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相続分のないことの証明書は相続分の譲渡・放棄にならないとした地裁判決紹介

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令和 2年 7月 8日(水):初稿
○「相続分のないことの証明書」を用いて被相続人名義の不動産登記の一部を特定の相続人名義に移転させる登記手続が行われたが、同証明書の作成・交付によって相続分の譲渡又は放棄の法律効果は発生しないと判断した平成30年7月12日東京地裁判決(判タ1471号196頁)関連部分を紹介します。

○被相続人名義不動産についてその相続人全員に対し、相続等を原因とする所有権移転登記手続を請求する場合、印鑑登録証明書添付実印押印「相続分のないことの証明書」と司法書士への登記委任状を貰うのが普通のやり方です。しかし、この「相続分のないことの証明書」は、相続分譲渡・放棄の効力がないため、私が、相続人に対し相続等に基づく所有権移転登記手続請求を依頼された場合、先ず、印鑑証明書添付実印押印「相続分譲渡証明書」提出のお願い交渉をすることを原則としています。

○このやり方が正解と確認したのが平成30年7月12日東京地裁判決(判タ1471号196頁)で、同判決は、相続分のないことの証明書」の記載内容や利用実態に鑑みると,事実行為に過ぎない同証明書の作成・交付によって,直ちに同証明書に表示された相続人による相続分の放棄や譲渡等の法律行為の存在を認定するのは相当でなく,同証明書の作成・交付に至った経緯や,その際の説明,当事者の証明書に関する理解度,代償金の有無等の事情を踏まえた上で,上記法律行為があったと推認できるか否かを総合的に判断するのが相当としました。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,それぞれ289万9971円及び別紙2賃料等一覧の月額賃料欄記載の各金額に対する遅滞時期欄記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,亡B(訴訟承継前被告で,原告及び被告らの実母。以下「亡B」という。)に対し,亡Bが遺産分割未了の亡夫(原告及び被告らの実父)の不動産の賃料を独占していたことは原告の共有持分権を侵害する行為であると主張して,原告の法定相続分に相当する賃料相当損害金及び遅延損害金につき不法行為に基づく損害賠償請求をしていたところ,訴訟係属中に亡Bが死亡したため,その訴訟承継人である被告らに対し,亡Bの損害賠償債務の各法定相続分に相当する289万9971円(別紙2賃料等一覧の月額賃料欄記載の合計金額)及び同別紙の同欄記載の各金額に対する遅滞時期欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことを求めている事案である。


     (中略)



第3 当裁判所の判断
1 判断の前提となる事実



     (中略)


 
2 争点(2)(原告は本件証明書によって亡Eの相続分の放棄又は譲渡をしたか)について
(1)「相続分のないことの証明書」(本件証明書と同様に,「私(相続人)は,相続分以上の贈与を受けたので,被相続人の死亡による相続分のないことを証明する。」との趣旨が簡潔に記載され,当該相続人又は法定代理人の印鑑登録証明書を添付した実印が押捺された文書)は,一般に,多くの手間や費用を要する相続放棄や遺産分割協議等の正規の手続を経ることなく,一部の相続人に相続財産を取得させるための便法として,登記実務上多く利用されているものである(甲11,12)。

 このような「相続分のないことの証明書」の記載内容や利用実態に鑑みると,事実行為に過ぎない同証明書の作成・交付によって,直ちに同証明書に表示された相続人による相続分の放棄や譲渡等の法律行為の存在を認定するのは相当でなく,同証明書の作成・交付に至った経緯や,その際の説明,当事者の証明書に関する理解度,代償金の有無等の事情を踏まえた上で,上記法律行為があったと推認できるか否かを総合的に判断するのが相当である。

(2)本件では,亡Fが本件証明書を作成し,これを亡Bに交付したことによって,亡Fが原告の親権者として,亡Eの相続財産に関する原告の相続分を処分(放棄又は亡Bへの譲渡)したと認められるかが問題となっている。

 まず初めに,本件証明書に記載された原告が亡Eから自己の相続分を上回る額の生前贈与を受けていた事実(原告の具体的相続分が零の事実)の有無につき検討すると,本件全証拠によっても,上記事実を認めるには足りないし,上記事実が真実存在したものと亡Fが具体的に認識していたとも認め難い。

 上記判断を前提として,原告の親権者である亡Fによる上記相続分処分行為の有無につき検討すると,亡Eの死後約8年が経過した平成4年10月になって本件証明書が作成・交付されるに至ったのは,被告らも自認するとおり,その当時亡Bから亡Fに対し本件証明書の作成・交付の依頼があったことによるものである。上記作成・交付に際して当時交わされた両名の間のやり取りの詳細は証拠上不明であるものの,亡B及び被告らが本件土地上の本件建物を生活の本拠としていたこと,本件証明書の作成・交付直後に本件土地亡E持分を亡Bに移転させる本件持分移転登記が実行されたこと,当時の亡Fの判断能力に疑問を生じさせる事情は窺われないことに鑑みると,その当時,亡F及び亡Bの間では,少なくとも,何らかの事情により相続登記が未了となっていた本件土地亡E持分を亡Bに移転させる必要が生じて,その登記手続のために本件証明書が必要であるという趣旨の話が出ていたものと考えるのが合理的である(前記1(9)で認定した亡F名義の借入れを行う際に,本件土地にも根抵当権を設定する必要が生じたことがその理由であるとも考え得るが,亡Bが生前そのような主張を行っていたわけではなく,その当時上記登記手続を行う何らかの必要性があったということ以上の真相はもはや不明というよりほかない。)。

 もっとも,上記やり取りの詳細が不明である以上,亡Fが亡Bの要請に応じて本件証明書を作成・交付した趣旨が,亡Eの相続財産に係る原告の相続分についての包括的な処分を積極的に意図したものであったのか,それとも単に亡Bによる単独の相続登記の便宜を図ったに過ぎないものであったのかは,証拠上判然としないといわざるを得ない。

上述の証拠上認定し得る限度での本件証明書の作成・交付の経緯に照らしてみれば,亡Fが亡Bにおいて本件持分移転登記を行う必要性につき理解を示していたことは確かであるものの,これを超えて亡Fが原告に代わって亡Eの相続財産に係る相続分の包括的な処分行為に及んだ事実まで推認するのは証拠上困難というべきである。

(3)これに対し,被告らは,亡Bが子供3人を抱えた家族の生活を女手一つで維持していくためには,亡Eのほぼ唯一の遺産であった本件建物等を単独で取得する必要性が高く,そのことを亡Fも十分理解して本件証明書の作成・交付に応じてくれたのであるから,その作成・交付行為には亡Fによる原告の親権者としての財産処分行為の実質が伴っていたものである旨主張する。

 しかし,そもそも亡Eには本件建物等以外にめぼしい相続財産が存在しなかったという前提自体の真偽が証拠上不明である上,仮に亡Bが真に家族の生活の維持のために本件建物等を単独で取得することが不可欠であったというのであれば,亡Eの死後約8年が経過してから突如登記名義の変更に向けた動きが生じたという経過はいささか唐突かつ不可解に映るものであり,被告らからはこの点に関する合理的な説明がなされていないことも考慮すると,的確な裏付けを欠く被告らの主張を採用するのは困難であるといわざるを得ない。

(4)以上によれば,亡Fが本件証明書を作成し,これを亡Bに交付した行為によって,直ちに亡Fが原告の親権者として亡Eの相続財産に係る原告の相続分についての積極的な処分行為(放棄又は亡Bへの譲渡)をしたとまでは認められない。

3 争点(3)(亡Bに亡Eの相続開始時を起算点とする本件建物の取得時効が成立するか)について


     (中略)



以上:3,328文字

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