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担任教諭の体罰直後自殺に学校側損害賠償責任を認めた判例紹介3

平成29年 5月27日(土):初稿
○「担任教諭の体罰直後自殺に学校側損害賠償責任を認めた判例紹介2」の続きで、最終結論です。
末尾に主文と事案概要を記載していますが、結論として自殺した少年の損害を約6000万円と認定し、民法第722条類推適用で9割減額した約600万円と両親固有の慰謝料として各100万円の支払義務を小学校を管理する北九州市に認め、更に独立行政法人日本スポーツ振興センターに対し、独立行政法人日本スポーツ振興センター法に基づき、災害共済給付金(死亡見舞金)2800万円の支払義務を認めました。

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四 争点二(一郎の自殺は、本件懲戒行為又は本件事後行為と相当因果関係を有するものであるか。)について
(1)一郎の死が自殺であることは、当事者間に争いがない。また、上記認定のとおり、本件懲戒行為及び本件事後行為以外に、一郎が自殺の動機を有していたとはうかがわれず、一郎の自殺が本件懲戒行為及び本件事後行為から1時間前後のうちに行われていることを考慮すると、一郎は、専ら本件懲戒行為及び本件事後行為が直接的な原因となって自殺したと認められる

 この点『子どもの自殺防止のための手引書』(総理府青少年対策本部編・甲2)においては、子供の自殺の特徴のひとつが衝動性であり、特に小学生や中学の低学年等でその傾向が著しいこと、また、子供の自殺に特に見られる共通の心理として、攻撃願望であること、すなわち子供は一般に社会的立場が非常に弱く、親や先生等からしかられても、まともに抵抗することができず、抗議や反抗も普通にはなかなか表せないため、自殺という最後のかつ最強の手段によって、相手に強烈な攻撃を加えようとし、それによって復しゅうもし、処罰もしようする心理があることが指摘されている。

 一郎は、5年生になって以降、CC教諭から頻繁にしかられ、ときには有形力の行使を伴う懲戒を受けたことで、CC教諭に対する強い不満を抱えていたところに、本件懲戒行為を受け、CC教諭に対する激しい攻撃願望から、上記のような心理状態に陥り、衝動的に自殺に及んだものとみるのが相当である。

 以上によれば、一郎の自殺は、専ら本件懲戒行為及び本件事後行為が直接的な原因となって生起した事情であり、他に一郎の自殺に対する外部的な要因は見当たらない以上、一郎の自殺は、本件懲戒行為及び本件事後行為に内在する危険性が現実化したものと認めるのが相当であり、本件懲戒行為及び本件事後行為と一郎の自殺との間には、相当因果関係があるというべきである。

(2)なお、一郎の自殺は、本件懲戒行為及び本件事後行為を直接的な原因とするものであるとはいえ、上記各行為の態様や、当時一郎が置かれていた状況等を考慮すると、一郎の自殺が必然的なものであったとまではいえず、一郎が自殺したことには、一郎の心因的要因が相当程度寄与していると考えられる。すなわち、上記一で認定したところによれば、一郎は、教員に反発したり、教室を飛び出したりする等、衝動的な行動に陥りやすい児童であったことが認められ、このような一郎の心因的要因も、自殺という極端な行動につながってしまった原因のひとつと考えられる。

 しかしながら、一郎の上記心因的要因については、CC教諭においても、1年間の指導を通じて十分に認識していた事情である。また、一郎は、本件懲戒行為の後、水の入ったペットボトルをCC教諭に向かって投げつけ、教室を飛び出しているのであって、一郎が精神的に激しく動揺していることは、外部的に明らかなことであった。このことは、一郎の同級生の多くが、ふだんと違う一郎の様子を心配し、CC教諭が一郎を追いかけないのが不思議であったとの印象を本件ノートに書き込んでいることからも明らかである。

 この点、被告北九州市は、一郎が教室を飛び出したことは、過去に10回近くあったことであり、CC教諭に対してランドセルを投げつけたことも、過去に複数回あったことであるから、本件懲戒行為後の一郎の様子が、ふだんと格別異なるものであったとはいえない旨主張する。しかしながら、本件において、一郎はCC教諭から直前に体罰を受け、ペットボトルを投げつけるという行為に出た後、教室を飛び出しているのであり、それ以前の教室を飛出したときとは状況がまったく異なるものと考えられるし、CC教諭の供述によれば、過去に、CC教諭に対してランドセルを投げつけたとき、一郎はひどく興奮しており、興奮を収めるのに10分程度要したというのであるから、仮にこれと同列に見たとしても、本件懲戒行為後の一郎の様子が、放置しても問題のない状態であったということにはなり得ないところである。
 そうすると、一郎の心因的要因については、CC教諭においても認識可能な事情であり、相当因果関係が存するとの判断を左右するものではないというべきである。

五 争点三(Bf小及び市教委は、一郎の死因に関する事実を隠ぺいし、原告らの知る権利を侵害したか。)について
 原告らは、〔1〕Bf小は、原告らがマスコミの取材に応じることを妨げ、自分たちに都合のよい情報をマスコミに流したことや、〔2〕一郎の自殺翌日の学年集会や、その後のアンケートにおいて、CC教諭を糾弾する発言や記入をした児童らに対し、口封じを行ったこと、〔3〕原告らの開示要求にもかかわらず、本件の真相解明に是非とも必要な本件アンケート用紙を廃棄したことは、いずれも原告らの知る権利を侵害する違法行為であると主張する。

 しかしながら、〔1〕の点については、上記一の認定のとおり、マスコミの取材に応じることは、もとより原告花子がこれを拒んでいたのであって、Bf小が唆したこととは認められない。一方、Bf小は、マスコミの取材に応じるに当たって、原告太郎の了承を得ていることが認められる。また、その後にDFがマスコミに対して記者会見を行うに当たって、Bf小がこれを妨げた事実もない。

 また、〔2〕の点については、確かに、CfやAmの各陳述書(甲22の二及び三)には、一郎の自殺翌日の午後2時から行われた5年生の集会において、校長が一郎の自殺を告げると、児童らが「CC先生が一郎を殺した」旨叫び、校長が、「このことはしゃべってはいけない。」旨発言したとの記載がある。しかしながら、その場にいた教員らは一様に同事実を否定している上、Cbの供述からも、そのような事実の存在はうかがわれないところであり、前述のとおり、Cf及びAmの各陳述書の一致については、特別重視し得ないことを考慮すると、この点に関するCf及びAmの各陳述書は、たやすく採用できない。

 また、その後のアンケートについては、児童らが「こころの健康調査票」にCC教諭を糾弾する記入をしたと認めるべき的確な証拠は存しない。夏夫の陳述書(甲23の三)には、「こころの健康調査票」に「先生がうぜい」と記入したところ、カウンセラーから「先生のことをそんな風に言ってはいけんよ。」と言われた旨の記載があるが、このような指導は、学校として当然のことであり、これをもって事実の隠ぺいと評価するのは困難である。

 さらに、〔3〕の点についても,上記認定によれば、「こころの健康調査票」は、Bf小が、専ら児童のカウンセリングを目的として、児童らに記入させたものであり、本件懲戒行為等の事実調査の意味合いを含むものとは解されないし、上記のとおり、「こころの健康調査票」に、本件懲戒行為の内容等に関する記載があったことを認めるべき証拠もない。

 確かに、原告らは、平成18年4月ころから、Bf小に対し、本件アンケート用紙の開示を求めていたものであるし(なお、被告北九州市は、原告らが本件アンケート用紙の開示を求めたのは、同年10月以降のことであると主張するが、Bf小において、児童らがアンケート(こころの健康調査票)を記入したことについては、原告らは、遅くとも同年5月26日のCfからの開き取りによって認識していたのであり、その後10月まで、原告らが本件アンケート用紙の開示を求めなかったとは考えられない。)、原告らのいう「アンケート」が「こころの健康調査票」を意味することは、Bf小や市教委において容易に認識し得ることであったと考えられるのであって、それにもかかわらず、安易に「こころの健康調査票」を廃棄したことは、およそ配慮が足りないと非難されることもやむを得ないというべきである。しかしながら、上記で指摘した「こころの健康調査票」の目的やその記載内容に照らす限り、これを廃棄した市教委及びBf小の行為を、事実の隠ぺいと評価することはできないというべきである。
 したがって、被告北九州市が本件の事実を隠ぺいし、原告らの知る権利を侵害したとの理由に基づく原告らの請求には、理由がない。

六 争点四(損害)について
(1)慰謝料
 本件懲戒行為及び本件事後行為に至る経緯、同各行為の態様、一郎が受けた精神的衝撃の程度等、本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、一郎の精神的苦痛を慰謝するには、2500万円をもって相当と認める。

(2)逸失利益
 上記認定によれば、一郎は、自殺当時、満11歳であり、本件懲戒行為等を原因として自殺していなければ、満18歳から67歳までの49年間、就労が可能であり、この間、少なくとも、平成16年賃金センサスの男性労働者・学歴計全年令平均の年収額である542万7000円の収入を得られたものと認められるところ、同年収を基礎とし、生活費として5割を控除し、ライプニッツ係数(18・6985から5・7864を控除した12・9121)により中間利息を控除すると、一郎の逸失利益は、542万7000円×(1-0・5)×12・9121=3503万6983円となる。
 したがって、原告らの主張する逸失利益の額3503万6712円は相当と認める。

(3)一郎の自殺には、上記四(2)で説示したとおり、一郎の心因的要因が相当程度寄与していることに加え、自殺自体が損害の拡大に寄与した程度を考慮すると、損害の公平な分担の見地から、民法722条を類推適用し、その損害額の9割を減額するのが相当であるから、上記(1)及び(2)の合計額の1割である600万3671円が、被告北九州市において賠償すべき金額となる。

(4)原告らの相続
 一郎の両親である原告らは、一郎の死亡により、一郎の被告北九州市に対する上記(3)の損害賠償請求権を2分の1(300万1836円)ずつ相続したものと認められる。

(5)原告ら固有の慰謝料
 原告らは、担任教諭の違法な懲戒行為が原因となって、弱冠11歳の子を自殺により失ったのであり、その精神的苦痛は相当なものと認められる。また、上記認定によれば、原告らは、Bf小及び市教委による事実解明が期待し難い状況下で、自ら一郎の同級生への聞き取りを行うことを余儀なくされた上、再三にわたって開示を求めていた本件アンケート用紙(こころの健康調査票)を配慮なく廃棄される等の対応を受けたものであり、その精神的苦痛は何ら慰謝されていない。一方、上記のとおり、一郎の自殺には一郎の心因的要因が寄与していることを考慮すると、このような原告らの精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料のうち、本件懲戒行為及び本件事後行為と相当因果関係のある金額は、各自100万円と認めるのが相当である。

(6)弁護士費用
 本件訴訟の内容等を考慮すると、原告らが支払う弁護士費用のうち、上記認容額の約1割に相当する各自40万円は、被告北九州市において賠償すべき損害と認められる。

(7)結論
 以上によれば、原告らの被告北九州市に対する請求は、それぞれ440万1836円及びこれに対する不法行為の日である平成18年3月16日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

七 争点五(一郎の死亡は、学校の管理下において発生した事件に起因するものであるか。また、仮にそうであるとして、被告センターは、訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払義務を負うか。)について
(1)上記三及び四で認定・説示したところによれば、一郎の死亡が、省令24条三号所定の「学校の管理下において発生した事件に起因する死亡」に該当することは明らかであり、被告センターは、原告らに対し、センター法16条1項及び2項、施行令4条2項に基づき、施行令3条1項三号所定の死亡見舞金2800万円の支払義務を負うものである。
 そして、原告らは、センター法15条1項六号(※現行法では七号)、学校教育法16条所定の保護者であるから、同見舞金の支払請求権は、各原告に2分の1ずつ帰属していることになる。


(2)次に、遅延損害金の始期について検討する。
 まず、センター法に基づく共済給付金の支給請求権は、被告センターの支給決定によって具体的に生じるものではなく、当該事故がセンター法及び関係諸法規に所定の要件を客観的に充足する場合に、当然に発生するものと解される。
 また、その履行期については、施行令四条四項が、「被告センターは、給付金の支払の請求があったときは、当該請求の内容が適正であるかどうかを審査して、その支払額を決定するものとする。」旨規定し、同条5項が「被告センターは、前項の規定により支払額を決定したときは、速やかに、給付金の支払を行うものとする。」旨規定していることに鑑みると、その履行期は、給付金の支払請求を受けてから、当該請求の審査をするための相当の期間を経過した日であると解される。

 本件は、被告北九州市が、原告らの主張する本件懲戒行為及び本件事後行為の態様及び違法性を強く争っている事案であり、独自の調査機関を有していない被告センターにおいて、原告らの請求の審査を行うことは、相当困難と認められるものの、一方で、被告センターは、遅くとも本件口頭弁論終結時において、原告らによる給付金支払請求の適否を審査するに当たって必要となる情報をすべて入手し得たことが認められる。

 施行令4条4項は、被告センターが、給付金支払請求の適否について、自らの審査によって決定することを予定した規定であり、同条項の趣旨に鑑みると、本件における原告らの被告センターに対する共済給付金の支給請求権の履行期は、本件口頭弁論終結時である平成21年6月4日と認めるのが相当であり、被告センターは、その翌日の同月5日から遅滞の責任を負うものと解される。

(3)以上より、原告らの被告センターに対する請求は、それぞれ1400万円及びこれに対する平成21年6月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

八 よって,原告らの被告北九州市に対する請求は主文一項の限り、被告センターに対する請求は主文二項の限りでそれぞれ理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき、原告らと被告北九州市との間では民訴法61条、64条本文、65条1項本文を、原告らと被告センターとの間では同法61条、64条ただし書、65条1項本文を、仮執行宣言及び同免脱宣言につき、同法259条1項、同条3項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡田健 裁判官 佐々木信俊 永井健一)


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主   文
一 甲事件被告は、甲事件及び乙事件原告らに対し、それぞれ440万1836円及びこれに対する平成18年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 乙事件被告は、甲事件及び乙事件原告らに対し、それぞれ1400万円及びこれに対する平成21年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 甲事件及び乙事件原告らの甲事件被告に対するその余の請求及び乙事件被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用中、甲事件及び乙事件原告らと甲事件被告との間に生じたものはこれを10分し、その1を甲事件被告の負担とし、その余は甲事件及び乙事件原告らの負担とし、甲事件及び乙事件原告らと乙事件被告との間に生じたものは乙事件被告の負担とする。
五 この判決は、一項及び二項に限り、仮に執行することができる。ただし、甲事件被告が甲事件及び乙事件原告らのために500万円の担保を供するときは、一項の仮執行を免れることができる。

事実及び理由
第一 請求

一 甲事件
 甲事件被告は、甲事件及び乙事件原告らに対し、それぞれ4051万8356円及びこれに対する平成18年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 乙事件
 乙事件被告は、甲事件及び乙事件原告らに対し、それぞれ1400万円及びこれに対する平成20年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、甲事件被告(以下「被告北九州市」という。)が設置・管理する北九州市立Bf小学校(以下「Bf小」という。)在学中に自殺したAR一郎(以下「一郎」という。)の相続人である甲事件及び乙事件原告AR太郎(以下「原告太郎」という。)及び同AR花子(以下「原告花子」といい、原告太郎と総称して「原告ら」という。)が、被告北九州市に対し、〔1〕一郎は、一郎の担任教諭であったCC松子(以下「CC教諭」という。)による違法な体罰等が原因となって自殺した、〔2〕Bf小及び北九州市教育委員会(以下「市教委」という。)は、CC教諭の体罰等の事実を隠ぺいし、原告らの知る権利を侵害した旨主張して、いずれも国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求め(甲事件)、乙事件被告(以下「被告センター」という。)に対し、一郎の死亡は、「学校の管理下において発生した事件に起因する死亡」に該当する旨主張して、独立行政法人日本スポーツ振興センター法(以下「センター法」という。)に基づき、災害共済給付金(死亡見舞金)の支払を求めた(乙事件)事案である。

以上:7,394文字

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