平成27年 2月 4日(水):初稿 |
○現在当事務所で担当している賃料(地代)減額請求調停申立事件の参考判例として、「賃料増減額確認請求訴訟物に関する平成26年9月25日最高裁判決要旨紹介」を記述していましたが、その中に出てくる賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物について、賃料増減請求の結果が生じた時点の賃料額相当性・相当賃料額であるとの「時点説」を採用した平成11年3月26日東京地裁判(判タ1020号216頁)全文を2回に分けて紹介します。 ******************************************** 主 文 一 別紙物件目録一記載の土地の賃料が、平成6年12月1日以降月額金8万8300円、平成7年8月1日以降月額金9万1800円、平成8年7月1日以降月額金9万3900円であることを確認する。 二 別紙物件目録二記載の賃料が、平成6年12月1日以降月額金34万5400円、平成7年8月1日以降月額金36万1200円、平成8年7月1日以降月額金37万2100円であることを確認する。 三 原告のその余の請求を棄却する。 四 本件反訴を却下する。 五 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを10分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第一 請求 (本訴) 一 原告が被告に賃貸している別紙物件目録一記載の土地の賃料は、平成6年12月1日以降月額金9万7540円、平成7年8月1日以降月額10万2740年、平成8年7月1日以降月額金10万5310円であることをいずれも確認する。 二 原告が被告に賃貸している別紙物件目録二記載の土地の賃料は、平成6年12月1日以降月額金36万4320円、平成7年8月1日以降月額金38万3730円、平成8年7月1日以降月額金39万3320円であることをいずれも確認する。 (反訴) 一 被告が原告から賃借している別紙物件目録一記載の土地の賃料は、平成10年11月1日以降月額金5万9200円であることを確認する。 二 被告が原告から賃借している別紙物件目録二記載の土地の賃料は、平成10年11月1日以降月額金25万3700円であることを確認する。 第二 事実の概要 本件は、原告が本訴として被告に賃貸している堅固建物所有目的の土地と非堅固建物所有目的の土地とについて、平成6年12月1日以降、平成7年8月1日以降、平成8年7月1日以降の各賃料の増額確認請求をしたのに対して、被告が反訴として右各土地につき、平成10年11月1日以降の各賃料の減額確認請求をした(ただし反訴については民訴法146条1項但書に基づく却下の申立てがなされている。)事案である。 一 前提事実(特記した以外は争いがない) 1 原告は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件一の土地」という。)及び同目録二記載の土地(以下「本件二の土地」という。)を所有しており、これらの各土地を被告に大要次の条件で賃貸している。 (一) 本件一の土地につき 目的 堅固建物所有 期間 昭和55年2月1日より30年間 賃料 昭和61年4月1日から月額金6万9750円 賃料の支払時期 毎月28日までに当月分を支払う (二) 本件二の土地につき 目的 非堅固建物所有 期間 昭和56年9月30日まで20年間 ただし法定更新により現在の期間は平成13年9月30日まで 賃料 昭和61年4月1日から月額金26万530円 賃料の支払時期 毎月28日までに当月分を支払う。 2 原告は、平成6年11月24日付け書面にて、平成6年12月1日以降本件一の土地の賃料を月額金9万7540円に、本件二の土地の賃料を月額金36万4320円に増額する旨の通知を行い、平成7年7月25日、東京弁護士会において、当時の被告の代理人豊田誠弁護士に、平成7年8月1日以降本件一の土地の土地の賃料を月額金10万2740円に、本件二の土地の賃料を月額金38万3730円に増額する旨の通知を行い、平成8年6月7日付け内容証明郵便により、平成8年7月1日以降本件一の土地の賃料を月額金10万5310円に、本件二の土地の賃料を月額金39万3320円に増額する旨の通知を行ったが、被告が右増額につきいずれも拒絶し、現在も従前と同額の賃料のみを支払い続けている。 3 原告と被告との間の本件一及び二の各土地の賃料の推移は、別表のとおり(ただし昭和55年2月からの欄は、「非堅固」とあるのが本件二の土地を、「堅固」とあるのが本件一の土地をそれぞれ表示している。)である。なお、別表の最後に記載した昭和61年の賃料値上げの後は、本件に至るまで右各土地の賃料は増額されていない(甲20、21、弁論の全趣旨)。 4 被告は、平成10年10月21日原告に到達した同月20日付け内容証明郵便にて、平成10年11月1日以降、本件一の土地の賃料を月額金5万9200円、本件二の土地の賃料を月額金25万3700円の減額請求する旨通知した(乙七、弁論の全趣旨)。 二 争点 1 本件各増額請求に増額の理由があるか。 2 右増額の理由があるとした場合の各相当賃料額 3 被告が主張する平成9年4月1日及び平成10年9月1日各時点における適正賃料額の相当性は本訴請求の審判の対象となるか。 4 本件反訴は適当か。 5 適法であるとした場合賃料減額請求につき減額の理由があるか。 6 右減額の理由があるとした場合の適正賃料額 三 争点に関する当事者の主張の要旨 (原告) 1 争点1について 最終合意賃料である昭和 61年当時の本件一及び二の各土地の賃料は、その後の経済情勢の変化及び公租公課の負担の増額に鑑み著しく低い価格となっているから、原告の本件各増額請求は理由がある。 2 争点2について 原告の本件各増額請求に掲げた各月額賃料額が適正金額である。 3 争点3について 被告は、本訴係属中に賃料減額請求権を行使しなかったのであるから、被告主張の各時点における賃料相当性を判断することは、原告が申し立てざる事項について裁判所が判断することになり、処分権主義に反するし、実質的にも原告に過重な不利益を生ぜしめ、いたずらに訴訟を長期化させることになり、許されない。 4 争点4について 被告の反訴は本訴が結審直前の状況下に提起されたものであり、右反訴を許せば著しく訴訟手続を遅延させることになることが明らかであるから、右反訴は不適法なものとして民訴法146条1項但書に基づき却下されるべきである。 (被告) 1 争点1について 次の理由から、本件各賃料増額請求の理由はない。 すなわち、昭和61年当時、本件一及び二の各土地の各賃料は近隣に比較して高額であったのであり、その後の経済情勢の変化も、いわゆるバブル経済の崩壊によりむしろ土地価格は下落していて、公租公課もさほど増額はしていない。また公租公課については、本件一及び二の各土地の利用状況の現状が約半分が商業地域、残りの半分が住宅用地となっているのであり、原告が右の現状に基づいて東京都都税条例136条の2の規定により「固定資産税の住宅用地等の申告」をするならば、住宅用地部分につき課税額が減少するはずであるのに、原告はこれを行っていないのであるから、本件各増額請求は理由がない。 2 争点2について 仮に各増額を相当とする事情があるとしても、平成6年12月1日以降、本件一の土地については月額金7万800円、本件二の土地については月額金30万2400円が相当であり、平成7年8月1日以降、本件一の土地については月額金7万600円、本件二の土地については月額金30万4200円が相当であり、平成8年7年1日以降平成9年3月31日までは、本件一の土地について月額金6万8900円、本件二の土地について月額金29万8100円が相当である。 3 争点3について 一般に賃料額確認請求訴訟においては、事実審の口頭弁論終結時までの賃料額が訴訟物になっているのであるから、原告の本訴請求中、平成8年7月1日以降の賃料額の確認を求める部分の訴訟物は、同日から本訴の事実審の口頭弁論終結時までの賃料額であり、これを審判することは何ら処分権主義に違反しない。 また被告が本訴係属中に減額請求権を行使しなかったとしても、原告の請求した賃料増加額が未だ当事者間の賃料額とはなっていないのであるから、これに対する減額請求ということはあり得ず、しかも減額請求権の行使をしなければ減額の効果を主張し得ないとすることは紛争の実情とも合わないから、不当である。 4 争点4について 本件反訴の提起は、裁判所の鑑定に対する批判のためになされた被告の私的鑑定に基づき平成10年11月1日以降の賃料の減額を求めるものであり、本訴提起後本件反訴が提起されるまでの期日の経過からして、民訴法146条一項但書の「著しい訴訟手続の遅延を生じさせる」ものではないから、適法である。また、本訴の訴訟物は、平成8年7月1日以降事実審の口頭弁論終結の日までの賃料額であるから、本訴の判決が確定した場合、その既判力は平成10年11月1日以降右事実審の口頭弁論終結の日まで及ぶことになるから、本件反訴を許さないとしたら、被告は右期間については、再度訴訟をもって争うことを封じられる。これは別訴の形で被告が賃料減額請求の訴えを提起した場合も同じであるから、本件反訴提起を認めないことは著しく正義に反する。 5 バブル崩壊後、地価は大暴落し、現在の地価水準はバブル以前の水準に戻っている。また、固定資産税及び都市計画税も昭和61年度価格よりも低くなっている。 よって、平成10年11月1日以降の本件賃料は減額事由がある。 6 平成10年11月1日以降の本件賃料は、本件一の土地については月額金5万9200円、本件二の土地については月額金25万3700円が相当である。 以上:4,006文字
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