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生命保険解約払戻金請求権差押・解約・取立を認めた地裁最高裁判決紹介

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令和 3年 3月 4日(木):初稿
○確定判決に基づき生命保険について強制執行する必要が生じました。従前、生命保険の差押ができるかどうかについて肯定否定両説がありましたが、肯定説で統一した平成11年9月9日最高裁判決(判時1689号45頁、判タ1013号100頁)全文を紹介します。

○事案紹介のため、生命保険契約の解約返戻金支払請求権の差押債権者は取立権に基づき一律に保険契約の解約権を行使することができるとした第一審の平成10年8月26日東京地裁判決(判タ990号288頁、判時165号166頁)全文も紹介します。訴外人に対し確定判決を有する原告が、訴外人が被告との間で締結した生命保険契約の解約払戻金請求権を差し押さえた上、差押債権者の取立権に基づき当該保険契約を解約して、第三債務者たる被告に対し、解約払戻金の支払を求めたものです。

○最高裁判決は、債権者が生命保険契約解約前の解約払戻金支払請求権を差し押さえてこれにつき取立権を取得したときは、この解約払戻金支払請求権を具体化して取り立てるために、保険契約者の有する解約権を行使して、保険契約を解約することができるものと解するのが相当であるとしました。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○、同○○○○の上告受理申立て理由について
一 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は、これを取り立てるため、債務者の有する解約権を行使することができると解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
1 金銭債権を差し押さえた債権者は、民事執行法155条1項により、その債権を取立てることができるとされているところ、その取立権の内容として、差押債権者は、自己の名で被差押債権の取立てに必要な範囲で債務者の一身専属的権利に属するものを除く一切の権利を行使することができるものと解される。

2 生命保険契約の解約権は、身分法上の権利と性質を異にし、その行使を保険契約者のみの意思に委ねるべき事情はないから、一身専属的権利ではない。
 また、生命保険契約の解約返戻金請求権は、保険契約者が解約権を行使することを条件として効力を生ずる権利であって、解約権を行使することは差し押さえた解約返戻金請求権を現実化させるために必要不可欠な行為である。したがって、差押命令を得た債権者が解約権を行使することができないとすれば、解約返戻金請求権の差押えを認めた実質的意味が失われる結果となるから、解約権の行使は解約返戻金請求権の取立てを目的とする行為というべきである。


他方、生命保険契約は債務者の生活保障手段としての機能を有しており、その解約により債務者が高度障害保険金請求権又は入院給付金請求権等を失うなどの不利益を被ることがあるとしても、そのゆえに民事執行法153条により差押命令が取り消され、あるいは解約権の行使が権利の濫用となる場合は格別、差押禁止財産として法定されていない生命保険契約の解約返戻金請求権につき預貯金債権等と異なる取扱いをして取立ての対象から除外すべき理由は認められないから、解約権の行使が取立ての目的の範囲を超えるということはできない。

二 これを本件について見ると、原審が適法に確定したところによれば、
(一)本件保険契約は、保険契約者がいつでも保険契約を解約することができ、その場合、保険者が保険契約者に対し、所定の解約返戻金を支払う旨の特約付きであった、
(二)被上告人は、本件保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえ、保険者である上告人に対し、本件保険契約を解約する旨の意思表示をした、
というのであるから、被上告人のした本件保険契約の解約は有効というべきである。

 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、裁判官遠藤光男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 裁判官遠藤光男の反対意見は、次のとおりである。

         (中略)


(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)


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平成10年8月26日東京地裁判決

主   文
一 被告は、原告に対し、金53万6628円を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

 被告は、原告に対し、金55万円を支払え。

第二 事案の概要
一 本件は、訴外A(以下「訴外人」という。)に対し確定判決を有する原告が、訴外人が被告との間で締結した生命保険契約の解約返戻金支払請求権を差し押さえた上、差押債権者の取立権に基づき当該保険契約を解約して、第三債務者たる被告に対し、解約返戻金の支払を求めた事案である。

二 争いのない事実
1 原告は、訴外人を債務者、被告を第三債務者として、浦和地方裁判所に対し、別紙請求債権目録記載の請求債権及び別紙差押債権目録記載の差押債権により債権差押命令の申立てを行ったところ(同裁判所平成9年(ル)第2568号)、同裁判所は、平成9年11月21日、その旨の債権差押命令を発し、右命令正本は、訴外人に対して平成10年1月16日、被告に対して平成9年11月26日それぞれ送達された。

2 訴外人は、被告との間で、同差押債権目録記載の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しているところ、本件保険契約においては、保険契約者はいつでも保険契約を解約することができ、その場合、保険者たる被告は、保険契約者に対し、所定の解約返戻金を支払う旨の特約があった。

3 原告は、被告に対し、本件保険契約を解約する旨の意思表示を行い、右意思表示は平成10年2月2日被告に到達した。

4 本件保険契約によると、本件保険契約の平成10年2月2日時点の広義の解約返戻金(解約により保険者が契約者に返還すべき金額)は53万6628円であり、その内訳は次のとおりである。
(一) 狭義の解約返戻金
54万8370円
(二) 配当金 10万6645円
(三) 契約者貸付元金
△11万2974円
(四) 同利息 △5413円

三 争点
 本件における争点は、①生命保険契約の解約返戻金支払請求権が債権差押えの対象となるか、及びこれを差し押えた債権者は取立てのために保険契約者の有する解約権を行使することができるか否か、②被告は解約返戻金を支払う際に、契約者貸付金の元利金を控除することができるか否か、の二点である。

四 争点に関する当事者の主張
1 争点①について

(一) 原告
 まず、生命保険契約の解約前においても解約返戻金支払請求権の差押えが許されることについては、異論がないところである。そこで、解約返戻金支払請求権の差押債権者がこれを具体化するために保険契約者の解約権を行使することが問題となる。かつては、右解約権は保険契約者の一身専属的ないし人格的権利であるとして、これを否定する見解もみられたが、今日では、これを肯定する見解が有力である。もっとも、学説のあるものは、右解約権行使について、解約返戻金支払請求権と別に解約権を差し押さえ、これについて行使命令(旧民事訴訟法625条一項、600条)を得ることを要するとする。しかしながら、差押債権者が被差押債権につき取立権を取得したときは、被差押債権の取立てのために一定の範囲で債務者の有する権利を行使することができるものと解される。そして、この差押債権者が行使することができるとされる債務者の権利には、解除権や取消権も含まれると解される。したがって、生命保険契約の解約返戻金支払請求権を差し押さえた債権者は、その取立てのために解約権を改めて差し押さえるまでもなく、これを行使できるものと解すべきである。

(二) 被告
 そもそも生命保険契約は、被保険者及び死亡保険金受取人の生活保障的機能を有するところ、債権者による一方的解約は、保険事故発生時における右のような生活保障的機能を奪うことになるから、民事執行法155条の取立権に基づき、差押債権者が当然に解約権を行使できるとする見解は誤りである。また、滞納処分による差押えについては、国税徴収法67条の取立権に基づき、当然に解約権行使が認められるが、この場合は、その公益性が解約権行使を認める根拠となり得るのであるが、本件のような私債権の取立てにはその理が当てはまらない。

 次に、差押債権者は当然には解約権を行使できないが、保険契約を保障性の強い保険と貯蓄性の強い保険に大別し、後者については、執行債権者は債権者代位権により解約権を行使し、解約返戻金を取得できるとする見解がある。しかしながら、右見解は基準が明確でないため、保険会社が任意に後者の保険と認めて解約返戻金を支払った場合、後に債務者(保険契約者)から保険会社相手に提起された保険金請求訴訟において、前者の保険であり、債権者代位権により行使できないと判断された場合、差押債権者による解約権行使が否定され、二重払いをさせられることとなる。仮に、当該保険契約が後者の保険であるとしても、債権者代位権の行使には債務者(保険契約者)の無資力が要件とされるところ、保険会社には、保険契約者の資力は容易に判明しない。そこで、やはり、後の保険契約者と保険会社間の保険金請求訴訟において、債権者代位権の行使が否定されて、保険契約者に対し、二重払いをさせられる危険がある。したがって、右前記二分説にも従うことはできない。

2 争点②について
(一) 原告
 仮に、生命保険契約が保険契約者の一身専属性や公益性の強いものであるとすれば、契約者に対する貸付金による相殺は、当然許されるべきではない。

(二) 被告
 保険料の自動貸付については、終身保険普通保険約款(以下「約款」という。)13条三項二号に、通常の契約者貸付については約款33条三項二号にそれぞれ契約消滅時に当然に支払金から貸付金を差し引くことが規定されている。この措置は、いわゆる相殺の担保的機能からして当然のことであり、また、保険料の自動貸付及び通常の貸付の制度は、本来契約者を保護する制度であるから、これらの規定が、保険契約の一身専属性や公益性に抵触するものではない。

第三 争点に対する判断
一 争点①について

 本件保険契約は、保険契約者がいつでも保険契約を解約することができ、その場合、保険者が保険契約者に対し、所定の解約返戻金を支払う旨の特約付きであったことは当事者間に争いがなく、証拠(乙三)によれば、右解約返戻金の額は、同約款別表五に例示の割合で計算した額とされていることが認められ、本件においてその額(狭義の解約返戻金の額)が54万8370円であることは、当事者間に争いがない。

 右によれば、本件解約返戻金支払請求権は、解約の意思表示によって自動的に額の定まる金銭の給付を目的とする財産的権利であり、しかも、民事執行法152条の差押禁止債権にも該当しないから、それが保険契約の解約によって具体的な権利として存在するに至った場合に差押えが許されることはいうまでもないが、保険契約の解約の前であっても、解約を条件とする条件付権利として存在し、その差押えもまた許されるものというべきである。

また、同法155条1項によれば、差押債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができるものと規定されている。そうすると、差押債権者は、右債権の取立てのために、債務者の有する権利を、右目的の範囲内において、かつ、右権利の性質に反しない限りにおいて、行使することができるのであって、債権者が生命保険契約解約前の解約返戻金支払請求権を差し押さえてこれにつき取立権を取得したときは、この解約返戻金支払請求権を具体化して取り立てるために、保険契約者の有する解約権を行使して、保険契約を解約することができるものと解するのが相当である。

 これに対し、被告は、そもそも生命保険契約は被保険者及び死亡保険金受取人の生活保障的機能を有するところ、債権者による一方的解約は、保険事故発生時におけるその生活保障的機能を奪うことになるから、その権利の性質上、差押債権者の取立権の対象とはならない旨主張する。

 そこで、検討するに、確かに、一般的に、生命保険契約は、被告主張のような機能を有することが認められないではないが、他方において、保険契約者の資産運用、貯蓄、相続税対策等のためにも利用されていることも当裁判所に顕著な事実であって、保険契約者や保険金受取人の有する保険金請求権や解約返戻金支払請求権等については、それらの債権者が債務者の一般財産に属するものとして右権利に重大な関心と利害を有していることもまた明らかというべきである。

したがって、生命保険契約の生活保障的機能を一方的に強調するのは相当ではない。また、保険契約者の有する解約権は、保険契約者の自由意思により、財産的権利である一定額の金銭債権を発生させるという形成権であり、身分法上の権利とも性質を異にするから、保険契約者の一身専属的権利ということもできない。

しかも、もし、解約返戻金支払請求権の差押えが許されると解しながら、他方において差押債権者の解約権の行使は許されず、保険契約者が後に解約権を行使するまでは、差押債権者は解約返戻金支払請求権の取立てを待つべきであるとするのは、いかにも不徹底であり、解約返戻金支払請求権を差押禁止債権とはしていない現行法の建前とも合致しない。そうすると、生命保険契約に被告主張のような生活保障的機能を有する面が存するとしても、このことゆえに、保険契約者の解約権がその性質上差押債権者の有する取立権の対象とならない権利に該当すると解することはできない。

 よって、被告の前記主張は、採用の限りではない。

 ところで、原告が被告に対し、本件保険契約を解約する旨の意思表示を行い、右意思表示が平成10年2月2日被告に到達したことは、当事者間に争いがない。
 そうすると、本件保険契約は、原告の右解約権の行使により、右同日有効に解約されたものというべきである。

二 争点②について
 約款13条3項二号、33条3項二号によれば、保険料の自動貸付金及びその他の契約者貸付金の元利金は、保険契約の消滅時に支払金から差し引くこととされているところ(乙三)、右約款の各規定が特段不合理である旨の主張も立証もないから、被告は、本件解約返戻金から貸付金の元利金を差し引くことができるものと解される。

 そうすると、右貸付金の元金が11万2974円であり、その利息が5413円(合計11万8387円)であることは、当事者間に争いがないから、被告は、原告に対し、狭義の解約返戻金54万8370円に配当金10万6645円を加え、これから右11万8387円を控除した53万6628円を支払うべき義務がある。

第四 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、53万6628円の支払を求める限度で理由がありその余は理由がないこととなる。
(裁判官小磯武男)

別紙 〈省略〉

以上:6,280文字

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