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新型コロナウイルス売上減少を理由とした賃料減額請求が増えてます

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令和 2年 4月15日(水):初稿
○新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出されましたが、対象地域以外でも日本の殆どの地域で外出自粛が実践されて、特に営業自粛を求められている飲食業・ホテル・スポーツジム等大打撃を受けています。当事務所近辺のレストランもここ数日、営業を止めているところが出てきてます。不動産賃貸業を営む顧問先やテナントビルを所有している方から、テナントが共同で、取り敢えず3ヶ月間の賃料減額請求をされており、どのように対処すべきかとの相談を受けました。

○このような事例は全国至る所で起きているはずで、賃貸業者側でも、テナントの苦境を理解して賃料の支払猶予或いは減額を認めたとのニュース報道が見られます。世間では多くの賃貸人が賃料減額を認めているのだから、貴方のところも認めるべきだとの主張がさらに強まると思われます。私が相談を受けた賃貸人の方は、言われるままに賃料減額を認めたのでは、建物建築借入金債務を支払うことが出来なくなると、賃貸人側の苦境も訴えます。

○そこで借地借家法上は、減額請求を受けても賃貸人が現行賃料が適正として減額しない額を請求できるが、減額請求の訴えを出されて減額した金額が相当との判決が出されると減額分との差額に年10%の利息をつけて返還しなければならなくなります、コロナウィルス営業自粛を理由とした一時的な減額が認められるかどうかは大変難しいところであり、取り敢えず、減額請求に対しては断り、但し、賃貸人側として資金繰り上可能な金額について支払期限を猶予し、コロナウィルス騒ぎ落ち着いた時期に支払って欲しいと伝える方法もありますと回答しました。

○今回のテナントの売上減少は、テナント側の責任ではなく自然災害に基づくものであり、自然災害等不可抗力による売上減少を理由とした一時的な賃料減額請求を認めた裁判例があるかどうか調べてみましたが、私が持っている判例データベースでは現時点では見当たりません。参考判例として、月額110万円(実質101万円)の賃料を73万円まで減額を認めた平成8年7月16日東京地裁判決(判時1604号119頁)関連部分を紹介します。適正賃料額については、殆どが裁判所が選んだ中立・公正な立場の鑑定人による鑑定結果で決められます。裁判官自身は賃料鑑定能力はなく、専門家の判断に委ねざるを得ないからです。

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主  文
一 原告が被告から賃借している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成7年1月28日以降1か月につき金73万円であることを確認する。
二 原告・被告間の昭和63年5月23日の同目録記載の建物賃貸借契約に基づく原告に対する金1540万円の更新料支払債務が存在しないことを確認する。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを10分し、その3を被告の負担とし、その7を原告の負担とする。

理  由
第一 原告の請求

一 原告が被告から賃借している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成7年1月28日以降1か月につき金65万円であることを確認する。
二 前項の賃貸借契約における平成7年1月28日以降の保証金は金4000万円を超えないことを確認する。
三 主文第二項と同旨

第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 賃貸借契約
 原告は、昭和63年5月23日、被告から、別紙物件目録記載の建物(以下「本件店舗」という。)を左記の約定で賃借した(以下「本件賃貸借契約」という。)。
(一) 賃料 1か月につき金65万円
 昭和64年5月23日以降は一か月につき金110万円
 毎月末日限り翌月分を支払う。
(二) 期間 昭和63年5月23日から1年間
(三) 用途 書籍ビデオテープ販売等
(四) 保証金 金1億円
 内金6000万円は契約締結時に、残金4000万円は昭和64年5月22日限り支払う。
 原告の本件店舗明渡しの12か月後に賃料10か月分を償却して返還する。
(五) 更新 協議の上更新できる。賃貸借が更新された時は更新料として賃料2か月分を支払う。

2 保証金の支払
 原告は被告に対し、右契約締結時に保証金の内金6000万円を支払い、平成元年5月20日、被告との間において、右保証金の残金4000万円の内金2000万円の支払期限を平成2年5月22日まで猶予することを合意し、原告は平成元年5月27日、被告に対し、金2000万円のみを支払った。これにより、原告が支払った保証金の合計額は8000万円となった。

3 賃料等の減額請求
(一) 原告は、平成7年1月28日、被告と面談し、<1>現行の高額の賃料は、原告が被告から保証金の支払猶予を受けたために金利を加味して合意したものであるが、すでに保証金を8000万円も支払っており、こうした高額な賃料は妥当でなくなっていること、<2>原告が過去7年間にわたり本件店舗の賃料について一度の遅滞もなく、きちんとした支払を続けてきたこと、<3>バブル経済の崩壊により、3、4年前から原告の売上げが落ち込んでいること、<4>本件店舗の近隣で風営法所定の届出もせず、格安の地上げ物件で数件の同種店舗が営業展開を始め、これが原告の営業を脅かしていること、<5>周辺地価が低下し、近隣店舗の賃料相場も大きく低下していること、<6>原告が近隣で賃借している二つの店舗の賃料も減額してもらっていること等の理由により、被告に対し、保証金及び賃料減額の意思表示をした。

(二) 右の請求に対し、被告は、同年3月4日、原告と面談した際、賃料は従前と同様に月額110万円を支払って欲しい、保証金は既払いの8000万円から未払いの更新料7年分(賃料月額14か月分)を差し引き、その残額を充てたいと答えた。

(三) 原告は、同年3月27日、被告に対し、本件店舗の保証金を金4000万円とすること及び賃料を月額65万円に減額してほしい旨記載のある提案書を送付した。

         (中略)

第三 判断
一 本件店舗の状況

 当事者に争いがない事実及び《証拠略》によると、本件店舗は、JR中央線「水道橋」駅の南東方約550メートル、地下鉄「神保町」駅の北西方約150メートルの神田神保町二丁目16番街区の白山通りに東面して位置していること、近郊の神田の本屋街は小規模の本屋、文房具屋などの店舗の整理が進み、白山通りの東側は商業地域化したが、本件店舗の存する西側地域は都市計画道路予定地に含まれているために建替えが進まず、古い木造の店舗が残されていること、本件店舗は、木造モルタル塗セメント瓦葺二階建店舗で、床面積は一階36・36平方メートル、二階36・36平方メートルであり、その程度は定かではないが、破損部分からみて相当老朽化していることを認めることができる。

二 適正賃料額について
1 本件賃貸借契約の経緯

 当事者に争いがない事実及び《証拠略》によると、本件賃貸借契約締結の経緯につき、以下のとおりの事実が認められる。

(一) 本件店舗は、原告の親会社であった有限会社アダルト(以下「アダルト」という。)が、昭和61年5月1日、被告から期間2年間、保証金2400万円、賃料月額42万3000円の約定で賃借し、アダルトの子会社であった原告が営業店舗(アダルトビデオショップ)として使用していたが、アダルトが経営不振に陥ったため、昭和62年11月初めころ、原告の前代表者高田徳重は、原告が被告との間で直接賃貸借契約を締結したいと考え、被告の前代表者丹羽義一(以下「義一」という。)に賃貸借契約締結の申入れを行った。当初原告は、アダルトの地位をそのまま引き継いで同じ条件で被告と賃貸借関係を継続したいと考えていたが、義一は原告との契約は新規契約とし、保証金及び賃料の額を大幅に増額することを要求した。

原告は、数回の交渉を経て被告の要求どおり、保証金額を1億円とすることに応ずることとしたが、右保証金を一括払いすることが不可能であったため、保証金の支払については、前記のとおり分割払いの約定がなされ、原告は被告に対し、保証金として内金6000万円を支払った。賃料及び期間については、保証金を分割払いすることになったので、保証金残金の支払があるまでの暫定的な取決めが行われ、契約期間は2年間でなく1年間、賃料は保証金残金4000万円全額が支払われるまで、これに相応する金利を含め月額110万円とするが、被告の税金対策上、昭和64年5月22日までは月額65万円、それ以後は月額110万円とし、保証金が全額支払われたときには賃料を月額65万円に戻すとの合意がなされた。

(二) この点、被告は、月額110万円の賃料は保証金の残金4000万円の預託期限後である平成元年5月23日以降の額として取り決められていること、また、将来の賃料額について東京都区部の民営家賃間代の指数に比例して増減するものとの定めがあるから、賃料110万円には4000万円に対する金利分が含まれていることはあり得ず、右賃料及び期間の定めが保証金全額が支払われるまでの暫定的な合意であることはあり得ないと主張する。

しかし、本件賃貸借契約の期間は当初の2年間が1年間と短縮されたこと、契約期間が1年と定められているにも関わらず、2年目の賃料が契約締結時に定められ、しかもその賃料が1年目の賃料の約2倍にも増額されている事実からすると、契約期間を1年としつつ、前もって2年目以降の大幅に増額された賃料を定めなければならなかった特別な事情があったことが推認されるが、右認定した以外に特別な事情があったことを窺わせる証拠もないのであるから、被告の右主張は採用することができない。そして、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2 適正賃料額について
(一) 鑑定人稲野辺良一の鑑定結果(以下「本件鑑定」という。)によれば、本件賃貸借契約の平成7年1月28日時点における正常賃料(本件店舗を新規に賃貸する場合の賃料)は、保証金を2200万円、更新料を期間3年毎賃料2か月分とした場合、<1>積算法による賃料月額坪当たり3万5300円、<2>事例比較法による賃料月額坪当たり金3万3500円のほぼ仲値にあたる坪当たり3万4500円、月額総額75万9000円であり、これから保証金の運用益(年5パーセント)及び更新料償却額を控除した正常実質支払賃料は月額63万2000円(坪当たり2万8736円)となること、事例比較法による本件店舗と同種同類型の継続賃料は、月額57万4200円(坪当たり2万6100円)ないし同66万4400円(同3万0200円)であること、本件店舗が所在する神田地区における貸ビルの賃料は、平成3年をピークに下落し、平成6年にはピーク時に比較して約60パーセントの水準になっていることが認められる。

 ところが、原告と被告間の本件賃貸借契約の約定賃料額は月額110万円であり、これから未払いの保証金残額2000万円の運用益(年5パーセント)を控除すると、その実質支払賃料は約101万6600円となる。

(二) 右認定の事実と本件にあらわれた諸事情を考慮すると、前記合意に係る賃料月額110万円は、近隣賃料に照らし不相当となったというべきであり、本件店舗の平成7年1月28日以降の賃料は当初の1年間の約定賃料月額65万円に未払保証金の残額2000万円の運用益(年5パーセント)を加えた月額73万円と算定するのが相当である。そして、原告が、平成7年1月28日、被告に対し、本件店舗の賃料減額の意思表示をし、同年3月27日付けの書面をもって賃料を65万円にする旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがないから、本件店舗の賃料は平成7年1月28日以降一か月につき73万円に減額されたものというべきである。

 被告は、本件鑑定が、平成元年5月23日以降の賃料月額110万円には、未払保証金に対する金利分を含むとの事実を前提としたこと、鑑定方法について配分法を用いないのは不当であるというが、右賃料額が合意された経緯は、前示認定のとおりであり、また、鑑定は必ず特定の鑑定方法、複数の方式を併用しなければならないものではなく、各算定方式の長所、短所を十分吟味し、増減請求の当時の経済事情や当該賃貸借に関する従前の経過等を考慮して合理的に定めるべきであるところ、本件鑑定にはその前提とした事実及び推論過程において、客観的に不合理であると認められるものはないから、本件鑑定を不当とする被告の右主張は採用することはできない。また、被告は本件店舗賃貸借契約において「東京都区部の民営家賃間代の指数に比例して増減するものとする」との合意がなされている旨主張するが、右合意の存在は本件賃料減額請求の妨げになるものではない。

三 保証金について
 原告は、保証金についても賃料と同様、借地借家法32条を類推適用してその減額を請求することができると主張する。しかし、借地借家法において賃料増減の請求権が認められたのは、賃貸借契約成立後、賃料についての協議が提案されたにもかかわらず合意が成立しない場合には賃貸借契約を終了せざるをえなくなるが、賃貸借契約が継続的関係であることに鑑み、賃貸借契約を終了させないで当事者の一方の意思表示によって賃料の変更を認め、適正な賃料を定めることによって賃貸人及び賃借人の地位の安定を図ろうとする趣旨であるところ、保証金は、賃料と異なり賃貸借契約成立の不可欠の要素ではなく、当事者の合意によって成立し、その額が定められるべきものであって、一方的意思表示により増減を認めるべき根拠はない。

 また、保証金は、賃貸借契約成立の際、継続的契約を前提として担保のために預託されるものであるが、預託した保証金の額が将来のある時点で高額と考えられる額になったとしても、それによって賃貸借契約の継続に支障をきたすものとは考えられない。このように、保証金はその存在意義において賃料とは全く性格を異にするから同条を類推適用することはできず、当事者の一方的意思表示によって保証金の減額を請求することができるという原告の主張は採用することはできない。

四 更新料について
 《証拠略》によれば、原告と被告との間において締結された本件賃貸借契約書には、「賃貸借の期間は昭和63年5月23日から昭和64年5月22日まで満壱年間とする。但し、期間満了の場合原告被告協議の上更新することができるものとし、別段の合意ないときは壱ケ年宛更新されるものとする。」(第一条)、「賃借人はこの賃貸借が更新されたときは、その都度賃貸人に対し更新料として月額賃料の二ケ月相当分の金員を支払う。」(特約条項二)との記載がある。

 しかし、本件賃貸借契約締結の経緯は前示認定のとおりであるところ、前記契約書記載の更新料支払に関する合意は、原告が被告に対し、保証金残額4000万円を平成元年5月22日までに支払い、その後賃料月額65万円とする賃貸借契約が更新された場合について、原告が被告に対し支払うべき更新料についてなされたものというべきである。

ところが、当事者間に争いがない事実及び《証拠略》によれば、原告は、平成元年5月20日、被告との間において、保証金残金4000万円のうち2000万円について、さらに1年後の平成2年5月22日まで猶予するとの合意をし、それとともに同日、原告は残金2000万円の融資を銀行から受けるため被告に対し担保を要求したこと、原告は、平成2年4月ころ、被告から保証金残額2000万円の支払要求を受け、被告に対し右同様担保を要求したところ、被告は「考えます」と言って、この日の話合いが終わり、それ以降平成6年6月ころ被告が原告に対し保証金残金2000万円の支払請求をするまで、賃貸借契約に関する話合いは全く行われておらず、この間原告は保証金の残金2000万円の支払が未了であったので、月額110万円の賃料の支払を続けていたことが認められる。

以上の事実からすると、本件賃貸借契約は、保証金残金が支払われなかったため、新たな更新の合意がなされず、賃料月額110万円とする暫定的な契約内容のまま存続していたものというべきであるから、前記契約書の更新料支払に関する条項は、このような契約関係についてまで定めたものと解することができず、他に原告が被告に対し右期間の更新料を支払うべき旨の合意がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

五 以上のとおり、原告の本訴請求は、本件店舗の賃料が平成7年1月28日以降1か月につき73万円であること及び本件賃貸借契約に基づく被告に対する金1540万円の更新料支払債務が存在しないことの確認を求める限度で理由があるが、その余は失当としていずれも棄却することとする。
 よって、主文のとおり判決する。
 (裁判官 長野益三)
以上:6,878文字

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