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遺産分割協議後新発見財産も法定相続分での分割を命じた家裁審判紹介

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令和 2年 9月10日(木):初稿
○被相続人(父)の遺産について、亡D(母)、申立人及び相手方は、遺産分割協議を行っていましたが、本件遺産は先行協議の対象財産になっておらず、後になって発見されたものであり、先行協議において、申立人が取得した財産と相手方が取得した財産の価額において著しい不均衡が生じており、また、相手方が取得したE土地及びF土地について、相続税評価額ではなく、不動産鑑定評価書の額を採用すると、さらに不均衡が著しいものとなるとして、申立人が相手方に対し、先行協議において申立人と相手方が取得した財産の価額の著しい不均衡を一切の事情(民法906条)として考慮すべきであって、本件遺産は、すべて申立人の取得とすべきであると主張しました。

○これに対し、申立人及び相手方は、先行協議の際には本件遺産の存在を知らなかったのであって、先行協議の対象となっている財産のほかに、分割対象となる遺産があるとは考えていなかったと認めるのが相当であるから、仮に、先行協議において申立人と相手方が取得した財産の価額に差異があるとしても、相手方はそれを受忍して先行協議に応じたものであるところ、その後に発見された本件遺産の分割において、先行協議で各自が取得した財産の価額を考慮するのは相当でなく、本来の相続分に応じて、各自が取得する財産の価額を定めるのが相当であるとして、相手方は、財産をすべて単独取得し、またその遺産取得の代償として申立人に対し約677万円の支払を命じた平成31年3月6日大阪家裁審判(判時2446号30頁)全文を紹介します。




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主   文
1 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
 相手方は、別紙遺産目録記載の財産を全て単独取得する。
2 相手方は、前項の遺産取得の代償として、申立人に対し、本審判確定の日から1か月以内に、677万4634円を支払え。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
 事実の調査の結果に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は、以下のとおりである。
1 相続の開始、相続人、法定相続分
(1)被相続人は、平成11年×月×日に死亡し、相続が開始した。被相続人の相続人は、被相続人の妻である亡D、申立人及び相手方であった。なお、申立人及び相手方は、いずれも被相続人と亡Dの間の子である。
(2)亡Dは、平成13年×月×日に死亡し、その相続人は申立人及び相手方である。
(3)したがって、現時点における被相続人の相続人は申立人及び相手方であり、その法定相続分は各2分の1である。

2 遺産の範囲及び評価
 別紙遺産目録(以下「目録」という。)記載の財産(以下「本件遺産」という。)が被相続人の遺産であること、目録記載1から3までの貯金の評価額をそれぞれ残高証明書の残高欄の額に備考欄記載の解約利子額(税引後)を加えた額とすること、目録記載4の貯金の評価額を同証明書の残高欄の額とすることは当事者間に争いがなく、事実の調査の結果によってもこれが認められる。
 したがって、目録記載1の貯金の評価額は311万4702円、同2の貯金の評価額は543万4992円、同3の貯金の評価額は499万5900円、同4の貯金の評価額は3675円となり、本件遺産の評価額の合計は1354万9269円である。

3 平成12年1月12日の遺産分割協議について
(1)申立人の主張

 被相続人の遺産について、亡D、申立人及び相手方は、平成12年1月12日に遺産分割協議(以下「先行協議」という。)を行ったが、本件遺産は先行協議の対象財産になっておらず、亡Dの死亡後の平成16年頃になって発見されたものである。
 そして、先行協議において、申立人が取得した財産は現金200万円のみである一方、相手方が取得した財産の価額は、相続税評価額でも3355万6665円であり、著しい不均衡が生じている。また、相手方が取得したEの土地(以下、「本件土地1」という。)及びFの土地(以下、「本件土地2」といい、本件土地1と併せて「本件各土地」という。)について、相続税評価額ではなく、不動産鑑定評価書の額を採用すると、本件各土地の相続開始時の時価は合計1億0080万円となる。
 したがって、先行協議において申立人と相手方が取得した財産の価額の著しい不均衡を一切の事情(民法906条)として考慮すべきであって、本件遺産は、全て申立人の取得とすべきである。

(2)相手方の主張
 相手方が先行協議により取得した財産の価額が、相続税評価額において高額になっているのは、相手方が取得した本件各土地がいわゆる倍率方式により評価された結果である。本件各土地は、ともに市街化調整区域内にある農地であって用途に制約があり、また、本件土地2は公道に面していないため宅地化することは不可能又は著しく困難な土地であって、本件各土地の実際の価額は相続税評価額よりも著しく低いものである。
 また、相手方は先行協議において葬儀費用を全額負担していることなどを考慮すると、先行協議において相手方が取得した財産の価額は、申立人が取得した200万円と比べて有意な差があるものではない。

(3)当裁判所の判断
ア 本件記録によれば、以下の事実が認められる。
(ア)申立人、相手方及び亡Dは、平成12年1月12日、被相続人の遺産の遺産分割協議に合意をし、遺産分割協議書を作成した(先行協議)。
(イ)先行協議においては、亡Dの取得する財産は、土地2筆(うち1筆については被相続人の持ち分6分の2)、建物3棟についての被相続人の持ち分各3分の1、預貯金及び現金100万円等であり、相手方が取得する財産は、本件各土地のほか、農耕具等、農協の出資金及び電話加入権であり、申立人が取得する財産は現金200万円のみであった。
(ウ)先行協議に基づいて作成された相続税申告書においては、亡Dが取得した財産の価額は3223万3065円、相手方が取得した財産の価額は3355万6665円(うち本件各土地の価額が合計3321万9865円、申立人が取得した財産の価額は200万円とされている。なお、同申告書においては、遺産の課税価格が遺産に係る基礎控除額を超えないため、納付すべき税額は0円とされている。
(エ)先行協議は、亡Dが主導してされたものであったが、本件遺産は、先行協議では遺産分割の対象財産とはなっておらず、申立人及び相手方は、先行協議の時点では本件遺産の存在を知らなかった。
(オ)亡Dが死亡した後の平成16年頃になって,本件遺産が被相続人名義のまま残っていることが判明した。 

イ 上記ア(エ)のとおり、申立人及び相手方は、先行協議の際には本件遺産の存在を知らなかったのであって、先行協議の対象となっている財産のほかに、分割対象となる遺産があるとは考えていなかったと認めるのが相当である。そうすると、仮に、先行協議において申立人と相手方が取得した財産の価額に差異があるとしても、相手方はそれを受忍して先行協議に応じたものである。このような場合においては、その後に発見された本件遺産の分割において、先行協議で各自が取得した財産の価額を考慮するのは相当でなく、本来の相続分に応じて、各自が取得する財産の価額を定めるのが相当である。

 申立人は、亡Dから、「今は200万円で我慢してほしい。あなたの分は後々考えているから。」、「現金は200万円しかなく、あなたにそれ以上を分けようとすると土地を売る必要がある。」などと何度も説得を受けたために、先行協議を受入れたものであると主張するが、そのような事実があったとしても、前記判断を左右するものではない。

ウ 本件各土地の登記上の地目はいずれも田であり、また、市街化調整区域内に存在する。そして、一般に、市街化調整区域内にある農地については、他の目的に転用するには原則として農地法上の転用許可が必要となり(農地法4条1項)、所有権の移転にも原則として許可が必要である(農地法3条1項)など、土地の利用及び処分に制限があり、その価値は低廉なものである。これに加え、相手方は、先行協議において葬儀費用を全て負担することとされており、その額が233万5070円に達していることなども考慮すると、先行協議において相手方が取得した財産の価額が、申立人が取得した200万円と比較して著しく高額であるとは評価し難い。

 これに対し、申立人は、不動産鑑定評価書及び不動産調査報告書に基づき、本件各土地の相続開始時の価額が合計1億0080万円であると主張する。しかし、上記評価書は、取引事例比較法によって本件各土地の価額を評価しているところ、相手方は、先行協議がされた平成12年1月12日から19年以上にわたって、他者に売却や賃貸等をすることなく、本件土地1を家庭菜園及び庭として、本件土地2を田として利用し続けている。また、前述のような市街化調整区域内にある農地に対する制限を踏まえると、本件各土地を売却すること自体が容易ではないと考えられることなども考慮すると、本件においては、上記評価書のように、取引事例比較法のみによって本件各土地の価額を評価するのが相当とはいえない。

4 分割方法
 本件遺産の分割方法については、当事者間において、代償金の支払が必要となる場合には、相手方が本件遺産を全て取得し、申立人に対し審判確定の日から1か月以内に代償金を支払うこととする旨の合意があり、この方法によるのが相当である。そして、本件遺産の評価額の合計は前記2のとおり1354万9269円であり、前記3のとおり本件において先行協議の結果により本件遺産の相続分を修正すべきとはいえないから、申立人の相続分は2分の1である。
 したがって、相手方の支払うべき代償金の額を677万4634円とするのが相当である。

5 よって、主文のとおり審判する。
(裁判官 深見翼)

別紙 遺産目録
1 金融機関 G銀行
  種類   H
  記号番号 《略》
2 金融機関 G銀行
  種類   H
  記号番号 《略》
3 金融機関 G銀行
  種類   H
  記号番号 《略》
4 金融機関 G銀行
  種類   I
  記号番号 《略》
以上:4,172文字

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