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相続不動産の占有につき取得時効を認めた地裁判例紹介1

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平成30年12月 6日(木):初稿
○民法は所有権の取得時効について、第162条で「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」と規定し、「所有の意思」に関しては、第186条で「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。」とし、「占有の性質」に関しては、第185条で「権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。」と規定しています。

○まとめると取得時効の要件である所有の意思を持った占有(自主占有)となるのは、「自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示」するか、「新たな権原により更に所有の意思」をもっての占有でなければなりません。この「新たな権限」については、売買・贈与等所有権移転の原因契約等が必要です。

○相続も「新たな権限」の一つとされていますが、共同相続の場合について昭和47年9月8日最高裁判決は、「共同相続人の1人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理・使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんらの関心をもたず、異議も述べなかった等の事情のもとにおいては、前記相続人はその相続の時から相続財産につき単独所有者として自主占有を取得したものというべきである」としています。

○従って単に単に相続人の1人になっただけでは「新たな権限」とはいえず、「単独に相続したものと信じて疑わず」とされる事情があり、且つ「相続開始とともに相続財産を現実に占有」し、「公租公課も自己の名でその負担において納付」、「他の相続人がなんらの関心をもたず、異議も述べなかった等の事情」が必要です。

○この点が争いになった平成29年4月26日京都地裁判決(判時2381号83頁参考収録)全文を2回に分けて紹介します。この判決では、予備的請求原因として建物を建築して占有をした点について自主占有として取得時効完成を認めました。しかし、控訴審の平成29年12月21日大阪高裁判決で覆されています。

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主   文
一 原告の主位的請求を棄却する。

(1)被告らは、原告に対し、別紙物件目録《略》記載の土地について、昭和54年8月30日時効取得を原因とする所有権の移転の登記手続をせよ。
(2)原告のその余の予備的請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由
第一 請求
一 主位的請求

 被告らは、原告に対し、別紙物件目録《略》記載の土地について、昭和37年5月22日時効取得を原因とする所有権の移転の登記手続をせよ。

二 予備的請求
(1)被告らは、原告に対し、別紙物件目録《略》記載の土地について、昭和48年12月24日時効取得を原因とする所有権の移転の登記手続をせよ。
(2)主文第二項(1)と同旨

第二 事案の概要
 本件は、訴外乙山太郎(以下「本件被相続人」という。)の相続人の一人である原告が、本件被相続人の遺産である別紙物件目録《略》記載の土地(以下「本件土地」という。)を、主位的には本件被相続人の遺産の分割の協議(以下「本件遺産分割」という。)が成立したとされる昭和37年5月22日から、予備的には原告が本件土地上に賃貸に供する目的で建築した建物(未登記の建物。以下「本件建物」という。)が完成したとされる昭和48年12月24日又は昭和54年8月30日から、20年間いわゆる自主占有をしたとして、本件被相続人の他の相続人である被告らに対し、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権に基づき、本件土地の取得時効を原因とする所有権の移転の登記の手続をすることを求める事案である。

一 請求原因
(1)
ア 主位的主張
(ア)原告は、昭和37年5月22日、本件土地を占有していた。
(イ)原告は、昭和57年5月22日経過時、本件土地を占有していた。

イ 予備的主張
(ア)a 原告は、昭和48年12月24日、本件土地を占有していた。
b 原告は、平成5年12月24日経過時、本件土地を占有していた。
(イ)a 原告は、昭和54年8月30日、本件土地を占有していた。
b 原告は、平成11年8月30日経過時、本件土地を占有していた。

(2)
ア 本件土地について、本件被相続人が所有している旨の登記がある。
イ 本件被相続人は、昭和37年××月××日、死亡した。
ウ 被告らはいずれも本件被相続人の子である。

(3)原告は、平成27年5月28日の本件第一回口頭弁論期日において、前記(1)の時効を援用する旨の意思表示をした。

(4)よって、原告は、被告らに対し、所有権に基づき、主位的には、昭和37年5月22日時効取得を、予備的には、昭和48年12月24日時効取得又は昭和54年8月30日時効取得を原因とする所有権の移転の登記手続をすることを求める。

二 請求原因に対する被告らの認否及びこれに関連する被告らの主張
(1)請求原因(1)は、いずれも不知。
(2)請求原因(2)は、いずれも認める。

三 抗弁-他主占有権原(本件土地の共有)
 原告は、本件被相続人の子である。

四 抗弁に対する原告の認否
 抗弁は認める。

五 予備的請求原因(前記一及び三を前提として)-自主占有権原(主位的主張)又は自主占有事情(予備的主張)
(1)自主占有権原-本件遺産分割
 原告及び被告らは、昭和37年5月22日、本件遺産分割をし、原告が本件土地を本件被相続人から相続することを合意した。

(2)自主占有事情-本件建物の建築等
 本件については、次のとおり、原告が本件土地を事実上支配していたことが、外形的客観的に見て独自の所有の意思に基づくと解される事情がある。

(ア)原告は、昭和48年7月2日、本件建物に係る請負契約を締結し、同年11月30日までに同請負契約に係る請負代金の全額を支払っているから、遅くとも昭和48年12月24日の時点では、本件建物の建築工事自体は完成していることが明らかである。
(イ)原告は、昭和54年8月30日、本件土地(地積358・61平方メートル)上に本件建物(建築面積165・08平方メートル、延べ面積432・58平方メートル)を建築し、その後現在に至るまで、これを第三者に賃貸して収益を上げており、本件土地を単独で独占的に使用収益してきた反面、被告らは、本件土地を全く使用収益することなく、原告が上記のように使用収益をしていることについて異議を述べることもなかった。

イ 原告は、遅くとも昭和59年以降現在に至るまで、京都市に対し、本件土地に賦課されている固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の全額を納付している。

六 予備的請求原因に対する被告らの認否及びこれに関連する被告らの主張
(1)予備的請求原因(1)は、否認する。原告と被告らとの間で、本件被相続人が死亡した後、本件被相続人の財産について遺産の分割の協議がされた事実はない。原告が、被告甲野を除く被告らに対して個別に上記の被告らが本件被相続人の財産から相続するものとして原告が示した財産はあったが、本件被相続人の相続財産の全体を被告らに示したことはなく、原告が一方的に相続すべき財産の内容を決定した事実があったにすぎない。

 本件遺産分割の内容を証する書面が存在しない(なお、本件遺産分割があったとされる当時、被告らは、印鑑登録をした事実がなく、仮に、本件遺産分割の内容を証する文書が存在していたとしても、真正に成立した文書とはいえないことが明らかである。)ことも、本件遺産分割がされた事実がないことを裏付けるものである。原告は、本件土地を除く他の本件被相続人の土地について、錯誤や共有分割を原因とする様々な登記の手続を繰り返したり、第三者に勝手に売却したりするなど、本件被相続人の財産をあたかも自分のものであるかのように取り扱ってきたばかりか、暴力的な言動等により被告らを畏怖させてきたものである。上記のような不自然な登記の手続の繰り返しは、本件遺産分割が存在しないことから、本件被相続人の遺産を原告の単独の所有に帰させるための偽装工作であったということができる。

(2)予備的請求原因(2)の外形的な事実関係は、積極的に争わないが、その法的主張は争う。原告は、被告甲野に対し、嫁に行った者は他人と同じなどと述べたり、被告甲野を除く被告らに暴行を加えたりして被告らを畏怖させていたことから、被告らが原告に対して原告が本件土地を独占的に使用収益していることについて異議を述べられない状況を作出していたにすぎない。


以上:3,647文字

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