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更新料支払約定が消費者契約法第10条に反しないとした地裁判決理由紹介

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平成28年10月12日(水):初稿
○以下の、消費者契約法第10条によって建物賃貸借契約の更新料支払約定が無効であると主張する提訴が結構なされていましたが、先ずこれを無効ではないとした平成20年1月30日京都地裁判決(判タ1279号225頁、判時2015号94頁)判決の裁判所の判断部分を紹介します。この判決は、平成21年8月27日大阪高裁判決で覆されています。

消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
 民法、商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

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第3 当裁判所の判断
1 前記当事者間に争いのない事実等,証拠(甲1ないし8,乙1,4ないし7,9)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1) 原告は,平成12年8月6日,京都ライフから,重要事項説明書の交付及びそれに基づく説明を受けた上で(その際,本件更新料約定についても説明を受けた。),京都ライフを通じ,被告に対し,本件物件の賃借を申し込み,原告と被告は,同月11日ころ,本件賃貸借契約を締結している。

(2) 原告と被告は,平成13年から平成17年までの毎年8月末の本件賃貸借契約の各更新の際,解約の通知及び更新拒絶の申出を行わず,その都度,契約期間をその後の1年間とするほかは,家賃(共益費,水道代を含む。)の金額を含め,契約内容を従前どおりとすることととして,本件賃貸借契約を更新する旨合意し,原告は,被告に対し,更新料10万円(合計50万円)を支払っている。

(3) 原告と被告は,平成18年8月末の本件賃貸借契約の更新の際には,同様に,解約の通知及び更新拒絶の申出をしない一方,更新する旨の合意もせず,また,原告は,被告に対し,更新料(10万円)を支払わなかった。原告は,被告に対し,上記契約期間経過後である平成18年9月1日から同年10月31日までの間の家賃2か月分合計9万円を支払った。

(4) 原告と被告は,本件賃貸借契約において,自動更新条項(本件約款第21条)を設け,更新時に特段の合意をしない場合においても,本件賃貸借契約を,自動的に,家賃・共益費等の金額に関する点を除き,従前と同様の条件で更新し,その際,原告が被告に対し更新料10万円を支払う旨合意しているから,本件賃貸借契約においては,法定更新が行われる余地はなく,当事者間の合意による更新又は本件約款第21条による自動更新のみが予定されており,いずれの場合においても本件更新料約定に基づく更新料の支払いが合意されているということになる。したがって,本件賃貸借契約の前記6回の更新のうち,平成13年から平成17年までの5回は,当事者間の合意による更新であり,平成18年の最後の更新は,法定更新ではなく,本件約款第21条による自動更新である(本件賃貸借契約は,平成18年の更新後も契約期間を定めていることになる。)。

2 更新料の法的性質
(1) 被告は,本件賃貸借契約における更新料は,①賃貸人の更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金),②賃借権強化の対価,③賃料の補充という複合的性質を有していると主張する。

(2) 更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金)の性質(①)について
ア 賃貸人は,正当事由があると認められる場合であれば,賃貸借契約の更新をしない旨の通知をすることができるところ(借地借家法28条),賃貸人と賃借人との間で更新料が授受され,賃貸借契約の合意更新(ないし自動更新)が行われる場合においては,賃貸人は,正当事由が存在しないことが明らかではないときにおいても,賃貸借契約の更新をしない旨の通知をしないで,契約を合意更新(ないし自動更新)するのであるから,一般的に,更新料は,更新拒絶権放棄の対価の性質を有するものと認めることができる。

イ もっとも,当然のことながら,常に正当事由があると認められるものではなく,特に,本件賃貸借契約のように専ら他人に賃貸する目的で建築された居住用物件の賃貸借契約においては,更新拒絶の正当事由が認められる場合は多くはないと考えられるから,更新拒絶権放棄の対価としての性質は希薄であるというべきである。

ウ 原告は,合意更新(ないし自動更新)がされる場合は,既に賃貸人による更新拒絶権行使の期間(契約期間の満了の6月前まで〔借地借家法26条1項〕)が徒過しており,更新拒絶権が発生しないことが確定しているのが通常であるから,更新拒絶権放棄や更新拒絶権行使に伴う紛争解決金ということで更新料の性質を説明することはできないと主張する。しかしながら,更新料を支払うことをあらかじめ合意している場合には,賃貸人は,更新料の支払いが受けられることを期待して,更新拒絶権を行使しないものと考えられるから,更新料は,更新拒絶権放棄の対価となっているものと評価することができ,原告の主張を採用することはできない。

(3) 賃借権強化の対価の性質(②)について
ア 賃貸人と賃借人との間で更新料が授受され,賃貸借契約の合意更新(ないし自動更新)が行われ,更新後も期間の定めのある賃貸借契約となる場合には,賃借人は,契約期間の満了までは明渡しを求められることがない。これに対し,法定更新の場合には,更新後の賃貸借契約は,期間の定めのないものとなり(借地借家法26条1項),賃貸人はいつでも解約を申し入れることができることとなるから,賃借人の立場は,程度の差はあるにせよ,そのことによって不安定なものとなる。したがって,更新料を支払って合意更新することには(更新後も期間の定めのある賃貸借契約とすることができるから),賃借人にとっても,利益は存することになる。

 加えて,賃貸人が更新拒絶権を行使した場合には,正当事由の存否の判断にあたり,従前更新料の授受がされていることが考慮されるもの考えられる。
 したがって,本件賃貸借契約における更新料は,賃借権強化の性質を有するものと認めることができる。

イ もっとも,前判示のとおり,本件賃貸借契約においては,契約期間が1年間という比較的短期間であるから,合意更新(ないし自動更新)により賃借権が強化される程度は限られたものである上,前判示の更新拒絶の場合と同様に,本件賃貸借契約のように専ら他人に賃貸する目的で建築された居住用物件の賃貸借契約においては,賃貸人からの解約申入れの正当事由が認められる場合は多くはないものと考えられるから,賃借権強化の対価としての性質は希薄であるというべきである。

ウ 原告は,本件賃貸借契約では合意更新(ないし自動更新)が行われ,更新後も期間の定めのある賃貸借契約となっても,本件約款第15条③により,賃貸人である被告は,賃借人である原告に対し,解約を申し入れることができるとされており,何ら賃借権は強化されていないと主張する。しかしながら,借地借家法は,建物の賃貸借について期間の定めがある場合においては,賃貸人が期間内に解約する権利を民法618条に基づいて留保することを予定していないものと解するのが相当であり(借地借家法27条は,建物の賃貸借について期間の定めがない場合において,賃貸人が解約の申入れをしたときには,解約申入れの日から6か月を経過することによって終了する旨を規定している。),本件約款第15条③は,借地借家法30条により無効であるから,同条項が有効であることを前提とする原告の主張を採用することはできない。

(4) 賃料の補充の性質(③)について
ア 前判示のとおり,本件賃貸借契約における更新料は,更新拒絶権放棄の対価及び賃借権強化の対価としての性質を有するものの,その程度は希薄である。それにもかかわらず,原告は,本件物件を賃借するにあたり,被告との間で,礼金6万円,家賃(共益費,水道代を含む。)1か月4万5000円を前月末日支払い,契約期間1年間,自動更新条項(本件約款第21条)のほか,合意更新又は自動更新の際更新料として10万円を支払う旨の約定のある本件賃貸借契約を締結している。

 このような賃貸借契約を締結する当事者の意思を合理的に解釈すると,賃貸人は,契約締結後1年目は礼金6万円に月額家賃4万5000円の12か月分を加算した合計60万円の売り上げを予定し,2年目以降は更新料10万円に月額家賃4万5000円の12か月分を加算した合計64万円の売り上げか,または,賃借人が転居した場合には新たな賃借人から,上記1年目と同様の売り上げを期待しているものと考えられ,他方,賃借人は,仲介業者から複数の物件の紹介を受けるのが一般の取扱いであると考えられることからすると,物件の所在,設備,広さ等とともに,更新料を含む経済的な出捐(礼金,敷金,賃料及び更新料)を比較検討した上で,賃借する物件を選択しているとみることができる。そして,原告又は被告が,本件賃貸借契約を締結するにあたり,これと異なる意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。

イ このように更新料は,被告が本件物件を原告に賃貸し,原告が本件物件を使用収益することに伴い,原告が被告に対して行うことを約束した経済的な出損であり,しかも,前判示のとおり,本件賃貸借契約の契約期間が1年間と比較的短期間であり,かつ,更新しない場合には授受が予定されていない(契約後1年間で終了し更新しない場合には,全く授受されない。)ことからすると,本件更新料約定は,本件賃貸借契約における賃料の支払方法に関する条項であり,具体的には,契約期間1年間の賃料の一部を更新時に支払うこと(いわば賃料の前払い)を取り決めたものであるというべきである。したがって,本件賃貸借契約において更新料は,用語が適切かは疑義が残るが,賃料の補充の性質を有しているものということができよう。

(5) 以上のとおり,本件賃貸借契約における更新料は,主として賃料の補充(賃料の前払い)としての性質を有しており,併せて,その程度は希薄ではあるものの,なお,更新拒絶権放棄の対価及び賃借権強化の対価としての性質を有しているものと認められる。

3 民法90条及び消費者契約法10条
(1) 前判示の本件賃貸借契約における更新料の性質をふまえ,本件更新料約定が,民法90条により無効となるか検討するに,前判示のとおり,本件賃貸借契約における更新料が主として賃料の補充(賃料の前払い)としての性質を有しているところ,その金額は10万円であり,契約期間(1年間)や月払いの賃料の金額(4万5000円)に照らし,直ちに相当性を欠くとまでいうことはできない。
 よって,本件更新料約定が民法90条により無効であるとする原告の主張を採用することはできない。

(2) 本件更新料約定が,消費者契約法10条により無効となるか検討する。
ア 前判示のとおり,本件賃貸借契約における更新料は,主として賃料の補充(賃料の前払い)としての性質を有しており,本件更新料約定が,本件賃貸借契約における賃料の支払方法に関する条項(契約期間1年間の賃料の一部を更新時に支払うことを取り決めたもの)であることからすると,「賃料は,建物については毎月末に支払わなければならない」と定める民法614条本文と比べ,賃借人の義務を加重しているものと考えられるから,消費者契約法10条前段の定める要件(本件更新料約定が「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の義務を加重する消費者契約の条項」であること)を満たすものというべきである。

イ そこで,同条後段の要件(本件更新料約定が「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であること)について検討するに,前判示のとおり,
①本件賃貸借契約における更新料の金額は10万円であり,契約期間(1年間)や月払いの賃料の金額(4万5000円)に照らし,過大なものではないこと(しかも,本件賃貸借契約においては,賃借人である原告は,契約期間の定めがあるにもかかわらず,いつでも解約を申し入れることができ,その場合には,更新料の返還は予定されていないが,原告が解約を申し入れた場合には,解約を申し入れた日から,民法618条において準用する同法617条1項2号が規定する3か月を経過することによって終了するのではなく,解約を申し入れた日から1か月が経過した日の属する月の末日をもって終了するか,又は,被告に1か月分の賃料を支払うことにより即時解約することもできることとされているから〔本件約款第15条〕,月払いの賃料の金額〔4万5000円〕の2か月分余りである本件賃貸借契約における更新料の金額は,過大なものとはいえないこと),
②本件更新料約定の内容(更新料の金額,支払条件等)は,明確である上,原告が,本件賃貸借契約を締結するにあたり,仲介業者である京都ライフから,本件更新料約定の存在及び更新料の金額について説明を受けていることからすると,本件更新料約定が原告に不測の損害あるいは不利益をもたらすものではないことのほか,
③本件賃貸借契約における更新料が,その程度は希薄ではあるものの,なお,更新拒絶権放棄の対価及び賃借権強化の対価としての性質を有しているものと認められることを併せ考慮すると,本件更新料約定が,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」とはいえないものというべきである。


ウ 以上によれば,本件更新料約定が消費者契約法10条により無効であるということはできない。

エ なお,原告の主張するとおり,更新料は,賃借人が物件を選定する際に主として月払いの賃料の金額に着目する点に乗じ,「更新料」という直ちに賃料を意味するものではない言葉を用いることにより,賃借人の経済的な出損があたかも少ないかのような印象を与えて契約締結を誘因する目的で利用されている面があることを直ちに否定することはできないけれども,更新料に関する報道が広く行われることなどを通じ,消費者が更新料の性質についての認識を深めていくことが考えられるし,不動産賃貸借の市場がその機能を十全に発揮すれば,賃貸業者の間で,更新料に関する競争が行われることが考えられるのであるから,原告の上記のような懸念が事実であるとしても,そのことから,直ちに,更新料に関する約定がおよそ民法90条又は消費者契約法10条により無効であるということはできない。加えて,賃貸借契約を締結する際,賃貸人に対して更新料に関する約定に関する説明が十分に行われなかった場合や,更新料に関する約定の内容(更新料の金額,支払条件等)が不明確であるため賃借人が賃貸借契約に伴い要する経済的な出損の全体像を正しく認識できない場合には,更新料に関する約定が当該賃貸借契約の内容とはなっていないとされたり,上記約定が消費者契約法10条により無効とされることが考えられないではないが,本件賃貸借契約の締結に至る前判示のとおりの経緯,本件更新料約定の内容には,そのような事情は認められない。

4 以上のとおり,本件更新料約定が民法90条又は消費者契約法10条により無効であるとする原告の主張を採用することはできないから,本件更新料約定が無効であることを前提とする原告の不当利得返還請求には理由がない。

5 敷金返還請求について
(1) 前判示のとおり,原告と被告は,本件賃貸借契約において,自動更新条項(本件約款第21条)を設け,更新時に特段の合意をしない場合においても,本件賃貸借契約を,自動的に,家賃・共益費等の金額に関する点を除き,従前と同様の条件で更新し,その際,原告が被告に対し更新料10万円を支払う旨合意しているから,本件賃貸借契約においては,法定更新が行われる余地はなく,当事者間の合意による更新又は本件約款第21条による自動更新のみが予定されており,いずれの場合においても本件更新料約定に基づく更新料の支払いが合意されているということになる。

(2) したがって,原告は,本件約款第21条及び本件更新料約定に基づき,被告に対し,10万円の更新料支払義務を負うこととなる。そして,前判示のとおり,本件敷金の額は10万円であり,本件敷金契約は,本件約款第5条④において,「被告は,本件賃貸借契約終了後,原告が,本物件の明渡を完了した日より1か月後に,本件敷金から,原告が,本件賃貸借契約上,被告に対して負担する債務を控除した残金を原告に返還する」旨定めており,本件敷金は,上記更新料10万円の支払義務に充当されるから,本件敷金の返還を求める原告の請求には理由がないこととなる。

第4 結論
 以上の次第で,原告の請求にはいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 池田光宏 裁判官 井田宏 裁判官 中嶋謙英) 
以上:7,004文字

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