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嫡出否認の訴え提起期間制限後父子関係不存在確認認容家裁判決紹介

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平成30年 7月 8日(日):初稿
○「DNA鑑定99.999998%父子でなくても法律上は父子とした最高裁判決紹介1」で民法の嫡出否認の訴えに関する以下の条文を紹介していました。
民法
第772条(嫡出の推定)
 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
第774条(嫡出の否認)
 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。


○民法第772条で夫の子と推定されても、DNA鑑定でその子が自分の子ではないと判った場合、夫は嫡出否認の訴えを提起できますが、子の出生を知ったときから1年以内に提起しないと、嫡出否認の訴えはできなくなり、生物学的には父子でなくても、法律的には父子関係が永遠に続きます。

○ただし、「嫡出推定の及ばない子」という考え方があり、例えば、妊娠時期に夫が長期海外滞在中、刑務所収監中等の外形的に明らかに夫の子を懐胎する可能性がない場合、父は、嫡出と推定された子に対し、「嫡出推定の及ばない子」として「親子関係不存在確認の訴え」を期間制限なく、提起できます。この「親子関係不存在確認の訴え」は依頼されたことがありますが、嫡出否認の訴えは相談は受けても、実際訴え提起の依頼を受けたことはありませんでした。

○今般、あと数ヶ月で子の出生を知った時から1年を経過する嫡出否認の訴えについての相談を受け、上記条文を見直しました。民法第777条で「嫡出否認の訴え」とされていますが、これも人事訴訟事件ですので調停前置主義に服し、先ず嫡出否認の調停を申し立てることになります。家裁実務では、嫡出否認の調停で当事者間に合意が成立する場合には、当該合意に相当する審判に回して合意審判によって解決する例が殆どとのことです。

○嫡出推定を受けた子が、実は自分の子ではないと知った時、既に嫡出否認の訴え提起期間1年を遙かに過ぎていた場合は、上記夫の長期海外滞在中等「嫡出推定の及ばない子」に該当しない場合は、親子関係を否認する手続はありません。そこで、「DNA鑑定99.999998%父子でない」とされた場合も「嫡出推定の及ばない子」として親か関係不存在確認の訴えを認めても良いのではと訴えを提起し、親子関係不存在を認めたのが平成24年4月10日大阪家裁判決(金融・商事判例1453号31頁)でした。その全文を紹介します。

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主   文
1 原告と被告との間に,原告を子,被告を親とする関係が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文と同旨

第2 事案の概要
 本件は,法律上の婚姻関係にある被告と原告法定代理人親権者母(以下「甲」という。)の間の嫡出子として出生した原告が,原告の生物学上の父は被告ではなく訴外乙(以下「乙」という。)であると主張して,原告と被告との間に親子関係が存在しないことの確認を求めたのに対し,被告が,原告が被告の嫡出子であることについて民法772条1項による推定が及ぶ上,嫡出否認の出訴期間を経過している以上,原告の訴えは不適法であり(本案前の答弁),また請求は理由がない(本案の答弁)と主張して争った事案である。

1 前提となる事実(記録中の戸籍謄本による認定)
(1)甲(昭和●年●月●日生)と被告(昭和■年■月■日生)は,平成16年●月●日に婚姻の届出をした夫婦であり,未だ婚姻継続中である。
(2)甲は,平成21年●月●日,原告を分娩した。

2 当事者の主張の概要
(原告)
(1)被告は原告の生物学上の父親ではない。原告の生物学上の父親は乙であり,このことは,原告,乙及び甲のDNAを被検対象とするDNA鑑定の結果から明らかである。
 すなわち,被告は●●県●●市に単身赴任し,月に2,3回程度自宅に帰る程度であったために次第に甲との性関係もなくなったところ,甲は,平成19年ころから乙と肉体関係を含む親密な交際を開始し,乙の子を懐妊したものである。
 以上のとおり,被告と原告との間に生物学上の親子関係は存在しない。

(2)甲と被告は,平成20年夏ころから性関係が途絶えていたから,被告主張のいわゆる外観説を前提としても,原告が被告の子である蓋然性が高いという経験則は働かないし,外観説によって嫡出推定が働かない場合とされる事実上の離婚,夫の長期の在監や外国滞在等はあくまで例示に過ぎず,科学的根拠によって客観的かつ明白に親子関係の不存在が証明される場合には嫡出推定が働かないというべきであり,本件では近時の極めて精度の高いDNA鑑定の結果によって原告と被告との生物学上の父子関係が否定されるのであるから,民法772条1項の嫡出推定は及ばないというべきである。
 よって,原告の本件申立ては適法である。

(3)甲としても,被告に対して許される行為をしたとは考えていないし,謝罪の意思を有している。しかし,これは本件とは別途に解決される問題である。
 真実の親子関係を明らかにすることは原告にとって重要であり,これに蓋をして永久に隠し通すことはできない。
 被告が援用する外観説は,提訴権が夫に限定される嫡出否認制度から生じる矛盾を回避するために考えられた理論であるが,本件では実質的に夫の利益のための理論となり,子の視点が全く考慮されておらず失当である。仮に親子関係を否定しない現在の状況が将来的に継続すれば,原告を含む夫婦・親子生活は、極めて不自然・不安定で異常となろうことは明らかである。被告は,DNA鑑定の結果を受入れずに原告の引渡を求める審判前の仮処分等を申し立てるなどしており,原告に安定した生活環境を与えるためには,早期に親子関係の不存在を確認して無意味な紛争を終了すべきである。

(被告)
(1)原告が民法772条1項により被告の嫡出子と推定されることは明らかである。 
 そうすると,原告について被告の嫡出子であることを否認するためには専ら嫡出否認の訴えによるべきところ,当該訴えは夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければならず,被告は原告出生時に原告の出生を知っていたから上記出訴期間は経過しており,本件親子関係不存在確認訴訟によって父子関係の存否を争うのは不適法である。
 よって,本件訴えは却下されるべきである。

(2)原告が民法772条1項の嫡出推定が及ばない子とはいえない。
 すなわち,被告が●●市に単身赴任していたこと及び月に2,3回程度自宅に帰っていたことは認めるが,被告と甲との間で性交渉は継続しており,原告妊娠中及び出産後にも被告と甲が夫婦としての実体を有していたことは明らかであるから,原告の懐胎時期に被告と甲の夫婦関係が破綻していなかったことは明らかである。

(3)子の福祉の観点からも嫡出推定を排除する理由はない。
 嫡出否認制度が厳格な制限を設けていることは,血縁上の親子関係よりも法律上の親子関係及びその早期安定を法が優先している顕れであり,これが子の福祉に沿う所以である。
 被告はこれまで原告の父として愛情面,経済面,健康面から何ら問題なく原告を育んでおり,これは今後も変動がない。甲こそ自身の身勝手な欲望に基づいて被告に離婚を迫り,また本訴を提起するなど上記法の趣旨に反しているものである。
 よって,仮に本案の判断に及ぶとしても原告の請求は棄却されるべきである。

3 争点
(1)本件訴えが不適法であるか
(2)原告と被告との間の親子関係の存否

第3 争点についての判断
1 争点(1)について

(1)証拠(枝番を含む乙1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば,被告は が原告を懐胎したころに当該懐胎の事実を知ったこと,被告は原告出生後原告の父親として振る舞っていること等の事実が認められる。そうすると,被告が原告出生のころに当該出生の事実を知ったことは明らかである。したがって,原告出生から2年以上が経過した本訴提起日(訴状の受理年月日が平成23年12月●●日であることは記録上明らかである。)が,嫡出否認の訴えの提起期間を経過した後であることも明らかである。

(2)証拠(甲2及び前掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば,被告は甲と婚姻後,●●県●●市に単身赴任し,甲が暮らす自宅にはおおむね月に2,3回帰宅していたほか,甲は,原告出生後,原告の様子を知らせるメールを被告に適宜送信していたほか,甲と被告は,お宮参りや保育園の行事等に夫婦として参加し,遅くとも平成23年4月まではこのような通常の夫婦・親子としての家族生活を送っていたこと(原告作成の甲2の陳述書には,同年6月に甲と乙の交際が被告に知れた旨の記載があり,上記認定と矛盾しない。)等の事実が認められ,これらの事実によれば,少なくとも甲は被告を原告の父として振る舞い,被告は原告が自らの子であることを疑っていなかったことが認められ,そうすると,被告と甲の間に,原告懐胎のころ,性交渉があったと推認できる。

 そうすると,長期在監の事実等,原告懐胎のころ甲と被告との間で被告が原告の生物学上の父である蓋然性が否定されるような例示的・定型的事情が存したとはいい難い。
 よって,原告が講学上いわゆる「推定の及ばない子」ということはできず,民法772条1項の嫡出推定を受けることも明らかである。

(3)ところで,証拠(甲1)によれば,原告,乙及び甲の各DNAを被検対象とするDNA鑑定の結果,原告と乙との間に生物学上の父子関係が認められる確率は99.99%であることが認められ,加えて,上記証拠(鑑定書)自体の外形的証明力及びこれによって導かれる今日のDNA鑑定の信用力を併せ考慮すると,原告が被告の生物学上の子でないことは明白である。

(4)上記(1)及び(2)に認定・説示のところからすれば,もはや誰も原告と被告との間の嫡出親子関係を否定することは許されない,すなわち本件訴えは不適法であって却下すべきという結論を導くことも十分に可能である。
 しかしながら,上記(3)の認定・説示に照らすと,本訴を却下し,その結果,原告及び被告に偽りの嫡出親子関係を強制する結果を裁判所が肯認することが,果たして原告及び被告の利益に合致するかという点からして,疑問なしとしない。

(5)もっとも,生物学上の親子関係よりも長年に亘って形成されて社会的に認知された親子関係を尊重してこれを法的に追認する事例も,本件のようなケース以外にもあるといえ(例えば,血縁的親子関係はないが戸籍上の嫡出子とされて長年実の子として扱われてきた場合に,当該親子関係の不存在確認請求訴訟を権利濫用として許さない事例など),本件においても,上記(2)に認定の事実に照らせば,遅くとも平成23年4月ころまでは,原告,被告及び甲は,社会的にも心情的にも夫婦・親子としての生活を形成し,被告が原告を既に3年近くに亘って嫡出子として愛情をもって養育してきた事実が容易に推認でき,このような社会的事実を不貞行為を行った甲とその相手である乙が,被告の関与する余地のないDNA鑑定の結果を突き付けて否定することが許されるかという問題も存し,権利濫用的要素も考慮に値する。

(6)しかしながら,既に原告と被告との間に生物学上の親子関係がないことは原告を巡る者の間の知るところであり,早晩原告もこれを知ることは火を見るよりも明らかであるところ,原告が知るに至った場合のその心身への悪影響は,このまま被告との間の嫡出親子関係を維持する方がこれを否定するよりも大であることは否定できない。また,実の子として変わりない愛情をもって父親としてのつとめを果たすと誓う被告の心情を現時点で疑うことはしないけれども,既に被告も,原告が血を分けた子どもではなく,妻とその不貞行為の相手方の血を分けた子どもであるという事実を突き付けられているのであり,今後原告が成長するに従って,おそらく乙と甲の外形上の特徴を徐々に顕してくるであろう原告に対して,なお父として振る舞うことを被告に強要するのは酷であり,また,原告にとっても,被告に父として振る舞われることは酷といわざるを得ない。

(7)以上に認定・説示のところからすると,上記DNA鑑定の結果は究極の嫡出推定を覆す事実であり,このように嫡出推定が及ばない原告については,なお,親子関係不存在確認の訴えを提起する利益があると解するのが相当である。

2 争点(2)について
 既に争点(1)に認定したとおり,原告と被告との間に,原告を子,被告を父とする生物学上の関係がないことは明らかである。

第4 結論
 以上の次第で,原告の本件請求を認容することとして,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪家庭裁判所家事第4部 裁判官 黒田豊

以上:5,331文字

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