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遺言書としては無効としても死因贈与契約成立を認めた地裁判決紹介2

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令和 2年 2月23日(日):初稿
○「遺言書としては無効としても死因贈与契約成立を認めた地裁判決紹介1」の続きで、遺言書を無効としても、無効行為の転換として死因贈与としては有効とした地裁判決の紹介を続けます。

○事案は、法定相続人の1人である原告から、被相続人の死亡危急者遺言により遺産を相続したとされる被告らに対し、当該遺言の無効確認を求めたのに対し、被告らから、反訴として、主位的に当該遺言に基づき取得した遺産である不動産の所有権確認を、予備的に仮に遺言が無効であるとしてもそれぞれ被相続人から当該不動産の死因贈与を受けたとして原告相続持分の移転登記手続等を求めものです。

○これに対し、平成13年11月5日広島地裁三次支部判決(TKC)は、本件遺言は、民法976条1項所定の要件を満たさないから無効とする一方、被告らうち1人について死因贈与の成立を認め、本訴請求を認容するとともに、反訴中予備的請求を一部認容しました。

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主   文
1 亡Dが平成11年1月17日付けでした別紙死亡危急者遺言は無効であることを確認する。
2 被告らの反訴中主位的請求を棄却する。
3 原告は被告Bに対し,別紙物件目録1記載の各不動産の各持分6分の1につき,平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
4 被告らの反訴中その余の予備的請求を棄却する。
5 訴訟費用については,原告と被告Cとの間において生じたものはすべて同被告の負担とし,原告と被告Bとの間において生じたものは,そのうち反訴にかかる訴訟費用の2分の1を原告の負担とし,その余を同被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

(本訴)
 主文第1項同旨

(反訴)
1 主位的
(1)被告Bが別紙物件目録1記載の各不動産について所有権を有することを確認する。
(2)被告Cが別紙物件目録2記載の各不動産について所有権を有することを確認する。

2 予備的
(1)原告は被告Bに対し,別紙物件目録1記載の各不動産の各持分3分の1につき,平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(2)原告は被告Cに対し,別紙物件目録2の番号1ないし4記載の各不動産の各持分3分の1につき,平成11年1月29日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(3)被告Cが別紙物件目録2の番号5記載の不動産について所有権を有することを確認する。

第2 事案の概要
1 本件は,法定相続人の1人である原告から,被相続人の死亡危急者遺言により遺産を相続したとされる他の相続人ら(被告ら)に対し,当該遺言の無効確認を求めた(本訴)のに対し,被告らから,反訴として,主位的に当該遺言に基づき取得した遺産である不動産の所有権確認を,予備的に仮に遺言が無効であるとしてもそれぞれ被相続人から当該不動産の死因贈与を受けたとして原告相続持分の移転登記手続等を求めた事案である

2 前提事実(争いのない事実,弁論の全趣旨及び文中記載の証拠による。)
(1)被告B(以下「被告B」という。)は,亡D(以下「D」という。)の長女であり,被告C(以下「被告C」という。)はDの次女である。
 原告は,昭和63年11月5日被告Bと婚姻し,平成6年2月17日,Dの養子となった。(甲1,乙3の2)
 なお,原告と被告Bとの間においては,別途離婚訴訟が係属している。

(2)Dは,平成11年1月17日,入院先の公立三次中央病院において,別紙死亡危急者遺言(以下「本件遺言」という。)をした。この遺言には,立会人としてDの弟E(以下「E」という。),その妻F(以下「F」という。),被告B,医師G(以下「G」という。)及び看護婦H(以下「H」という。)の署名押(指)印がなされている。

(3)Dは,別紙物件目録1及び同2記載の各不動産を所有していた。このうち,同目録2の番号5の建物については,該当する登記がなされていないが,固定資産税台帳には記載されている。(乙4,5)

(4)Dは,平成11年1月29日死亡した。その法定相続人は子である被告ら及び養子である原告(法定相続分各3分の1)である。

(5)広島家庭裁判所三次支部は,Eの申立てにより,平成11年4月27日,本件遺言について民法976条4項による確認の審判をした。(乙1)
 また,同裁判所は,同人の請求により,同年6月15日,本件遺言について民法1004条に基づく検認の手続をした。(甲2)

(6)原告は被告らに対し,平成12年5月27日ころ,本件遺言による遺産取得について遺留分減殺の意思表示をした。

(7)原告は,本件第5回弁論準備手続期日(平成13年8月27日)陳述の準備書面において,被告らに対し,本件遺言による遺産取得ないし被告ら主張の死因贈与について,仮定的に遺留分減殺の意思表示をした(顕著な事実)。

3 主たる争点

         (中略)

第3 争点に対する判断
1 本件遺言は適式になされたものか(争点(1))について

(1)民法976条1項は死亡危急者遺言について証人3人以上の「立会い」を求めているが,その趣旨は,3人以上の証人(筆記者を含む)が遺言者の意思及び筆記が正確になされたことを確認することにより,遺言の正確性を担保しようとするところにあると解される。

 したがって,上記趣旨からすれば,遺言者の口授自体は証人の1人に対してすればよく,また,口授を受けた者の筆記,他の証人に対する読み聞かせまたは閲覧,他の証人の署名押印は必ずしも遺言者の面前でなされなくてもよいと解されるが,一方,遺言者の口授の際及び筆記者による遺言者への読み聞かせまたは閲覧の際(ないし少なくともそのいずれか)には,他の証人2名以上もその場に立ち会っていることが必要不可欠であると解すべきである。そうでなければ,他の証人は,遺言者によって口授された内容と筆記された内容とに齟齬がないことを確認しようがなく,立会いの目的を果たすことができないからである。このことは,遺言が高度の要式行為であり,遺言者本人の死亡後にその効力が生じる(したがって,遺言に関する紛争も遺言者の死亡後に顕在化する)ものであること,そのため後日の紛争を未然に防止するためには,その効力の判定については厳格に解することが相当と認められることからも首肯される(なお,原告の指摘するように,本件遺言の署名者の1人である被告Bは証人欠格者である[民法982条,974条2号]が,これが立ち会っていたとしても,実質的に遺言者の遺言内容に圧力をかけるなど影響を与えたことが認められない限り,他の証人が法定の員数を満たしている限り,遺言は無効にはならないと解される。)。

(2)これを本件についてみるに,本件遺言の作成の経緯は上記第2の3の(1)で被告らが主張するとおりであったことが認められ(この経緯については,本件遺言の有効性を主張する被告ら自身が自認するところであるほか,乙7[Eの陳述書]によって認定することができる。),これによれば,DがEの遺言内容を口授した際及びEが筆記した内容をDに説明して内容を確認し,Dがこれに署名した際,その場にいたのはEのほか同人の妻のFのみであったことが認められる。

 したがって,本件遺言は,民法976条1項所定の要件を満たさないから無効であり(なお,被告らは医師Gが本件遺言への署名押印後にDに内容を確認していたと主張するが,仮にそのような事実があったとしても,既に遺言作成手続は終了しており,遺言の効力に影響しないものと解すべきである。),原告の本訴請求は理由がある。また,被告らの反訴請求のうち,本件遺言の有効性を前提とする主位的請求は理由がない。

2 被告Bに対する死因贈与の有無について
(1)本件遺言による死因贈与の有無(争点(4))
 上記1認定のとおり,本件遺言は死亡危急者遺言としては法定の要件を欠き無効であるが,被告Bは,予備的に本件遺言によりDと被告Bとの間において本件遺言の趣旨の死因贈与契約が成立したものと主張している。

 死因贈与契約は,契約一般の原則に従い,その方式は原則として自由であり(民法554条は死因贈与について遺贈の規定に従う旨規定しているが,これは方式について遺贈の規定を準用する趣旨ではない。),贈与者・受贈者間において一定の財産を無償譲渡する意思の合致があれば成立するものである。本件遺言の趣旨は,Dがその死後自己の所有する財産を被告B(及び被告C)に対価なく移転する趣旨のものであることは,本件遺言の内容及びその作成経緯から明らかである。そして,被告Bは,Dの病室内でEから本件遺言作成の経緯を聞き,これに署名押印したことによってこれを受諾したものと認めることができる。

 よって,D・被告B間に本件遺言の内容に沿った死因贈与契約が成立したことが認定でき,これをくつがえすに足りる証拠はない。
 なお,遺言の作成行為を死因贈与の申込みと解しても,これにより死因贈与契約が成立するためには受贈者の承諾の意思表示が必要である(これには,遺言による贈与の趣旨を明確に認識し,かつ,贈与者=遺言者に対し,その生前に承諾の意思を明らかに示す必要があると解される。)から,一般的に遺言制度の存在を無意味にするものとはいえない(本件においても,被告Cに関しては贈与の承諾をした事実は認められず,同被告自身も本件遺言による死因贈与の主張はしていない。)。

(2)被告Bに対する贈与財産の内容(争点(3))
 弁論の全趣旨及び証拠(被告両名各本人,乙22,23)によれば,本件遺言の趣旨(これによりDが被告Bに譲渡した財産の内容)は,第2の3の(3)のアで被告らが主張するとおりであったと認定することができる。

(3)本件遺言時のDの遺言能力(争点(2))
 被告B本人,乙7,8,10,11によれば,本件遺言作成当時,Dは死期が目前に迫った状況であったものの,意識ははっきりしていたことが認められる。そして,Dの死亡原因は大腸ガンであって直接意思能力に影響を及ぼすような病名ではなかったこと,死亡当時62歳であったことなどからすれば,Dは本件遺言作成当時必要な意思能力を有していたことが認定できる。

3 被告Cに対する死因贈与の有無(争点(5))について
 被告Cは,平成10年12月上旬ころ,Dからその死後本件遺言記載の財産をやるという話があり,これを受諾したから,口頭による死因贈与契約が成立した旨主張し,被告両名はこれに沿う供述をしている(被告両名各本人,乙22,23)。

 しかしながら,被告両名の供述は贈与の時期やその内容が抽象的であいまいであり,他にこれを裏付ける証拠もうかがわれないところから,仮にDから被告らに対し,その主張するような内容の話があったとしても,将来の方針をあらかじめ話しておいたというような漠然としたものであった可能性も否定できず,直ちにこれにより死因贈与があったことを認定するには不十分であるというべきである。

 かえって,乙7,24によれば,Dは平成7,8年ころ(その父好秋の遺産を単独承継したころ)から遺言の必要性を認識していたことが認められ,現に死期に臨んで本件遺言を作成しているのであるから,D自身,確定的に被告らに対しその所有する財産を死因贈与したとの認識を持っていなかったことがうかがわれるところである。 
 したがって,被告Cに対する死因贈与は認定できないから,被告Cの反訴予備的請求は理由がない。

4 遺留分減殺請求の消滅時効の有無(争点(6))について
 被告Bは,平成13年6月4日原告へ送達の本件反訴状において,予備的に本件遺言による被告Bへの死因贈与を主張し,これに対し,原告は本件第5回弁論準備手続期日(同年8月27日)陳述の準備書面において,本件遺言による死因贈与について,仮定的に遺留分減殺の意思表示をした(顕著な事実)。

 被告Bは,原告が本件遺言の内容を知った時点(被告ら主張の平成11年1月30日)で遺言であろうと死因贈与であろうと自己の権利が侵害されたことを認識したものであるから,その時点で遺留分減殺請求をすることができ,原告の遺留分減殺請求権は既に時効消滅していたものであると主張している。

 しかしながら,単独行為である遺言(による遺産取得)と契約である死因贈与とはその形式,効力を異にし,別個の法的事実であって,遺留分減殺における取扱いも異なる(民法1033条,1035条等参照)のであるから,本件遺言の内容を認識した時点でそれが死因贈与の趣旨をも含むものであると認識すべきであったとするのは原告に無理を求めるものというべきである。現に,被告Bが本件反訴状提出までに本件遺言による死因贈与を主張した事実はうかがわれず,当事者双方は本件遺言の有効性について争っていた(しかも,原告の無効の主張は上記1認定のとおり当を得たものであった。)のであるから,原告が現実に減殺すべき贈与があったことを知ったとき(時効期間の始期)は被告Bの死因贈与の主張を認識したとき,すなわち本件反訴状送達のときと解すべきである。

 したがって,原告の遺留分減殺請求が時効期間満了前になされたことは明らかであり,被告Bの主張(再抗弁)は失当である。

5 結論
 上記のとおり,原告の本訴請求は理由があるから認容し,被告らの反訴中主位的請求は理由がないから棄却すべきである。
 被告らの反訴中予備的請求については,被告Bの死因贈与の主張は理由があり,これに対する原告の遺留分減殺請求の抗弁も理由があるから,結局原告の法定相続分3分の1からその遺留分割合(2分の1)を控除した共有持分6分の1に限って理由がある(なお,原告の具体的遺留分額に影響を及ぼすべき生前贈与や相続債務等については当事者双方のいずれからも主張されていない。)。したがって,その限度で認容すべきである。
 被告らの反訴中その余の予備的請求については理由がないから棄却すべきである。広島地方裁判所三次支部 裁判官 曳野久男

別紙《略》
物件目録1
1,土地
所在
地番
地目 田
地積 3653平方メートル
2、土地
所在
地番
地目 田
地積 2706平方メートル
3、土地
所在
地番
地目 畑
地積 656平方メートル
4、土地
所在
地番
地目 畑
地積 134平方メートル
5、土地
所在
地番
地目 宅地
地積 613.29平方メートル
6、土地
所在
地番
地目 山林
地積 4165平方メートル
7、土地
所在
地番
地目 山林
地積 3057平方メートル
8、土地
所在
地番
地目 山林
地積 176平方メートル
9、土地
所在
地番
地目 原野
地積 7.77平方メートル
10、土地
所在
地番
地目 雑種地
地積 113平方メートル
11、建物
所在
家屋番号
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 107.28平方メートル
    二階 48,02平方メートル
以上:6,071文字

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