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共同遺言無効の主張を排斥し夫婦連名遺言を有効とした地裁判例紹介

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令和 2年 1月21日(火):初稿
○民法第975条の共同遺言かどうかが問題になる事案を扱っています。民法第975条についての判例は余り見当たりませんが、亡Aの子である原告らが、同じくAの子である被告に対し、主位的には遺言書の無効に基づき、予備的には遺留分減殺請求権に基づき、本件不動産の移転登記手続を求めた事案において、本件遺言はAとAの妻Bとの共同遺言であるので無効である旨の原告らの主張を排斥し、本件遺言は有効であると認定した上で、本件不動産がAの遺産であるとすると同不動産上の登記は原告らの遺留分を侵害していると判断して、予備的請求を認容した平成24年11月16日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

○民法第975条(共同遺言の禁止)で「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定されています。

○共同遺言が禁止される趣旨は、
①共同遺言を認める実際上の必要性はなく、慣習もない、
②共同遺言を認めると遺言の独立行為としての性質を害し、各遺言者の意思が相互に制約され、各遺言者の自由意思を保障し難い、
③各遺言者は、同時に死亡しないのが通例であるから、遺言の効力発生時期につき問題を生ずる、
④各遺言者の遺言の取消しについても問題を生ずる、
⑤各遺言の効力の牽連関係につき問題を生ずる
ことにあると説明されています(和田干一・遺言法162頁、久貴忠彦「共同遺言に対する一考察」曹時39巻3号429頁等)。

○一つの書面に2人の遺言が記載されていても切り離せば2つの遺言となり得るものは民法975条にいう共同遺言に当たらないとするのが通説です(中川善之助篇・註釋相続法下62頁〔山畠正男〕、我妻栄=唄孝一・相続法(判例コンメンタールⅧ)260頁、泉久雄ほか・民法講義8相続285頁〔泉久雄〕等)。

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主    文
1 原告らの主位的請求をいずれも棄却する。
2 被告は,原告らに対し,別紙物件目録1記載の土地及び同目録2記載の建物について,それぞれ平成23年4月2日遺留分減殺を原因とする持分各6分の1の所有権移転登記手続をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 主位的請求
 被告は,原告らに対し,別紙物件目録1記載の土地及び同目録2記載の建物について,東京法務局新宿出張所平成23年2月2日受付第2512号の所有権移転登記を,それぞれ被告の持分を3分の1,原告らの持分を各3分の1とする所有権移転登記に更正する登記手続をせよ。

2 予備的請求
 主文同旨

第2 事案の概要
 本件は,原告らが,被告に対し,遺言書の無効及び遺留分減殺請求に基づき,不動産の移転登記手続を求める事案であり,被告は,遺言書の有効性を前提として,原告らの特別受益や遺言者の債務などを主張している。
1 前提事実(争いがない事実以外は,各項掲記の証拠等により認める。)
(1) AとB(平成21年12月27日死亡)は,昭和11年6月4日に婚姻し,両名の間に原告X2(昭和11年○月○日生),原告X1(昭和17年○月○日生)及び被告(昭和22年○月○日生)が生まれた(甲2ないし8)。
(2) Aは,別紙物件目録1記載の土地(本件土地)及び同目録2記載の建物(本件建物)を所有していた(甲10,11・本件土地及び本件建物を併せて,「本件不動産」と呼ぶ。)。
(3) Aは,平成22年10月1日に死亡した(甲1)。
(4) Aは,平成13年10月2日付け自筆証書遺言(本件遺言)により,本件不動産を被告に相続させた(甲9・東京家庭裁判所平成22年(家)第11452号で検認済み)。
(5) 被告は,本件遺言に基づき,本件不動産について,相続を原因とする所有権移転登記手続(本件登記)を経由した(甲10,11)。
(6) 原告らは,本件登記は原告らの遺留分を侵害しているとの理由で,被告に対し,平成23年4月2日到達の書面により,遺留分減殺請求をする旨の意思表示をした(甲12の1,2)

2 原告らの主張
(1) 本件遺言は,AとBとの共同でなされた共同遺言であるので,民法975条により無効である。よって,原告らは,被告に対し,本件登記についてなされた東京法務局新宿出張所平成23年2月2日受付第2512号の所有権移転登記を,被告の持分3分の1,原告らの持分を各3分の1とする更正登記手続を求める。

(2) 仮に,本件遺言が有効であるとしても,本件登記は原告らの遺留分を侵害しているので,原告らは,被告に対し,予備的に,本件登記についてなされた東京法務局新宿出張所平成23年2月2日受付第2512号の所有権移転登記を被告の持分6分の4,原告らの持分を各6分の1とする更正登記手続を求める。

(3) 原告X2は,居住している千葉県野田市の土地(野田土地・甲13)について,昭和45年5月17日,Cから,225万円で購入している(甲14,15の1,2)。原告X2は,その当時,マツダ株式会社の株式1万4000株を所有しており(甲16),同株式を298万2000円で売却し(甲17)して,野田土地の購入資金に充てたものである。Aから原告X2に買い与えられたものではない。

(4) 原告X2は,被告が娘と一緒に旅行に行く際には,Aの食事の介助や排泄物の処理などを手伝っていた。旅行の前後を含めると約1週間は泊まり込みで両親の介護を手伝っていた。
 原告X2は,被告に対し,Aの入院費として15万円を2回,リフォーム代として100万円を渡している。更に,平成21年9月18日に20万円,同年11月9日に10万円を送金している(乙6)。Aが他界した後,被告の依頼でAの病院費用の残金15万円も送金している。原告X2はAの葬儀費用のうち,被告の負担する約20万円を立て替えている。
 原告X1は,平成22年1月14日,Bの葬儀代として37万9950円を送金した。また,原告X1は,通夜の際にも現金を支出しており,葬儀代としての合計は40万9950円となる。以上から,被告の権利濫用の主張は失当である。

(5) 本件土地の価格は4826万円,本件建物の価格は515万8600円である(甲18,平成23年固定資産評価額)。

(6) 被告は,Aより,500万円の贈与を2回,700万円の贈与を2回の合計2400万円の贈与を受けている。

(7) 被告にAからの相続債務がある旨の主張は,時機に遅れたものであり,訴訟の完結を遅延させるものであるので,却下すべきである。

3 被告の主張
(1) 本件遺言は,Aの単独遺言である。確かに,本件遺言中には,Aの他にBの記載がある。しかし,共同遺言が無効とされる趣旨は,各遺言者の意思表示の自由が妨げられること,単独に自由に遺言を撤回する自由が制限されること,一部無効原因がある場合の処理など法律関係が複雑になる危険があるなどの理由による。
 しかるに,本件遺言は,対象としている遺産はAの単独所有であり,Bは何ら権限を有しておらず,本件不動産に関して,遺言したり,その撤回をしたりするなど無効原因を生じる余地はなく,その内容は,Aの単独遺言に過ぎない。

(2) 原告X2の所有する野田土地(甲13)は,Aが,原告X2に対し,昭和45年5月17日に買い与えたものである。Aは,原告X2に対し,現金を渡していたもので,領収証は証拠にならない。また,原告X2は,Aの経営する印刷業の中で印刷工として稼働していたに過ぎず,原告X2の給料で野田土地の支払いが可能であったとは思われない。したがって,原告X2は,Aから生前贈与を受けていたことになるので,遺留分算定の基礎となる財産に加えるべきである。

 Aの相続開始時の本件土地の評価額は2384万9720円(乙1),本件建物の評価額は515万8600円(乙2)であり,合計2900万8320円である。
 他方,野田土地の評価額は1464万3604円である(乙3)。したがって,遺留分算定の基礎となる財産総額は4365万1924円であり,原告X2の遺留分は727万5320円であるので,遺留分の侵害はない。

(3) 権利濫用
ア 被告は,平成3年頃より,両親の面倒を見るため,千葉県我孫子市から,月に2回の頻度で両親の元に通っていたが,次第に毎日のように通うようになり,平成13年には,家族全員で本件不動産に引っ越した。
イ ところが,平成14年5月,Aは,硬膜下出血で倒れ,入退院を繰り返した。Bも排泄機能が弱まっていた。Aは要介護5,Bは要介護4と判定され,介護生活は壮絶であった。
ウ 原告らは,被告や両親に対し,金銭的援助すらなく,1年に1度顔を見せる程度であった。原告X1が両親の生前に被告宅を訪れたのは10年間で8回に過ぎない。
エ 被告は,介護に限界を感じて,ショートステイやデイサービスなどの力を借りたが,出費も嵩んで,最後の一年は被告らの家族の食費を削って凌いでいた。Aは,平成19年6月以降,療養型の病院や施設に入所していたため,Bを介護施設に預けるお金は捻出できず,週1回のデイサービスのみを利用した。
オ 被告が葬儀費用を原告X2に立て替えて貰ったことは認めるが,被告は,葬式当日の住職への心付け,食事代,おみやげ代などを負担している。
カ このような中で,本件遺言がなされたものである。したがって,原告らが,被告に対し,遺留分減殺を行うことは権利濫用である。

(4) 被告は,A夫婦のため,別紙一覧表(乙8)のとおり,出捐したものであって,これらは本来Aが負担すべきものであるので,Aの被告に対する債務である。したがって,原告らの遺留分額は減額される。

4 争点
 双方の主張を踏まえると,本件における主要な争点は,本件遺言の有効性の有無,原告ら及び被告の特別受益の有無である。

第3 争点に対する判断
 証拠(甲1ないし22,乙1ないし8,原告ら及び被告各本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨に基づき,以下のとおり,認定判断する。
1 本件遺言の有効性の有無
(1) 本件遺言(甲9)は,Aの自筆により作成され,平成13年10月2日の日付,署名及び押印がなされているが,遺言者Aの署名押印の左側に「B」との署名及び押印がなされているので,共同遺言(民法975条)として無効ではないか検討する。

(2) 同条が共同遺言を禁止した趣旨は,遺言者の自由な撤回ができなくなり,最終意思の確保という遺言の趣旨が阻害されたり,一方の遺言について無効原因がある場合に他の遺言の効力がどうなるかについて複雑な法律関係が発生するおそれがあるからである。

(3) ところが,本件遺言は,その内容をみると,Aがその所有する不動産について,長女Yに相続させるものであって,Bの意思とは関係なく,その後に自由に相続内容を変更や撤回することができるので,遺言者の自由な撤回ができなくなり,最終意思の確保という遺言の趣旨が阻害されたりするとの弊害は生じていない。加えて,Bは何ら遺言の内容を記しておらず,Aの上記不動産の遺言相続を確認しているだけであり,上記の複雑な法律関係が発生するおそれはない。

(4) したがって,本件遺言は,同条の趣旨に反することはないので,Aの単独遺言と解釈し,Bが同遺言を確認のために添え書きしたものと理解し,同条に反するものではなく,有効であると認める。よって,原告らの本件遺言の無効の主張は採用しない。


2 Aの債務の有無
 被告は,A夫婦のため,別紙一覧表(乙8)のとおり,合計2320万円を出捐したものであって,これらは本来Aが負担すべきものであるので,Aの被告に対する債務であると主張している。
 しかし,上記主張は,弁論準備手続の結果を踏まえて,証拠調期日に初めてなされたものであり,弁論準備手続の終結の際には何ら予告もしなかったものであるので,原告らの指摘するとおり,時機に遅れたものであり,訴訟の完結を遅延させるものであるので,却下すべきである。

 仮に,被告が,Aのために上記のとおりの出捐をしたとしても,親子間の相互扶助に基づくものであって,Aに対し,立替金などを請求していなかったこと,原告らに対し,被告のAに対する債権を行使していなかったことなどを考慮すると,寄与分の性質はあるとしても,被告のAに対する債権とは認められず,したがって,Aの債務の相続も観念できない。したがって,いずれにしても,被告の上記主張は採用できない。

3 原告X2の特別受益の有無
 被告は,原告X2の所有する野田土地(甲13)について,Aが,原告X2に対し,昭和45年10月7日に買い与えたものであると主張している。

 しかし,原告X2は,野田土地について,昭和45年5月17日,Cから,225万円で購入している(甲14,15の1,2)。その購入資金は,原告X2が当時所有していたマツダ株式会社の株式1万4000株を298万2000円で売却したものである(甲16,17)。更に,原告X2の供述によると,Aが,原告X2のために原告X2の給料を貯金し,その貯金していた金員を運用して原告X2名義で株式を運用していたものであり,その株式運用資金も実質的には原告X2のものである。
 したがって,原告X2がAから生前贈与を受けていたとの被告の上記主張は採用できない。

4 被告の特別受益の有無
 原告らは,被告がAから合計2400万円の贈与を受けていると主張しているが,その根拠はAから聴いたことに過ぎず,いつ頃のことなのか判然とせず,Aが日課としていたノートにもその旨の記載はない。
 被告は,原告らの上記供述内容を否定していることを考慮すると,原告らの上記主張はその証明がないと言わざるを得ない。

5 被告は,A夫婦の介護状況の中で,本件遺言がなされたことに照らすと,原告らの遺留分減殺の主張は権利濫用であると主張するが,原告らも可能な限りで,A夫婦の介護をしたこと,Aの入院費,A夫婦の葬儀費用の一部などを負担していることなどに照らすと,遺留分減殺の主張をすること自体が権利濫用と認めることはできない。

6 以上のとおり,本件不動産がAの遺産であるとすると,本件登記は原告らの遺留分を侵害しているので,原告らは,被告に対し,本件登記についてなされた東京法務局新宿出張所平成23年2月2日受付第2512号の所有権移転登記を被告の持分6分の4,原告らの持分を各6分の1とする限度で更正登記手続を求める権利があることになる。

第4 結論
 よって,原告らの主位的請求は理由がないが,予備的請求は理由がある。 (裁判官 杉本宏之)

 〈以下省略〉
以上:5,976文字

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