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破産事件受任弁護士財産散逸防止義務を厳しく認めた東京地裁判決紹介1

平成27年 2月28日(土):初稿
○また、弁護士に厳しい判決が出されましたので紹介します。平成26年8月22日東京地裁判決(判時2242号96頁)で、なんと、破産申立事件を依頼された弁護士が破産財団となるべき財産散逸防止義務に違反したとして約2400万円、破産申立弁護士費用取り過ぎ分として500万円、合計2900万円の返還を命じられました。

○事案概要は以下の通りです。
・A総合法律事務所代表弁護士Y1,所属弁護士Y2は、B株式会社から破産申立事件を受任し、東京地裁に破産申立
・B株式会社破産管財人XがY1らに以下の請求
①Y1,Y2に対し、B社取締役D・E、従業員Fに否認対象行為の支払を行い2344万円の回収不能として損害を与えたとして共同不法行為に基づく損害賠償請求
②Y1は、B社から破産申立費用として受領した1260万円のうち600万円は適正報酬額を超えているので詐害行為又は無償行為として否認し返還請求


○平成26年8月22日東京地裁判決判示概要は以下の通りです。
①労働者ではない取締役D・Eに対する退職金・解雇予告手当及び株主総会決議なくして特別功労金等支払、従業員Fに対する株主総会決議なしの特別功労加算金・給与・調整手当支払は、破産財団毀損行為に該当、
②破産申立受任弁護士は、破産財団構成財産について破産管財人に引き継がれるまで財産散逸防止義務を負うが、破産申立前日に①の支払を行うことはこの注意義務違反となるので、Y1,Y2は、過失により誤った支払を行い損害を与えたと評価
③本件破産申立事件弁護士報酬は760万円が相当でこれを超える500万円の支払は否認対象になる


○A事務所代表Y1弁護士は、破産申立の報酬として1260万円受領しましたが、B社の損害金として約2400万円に加えて弁護士報酬一部返還金としてプラス500万円の合計約2900万円の返還を命じられました。Y1弁護士にとっては、正に、踏んだり蹴ったりの判決と思われます。破産管財人Xは、2344万円を受領したDらは支払能力がないと判断したのでしょうから、この判決が確定するとY1弁護士がこれを支払わなければなりません。当然、Y1弁護士は控訴していますが、控訴審での判断が興味あるところです。破産事件を受任した場合、その破産会社の財産について、シッカリ、確認し、違法な支出がないように目を光らせなければなりません。弁護士は大いに自戒すべきでしょう。

○B社の負債は、一般債権合計10億6699万6400円、公租公課合計6669万3804円の総合計11億3369万0204円で、債権者数は判決内容からは明らかではありません。当事務所の事業者任意整理事件報酬基準は、債務総額11億円、仮に債権者数30名とすると、最低額50万円としてこれに「債総額の内3000万円を越え1億円までの部分の1%相当額、1億円を超え2億円までの部分の0.6%相当額、2億円を超える部分の0.3%相当額、債権者数・債務者数の内それぞれの10名を越える部分について1社について5000円を上乗せします。」ので410万円です。
自己破産申立事件としても最大500万円程度です。やはり11億円の負債で破産申立費用1260万円は高すぎると評価されるでしょう。

以下、平成26年8月22日東京地裁判決(判時2242号96頁)全文を4回に分けて紹介します。

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主  文
1 被告らは,原告に対し,連帯して,2398万2926円及び内金2259万6954円に対する平成24年7月11日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成24年7月4日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを15分し,その1を原告,その余を被告らの負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

1 被告らは,原告に対し,連帯して,2344万9208円及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1は,原告に対し,600万円及びこれに対する平成24年7月4日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。

第2 事案の概要
 本件は,株式会社b(以下,破産手続開始決定の前後を問わず「破産会社」という。)の破産管財人である原告が,①同社から債務整理を受任し,同社を代理して破産申立てをするなどした弁護士である被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び同人とともに同社の債務整理等の業務を行った弁護士である被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し,同人らが,破産会社の取締役又は従業員であった者らに対し,受任者としての注意義務に違反して,否認対象行為である支払を行い,そのうち2344万9208円が回収できなくなったとして,共同不法行為(民法709条,719条1項前段)に基づき同額の損害賠償及びこれに対する不法行為の日である平成23年3月15日から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,②被告Y1に対し,上記業務の報酬として同被告が破産会社から受領した1260万円のうち,少なくとも600万円は適正報酬額を超えるため,同部分の支払行為を詐害行為(破産法160条1項1号)又は無償行為(同条3項)として否認するとして,同額の支払及びこれに対する訴状送達の翌日である平成24年7月4日から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実
 以下の事実は,当事者間に争いがない,又は各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる。
(1) 当事者ら
 破産会社は,昭和59年に設立された理科学機器,プラントの設計製造及び施工管理等を目的とする資本金1000万円の株式会社で,パーソナルコンピュータや携帯電話等の電子部品内部の基盤をプリントする機械を製造する等していた。
 被告Y1は,a法律事務所の代表弁護士であり,被告Y2は,同事務所の所属弁護士であり,いずれも破産会社の破産手続開始の申立代理人であった。

(2) 委任契約の締結と業務の遂行
 被告Y1は,平成23年2月8日,破産会社との間で,報酬を1260万円(消費税60万円込み),業務内容を同社の債務整理等とする委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した(甲20)。その後,a法律事務所所属の弁護士らは,被告Y1及び被告Y2を主たる担当者として,同社の債務整理等の業務を行い,上記破産手続開始申立てにおいては,被告らを含む同事務所所属の弁護士らが申立代理人を務めた。
 破産会社は,被告Y1に対し,本件委任契約に基づく報酬として,以下のとおり合計1260万円を支払った。
支払日 支払額
平成23年3月8日 500万円
同月11日 700万円
同月15日以降 60万円
合計 1260万円

(3) 破産会社による取締役及び従業員への金員の支払
 平成23年3月6日,破産会社の代表取締役であったCが死亡した。これにより,破産会社は,同月15日,9973万9170円の保険金を受領した。この金銭は,同日中に,a法律事務所名義の預り金口座に振込送金された。他方,同月14日,破産会社は,全従業員を解雇した。被告らは,上記金員を原資として,破産会社を代理して,以下の支払を行った(甲9)。
ア D(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)の基本退職金
 破産会社は,破産会社の従業就業規則(甲16の1)60条,退職金規程(甲16の2)に基づき,破産会社の取締役であった以下の者らに対し,基本退職金名下に以下のとおり支給した(以下,併せて「本件基本退職金」という。)。
 D 84万円
 E 36万円

イ D及びEの特別功労加算金
 破産会社は,D及びEに対し,破産会社の就業規則60条に基づき,特別功労加算金名下に以下のとおり支給した(以下,併せて「本件特別功労加算金」という。)。
 D 1000万円
 E 1000万円

ウ D及びEの解雇予告手当
 破産会社は,D及びEに対し,解雇予告手当名下に以下のとおり支給した(以下,併せて「本件解雇予告手当」という。)。
 D 60万円
 E 50万円

エ D及びEの給与
 破産会社は,D及びEに対し,平成23年3月分の給与名下に以下のとおり支給した。
 D 49万1069円
 E 50万9162円

オ F(以下「F」という。)の調整手当
 破産会社は,平成23年3月分の給与と併せて,破産会社の従業員であったFに対し,調整手当名下に70万円を支払った。

(4) 破産会社の破産手続の開始
 破産会社は,平成23年3月16日,被告Y1及び被告Y2らを代理人として,当庁に対し,自らの破産手続開始を申し立てた(当庁平成23年(フ)第3444号)。その際には取締役会議事録が添付資料として添えられていた。
 当庁は,同日午後5時,破産会社に対し,破産手続開始決定をし,原告を破産管財人に選任した(甲1,甲5)。

(5) 原告による回収
 原告は,破産会社の破産管財人として,D,E及びFを被告として,前記(3)ア,イ,ウ及びオの全額並びに同エのうちDについては24万6886円及びEについては21万0068円の支払が無償行為又は詐害行為に当たるとして,Dに対しては1168万6886円,Eに対しては1107万0068円,Fに対しては70万円の支払を求める否認請求訴訟を提起した(当庁平成23年(ワ)第28944号。なお同訴訟では,D,E及びFに加え,Gも被告となっていたが,同人に対する請求については本件の判断と無関係であるため省略する。)。同訴訟において,被告であるD,E及びFは,何らの答弁をせず又は実質的な反論を行わなかったため,請求を全部認容する判決がなされ,同判決が確定した。
 原告は,同判決に基づき,D,E及びFに対する強制執行を行い,以下のとおり本訴提起前に合計7万1532円(振込手数料合計3315円を含む。),本訴提起後にDから4万3234円(振込手数料840円を含む。)を回収した(甲50の1,甲51の1,甲51の2,甲51の6,甲51の9,甲52,甲54及び弁論の全趣旨)。
 平成23年12月8日 4197円(振込手数料315円含む。)
 平成24年2月16日 3116円(振込手数料630円含む。)
 同月17日 1000円(振込手数料630円含む。)
 同月20日 2万7862円(振込手数料900円含む。)
 同月24日 4657円
 同年3月6日 3万0700円(振込手数料840円含む。)
 小計 7万1532円
 平成24年6月6日 本件訴え提起
 同年7月10日 4万3234円(振込手数料840円含む。)

(6) 報酬支払の否認
 原告は,被告Y1に対し,本件訴状において,本件委任契約に基づく破産会社から被告Y1への報酬支払のうち600万円につき否認する意思表示をし,本件訴状は,平成24年7月3日,被告Y1に送達された。

2 争点
(1) 不法行為に基づく損害賠償請求について

ア それぞれの支払が否認の対象となるか
(ア) 基本退職金
 (原告の主張)
 本件基本退職金は,破産会社の就業規則(甲16の1)60条及び退職金規定(甲16の2)に基づき支給されているところ,Dは取締役であり,Eは取締役の肩書を有する株主であるから,同人らには同条の適用がなく,退職金の支払は予定されていないので,支払は無償行為(破産法160条3項)に当たる。
 仮にD及びEが労働者としての性質を有していたとしても,財団債権となるのは退職前3か月分に限られるところ,破産財団の額は財団債権を超えていないのであるから,先んじて破産債権を支払うことは許されない。

 (被告らの主張)
 D及びEは,代表取締役であった亡Cの指揮命令を受けて労働しており,勤務場所及び時間の拘束があり,取締役としての業務執行にも関与する機会はなく,取締役就任時に従前の雇用契約も解消せず,取締役は単なる肩書きに過ぎなかったことなどの事実から考えれば,労働基準法上の労働者に該当するから,判例に照らしても,従業員としての退職金を支払うのは相当であった。
 従業員の退職金債権は,財団債権でない部分も優先的破産債権であり,これを弁済しても一般債権者を害しない。

(イ) 特別功労加算金
 (原告の主張)
 本件特別功労加算金は,破産会社の就業規則60条に基づいて支払われているところ,同条の規定から見ても,これが取締役の地位の存在を理由に支払われるものであることは明らかである。それにもかかわらず,定款又は株主総会決議上,額又は算定方法の定めはないし,職務との対価性は皆無又はきわめて希薄であるので,支払の根拠はなく,無償行為(破産法160条3項)に当たる。
 また,仮に何かしらの支払の根拠があったとしても,取締役に対する報酬に過ぎないのであるから,破産法上優先性が認められる債権ではなく,財団債権となるべき債権に先んじて支払うことは許されない。さらに,仮に労働者としての退職金として労働債権に該当するとしても,それが財団債権となるのは退職前3か月に従業員としての給与として支給された金額である,Dについては148万5782円,Eについては192万8426円に限られ,そこから両名に支払われた基本退職金(Dにつき84万円,Eにつき36万円)を控除した金額,即ちDについては64万円,Eについて156万8426円が上限となる。そして,その余の支払は,優先的破産債権となるに過ぎない債権の弁済であるから,公租公課などの財団債権の全額の満足が得られない本件においては,これを支払うことは許されない。

 (被告らの主張)
 本件特別功労加算金は,従業員としての基本退職金に加算されるものであり,取締役としての報酬には当たらないので,定款又は株主総会決議による定めは不要である。また,D及びEの破産会社への貢献を考えれば,1000万円という額は相当である。そして,本件特別功労加算金は,就業規則60条に基づく労働債権であるから,それを弁済することによって破産財団を毀損するものではない。

(ウ) 解雇予告手当
 (原告の主張)
 D及びEは取締役であるから,労働基準法9条に定める労働者に該当せず,解雇予告手当を受け取る資格がないから,解雇予告手当の支払は無償行為(破産法160条3項)に当たる。
 仮に同人らに労働者性が認められたとしても,解雇予告手当の全額が労働者としての賃金に当たるわけではなく,それに該当するのは,Dについては50万円,Eについては40万円に限られ,それを超える部分については,破産法上優先性が認められる債権ではないから,財団債権となるべき債権等に先んじて支払うことは許されない。

 (被告らの主張)
 前述のとおりD及びEには労働基準法上の労働者性が認められるので,解雇予告手当の支給は労働債権の弁済であって,否認の対象となり得ない。


以上:6,187文字

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