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ある覚醒剤事件2

平成16年10月 1日(金):初稿
■国選刑事事件の辞任申出
私は、どうみても有罪なのに無罪と言い張る覚醒剤常習犯Aについて、ほとほと困って、私の方針と被告人の方針が異なると言う理由で高裁の裁判長に辞任を申し出ました。正確には、解任して頂きたいとの申出です。国選弁護人は、裁判所が選任するもので、一旦、選任されると、裁判所から解任されない限り、辞めることが出来ないからです。
しかし、高裁裁判長の答はノーでした。その理由は、貴方が辞めても次の弁護人が、貴方と同様に困った事態になるだけであるとのことでした。
弁護人の職務上、弁護人としては有罪を確信しているが、被告人が無罪を言い張って困っていると言うことは、口が裂けても言えません。高裁の裁判長はそのことは、勿論、百も承知です。しかし、決して口には出さず、あうんの呼吸で、貴方の気持ちは良く判るが、ここは我慢して国選弁護人の務めを果たして欲しいとの要請でした。

■情けない弁護方針転換
Aは、あくまで無罪を主張し、任意尿検査での覚醒剤判定をした鑑定書が信用できないので、鑑定人を証人申請して尋問して欲しいと言います。又、自分を取り調べした警察官の取調状況立証のため証人申請して欲しいと言います。
丁度、その頃、「ケープ・フィア」と言う映画が上映されており、たまたま鑑賞しました。その内容は、以下の通りです。
「<あらすじ>「恐怖の岬」(62)のリメイク。 弁護士のサム(ニック・ノルティ)は家族と共に裕福な生活を送っていたが、かつて弁護を引き受けて失敗したマックス(ロバート・デ・ニーロ)が出所して彼の生活を脅かす。」
この映画で、ロバート・デ・ニーロ扮するマックスが、手抜き弁護で自分を刑務所に入れた弁護士サムに対する復讐の鬼となり、刑務所内で懸命にトレーニングを継続し、筋肉隆々となって、出所します。そして、弁護士サム一家に近づき、手抜き弁護の復讐として、ジワジワと追いつめていきます。そして最後は、まるで13日の金曜日シリーズのジェイソンの如くに、弁護士サムに襲いかかります。
Aも、筋肉隆々かどうかは不明ですが、私より遙かに背が高くて、肩幅も広く、明らかに私より相当強い腕力の持ち主に見えました。彼が、手抜き弁護をした私に対し復讐の鬼と化して、刑務所でトレーニングを積んで、出所後、私に襲いかかって来られたのでは、たまったものではなく、私は弁護方針を転換し、彼の主張するとおり、無罪を強力に主張する書面を書き、鑑定人や警察官の証人申請をして、彼の主張通り、一生懸命弁護をししている外見を作りました。
幸い鑑定人、警察官の証人申請は、不必要として却下され、A本人の質問の機会だけ与えられましたが、Aの無罪主張の根拠を、丁寧に質問して、Aが言いたいことを裁判官に伝えるよう努力しました。

■結論
勿論、Aの控訴は棄却でA有罪の認定は変わりませんでした。Aは、最高裁判所に上告しましたが、判決後の接見で私が一生懸命やってくれたことに感謝の気持ちを示してくれました。
私はAが有罪と確信していたからと言って、あくまで無罪を主張するAの意思に反し、どうせ有罪だからと手抜き弁護をしたら、上記マックスの如くAは、益々人間不信になり、恨みでやけくその人生に向かう可能性が強いと思います。
Aが罪を認め心から反省して二度と覚醒剤には手を出さない心情に導くことが出来れば最高の弁護でしょうが、これが出来ず、且つ手抜き弁護でAを人間不信にしたのでは、Aに取って何も得るものはありません。
せめて、弁護人に対して感謝の意を持つ弁護は必要と思った次第です。
以上:1,462文字

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