令和 3年 4月 3日(土):初稿 |
○「ファクタリング(債権買取)取引を消費貸借と認めない地裁判決1検討2」の続きです。 現在、行われているファクタリングと称する金銭の遣り取りの大部分は、実質は、貸金であり、年利率数百%の大変な高利率で、貸金業法第42条1項違反、出資法第5条違反の完全な違法行為と確信しています。しかし、ファクタリング業者は、あくまで、債権の買取であり、貸付ではないとの形式論を主張し、平成31年4月23日東京地裁判決は、ファクタリング業者の形式論を認めています。 ○同判決での原告の主張は以下の通りです。 被告の原告に対する各貸付けは,原告がA株式会社(以下「本件債務者」という。)に対して有する売掛債権(労働者派遣の報酬債権)を被告に譲渡するという,形式上はいわゆるファクタリング取引として行われていた(以下,本件における原告と被告との間の取引を「本件取引」という。)ものであるところ,本件取引は,債権譲渡取引において問題とされる債務者の信用状況ではなく,債権の譲渡人とされた原告(借主)の信用状況のみを判断して行われている点で金銭消費貸借と同一であるし,本件取引の契約条項においても,原告は被告から委託されて本件債務者から債権の回収をしなければならない上,これが回収できなかった場合には契約が解除され,受領済みの金銭に遅延損害金を付して被告に返還しなければならないなど,被告が全く回収リスクを負わない不自然な内容となっているから,その実質において利息制限法にいう「金銭を目的とする消費貸借」に当たるか,そうでないとしても借主を保護した同法の規定を潜脱するものであって,同法が類推適用されるべきである。このように,本件取引においては,被告の原告に対する債権譲渡代金名目での支払が貸付けに,原告が被告から委託を受けて本件債務者から回収した金銭を被告に交付する行為が上記貸付けに対する弁済に当たり,原告の債権金額と被告に対する債権譲渡代金との差額が貸付けに対する利息に相当するものとして評価されるべきである。 ○これに対する被告ファクタリング業者の答弁は以下の通りです。 請求原因事実はいずれも否認する。被告は原告から売掛債権を買い取ったにすぎず,原告に対して金銭を貸し付けたものではないから,本件取引に利息制限法が適用又は類推適用される余地はない。原告の主張するように債権譲渡人(借主)の信用状況を判断して行う取引か否かで債権譲渡と消費貸借を区別する説など存在せず,これは原告の独自の見解であるし,本件取引においては債務者からの回収リスクは被告が負担しているのであって,被告が債務者の信用を考慮して取引していることも明らかである。 ○ポイントは、被告主張「本件取引においては債務者からの回収リスクは被告が負担している」と言えるかどうかです。この点について、ファクタリング業者作成約款は、通常、次のようになっています。 第1条(本契約の目的) 本契約は、本契約の定めるところにより、売主がその取引先に対して有する債権(以下売掛債権という。)を買主に譲渡し、買主が当該債権の回収不能の危険を負担して当該債権を買い取ることを目的とします。 第5条(真正売買) (略) 3.売主は、買主の買取にかかる適格債権の全部又は一部が、債務者の債務不履行又は債務者に関する破産、会社更生、民事再生、特別清算、その他これらに類する破産手続の開始により取立不能とされる場合においても、かかる適格債権の支払に関し、買主に対し何らの責任を負いません。 ※これはノンリコース(求償権なし)の宣言で、買主は売主に対し、当該債権の回収不能を理由には請求できないとの建前でです。 ○債務者からの回収リスクについては、ファクタリング業者作成の次の約款が重要です。 第2条(対象となる売掛債権等) 買取の対象となる債権は、売掛債権等のうち第7条第2項に定める条件を満たすもの(以下「適格債権」という。)とします。かかる適格債権には、売掛債権等及びこれらに付随する担保権、保証金受取請求権及び保証等全ての権利(ただし、第3条第3項に定義する個別契約において除外する権利をのぞく。)を含みます。 ※買取対象債権は、適格債権と称して、第7条でその要件を詳細且つ厳格に定めて、その要件の一つでも欠ければ、適格債権ではないとして、以下の約款で売主に買戻義務を課しています。 第13条(買戻義務) 1.売主は、第7条に定める表明・保証違反の事実が判明した場合又は売主が本契約に違反した場合、直ちに買主に対しその旨を書面により通知を行うものとします。 2.第7条に定める表明・保証違反の事実が判明した場合、(略)、買主は(略)当該債権の額面金額で買い戻すことを売主に請求することができ、売主は(略)買主がその他に被った損害(略)の一切を買主に支払います。 ※この第2条、7条を詳細に検討すると、例えば第7条第2項(11)には、売主が買取対象債権の債務者が支払停止状態にないことを表明・保証しなければならず、債務者の支払停止等で債権回収が不能になった場合でも、売主は保証義務違反を理由にして、買戻責任が生じ、結局、債権回収リスクは売主にあり、買主は殆ど債権回収リスクを負わないようになっています。 この点だけでも、平成31年4月23日東京地裁判決での「原告の責任についての特約は、譲渡された債権について,原告自身によるこれと矛盾する処分行為を禁止したり,本件債務者から抗弁をもって対抗された場合に備えたりするものと考えられ,債権の譲渡人としての原告の法的責任をことさらに加重しているとか,被告に不必要なほどに広範な解除事由を定め,更に解除された場合の原告の義務を不必要に拡張するなどして被告が回収リスクを負わないように仕組んでいるということは困難」との認定は、極めて問題であると考えます。同様の約款であればの話しですが。 以上:2,399文字
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