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不当訴訟等理由の遺言執行者による廃除申立を認めた家裁審判紹介

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令和 3年 7月14日(水):初稿
○「多額の負債立替等を理由に遺言執行者による廃除申立を認めた家裁審判紹介」の続きで、被相続人の会社に対する不当訴訟・刑事告訴・取締役不当解任・婚姻費用不払い等を理由に被相続人の夫である推定相続人の廃除をする趣旨の遺言をして、遺言執行者による廃除を認めた令和元年12月6日奈良家裁葛城支部審判(判時2480号18頁)を紹介します。

○この審判は、令和2年2月27日大阪高裁決定で覆されていますので、別コンテンツで紹介します。当事務所でも現在相続人「廃除」が認められるかどうか微妙な案件の相談を受けており、以下の廃除の条文について、具体例として参考になります。

第892条(推定相続人の廃除)
 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

第893条(遺言による推定相続人の廃除)
 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。


○廃除の対象となった被相続人の夫は、被相続人である妻生前に、妻に対し離婚訴訟を提起し、最高裁まで争っています。妻は夫と離婚してしまえば、夫は妻の相続人としての地位を失いますので、相続人廃除の遺言を作成するより、離婚すれば良かったのにと思いますが、妻には何か離婚できない特殊事情があったものと思われます。

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主   文
1 利害関係参加人Aを被相続人Cの推定相続人から廃除する。
2 手続費用は申立人の負担とする。
 
理   由
第1 申立ての趣旨及び理由の要旨

1 利害関係参加人(以下「参加人」という。)は,被相続人の夫であり推定相続人である。

2 被相続人は,平成○○年2月15日付け遺言公正証書(E公証役場平成○○年第○○号)において,参加人が被相続人に対して虐待及び重大な侮辱を加えたので推定相続人から廃除する旨の意思表示をし,遺言執行者として申立人を指定した。

3 被相続人は,平成31年○○月○○日死亡し,前記遺言の効力が生じた。

4 参加人には,次のような被相続人に対する虐待及び重大な侮辱があった。
(1) 離婚請求
 参加人は,平成27年9月以降,被相続人に対して離婚請求を続け,離婚事由が存在せず,1,2審とも請求棄却となったにもかかわらず,さらに上告・上告受理申立までし,平成27年当時から癌になり闘病していた被相続人を死ぬまで苦しめた。

(2) 不当訴訟の提起
 参加人は,株式会社D(以下単に「○○」という。)を共同経営していた被相続人が同社の多額の資金を使い込んだと事実無根の主張をして返還請求訴訟を提起し,1,2審とも敗訴となったが,病身の被相続人を訴訟の負担で苦しめた。

(3) 刑事告訴
 参加人は,(2)の使い込みの事実など存在しないにもかかわらず,F県G警察署に被相続人を刑事告訴し,犯罪者扱いして繰り返し犯罪者だと罵り続け,侮辱した。

(4) 取締役の不当解任
 参加人は,Dの取締役であった被相続人に対し,後の訴訟で不存在及び取消が確認された二度の株主総会によって取締役を解任して不実の登記をした上,役員報酬の支払いを打ち切り,癌で働けない被相続人の貴重な収入源を断ち,被相続人に苦しい生活を余儀なくさせた。

(5) 婚姻費用の不払い
 参加人は,(4)のとおり被相続人を不当に解任し,その収入を奪っておきながら,病人である被相続人からの婚姻費用分担の調停に全く応じず,生活費を考慮せずに放置し,経済的に虐待した。

(6) 被相続人の放置
 参加人は,被相続人が病気で苦しみながら生活をしている状況を知っていたにもかかわらず,最後まで被相続人を苦しめ続けて放置した。

5 よって,申立人は,前記遺言により,遺言執行者として,参加人を被相続人の推定相続人から廃除するとの審判を求める。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所の事実調査の結果によれば,第1の1ないし3の事実が争いなく認められる。

2 第1の4について
(1) 前記認定事実に当裁判所の事実調査の結果を総合すれば,以下の事実が認められる。
① 被相続人と参加人は,昭和50年10月6日に婚姻し,参加人の実家でその両親と同居して2人の子(長男H及び長女I。以下名前のみで記載する。)をもうけた。その後,被相続人と参加人は,自動車修理業を営むようになり,昭和63年7月8日にこれを法人化してDを設立し,参加人が代表取締役に,被相続人と参加人の母であるJが取締役にそれぞれ就任した(なお,その後,H及びIもDの仕事を手伝うようになり,それぞれ取締役に就任している。)。そして,被相続人は,Dにおいて経理を担当し,Dから支払われる参加人や被相続人ら家族の役員報酬,参加人やJの地代家賃を管理し,これらの金銭を被相続人や参加人ら家族の家計及び参加人の父母の生活費に充てていた。

② 被相続人及び参加人ら家族は,平成8年12月,前記実家近くのDの工場建物内に転居し,参加人の父母と別居するようになったが,平成24年○○月に参加人の父が死亡し,Jが一人暮らしをするようになると,被相続人が食事を作って届けるようになり,やがて,参加人が自宅で被相続人と食事を摂った後,被相続人の作った食事を持って実家に赴き,泊まってJの身の回りの世話をした上,翌朝帰宅するようになった。このような状態は,Jが平成28年1月に特別養護老人ホームに入所するまで続いた。

③ 被相続人は,平成25年6月頃,参加人が近隣の女性宅に赴いていたことから不貞を疑い,参加人の顔写真やその女性の写真のコピーに「死ね」とか「色きちがい」と書いて参加人の居室に張るという行為に及んだ。また,被相続人は,平成26年4月17日頃,参加人の父から相続した土地で農作業ばかりしてDの仕事をせず,Jの面倒を見ない参加人に詰め寄り,参加人から暴力を振るわれて約6週間の加療を要する頸椎捻挫,右足関節外側靭帯損傷の傷害を負ったこともあった。

さらに,参加人は,被相続人が自分やJに役員報酬や地代・家賃を渡していないとして不満を募らせ,Dの顧客であるKにそのことを話したところ,平成27年8月頃,Kが被相続人に対し,参加人に役員報酬等を支払っているか確認し,参加人との離婚を勧めたこともあった(なお,参加人は,Dの経営について,L及びMに相談し,顧問料として6万円を支払うようにもなった。)。

このように,被相続人と参加人との間で諍いが生じるようになり,両者の関係は悪くなっていった。そして,被相続人と参加人との関係の悪化に伴い,被相続人とともにDの修理等の主要な業務や営業を行うHや同社の事務を行うIとの関係も悪化したため,両名は,平成27年9月30日,参加人を相手方として,当裁判所に親子関係の円満な調整を求める調停を申し立て,その頃,被相続人も参加人に対して夫婦関係の調整を求める調停を申し立てたが,平成28年2月24日,これらの調停はいずれも不成立となった。

もっとも,参加人は,Jが特別養護老人ホームに入所した平成28年1月以降,Jのいた実家で生活するようになったところ,被相続人が防犯のためDの事務所から2階の自宅に上がる入り口の引き戸の内側にコピー用紙の束を当てて事務所側から開けられないようにするようになったものの,平成28年末頃までは食事を被相続人のいる自宅で摂っており,平成28年8月8日に自損事故を起こして左腕及び右足骨折の傷害を負って同年10月3日まで入院した際も,被相続人が参加人の身の回りの世話をしていた。

④ 被相続人は,平成27年12月に大腸がんに罹患しているとの診断を受け,平成28年1月15日に入院し,同月19日に手術を受けて,同月29日に退院したが,医師からは,今後1年間は治療に専念すべきであり,体力面及び精神面に負担のかかるものは極力控えるよう指示されていた。被相続人は,上記手術後,肝臓にがんの転移していることがわかり,平成29年4月11日からその治療のため入院し,その後退院して自宅に戻り療養を続けたが,平成31年○○月○○日死亡した。

⑤ 参加人は,前記③の調停事件が不成立となると,被相続人を相手方として夫婦関係調整(離婚)調停を当裁判所に申し立て,この調停事件が平成28年9月23日に不成立になると,同年10月19日に離婚訴訟を提起し,被相続人に対し,離婚とともに,被相続人がDから参加人に支払われるべき金員を支払わず,管理保管しているとして,その金員の半額の1400万円を財産分与し,婚姻破綻の原因が被相続人にあるとして慰謝料300万円を支払うこと求めた。

しかし,当裁判所は,参加人や被相続人の本人尋問(被相続人については同人宅での所在尋問)をした上,平成30年3月13日,参加人と被相続人の婚姻関係が破たんしているとは認められないとして,参加人の請求を棄却する旨判決した。これに対し,参加人は,大阪高等裁判所に控訴したが,同裁判所は,同年10月11日,やはり婚姻関係が破たんしているとは認められないとして参加人の控訴を棄却する旨判決した。参加人は,この控訴審判決に対し,さらに上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,令和元年5月22日,被相続人の死亡により離婚請求及び財産分与の申立てに係る部分が終了したことを宣言して上告を受理せず,それ以外の申立てについては上告を却下する旨決定した。

⑥ また,参加人が,平成28年3月1日,被相続人を招集することなくDの臨時株主総会を開催し,同社の取締役に就任していた被相続人,H及びIらを取締役から解任し,K及びNを取締役に選任するとの決議を行い,同月10日付けでその旨の登記をしたため,被相続人は,同年5月6日,Dを被告として上記株主総会決議の不存在確認等を求める訴訟を奈良地方裁判所葛城支部に提起した。

さらに,参加人が,同年10月24日,取締役会の議決を経ないで,Dの臨時株主総会を招集・開催して,再び被相続人らを取締役から解任するなどの決議を行ったため,被相続人は,同年12月2日,この株主総会決議についても,不存在確認等を求める訴訟を同支部に提起した。同支部は,被相続人が提起したこれらの事件を併合審理し,平成29年11月10日,前者については総会決議不存在確認請求を認容し,後者については総会決議不存在確認請求は棄却したものの,取消請求を認容する旨判決した。この判決に対し,被相続人及びDの代表取締役として参加人の双方が控訴したものの,大阪高等裁判所は,平成30年4月11日,双方の控訴をいずれも棄却する旨の判決し,同判決は同月26日確定した。

⑦ 他方,参加人が,Dの取締役から解任したことに基づき,平成28年8月以降の被相続人の役員報酬の支払いを打ち切ったため,被相続人は,同月10日,婚姻費用分担請求の調停を申し立てたが,平成29年6月23日,前記病気(肝転移)のため,この調停申立を取り下げた。

⑧ さらに,参加人は,Dの代表取締役として,平成28年5月23日,被相続人及びHがDに帰属する金員を着服したなどと主張し,同人らを被告として不当利得返還請求訴訟を同支部に提起するとともに,平成29年6月26日には,被相続人を会社法違反の被疑事実でF県G警察署に刑事告訴した。参加人は,その後,Hに対する訴えを取り下げたものの,被相続人に対する訴えは維持していたところ,同支部は,平成29年11月10日,Dの資金やJへの地代を家計と一体として被相続人が管理することを参加人やJが了承ないし許容していたなどとして,Dの請求を棄却する旨判決した。

これに対し,参加人は,Dを代表して控訴したものの,大阪高等裁判所は,平成30年4月19日,控訴棄却の判決をし,同判決は,同年5月8日に確定した。他方,被相続人は,参加人の刑事告訴について,捜査を担当するF県G警察署に平成30年5月1日付け上申書を提出して対応したところ,その後,この刑事告訴については,F地方検察庁O支部において,嫌疑不十分の理由で不起訴処分がなされた。

(2) 前記認定事実によれば,被相続人と参加人との婚姻関係は,平成25年頃から次第に悪化していったことは認められるが,その原因は,不貞を疑われるような行為に及んだり,Dの仕事をしないとして詰め寄った被相続人に暴力を振るったり,家族で経営していたDに他人を関わらせ,被相続人に自分やJの役員報酬や地代・家賃を被相続人が取り込んでしまっているなどと言うようになった参加人の言動にあったといえる。

しかし,参加人は,平成28年末頃までは自宅で食事を摂るなどしていたもので,夫婦が完全に別居するに至ったとはいえないし,参加人及びJの役員報酬や地代・家賃についても,同人らがDの経理を任されていた被相続人において,これらを管理し家計に充てることを了承していたのであって,被相続人が取り込んで私的に流用していたともいえないのであるから,被相続人と参加人との婚姻関係が破綻していたとまでは認められない。

なお,前記③で認定のとおり,被相続人が参加人の顔写真等に「死ね」とか「色きちがい」と書いて参加人の居室に張るといった行為に及んではいるが,これは参加人が不貞を疑われるような行為をしたことに起因するもので,やや感情的ではあるものの,その心情は理解できる。また,実家に住むようになった参加人が自由に自宅に入れないような措置を被相続人が講じたこともあったが,参加人が自宅で食事を摂っていたことからすると,同人の帰宅を拒否するものとはいえない。被相続人のこれらの行為が夫婦関係悪化の原因になったとは考えられない。

 しかるに,参加人は,被相続人が大腸がんにかかって入院して手術を受け,その後がんが肝臓に転移して病状が悪化していたのに,夫婦関係調整(離婚)調停や離婚等訴訟を申し立て,1審で婚姻関係が破綻していないとして請求が認められなかったにもかかわらず,控訴・上告して被相続人が死亡するまでこの訴訟を維持し続けた。

また,参加人は,その間,株主総会決議を経ないなどして被相続人をDの取締役から解任し役員報酬を打ち切ったことから,被相続人に株主総会決議不存在確認請求訴訟の提起や婚姻費用分担調停の申立てをせざるを得なくさせたり,Dから参加人やJに支払われる役員報酬や地代・家賃を取り込んでいるなどと主張し,不当利得返還請求訴訟を提起して被相続人に応訴を余儀なくさせ,さらには被相続人を犯罪者として刑事告訴までして被相続人にその対応を迫らせていた。

参加人のこれら一連の行為がいずれも根拠のないことは,一連の訴訟がすべて参加人の敗訴で確定し,刑事告訴についても嫌疑不十分で不起訴となっていることからも明らかであるところ,これらの行為が重篤な病気を抱えた被相続人に与えた肉体的・精神的苦痛は甚大であり,被相続人が前記公正証書遺言の中で参加人を許せないとしているのも至極当然といえる。

 以上によれば,参加人の一連の行為は,被相続人に対する虐待及び重大な侮辱にあたるというべきであり,参加人を被相続人の推定相続人から廃除するのが相当である。


3 よって,本件申立てを相当と認め,手続費用は申立人の負担とすることとして,主文のとおり審判する。
 奈良家庭裁判所葛城支部 (裁判官 奥田哲也)
以上:6,418文字

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