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民法第921条で単純承認とみなされない遺産分割協議2-遺産取得者はダメ

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令和 2年 2月13日(木):初稿
○「民法第921条で単純承認とみなされない遺産分割協議」の続きです。
平成10年2月9日大阪高裁決定(家月50巻6号89頁、判タ985号257頁)は、遺産分割協議をしても民法第921条の「処分」にみなされず、その遺産分割協議が無効とされた場合、遺産分割協議に基づき遺産を取得して処分していたらその「処分」の効果はどうなりますかとの質問を受けました。

○そこで上記判決の事案について精査が必要になりました。一審判決を見ると、事案は、被相続人Aには、相続人として妻C、長男D、長女X1、四男X2、五男X3が居ました。二男・三男の存否は不明です。妻Cと長男Dは遺産分割協議で不動産を取得して登記簿上所有名義も移転していたころから相続放棄申述はせず、相続放棄申述をしたのは、長女X1、四男X2、五男X3の3名でした。この3名は遺産分割協議で遺産は取得していないようです。

○ず第一審平成9年12月26日神戸家裁審判(家庭裁判月報50巻6号96頁)は、申述人らは、Aが連帯保証人になっていることを知った時から3ヶ月の熟慮期間を算定する旨主張するが、申述人らは遺産分割協議書を作成し、その旨の所有権移転登記手続を既に済ませており、申述人らが遺産についての処分行為をした当時において、申述人らがAの債務を知っていたと否とに関わりなく単純承認したものとみなされ、もはや相続の放棄はできなくなるとして申述を却下していました。

○そこでX1らは、相続放棄申述却下審判に対し,即時抗告を申し立て、抗告審平成10年2月9日大阪高裁決定(判タ985号257頁)は、申述を受理すべきか否かは,相続債務の有無及び金額,相続債務についての抗告人らの認識,遺産分割協議の際の相続人間の話合いの内容等の諸般の事情につき,更に事実調査を遂げた上で判断すべきであるところ,このような調査をすることなく,法定単純承認事由があるとして申述を却下した原審判には,尽くすべき審理を尽くさなかった違法があるとして,原審判を取り消し,差し戻しました。

○ここで注意すべきは、遺産分割協議に基づき不動産を取得した相続人の妻C・長男Dは相続放棄申述をしていないことです。これは不動産を自己名義に登記した以上、「処分」該当は明白で放棄が出来ないことも明白だからです。長女X1、四男X2、五男X3らは、遺産分割協議で何ら遺産を取得していないから放棄が認められる余地が残ったのであり、遺産の一部でも受領していたら先ず放棄は認められないはずです。

○遺産分割協議が無効になるとしてもそれは長女X1、四男X2、五男X3についてだけであり、相続放棄申述が認められることで相続人ではなくなりますから、妻C、長男Dの遺産分割協議は有効であり、不動産の取得の効果は変わらず、新たに判明した債務も妻C、長男Dらが相続人として承継することになります。

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平成9年12月26日神戸家裁審判

主   文
申述人らの相続放棄の申述をいずれも却下する。

理   由
 申述人X1は、被相続人Aの長女,同X2は四男,同X3は五男であり,被相続人は平成9年4月30日死亡し,上記申述人らが相続人になったことは一件記録により明らかであるところ,申述人らは被相続人の死亡当日それぞれ被相続人の死亡の事実及びこれにより自己が法律上その相続人になった事実を知ったことが認められるから,各申述のなされた平成9年11月1日までには既に3ヶ月を経過していることが明らかに認められる。 

 申述人らは,平成9年9月29日になって初めて被相続人が株式会社Bの債務について連帯保証人になっていることを知ったから,3ヶ月の熟慮期間はこの時から算定するべきである旨主張し,その旨の事実も認められるけれども,一件記録によれば,被相続人の遺産分割については,相続人である妻C,長男Dと申述人ら3名で,平成9年8月1日に遺産分割協議が行われ,申述人らは遺産である神戸市○○区○○○×丁目65番13所在の宅地,建物をCに,神戸市○○区○○△×丁目3番13所在の宅地,建物をDに取得させる旨の合意をし,遺産分割協議書を作成し,その旨の所有権移転登記手続を済ませていることが認められる。

 これは,申述人らが遺産について処分行為をしたものというべきであり,処分行為をした当時において,申述人らが被相続人の債務を知っていたと否とに関わりなく単純承認したものとみなされ,もはや相続の放棄は出来なくなるものと解される。
 よって,本件申述は不適法であって,却下せざるを得ないものであり,主文のとおり審判する。



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平成10年2月9日大阪高裁決定

主   文
一 原審判を取り消す。
二 本件を神戸家庭裁判所に差し戻す。

理   由
第1 本件即時抗告の趣旨及び理由

 別紙即時抗告申立書(写し)記載のとおり

第2 当裁判所の認定及び判断
1 一件記録によると,次の事実が認められる。
(1)被相続人は,平成9年4月30日死亡し,被相続人の長女の抗告人貞子,四男の抗告人良平,五男の抗告人満也は,同日,被相続人の死亡の事実とこれにより自己が法律上の相続人となった事実を知った。

(2)抗告人らは,平成9年8月1日,共同相続人である被相続人の妻C及び被相続人の長男Dと遺産分割の協議をし,神戸市○○区○○○×丁目65番13所在の宅地と建物をCに,神戸市○○区○○△×丁目3番13所在の宅地と建物をDに取得させる旨の遺産分割の合意をし,その旨の遺産分割協議書を作成し,所有権移転登記手続をした。

(3)抗告人らは,同年9月29日,○○公庫から呼び出しを受け,被相続人が,満康の経営する株式会社Bの連帯保証人となっており,同公庫に510万円の連帯保証債務を負担していることを知らされ,満康から事情を聞く等して調査した結果,右公庫の債務以外にも,相続債務として株式会社○○銀行に対し少なくとも約4400万円を下回らぬ連帯保証債務があることを知り,平成9年11月1日,本件各相続放棄の申述の申立に及んだ。

(4)しかし,原審は,抗告人らは,本件遺産分割協議により遺産について処分行為をしたもので,これは法定単純承認事由に該当し,本件申述は法定単純承認後の申立であるから,不適法であるとして,前記各申立を却下した。

2 しかし,原審判の判断は是認し得ない。その理由は次のとおりである。
(1)民法915条1項所定の熟慮期間については,相続人が相続の開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上の相続人となった事実を知った場合であっても,3か月以内に相続放棄をしなかったことが,相続人において,相続債務が存在しないか,あるいは相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信したためであり,かつそのように信ずるにつき相当な理由があるときは,相続債務のほぼ全容を認識したとき,または通常これを認識しうべきときから起算するべきものと解するのが相当である。

(2)本件においては,抗告人らは,平成9年9月29日,○○公庫から相続債務の請求を受け,Dに事情を確認するまでは,前記認定の多額の相続債務の存在を認識していなかったものと認められ,生前の被相続人と抗告人らの生活状況等によると,抗告人らが右相続債務の存在を認識しなかったことにつき,相当な理由が認められる蓋然性は否定できない。

(3)もっとも,抗告人らは,他の共同相続人との間で本件遺産分割協議をしており,右協議は,抗告人らが相続財産につき相続分を有していることを認識し,これを前提に,相続財産に対して有する相続分を処分したもので,相続財産の処分行為と評価することができ,法定単純承認事由に該当するというべきである。

しかし,抗告人らが前記多額の相続債務の存在を認識しておれば,当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ,抗告人らが相続放棄の手続を採らなかったのは,相続債務の不存在を誤信していたためであり,前記のとおり被相続人と抗告人らの生活状況,Dら他の共同相続人との協議内容の如何によっては,本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり,ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある。

そして,仮にそのような事情が肯定できるとすれば,本件熟慮期間は,抗告人が被相続人の死亡の事実を知った平成9年4月30日ではなく,○○公庫の請求を受けた平成9年9月29日ころから,これを起算するのが相当というべきである。

そうすると,本件申述を受理すべきか否かは,前記相続債務の有無及び金額,右相続債務についての抗告人らの認識,本件遺産分割協議の際の相続人間の話合の内容等の諸般の事情につき,更に事実調査を遂げた上で判断すべきところ,このような調査をすることなく,法定単純承認事由があるとして本件申述を却下した原審判には,尽くすべき審理を尽くさなかった違法があるといわなければならない。

なお,申述受理の審判は,基本的には公証行為であり,審判手続で申述が却下されると,相続人は訴訟手続で申述が有効であることを主張できないから,その実質的要件について審理判断する際には,これを一応裏付ける程度の資料があれば足りるものと解される。

3 よって,原審判は失当であるから,これを取り消し,前記の点について更に審理を尽くさせるために本件を原裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 中村也寸志)
以上:3,888文字

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