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賃貸借保証会社賃料支払があっても解除が認められた控訴審判例全文紹介

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平成26年11月28日(金):初稿
○「賃貸借保証会社賃料支払があっても解除が認められた地裁判例全文紹介」の続きで、平成25年11月22日大阪高裁判決(判時2234号40頁)、平成26年6月26日最高裁決定全文を紹介します。

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(平成25年11月22日大阪高裁判決)

主  文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要
1 本件の要旨

 本件のうち,被控訴人X1(以下「X1」という。)の請求は,被控訴人X1が,控訴人との間で締結した別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の賃貸借契約について,控訴人の賃料,共益費,水道代(以下「賃料等」という。)の不払を理由に解除したと主張して,賃貸借契約終了による目的物返還請求権に基づき,本件建物の明渡しを求める事案である。
 本件のうち,被控訴人X2(以下「X2」という。)の請求は,被控訴人X2が,控訴人との間で締結した保証委託契約に基づき,被控訴人X1に対し,控訴人の賃料等39万円(月額7万8000円の5ヶ月分)を代位弁済したと主張して,保証委託契約による求償債務の履行請求権及び保証事務費用請求権に基づき,上記39万円及び保証事務手数料5000円の支払を求める事案である。

 原審は,被控訴人らの上記請求をいずれも認容した。
 控訴人は,この判断を不服として控訴した。

2 前提となる事実(認定の根拠は末尾掲記のとおりである。)
(1) 被控訴人X1は,控訴人との間で,平成23年12月15日,被控訴人X1を賃貸人,控訴人を賃借人として,本件建物について,次の約定で賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,本件建物を引き渡した(争いがない。)。
ア 賃貸借契約 平成23年12月25日から2年間
イ 賃料 月額7万1000円
ウ 共益費 月額5000円
エ 水道代 月額2000円
オ 支払方法 上記イ~エを毎月末日までに翌月分を振り込む。
カ 契約解除 賃料,共益費または電気・ガス・水道等の諸料金を2ヶ月以上遅滞したときは,賃貸人は契約を解除することができる。

(2) 被控訴人X2は,平成23年12月25日,控訴人との間で,本件賃貸借契約に基づく控訴人の債務について,被控訴人X2に次の約定で保証することを委託する契約(以下「本件保証委託契約」という。)を締結し,被控訴人X2は,同日,これを受託した(争いがない。)。
ア 保証する範囲 賃料,共益費,管理費,水道光熱費等
イ 代位弁済 控訴人が本件賃貸借契約に基づく金銭債務の履行を遅延したときは,被控訴人X2は,控訴人に対して通知することなく,その全部または一部を代位弁済することができる。
ウ 保証事務費用等 控訴人は,被控訴人X2が代位弁済を行ったときは,直ちに代位弁済金のほかに,代位弁済1回につき1000円の保証事務手数料を支払わねばならない。

(3) 被控訴人X2は,平成23年12月25日,被控訴人X1との間で,本件賃貸借契約に基づく控訴人の債務について保証する契約(以下「本件保証契約」という。)を締結した(甲3)。

3 争点及び当事者の主張
 本件の主たる争点は,信頼関係破壊により本件賃貸借契約が解除されたかである。
(1) 被控訴人X1の主張

ア 控訴人は,被控訴人らの再三の催告にもかかわらず,平成24年4月分~同年8月分の賃料等を支払わない。なお,控訴人は,平成24年2月分以降滞納を繰り返しており,賃料等の滞納は常態化している。

イ 被控訴人X1は,平成24年4月11日,控訴人に対し,書面受領後5日以内に賃料等を支払うよう催告し,支払がない場合は本件賃貸借契約を解除する旨の内容証明郵便を送付したが,控訴人がこれを受領しなかったため,同月21日,同内容の書面を普通郵便で送付し,その頃到達した。これにより,同月28日,本件賃貸借契約は解除された。

ウ また,被控訴人X1は,控訴人に対し,平成24年9月13日送達の訴状をもって本件賃貸借契約を解除する旨通知した。

エ 控訴人は,平成24年9月分~平成25年3月分の7ヶ月分の賃料等を滞納した。控訴人は,被控訴人X1からの支払催促に対し,本件賃貸借契約の連帯保証人であるZ(以下「Z」という。)に請求するように求めており,自ら賃料等を支払おうとしない。よって,被控訴人X1と控訴人との間において,本件賃貸借契約の信頼関係は,破壊されている。

オ 被控訴人X1は,平成25年3月4日に開かれた原審第2回口頭弁論期日において,第1準備書面を陳述し,これにより賃料等の不払による本件賃貸借契約解除の意思表示をした。

カ よって,被控訴人X1は,控訴人に対し,本件賃貸借契約の終了による目的物返還請求権に基づき,本件建物の明渡しを求める。

(2) 被控訴人X2の主張
ア 被控訴人X2は,本件保証委託契約に基づき,被控訴人X1に対し,控訴人のために,平成24年4月9日,同年5月10日,同年6月7日,同年7月9日及び同年8月7日に,計5回にわたって,各7万8000円ずつ合計39万円の賃料等を代位弁済した。

イ よって,被控訴人X2は,控訴人に対し,本件保証委託契約に基づき,代位弁済金39万円と保証事務手数料(5回分)5000円の支払を求める。

(3) 控訴人の主張
ア 本件賃貸借契約の解除無効について

(ア) 被控訴人X1は,平成24年4月~平成25年3月の賃料等を支払わないと主張する。しかし,被控訴人X2が,本件保証委託契約に基づき,被控訴人X1に対し,控訴人の賃料等を代位弁済しているから,控訴人には賃料等の不払はない。すなわち,本件保証委託契約によれば,被控訴人X2は,控訴人の賃料等について,月額賃料等の12ヶ月分相当額,建物明渡請求訴訟が提起された場合でも,訴訟提起時の滞納額に加え,月額賃料等の10ヶ月分相当額を上限として保証することになっているから(本件保証委託契約3条),平成24年4月分~平成25年1月分(10ヶ月分)は,被控訴人X2による代位弁済により支払われており,控訴人に賃料等の不払はない。

(イ) 本件賃貸借契約では,賃料等を2ヶ月以上遅滞したときは,賃貸人は契約を解除することができるとされているが(本件賃貸借契約17条①),上記(ア)のとおり,平成25年1月分までは被控訴人X2による代位弁済によって賃料等の支払がされているから,本件賃貸借契約解除の意思表示をした時点(平成25年3月4日)における控訴人の賃料等の不払は同年2月分の1ヶ月だけである。そうすると,上記条項により,被控訴人X1は本件賃貸借契約を解除できない。よって,本件賃貸借契約解除は無効である。

イ 信頼関係破壊がないことについて
 本件賃貸借契約には,次のとおり,控訴人に有利に考慮すべき事情があるため,信頼関係破壊に至っていない。
(ア) 被控訴人X1は,控訴人に対し,控訴人がパニック障害に罹患して訴訟に十分対応できないことを知りながら,一度電話で支払督促をしただけで本件賃貸借契約を解除し,本件建物の明渡しを請求している。このように,本件賃貸借契約の解除は被控訴人X1が一方的にしており,控訴人の賃料等の不払によって信頼関係が破壊されてはいない。

(イ) 控訴人はパニック障害に罹患し,自己管理能力が減退していたため,連帯保証人であるZに賃料等の支払など本件賃貸借契約の対応を一任していたにもかかわらず,Zにおいてこれに適切に対応できなかったことが賃料等を滞納した原因である。パニック障害に罹患していなければ,控訴人は賃料等を支払っていたのである。

(ウ) 控訴人は,パニック障害に罹患しながらも,生活保護申請をするなどして,賃料等を支払う努力をし,現に,平成25年8月2日,被控訴人X1に対し,同月分の賃料等を含め,滞納賃料等の一部21万2500円を支払い,今後も賃料等を支払う意思がある。

(エ) 控訴人は,パニック障害に罹患しており,日常生活で車いすの利用が必須であるが,本件建物はバリアフリーで控訴人の障害特性に合致している。控訴人は,本件建物以外にも控訴人の障害に適合する物件を探したが,いずれも断られて,転居が困難な状況にある。

ウ 権利濫用について
 仮に,信頼関係が破壊されていたとしても,上記イ(ア)のとおり,被控訴人X1は,控訴人がパニック障害に罹患していることを奇貨として,一方的に本件賃貸借契約の解除をし,本件建物の明渡しを請求しており,権利の濫用として許されない。

第3 当裁判所の判断
1 被控訴人X1の請求について(本件賃貸借契約は解除されたか)

(1) 前記前提事実(1)によれば,控訴人と被控訴人X1との間で,平成23年12月15日,本件賃貸借契約が締結されたことが認められるから,控訴人は,被控訴人X1に対し,賃料等月額7万8000円を支払う義務がある。

(2) 本件賃貸借契約では,控訴人が賃料等の支払を2ヶ月以上滞納すれば,被控訴人X1は本件賃貸借契約を解除することができる(本件賃貸借契約17条①)ところ,弁論の全趣旨によれば,控訴人は,平成24年4月分~平成25年3月分までの賃料等を支払っていないことが認められる。よって,被控訴人X1は本件賃貸借契約を解除することができる。
 これに対し,控訴人は,平成24年4月分~平成25年1月分の賃料等については,被控訴人X2がこれを代位弁済しているから,控訴人に賃料等の不払はないと主張する。そして,証拠(甲7の1,2,甲8)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人X2は,被控訴人X1に対し,平成24年2月~平成25年6月まで,毎月の賃料等7万8000円に相当する金額を代位弁済していることが認められる。

 本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は,保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し,賃借人が賃料の支払を怠った場合に,保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり,これにより,賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし,賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。しかし,賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって,賃借人による賃料の支払ではないから,賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり,保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら,保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって,これにより,賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく,ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。よって,控訴人の上記主張は理由がない。

(3) 被控訴人X1は,訴状で控訴人に対し未払賃料等の支払を請求しているから,訴状が控訴人に送達された平成24年9月13日(裁判所に顕著)に,被控訴人X1から控訴人に対し,未払賃料等の支払催告がされたと解することができる。また,被控訴人X1は,平成25年3月4日の原審第2回口頭弁論期日において陳述した第1準備書面において,本件賃貸借契約解除の意思表示をしたことが認められる(裁判所に顕著)。

(4) これによれば,被控訴人X1の控訴人による賃料等の不払を理由とする本件賃貸借契約解除の意思表示は有効であるから,本件賃貸借契約は平成25年3月4日に解除されたものと認めることができる。

2 被控訴人X1の請求について(信頼関係破壊の有無)
(1) 上記1(2)のとおり,控訴人は被控訴人X1に対し,平成24年4月分~平成25年3月分の賃料等を支払っていないことが認められる(甲7の1,2,甲8,弁論の全趣旨)。

(2) また,控訴人は,被控訴人X2に対する求償債務についても,平成24年5月2日に15万8000円を支払っただけで,その後の支払をしていないことが認められる(甲8,弁論の全趣旨)。

(3) 上記(1)のとおり,控訴人が被控訴人X1に対する賃料等の支払を怠っていることからすると,本件賃貸借契約について,被控訴人X1と控訴人との信頼関係は破壊されているものと認めるのが相当である。

(4) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,被控訴人X1が一度電話で督促しただけで,控訴人がパニック障害に罹患していることを奇貨として一方的に本件賃貸借契約を解除したと主張する。
 弁論の全趣旨によれば,控訴人がパニック障害に罹患していることが認められる。しかし,上記(1)のとおり,控訴人は,少なくとも平成24年4月分以降賃料等を支払っていないのであるから,被控訴人X1による本件賃貸借契約の解除が一方的であるとは認められない。よって,控訴人の上記主張は理由がない。
 なお,控訴人は,上記事情から,被控訴人X1の請求が権利濫用であるとも主張するが,上記理由により認められない。

イ 控訴人は,賃料等の不払はパニック障害に罹患し,自己管理能力が減退していたために,本件賃貸借契約の対応を桐村に一任していたのが原因であると主張する。
 しかし,控訴人がZに対し,本件賃貸借契約の対応を一任していたとしても,Zにおいて適切な対応をとっていないことを控訴人自ら自認しているから,この主張内容それ自体に照らし,信頼関係の破壊することを妨げる事情となるとはいえないことは明らかである。よって,控訴人の上記主張は採用できない。

ウ 控訴人は,賃料等を支払う努力を行っており,未払賃料等の一部を支払っていると主張する。
 証拠(乙1~6)によれば,控訴人が,生活保護の申請を行い,平成25年8月2日に,同月分の賃料等を含め21万2500円を支払った事実が認められる。しかし,これらの事実は,本件賃貸借契約の解除(平成25年3月4日)後にされており,しかも,本件賃貸借契約の解除後約5か月も経過していることからすると,控訴人と被控訴人X1との信頼関係破壊を妨げる事情には当たらない。

エ 控訴人は,本件建物が控訴人の障害特性に適合した物件であり,他の適合する物件を探して転居することが困難であると主張するが,これをもって信頼関係破壊を否定するまでの事情とはいえない。

3 被控訴人X2の請求について
(1) 前記前提事実(2)のとおり,被控訴人X2と控訴人との間で,本件保証委託契約が締結されたことが認められる。

(2) 証拠(甲7の1,2,甲8)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人X2は,本件保証委託契約に基づき,被控訴人X1に対し,控訴人のために,平成24年4月9日,同年5月10日,同年6月7日,同年7月9日及び同年8月7日に,計5回にわたって,各7万8000円ずつ合計39万円を代位弁済したことが認められる。

(3) また,本件保証委託契約によれば,控訴人は,被控訴人X2に対し,代位弁済1回につき,1000円の保証事務手数料を支払う義務を負っている(本件保証委託契約3条)。

(4) したがって,控訴人は,本件保証委託契約に基づき,被控訴人X2に対し,上記代位弁済金39万円及び保証事務手数料5000円の支払義務がある。

4 以上のとおりであるから,被控訴人X1の本件賃貸借解除に基づく本件建物の明渡請求,被控訴人X2の本件保証委託契約に基づく代位弁済金39万円及び保証事務手数料5000円の支払請求は,いずれも理由があり,これを認容すべきであるから,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小島浩 裁判官 大西嘉彦 裁判官 橋本都月)

 別紙
 物件目録
 所在 ●●●
 家屋番号 ●●●
 種類 ●●●
 構造 ●●●
 床面積 1階 ●●●
 2階ないし10階 ●●●
 上記建物のうち,●●●階●●●号室部分約●●●平方メートル


(平成26年6月26日最高裁決定)

主 文
 裁判官全員一致の意見で,別紙のとおり決定。
 平成26年6月26日
 最高裁判所第一小法廷
 裁判所書記官 A 印
 (裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹)

別紙

第1 主文
1 被上告人X1に対する上告を棄却する。
2 被上告人X2に対する上告を却下する。
3 本件を上告審として受理しない。
4 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。

第2 理由
1 被上告人X1に対する上告について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。

2 被上告人X2に対する上告について
 上告状及び上告理由書には,被上告人X2に対する上告理由の記載がない。

3 相手方X1に対する上告受理申立てについて
 本件申立ての理由によれば,本件は,民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。

4 相手方X2に対する上告受理申立てについて
 上告受理申立書及び上告受理申立理由書には,相手方X2に対する上告受理申立ての理由の記載がない。


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