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任意後見法第10条1項に該当しないと判断した高裁決定紹介

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令和 3年 6月15日(火):初稿
○「任意後見契約の基本の基本1」に「老化進行で自分の判断能力が低下した場合に備えて,元気なうちに,自分が信頼できる人を見つけて,その人との間で,判断能力が低下した場合,自分に代わって,自分の財産を管理したり,必要な契約締結等をして下さいとお願いしてこれを引き受けてもらう契約を,任意後見契約といい、将来の老いの不安に備えた「老い支度」ないしは「老後の安心設計」とされています。」と説明していました。

○「当事務所では任意後見の相談は殆どなく、任意後見の相談は、法律事務所よりは司法書士事務所或いは遺言書作成の際に公証人に相談する例が多いようにも見受けられます。」と説明していたとおり、弁護士生活42年目に入りましたが、任意後見契約書を作成した事案は1件しかなく、制度自体を殆ど忘れていました(^^;)。任意後見に関する以下の判例を参考に復習します。

○任意後見制度は、「任意後見契約に関する法律」に規定されており、条文は僅か11条だけで、第10条として次の通り規定されています。
第10条(後見、保佐及び補助との関係)
 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。


○抗告人の二女である原審申立人が,抗告人について,後見開始の審判を申し立て、上記の任意後見法第10条の「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に該当するとして、原審徳島家庭裁判所阿南支部は、抗告人ついて保佐開始と保佐人選任の審判が出され、抗告人が高裁に即時抗告申立をしました。

○これについて、抗告人が原審判に先立ってその孫との間で締結した任意後見契約は有効であると認めた上で,任意後見契約が締結されている場合における保佐開始の審判の要件である「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」(任意後見契約に関する法律10条1項)には該当しないとして,抗告人の保佐を開始した原審判を取り消し,原審申立人の申立てを却下した令和元年12月13日高松高裁決定(家庭の法と裁判31号84頁、判時2478号○頁)全文を紹介します。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 原審申立人の抗告人についての保佐開始の審判の申立てを却下する。
3 手続費用は,原審・当審とも,各自の負担とする。
 
理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

 別紙「抗告状」(写し)記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 事案の要旨と審理経過

(1) 本件は,抗告人の二女である原審申立人が,抗告人について,後見開始の審判を申し立てたが,原審における鑑定の結果を踏まえて,保佐開始の審判及び代理権付与の審判の申立てに変更をした事案であるが,抗告人は,原審判に先立ち,抗告人の孫(抗告人の長女亡Cの子)であるDとの間で,抗告人について任意後見契約(以下「本件任意後見契約」という。)を締結し,その旨の登記を経由していた。

(2) 原審は,抗告人について,事理弁識能力が十分ではなく,かつ,任意後見契約に関する法律(以下「任意後見契約法」という。)10条1項の「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」に該当するとして,抗告人について保佐を開始するとともに,保佐人としてE社会福祉士(以下「○○社会福祉士」という。)を選任する旨の審判をする一方,代理権付与の審判の申立てについては,抗告人の同意がないとして,却下した。
 これに対し,抗告人が,原審判を不服として即時抗告した。

2 判断
(1) 認定事実

 一件記録によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 抗告人(昭和3年○○月○○日生)は,F(大正10年○○月○○日生,平成5年○○月○○日死亡)との間に,長女である亡C(昭和26年○○月○○日生,平成27年死亡)及び二女である原審申立人(昭和31年○○月○○日生)をもうけた。
 原審申立人は,肩書住所地(G)に居住し,薬剤師をしている。
 D(昭和50年○○月○○日生)は,亡Cの子であり,Hに居住し,作業療法士をしている。

イ 抗告人は,平成29年9月2日以降,Iのケアハウスに居住している。

ウ 原審申立人は,平成30年11月5日,徳島家庭裁判所阿南支部に,抗告人について後見開始の審判の申立て(同裁判所平成30年(家)第375号)をした。

エ 徳島家庭裁判所の家庭裁判所調査官(以下「家裁調査官」という。)が,平成30年12月12日,抗告人と面談をしたところ,抗告人は,後見人は必要ないと述べた。
 また,家裁調査官がDに照会書を送付して,抗告人について後見を開始することにつき意見を照会したところ,Dは,抗告人について後見を開始することに反対である,正式な鑑定を実施されたい旨の回答書を提出した。

オ 抗告人とDは,抗告人の手続代理人であるJ弁護士(以下「○○弁護士」という。)と相談の上,抗告人とDとの間で任意後見契約を締結することにした。
 抗告人とDは,平成31年3月20日,K公証役場を訪れ,L公証人(以下「○○公証人」という。)と面会した。L公証人は,抗告人及びDに対し,任意後見契約の概要やDが抗告人の財産管理及び法律行為の代理をすることの意義について説明をした。その上で,抗告人は,L公証人に対し,二女である原審申立人ではなく,孫であるDに任意後見人を頼みたいとの意向を示した。L公証人は,Dに対し,抗告人の認知症に関する診断書を提出するように依頼した。

カ 原審裁判所に選任された鑑定人であるMのN医師は,平成31年3月21日,抗告人の精神状態について,アルツハイマー型認知症(中等度)があり,自己の財産を管理処分するには常に援助が必要であると鑑定した。なお,上記鑑定において実施された長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の結果は,23点であった。

 長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)は,20点以下が認知症疑い,認知症であることが確定している場合は,20点以上で軽度,11~19点は中等度,10点以下は高度とされている。

キ 抗告人とDは,平成31年4月11日,K公証役場で,L公証人と面会し,抗告人の平成30年11月4日実施の簡易精神現症評価(MMSE)と長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の結果を示した。簡易精神現症評価(MMSE)の結果は,30点満点中30点,長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の結果は,30点満点中,28点であった。
 簡易精神現症評価(MMSE)は,23点以下が認知症疑い,27点以下で軽度認知障害が疑われるとされる。

ク 原審申立人は,令和元年5月10日,上記カの鑑定結果を踏まえ,上記ウの申立ての趣旨を後見開始から保佐開始に変更するとともに,新たに代理権付与の申立てをした。

ケ 抗告人とDは,令和元年5月15日,K公証役場を訪れ,L公証人の面前で,抗告人を委任者,Dを受任者とし,以下の(ア)の内容の抗告人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を委任する契約(以下「本件委任契約」という。)と以下の(イ)の内容の任意後見契約(本件任意後見契約)を締結する旨を合意し,同公証人によりその旨の公正証書(令和○○年第○○号)が作成され,同月20日,本件任意後見契約に関する登記が経由された。

(ア) 本件委任契約の内容
a 抗告人は,Dに対し,抗告人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を委任し,Dはこれを受任する。
b 抗告人が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になったときは,Dは,速やかに,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任の請求をしなければならない。
c 抗告人は,Dに対し,別紙(1)記載の事務を委任し,その事務処理のために代理権を付与する。抗告人は,Dに対し,適宜の時期に,登記済権利証,預貯金通帳,キャッシュカード等を引き渡す。
d Dは,抗告人に関する委任事務を処理するために必要な費用を抗告人の財産から支出することができる。
e Dの委任事務処理は,無報酬とする。

(イ) 本件任意後見契約の内容
a 抗告人は,Dに対し,任意後見契約法に基づき,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における抗告人の生活,療養監護及び財産の管理に関する事務を委任し,Dはこれを受任する。
b 本件任意後見契約は,任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる。
c 抗告人は,Dに対し,別紙(2)記載の後見事務を委任し,その事務処理のための代理権を付与する。
d Dが後見事務を処理するために必要な費用は,抗告人の財産から支出することができる。
e Dの後見事務処理は無報酬とする。ただし,後見事務処理を無報酬とすることが不相当となったときは,抗告人及びDは,任意後見監督人と協議の上,報酬を定め,また,定めた報酬を変更することができる。

コ 家裁調査官が,令和元年7月17日に抗告人と面接をしたところ,抗告人は,「後見人や保佐人は必要ない。自分のことは自分でできる。契約等を他人に頼む必要はない。」などと述べ,保佐の開始や代理権付与に同意しなかった。また,家裁調査官が,抗告人に対し,委任契約や任意後見契約を締結していないか確認したところ,抗告人は,そのような手続は一切していない旨述べた。

サ 徳島家庭裁判所阿南支部は,令和元年9月27日,抗告人について保佐を開始し,E社会福祉士を抗告人の保佐人に選任するとの審判(原審判)をした。

シ 抗告人は,J弁護士に宛てた令和元年11月9日付けの自筆の手紙において,家裁調査官に対して本件委任契約や本件任意後見契約の手続は一切していない旨述べた理由について,抗告人を認知症扱いにして保佐を開始しようとした原審申立人に根強い不信感があったからであると説明している。

ス Dは,Oに居住しているものの,原審申立人が抗告人に関する後見開始の審判の申立てをする前である平成30年7月以降,16か月間に,概ね月1回の割合で合計17回にわたりPのケアハウスに居住する抗告人を訪ねて,延べ51日間にわたり,抗告人の身上監護を行った。

(2) 本件任意後見契約の有効性について
 確かに,前記認定のとおり,抗告人は,原審において家裁調査官からの委任契約や任意後見契約を締結していないかという質問に対し,そのような手続は一切していない旨述べているが,当審において,その理由につき,自筆の手紙で,抗告人を認知症扱いにして保佐を開始しようとした原審申立人に根強い不信感があったからであると合理的な説明をしているし,原審鑑定の結果からしても,抗告人が本件任意後見契約締結当時,意思能力を欠いていたとは到底認められないから,本件任意後見契約は有効である。

(3) 任意後見契約法10条1項の要件の有無について
ア 任意後見契約が登記されている場合には,家庭裁判所は,「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り,保佐開始の審判をすることができる(任意後見契約法10条1項)。

「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは,
①任意後見人の法的権限が不十分な場合,
②任意後見人の不当な高額報酬の設定など任意後見契約の内容が不当な場合,
③任意後見契約法4条1項3号に該当するように受任者に不適格な事由がある場合,
④任意後見契約の有効性に客観的な疑念のある場合,⑤本人が法定後見制度を選択する意思を有している場合
など,任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合をいうものと解するのが相当である。

イ これを本件についてみると,上記認定事実によれば,本件任意後見契約の法的権限は別紙(2)記載のとおりであり,その法的権限が不十分であるとは認められないし,任意後見受任者であるDの報酬は無報酬とされ,本件任意後見契約には他にその内容に不当な点は見当たらない。また,任意後見受任者であるDに民法847条各号の欠格事由があるとは認められないし,抗告人に訴訟を提起したり,不正な行為,著しい不行跡などをした事実も認められない上,遠方に居住しているにもかかわらず,平成30年7月以降,16か月間で17回にわたりPを訪れ,延べ51日間にわたり,抗告人の身上看護をしている。そして,上記(2)で見たとおり,本件任意後見契約の有効性には客観的な疑念はないし,本人である抗告人は一貫して法定後見制度は選択しない旨明言している。

 以上によれば,本件では,本件任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となるとは到底認められないから,本件で保佐開始をすることが本人である抗告人の利益のために特に必要があるとは認められない。
 したがって,任意後見契約法10条1項により,抗告人について保佐開始の審判をすることはできない。


3 結論
 以上によれば,原審申立人の抗告人について保佐開始の審判を求める申立ては理由がないから却下するべきところ,抗告人について保佐を開始した原審判は不当である。
 よって,原審判を取り消した上,原審申立人の抗告人についての保佐開始の審判の申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。
 高松高等裁判所第2部 (裁判長裁判官 神山隆一 裁判官 千賀卓郎 裁判官 横地大輔)
 
〈以下省略〉
以上:5,508文字

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