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不動産所有者なりすまし詐欺で司法書士に責任を認めた高裁例紹介1

平成31年 3月23日(土):初稿
○「不動産所有者なりすまし詐欺で弁護士に責任を認めた地裁判例紹介1」の続きで、その控訴審の平成30年9月19日東京高裁判決(判時2392号11頁)の一部を紹介します。

○一審の事案を再現すると、次の通りです。
・本件不動産が、訴外D、訴外b社、原告会社、訴外c社と順次売却された

(売買の流れ) D→→→→b社→→→→(原告会社)→→→→c社
(登記手続代理人) X1    Y2(b社からc社への原告会社中間省略登記)

・本件不動産につき、弁護士である被告Y1が訴外D及び訴外b社の代理人として所有権移転登記手続を申請
 被告Y1の法律事務所は、被告Y1名義で事件処理を行うが、主にC(元弁護士)が仕事の依頼を受け、その処理を差配
・司法書士である被告Y2が訴外b社及び訴外c社の代理人として訴外b社・原告会社間の売買を省いた中間省略登記である所有権移転登記手続を申請
・D→b社・b社→c社の両申請は連件申請として同時に申請されたところ、提出された資料に偽造があるとして同申請が不受理となった
・原告会社から被告Y1に交付された金6億4800万円も消失。事務員Cが3億9500万円をb社に,1億円をKなる人物に,7000万円をGに,3600万円をCが代表を務める株式会社iに,200万円をY1法律事務所に,Lなる人物に2000万円振り込み,1500万円については,現金で引き出し
・原告会社は、被告Y1(弁護士)・Y2(司法書士)の注意義務違反を主張して、被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償を求めた
・被告Y1の履行補助者Cは生年が異なる印鑑登録証明書2通が存在したなどの状況で本件印鑑証明書の真偽を自ら調査確認する義務を怠ったなどとして、被告Y1の責任を認め6億4800万円の支払を命じた
・被告Y2は、その職務を果たしていないことが明らかであるなどの特段の事情は認められないこと等から、被告Y2の責任は否定


○一審平成29年11月14日東京地裁判決は、弁護士の被告Y1に対し6億4800万円の支払を認め、控訴されず確定しましたが、司法書士の被告Y2に対する請求は棄却され、原告会社が被告Y2について控訴していました。

○これについて平成30年9月19日東京高裁判決は、前件申請の代理人たる弁護士が登記義務者の本人確認など代理人業務の全部を事務員(元弁護士)に丸投げしていること及び前件申請の登記義務者が登記識別情報を有しておらず、その印鑑証明の真正にも疑義があることを知りながら、前件申請代理人との接触及び印鑑証明の真正の確認を怠ったまま連件申請を実行した後件申請の代理人たる司法書士には、注意義務違反があり、売買代金を騙取された買主に対する損害賠償の責めに任ずる(過失相殺5割)としました。その判断部分前半を紹介します。

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主   文
一 原判決中第一審被告に関する部分を次のとおり変更する。
(1)第一審被告は、第一審原告に対し、3億2400万円及びこれに対する平成27年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)第一審原告の第一審被告に対するその余の請求を棄却する。
二 訴訟の総費用はこれを3分し、その1を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告の負担とする。
三 この判決の第一項(1)は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 控訴の趣旨

一 原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。
二 第一審被告は、第一審原告に対し、損害金3億4800万円及びこれに対する不法行為の翌日である平成27年9月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払え。
(以下、略語は、後記第二の二で引用する原判決の例による。)

第二 事案の概要
一 地面師グループが本件不動産の所有者のなりすましの人物や各種偽造書類を用意して、第一審原告から本件不動産の売買代金名下に6億4800万円を詐取するという事件が発生した。本件は、本件不動産の所有権移転登記(第一審原告を中間省略して、その転売先(実質的には共同買主)への所有権移転登記)の申請代理人となった第一審被告に、本件不動産の所有名義人の印鑑登録証明書の偽造などが見抜けなかった注意義務違反があるとして、6億4800万円の損害賠償を請求する事案である。

 原審は、偽造があった書類は、第一審被告が担当した登記申請についてのものではないことなどを理由に請求を全部棄却したので、第一審被告が不服の範囲を3億4800万円に限定して控訴したのが本件である。
 なお、原審相被告(Y1・偽造があった書類を添付書類とする登記申請を代理したとされる者)に対する請求は、原審で全部認容され、控訴なく確定した。

         (中略)


第三 当裁判所の判断
 当裁判所は、原判決と異なり、第一審原告の第一審被告に対する請求は、主文第一項(1)の限度で理由があるものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

         (中略)

二 第一審被告の責任について
(1)第一審被告は、司法書士として、登記権利者であるC2及び登記義務者であるC1のために、本件後件申請を代理したにとどまり、本件前件申請の代理を担当したわけではない。しかしながら、本件前件申請と本件後件申請は連件申請であり、本件前件申請が申請却下その他の理由で登記が実現しない場合には、本件後件申請は自動的に却下されるという関係に立つ。そうすると、連件申請のうち本件後件申請を代理する司法書士は、本件前件申請に却下事由(登記義務者の本人性を含む。)その他の問題がないかどうかについて、相応の注意を払うべき義務を負う。

 司法書士は、不動産の権利に関する登記の申請代理業務を弁護士と共に独占する登記手続の専門家として、法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行うべき立場にある(司法書士法2条、3条1項一号、25条、73条参照)。このような司法書士に求められる専門性及び使命にも鑑みると、司法書士は、連件申請の後件申請だけを代理する場合であっても、前件申請の形式的な要件の充足を確認することはもとより、その職務の遂行過程で、前件申請の却下事由その他前件申請のとおりの登記が実現しない相応の可能性を疑わせる事由が明らかになった場合には、前件申請に関する事項も含めて速やかに必要な調査を行い、その結果も踏まえて、登記申請委任者その他の重要な利害関係人に必要な警告(問題点の所在及びその時点で判明している調査結果の説明、取引・決済の中止又は延期の勧告、勧告に応じない場合の登記申請代理人の辞任の可能性など)をすべき注意義務を負うと解するのが相当である。

(2)本件について検討するのに、前記認定事実によれば、本件前件申請については、代理行為を無資格者であるTが資格者(弁護士)であるY1の名前を借りて行うという違法行為(弁護士法72条違反行為、罰則あり)があるという問題があった事実、本件後件申請の代理人である第一審被告は、本件前件申請に前記違法があることを知っていた事実を認定することができる。

 第一審被告は、本件前件申請が形式的には弁護士たるY1を代理人とするものであることを知りながら、Y1と会ったことも電話その他の方法で連絡をしたこともないこと、本件前件申請に関する事務は全部Tが取り仕切り、T自身があたかも自らが代理人であるかのように振るまっていたことを第一審被告が現認していたこと,平成27年9月7日に本件法律事務所で実施された自称甲野に対する本人確認を行ったのはTであるのに、Y1作成名義の本件確認情報には本件確認を行ったのはY1である旨の虚偽記載がされており、第一審被告もこの本人確認情報の内容及びこれが本件前件申請の添付書類として実際に使用される可能性があることを事前に確認していたことから、第一審被告が本件前件申請について違法行為(無資格者Tが弁護士Y1の名前を借りて申請代理)があったことを知っていたことは優に認定できるというべきである。

 このような事情は、本件前件申請について、申請のとおりの登記が実現しない相応の可能性を疑わせる事情に当たる。そうすると、第一審被告は、司法書士として、違法行為に加担しないために、本件前件申請の違法性の是正を勧告するか、本件後件申請の代理人を辞任することが相当である。仮にそうでないとしても、本件のようないわゆる地面師詐欺事案では、名義の管理がルーズな弁護士が利用されることが少なくなく、それが詐欺その他の不正の温床となっていることは、不動産取引に関わる者にとって、広く知られている事実である。そうすると、本件前件申請で違法行為が行われているということは、本件前件申請に何らかの問題点が潜んでいる重大な兆候であって、通常の案件よりも警戒のレベルを上げて、慎重に本件前件申請及び本件後件申請に問題がないかを点検すべき注意義務を負うものというべきである。

 第一審被告は、Y1弁護士と面談も試みず、電話その他で接触をとろうともしなかったのであり、この点に最初の注意義務違反がある。Y1弁護士に接触すれば、Y1が認知症により判断力が低下した状態にあり、本件前件申請をY1が受任した事実もないことが第一審被告に判明し、本件売買を中止させることもできたと推認される。

(3)第一審被告が本件前件申請が実質的に無資格者Tによる代理行為であることを知りながら名義上の代理人であるY1と接触しなかったことを前提に、本件における第一審被告の他の注意義務違反の有無について検討する。
ア 第一に、9月7日事前面談の際、生年月日が「大正13年××月××日」とされている平成27年7月27日付け印鑑登録証明書と、生年月日が「大正15年××月××日」とされている同月26日付け印鑑登録証明書の存在が明らかとなり、これらについて、甲野からもQ4からも何らの説明がされなかったばかりか、両方の印鑑登録証明書がコピーをしても「複製」の文字が現れなかったというのである。これは、本件前件申請に違法行為があるかどうかにかかわらず、本件前件申請のとおりの登記が実現しない相応の可能性を疑わせる重大な事情(印鑑登録証明書に偽造その他の不正な作為が介在していること)にほかならない。

 また、日本に在留する外国人についてわが国の市町村が発行する証明書その他の書類については、生年月日のうち年の表記を西暦で表記する(大正、昭和、平成などの元号で表記しない。)ことが比較的多いことは公知の事実である(武蔵野市も同様である。)。そうすると、印鑑登録証明書の生年月日が西暦表記でなく「大正」という元号で表記されていたことも、前記(2)のような事情のある本件においては、武蔵野市に真偽を問い合わせてもよい事情であったといえよう。

イ 第二に、前件登記申請の申請書に記載されている義務者たる甲野の住所は「東京都武蔵野市a町b丁目c番d号」であるのに対し、その添付書類である本件印鑑登録証明書及び甲野作成名義の委任状記載の住所は、いずれも末尾の「号」の一文字が欠けて「東京都武蔵野市a町b丁目c番d」となっており、齟齬がある。住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)の施行後半世紀が経過し、東京都内の市街地で地番による住所の表示が非常に珍しくなった今日においては、「番地」ではなく「番」と表示されているのに「号」が欠ける点については、本件前件申請に違法行為がある本件においては、司法書士として、警戒のレベルを上げて武蔵野市の正しい住居表示を調査すべきである。本件不動産の登記記録の甲区欄には、登記名義人たる甲野の住所の記載があるはずだから、これと照合しようと考えるのは自然なことであるし、本件不動産の登記申請をしようとする第一審被告が登記事項証明書を手元に用意しているのは当然であるから、極めて簡単に確認できることでもある。そして、本件不動産の登記記録上、甲野の住所は「武蔵野市a町b’丁目c番d号」とされているのである。これに気付くことは容易なことであるし、そうすれば、本件印鑑登録証明書に対する疑惑は決定的になったはずである。

 ちなみに、不動産登記記録上の甲野の上記住所の記載は「武蔵野市a町b’丁目c番d」のところで改行になっており、本件印鑑登録証明書を偽造した犯人は住所末尾の「号」が次行に送られているのを見落としたものと推察される。詐欺師としてはお粗末な仕事であるが、本件の事情の下では、これに気付かなかった司法書士も不注意であったといわざるを得ない。

ウ ところで、Tは、9月7日事前面談の後に発行官署である武蔵野市役所に本件印鑑登録証明書の真偽を照会するべきであった。Tは、事前面談の翌日(9月8日)に、東京法務局渋谷出張所に不正登記防止申出がされていないか照会し、申出のないことを確認している(前記一(6)オ)。しかし、真実の権利者が不正登記の危険をいまだ察知していなかったことも予想される本件において、不正登記防止申出の有無を確認してもさほど意味がなく、本気で真偽を確認する気持ちがなかったのではないかと疑われても仕方のない行為というほかない。

 また、本件前件申請には、公証人の認証付きの委任状が添付されているため、本件印鑑登録証明書は、代理権証明情報(不動産登記令七条一項二号)として必須の添付書類とはいえない(不動産登記規則49条二項二号)。この点は、第一審被告の指摘するとおりである。しかしながら、偽造された印鑑登録証明書が添付されているような登記申請であれば、「申請の権限を有しない者の申請」(不動産登記法25条四号)として却下されることは十分予想されるところであり、本件印鑑登録証明書が必須の添付書類であるか否かは本質的な問題ではない。

 結局のところ、本件印鑑登録証明書の不正常さを疑わせる上記ア、イの疑問点は、本件登記申請時までに何ら解決されなかった。特に、新たな発行日付の甲野の印鑑登録証明書が添付されたことを確認せず、9月7日に偽造の疑いが判明していた本件印鑑登録証明書が本件前件申請の添付情報として提出されたことを見逃したことは、前件登記申請の却下を防止すべき注意義務に違反したものといえる。

(4)ところで、第一審原告は、本件後件申請の当事者(登記権利者、登記義務者)ではなく、第一審原告と第一審被告の間に委任関係が存在するわけでもない。第一審原告は、その意味では第三者ではあるが、中間省略登記の中間買受人として、最終買受人であるC2への所有権移転登記の実現につき当事者に準ずる重大な利害関係を持っていたといえる。上記(1)で述べた司法書士としての注意義務は、不法行為の過失を基礎付けるものとして、委任関係にない第一審原告との関係でも妥当するものである。


以上:6,072文字

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