損害を一部認めた地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和元年9月25日大阪高裁判決(判時2446号32頁)を紹介します。

○事業遂行中の交通事故によって従業員が多数死傷するだけでなく、当該事故を契機として事故に遭わなかった従業員の多数が退職等を希望するようになって企業としての事業遂行が困難になったとしても、そのような事情は予見不可能な事情であるから、当該事故と事業遂行ができなくなったことで企業に生じた損害との間に相当因果関係は認められないとして、これを一部認めた原判決を取り消しました。

○交通事故では被害者側専門の私の立場からは、一審判決の方が合理的な気がします。高裁判決では、理屈重視の建前論に終始して具体的妥当性に欠ける結果となることがあり、本件はその典型です。

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主   文
1 1審被告らの控訴に基づき原判決中、1審被告ら敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、1審原告の請求をいずれも棄却する。
3 1審原告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも1審原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告の控訴の趣旨

 原判決を次のとおり変更する。
(1)1審被告らは、1審原告に対し、連帯して、4160万0896円及びこれに対する平成26年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は第1、2審とも1審被告らの負担とする。
(3)仮執行宣言

2 1審被告らの控訴の趣旨
 主文第1、2、4項同旨

第2 事案の概要
(以下において、略語は原判決の例による。)
 1審被告会社の従業員である1審被告Y1が運転する大型貨物自動車が、平成26年10月16日、名神高速道路におけるトンネル照明設備更新工事に伴う交通規制を内容とする高速道路警備業務を遂行するため同道路上に停車中の1審原告の車列に突っ込み、その結果、1審原告の車両等が損傷するとともに、同業務に従事していた1審原告の従業員のうち、1名が死亡、1名が重傷、3名が傷害の被害を受けたという事故(以下「本件事故」という。)が起きた。

 本件は、本件事故の結果、本件事故の現場を含む3件の高速道路警備業務の契約を解消せざるを得なかったことによる逸失利益を損害額として主張する1審原告が、1審被告らに対し、1審被告Y1については不法行為責任に基づき、1審被告会社については使用者責任に基づき、損害賠償金(本件事故の日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)の連帯支払を求めた事案である。

 原審は、1審原告の請求のうち、本件事故現場で業務遂行中であった高速道路警備業務についての関係でのみ、その主張に係る逸失利益の一部の限度で損害を認めてその限度で請求を認容したが,その余の損害については因果関係がないものとして請求を棄却したところ、これを不服として、双方ともが控訴した。

1 前提事実


              (中略)



第3 争点に対する判断
1 認定事実

 認定事実は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の1(12頁17行目~18頁13行目)のとおりであるから、これを引用する。
(1)14頁15行目の末尾に「また、P4もQ5の従業員であった者で、高速道路警備業務について十分な経験を有していた。ただし、高速道路で規制を実施するためには、隊員のうち一定数に交通誘導警備業務検定の2級検定資格者を含む必要があるが、P3もP4も、その資格を有していなかった。」を加える。

(2)14頁21行目の「工事価格」を「契約金額」に改める。
(3)16頁14行目の「(5)本件事故の結果」を「(5)本件事故が1審原告の高速隊の態勢に及ぼした影響」に改める。
(4)16頁21行目の「立たなかった」を「立たず、1審原告の高速隊のうち規制隊一つに相当する数の隊員が、業務に従事できない状態になった」に改める。
(5)16頁22行目の冒頭から同頁26行目の末尾までを削る。
(6)17頁1行目の「原告においては」を「さらに1審原告においては」に改める。
(7)17頁3行目の「希望した結果」を「希望し、これを受け入れた結果」に改める。

(8)17頁6行目の冒頭から18頁4行目末尾までを、次のとおり改める。
「(6)本件事故が1審原告の高速道路警備業務に及ぼした影響
ア 1審原告は、本件事故により、本件契約に基づく高速道路警備業務を中断した。Q2は、西日本高速道路株式会社の意向もあって、1審原告に対して直ちには業務再開を求めなかったが、本件事故の1箇月後には、業務再開を求めるようになった。しかし、1審原告においては、高速隊の隊員の心理的抵抗のみならず、本件契約に基づく高速道路警備業務遂行に必要な人員(本線規制の5名以外に、複数台の後尾警戒車などで8名ないし9名の作業員が必要である。)が確保できなかったことから、本件契約に基づく高速道路警備業務を再開できないとの意向をQ2に示した。1審原告による本件契約の解除の申入れはQ2によって直ちに受け入れられなかったが、協議の結果、本件事故から2箇月後の平成26年12月15日、1審原告とQ2は、1審原告の損害賠償責任を問わないことを前提に、本件契約を合意解除した。その後、Q2は、本件契約で1審原告に請け負わせていた高速道路警備業務の残りの業務を他の警備会社に請け負わせ、名神高速道路天王山他2トンネルの照明設備更新の点検・保守工事を再開した。

イ 他方、1審原告は、本件事故時遂行中であった本件契約以外の契約に基づく高速道路警備業務については、隊員構成の再編成後も業務を継続した。
 しかし、本件事故時点では本線規制に未着手であった、平成26年10月10日にQ3から請け負っていた名神高速道路の額田地区遮音壁改良工事に伴う高速道路警備業務(契約期間は契約日から工事終了まで、請負報酬額は2739万4200円)、及び平成26年8月30日にQ4から請け負っていた阪神高速の高欄補修工事に伴う高速道路警備業務(契約期間は平成26年9月1日から平成27年7月11日まで、請負報酬額は1674万円)については、高速道路警備業務を遂行できないとして、各社と協議の上、合意解除した。なお、両社とも、1審原告の置かれた状況に理解を示しつつも、当初、合意解除の申入れについては直ちに受け入れない意向を示していた。

ウ この間、1審原告は、高速道路警備業務を担当する従業員を補充するため求人をしたが奏功せず、平成26年11月1日以降、高速道路警備業務として受注したものは、近畿自動車道の吹田ジャンクションと摂津北インターチェンジ間の道路照明設備更新工事に伴う高速道路警備業務だけであった。しかし、再度、高速道路警備業務遂行中に死亡事故が発生したこともあって、1審原告は、平成27年8月頃、高速道路警備業務を取り扱う事業から完全に撤退した。」

(9)18頁4行目の末尾を改行の上、「(7)1審原告の総売上高の推移」を加える。

2 検討
(1)上記認定の事実によれば、本件事故後、本件契約を中途で合意解除し、さらに他の高速道路警備業務の契約についても2件を本線規制の着手前に合意解除し、そのため1審原告は、これら高速道路警備業務を遂行することによる請負報酬を得る機会を失っているところ、1審原告は、本件事故現場の客観的な状況から、1審被告Y1には、高速道路規制がされていることが一目瞭然であり、その高速道路規制の業務中の作業車両を含めた高速規制隊の数名に対して大型貨物自動車を衝突させたのであるから、企業そのものに大打撃を与えることは十分に予測可能であるし、少なくとも、当該現場における高速道路警備業務を遂行することが困難となることは明白であったとしても、本件事故と本件契約及び他の2件の高速道路警備業務の契約関係の喪失という損害との間には相当因果関係がある旨主張する。

(2)確かに、補正の上引用した原判決の第3の1(5)の事実によれば、1審原告においては、本件事故による死傷者5名のほか、本件事故の4日後には3名の者が退職を、13名の者が転属をそれぞれ希望し、これらを受け入れた結果、高速隊の人員が40名から19名に減少し、そのため平成26年11月1日時点で、1隊5名の規制隊は六つから二つに減じ、また10名から構成される車両隊は構成員を5名に縮小し、さらにこれに4名の増員対応要員を加えた態勢に再編成することを余儀なくされたというのであるから、本件事故が1審原告の高速隊の態勢に大打撃を与え、本件事故現場における高速道路警備業務だけでなく、他の高速道路警備業務現場の業務遂行に影響を及ぼしたことは容易に認められる。

(3)
ア しかしながら、Q2は、1審原告と本件契約を解除後、本件事故現場における高速道路警備業務を他の事業者に請け負わせて遂行させたというのであるが、その業務遂行に特段の困難があったとの事情はうかがえないから、本件事故現場における業務は、高速道路警備業務を請け負っている一般的な事業者であれば遂行可能な業務と認められ、そうであれば、1審原告の高速隊の隊員のうち本件事故に遭わなかった隊員であれば、客観的には、十分、遂行可能であったものと認められる(なお、1審原告は、Q2は、本件契約に当たり、P3を責任者にすることを条件にしていたとして代替が許されないかのように主張するが、その旨を認めるに足りる証拠はない。

また、1審原告は、本件事故現場おける業務再開のためには、本件事故の原因究明がされ対応策を検討する必要があったことも主張するが、上記のとおり、他の事業者が本件事故現場の業務を引き継いで遂行できていた以上、本件事故の原因究明及び対応策の検討がされないことが本件事故現場における高速道路警備業務の再開の妨げになったとは認められない。)。

イ そして、1審原告において高速隊の隊員が急激に減少し、人的組織が、いわば崩壊するに至ったのは、本件事故により一つの規制隊に相当する数の死傷者が生じたにとどまらず、本件事故後、高速隊の隊員の多くが退職ないし他部門への転属を希望し、これを受け入れたことに由来すると認められるが、この退職、転属がなければ、本件事故当時、本件事故による死傷者に代わって本件契約に基づく高速道路警備業務を遂行するに足る数の高速隊の隊員は、なお1審原告に残され、また、本件事故後合意解除した2件の契約に基づく高速道路警備業務を遂行するに足る数の高速隊の隊員も同様に残されていたものと認められる(1審原告は、本件事故による直接の死傷者の減少のみによって、その時点で既に1審原告が本件契約に基づく高速道路警備業務を遂行することが不可能になったように主張するが、本件事故発生当時に遂行中であった高速道路警備業務は、高速隊を再編成後の19名の隊員でこなせたというのであるし、また、1審原告の主張によれば本件契約以外に合意解除した契約2件については、本件事故に遭った第1規制隊が行うことを予定していたというのであるから、本件事故発生当時、1審原告には、本件事故で死傷した第1規制隊の隊員分を補充できる従業員は客観的には存在していたはずであって、これと異なる事実を認めるに足りる証拠はない。)。

(4)そうすると、本件事故の結果、本件契約に基づく高速道路警備業務を中断した後、合意解除するに至り、さらに本線規制が未着手の受注済みの高速道路警備業務の契約2件も合意解除するに至ったという結果は、直接には、本件事故後に起きた1審原告の高速隊の隊員の退職及び転属による隊員数の急激な減少に由来して引き起こされたものということになる。

 しかし、そもそも、ある企業の従業員が業務従事中に事故で死傷したとしても、これにより、事故に直接遭わなかった同じ企業の他の従業員が退職や転属を希望するようになるということ自体が余り一般的なこととは考えられない上(ただし、事故による死傷者との親疎が影響すると考えられる。)、さらに、その結果、当該企業で業務遂行に必要な従業員が不足する事態となって、既存の契約に基づく業務さえ継続して遂行することが困難になるという事態は、当該企業の既存の人的組織の規模等にも影響されることから、一般に予見することは、より一層困難といわなければならない。

 そうすると、本件事故の結果、上記のとおり本件事故に遭わなかった高速隊の隊員に退職ないし転属希望者が多数生じ、そのため1審原告の高速隊の人的組織がいわば崩壊して既存の契約の業務遂行さえ不可能になって契約の解消を余儀なくされたことによって生じたという損害は、およそ通常生じ得る損害とはいえず、これを1審被告Y1が予見することが可能であったとは認められない。

(5)したがって、直接には従業員を被害者とする不法行為によって、その従業員の属する企業にも損害が生じた場合において当該企業に対する不法行為が成立する場合があるとしても、本件においては、1審被告Y1の不法行為と1審原告の主張に係る損害との間には相当因果関係があるとは認められないから、1審被告Y1に1審原告主張に係る損害について不法行為責任があることを前提とする1審原告の1審被告らに対する損害賠償請求は、その余の判断に及ぶまでもなく理由がない

第4 結論
 以上より、1審原告の1審被告らに対する請求はいずれも理由がないから全部棄却されるべきところ、これと異なり、500万円及びこれに対する平成26年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を命じる限度で請求を一部認容し、その余の請求を棄却した原判決は、一部失当であって、1審被告らの控訴は理由があるから、原判決中1審被告ら敗訴部分を取消して、1審原告の請求をいずれも棄却することとし、1審原告の控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 木納敏和 裁判官 森崎英二 安田大二郎)
以上:5,758文字

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