平成13年10月12日(金):初稿 |
■ある聾唖者の窃盗事件 生まれつきの聾唖者Kさんは、45歳まで泥棒生活を続け、人生の大半を刑務所で過ごしていましたが、45歳でA社長と巡り会い、初めて人の情愛に接し、泥棒をピタリと止めていたところ、A社長の会社が倒産し、失業したKさんは、55才になって10年ぶりに盗みをして捕まり、私はたまたま国選弁護を担当しました。 前回述べたように、コミュニケーション障害のため、保護司のBさん、手話通訳のCさん、福祉事務所係長Dさん達の献身的な協力を得て、色々苦労しながらも、何とか打ち合わせを続けました。 ■Kさんの犯行内容 Kさんの犯行は、深夜、お金を盗むため営業終了後のスナックにトイレから侵入し、金庫を壊して現金3万円を盗み、更にある工場にガラス戸(1万円相当)を壊して侵入したところを発見され、逮捕されたというものでした。 刑事弁護内容-被害弁償が基本 窃盗罪のような財産を侵害する罪について刑を軽くするための弁護の基本は、先ず財産被害の弁償をすること、それから2度と窃盗をしなくて済む環境を整備すること即ち仕事先と指導監督助言者の確保です。 幸い窃取した金額は、現金で3万円、ガラス被害も1万円と低額であったので、被害者に対して、障害年金から弁償し、示談を成立し、寛大な処分をされたいとの嘆願書も頂くことが出来ました。 ■障害者労働施設の貧困 問題は仕事場の確保でした。 Kさんは、聾唖で且つ左目が殆ど見えないと言う障害を持っているところ、大の酒好きでした。今回の犯行も酒代を稼ぐためのものでした。 それ故、自活することはなかなか難しいであろうと予想され、住み込みで働ける場所がないものか、福祉関係機関に問い合わせましたが、全国で確か京都近辺と関東地方の2箇所しかありません。意外に少ないのに驚きました。 入所できるかどうか問い合わせると2箇所とも入所希望者が多く、順番待ちとのことです。事情を話してねばり強く交渉すると、何とか一箇所で特別扱いとして入れても良いような回答を得ました。 Kさんの希望 ホッとしてKさんに入所を勧めると、意外にも嫌だと言います。B、C、Dさん達と離れるのが嫌だというのです。KさんにしてみればA社長を始め、B、C、Dさん達は生まれて初めて自分に情をかけてくれた方々であり、これらの人々と離れたくないと言う気持ちも良く判りました。本人が嫌がる以上、遠隔地の住み込み施設には入れません。 以上:1,003文字
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