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交通事故損害保険金一部を財産分与対象と認めた家裁審判紹介

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令和 6年 5月 1日(水):初稿
○保険事故によって発生した保険金請求権が財産分与の対象になるかどうかの質問を受けています。結婚後に加入であれば、保険料は共同で支払ったことになり、結婚前からの加入であっても、結婚後の保険料支払いは夫婦共同で行ったことになりますので、保険解約の場合の解約返戻金は支払保険料の割合により、一定割合が財産分与の対象になります。問題は保険事故発生による保険金請求権となった場合の財産分与対象範囲で、関係判例を探しています。

○調停離婚した申立人(妻)が、離婚前に相手方(夫)が交通事故により取得した損害保険金5200万円が実質的には夫婦の生活の原資となるべきもので、財産分与の対象となるとして、その半額の分与を求めました。

○これに対し、夫婦の生活原資という点で上記保険金を見ると、本件では症状固定時の翌月から離婚成立月までの期間(1年間)の逸失利益を財産分与の対象とするのが相当であり、休業損害金も含めて財産分与の対象額は550万円となるところ、申立人の仕事に加え、申立人が家事、育児全般の殆どをこなし、その結果、相手方が事業に専念できたことなどに照らすと、本件財産分与についての申立人の寄与割合は5割であるとした平成17年1月12日大阪家裁審判(家庭裁判月報58巻5号71頁)全文を紹介します。

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主   文
相手方は,申立人に対し,140万3843円及びこれに対する平成15年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

理   由
第1 申立ての趣旨

 相手方は,申立人に対し,財産分与として2600万円及びこれに対する離婚の成立した平成15年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 申立ての理由と相手方の主張
1 申立ての理由

(1)申立人と相手方は,平成6年3月9日婚姻したが,平成15年9月19日離婚調停が成立し,申立人と相手方とは離婚した。

(2)相手方は,平成12年8月11日交通事故(以下「本件事故」という。)により負傷し,損害保険会社から平成15年3月まで休業損害金等が支払われていたが,平成15年3月示談が成立し,平成15年3月26日相手方に対し5200万円が支払われた。

(3)申立人と相手方夫婦が婚姻期間中に得た財産は上記保険金5200万円しか見当たらない。
 申立人は,相手方の営んでいた自営業の仕事を分担するとともに家事,育児全般についてすべて行ってきた。また,本件事故後の相手方の治療等にも協力してきた。
 ところで,配偶者の一方が交通事故により取得した損害保険金は,実質的には夫婦の生活の原資となるべきものであるから財産分与の対象となるものである。
 そこで,申立人は,相手方に対し離婚調停において上記保険金について分与を求めたが,相手方は一切分与する考えはないとの意向であったため,離婚調停で合意は成立しなかった。

(4)よって,申立人は,本件審判の申立てに及んだ。

2 相手方の主張
(1)相手方は,本件事故による外傷性くも膜下出血,右下肢粉砕骨折,外傷性小腸穿孔による腸癒着,外傷性視野障害(同名半盲),高次脳機能障害等により繰り返し手術を受け(約2年間),その後も後遺症による入院,通院が続いており,現在,視野障害(5級)及び右下肢機能の軽度の障害(7級)により身体障害者5級の認定を受けている。

(2)申立人は,本件事故により,以前は頼り切っていた相手方を頼りなく感じるようになったのか,人としての思いやりが感じられなくなった。
 具体的には,入院中の帰宅時、退院後のリハビリ通院期間,自宅の玄関や寝起きする際の便が良いように用意した椅子を即時取り除いていた(この件は,一般健常者には理解しにくいかもしれないが,相手方の右足が以前よりも湾曲しているのは,これが原因であるものと考えている。)。また,相手方が大事にしていた物(ステレオ,机,本棚,浄水器等)が入院中に廃棄されていた。

(3)事故前の夫婦関係について
 相手方の事業が軌道に乗り,事務所の応援が欲しい時も一切手伝ってくれなかった。 
 色々と述べたい問題はあるが,夫婦は,その個性,特性を理解し合いながら生活するのがその常と考えるが,本件事故後,特に人としての思いやりを持っていない申立人の人間性は許せない。

(4)夫婦で作り上げた財産は一切無い。そして,本件事故の保険金は,今後の相手方の後遺症等の治療に要する費用として全く不十分である。
 申立人と相手方との離婚を損得勘定でしか考えない相手方には譲渡し得る金品は一切ない。

第3 当裁判所の判断
1 一件記録(本件,平成15年(家イ)第××××号,平成15年(家イ)第×○×○号,平成15年(家)第×□×□号)によれば,まず,次の事実が認められる(なお,以下,特に断らない限り1円未満切捨)。
(1)申立人(昭和39年×月×日生)と相手方(昭和27年×月×日生)は,平成6年3月9日婚姻し,長男C(平成6年×月×日生)をもうけた。申立人と相手方は,婚姻の届出に先立ち同居生活をしていたが,Cの妊娠を契機に入籍したものである。
 なお,相手方は,前妻との間に長女D(昭和58年×月×日生)をもうけており,前妻との離婚の際に相手方が親権者となったが,Dは,申立人,相手方と同居生活していた。


(2)申立人は,平成3年11月頃から「△△△引越センター」で稼働を始め,以後,同社の営業等に従事していたが,同社の引越しの取次ぎ等を主たる業務とする「△△△引越サービス」を立ち上げ,平成7年9月には一戸建て居宅を賃借りした際にその一室を事務所にした。
 なお,申立人は,△△△引越サービスの電話受付や△△△引越サービス自身が行う引っ越し作業等を手伝い,本件事故後も電話受けなどをしていた述とべ,他方,相手方は,当初いた従業員2名が退職後,初めて申立人が電話受付をするようになった位で,本件事故後は転送電話も取らず,△△△引越サービスの仕事を手伝わなかったと述べ,両者の供述は齟齬しているが,婚姻中,申立人がDの養育を含めて家事,育児全般の殆どを一貫して1人でこなしてきたことは当事者間に争いがない。

(3)相手方は,以下記載の本件事故により受傷した。
〔1〕日時 平成12年8月11日午前11時35分頃
〔2〕場所 大阪府○○市□□×―×―××
〔3〕加害車両 車両番号 大阪14か××××
    運転者 E
    使用者 株式会社□□運輸
〔4〕被害車両 車両番号 大阪47り××××
    被害者 相手方
 なお,□□運輸は,○○保険株式会社の自動車損害賠償(対人)に加入していた。

(4)本件事故後,相手方に対し,○○保険から休業損害金として毎月52万円が平成15年3月まで支払われ,相手方は,申立人に対し平成15年3月まで,うち45万円を支払い,残りの7万円を相手方が取得していた。

(5)事故後の治療について,相手方は,申立人は協力的でなかった旨述べ,申立人は,平成12年11月半ばまで入院していた○△□大附属病院には毎日看護に通っていた,△△病院への転入院後は,相手方の容態が安定したので洗濯物を取りに行く程度になったが,相手方の通院治療には付きそうように努めていた旨述べている。

(6)平成15年3月20日,E,□□運輸,相手方,○○保険の間で本件事故につき,次の趣旨の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。

       記
〔1〕本件事故によって,相手方の被った一切の損害に対する賠償金として,相手方は,E,□□運輸の○○保険との保険契約に基づき,○○保険より,治療費等(具体的には治療費,看護料,通院費,諸雑費,休業損害,傷害慰謝料の一部)のほかに5200万円を受領する。

〔2〕相手方は,上記金員受領後には,その余の請求を放棄するとともに,上記金員以外に何ら権利・義務関係のないことを確認し,E,□□運輸,○○保険に対し,今後,裁判上,裁判外を問わず何ら異議の申立て,請求及び訴えの提起等をしない。
 但し,上記損害賠償額には,平成14年12月9日症状固定の後遺障害等級6級に対する損害金を含むものとする。将来,万一,現等級認定レベル以上の後遺障害が発生した場合は医師の診断を経て,本件事故と因果関係が存する立証がなされた場合,当事者間で協議するものとする。

(7)○○保険は,平成15年3月26日,本件和解に基づき相手方に対し5200万円を支払った。

(8)本件和解金が前記のとおり治療費等のほかに5200万円になった経過は,傷害慰謝料が248万9200円(ただし,うち100万円については支払済みであり,未払額は148万9200円),逸失利益については,次の算式で4673万5510円,後遺障害慰謝料460万2780円で,これらを合計すると5282万7490円となり,和解金につき5200万円で妥結し本件和解に至ったものである。

       記
〔1〕逸失利益
¥515600(月額給与)×12(12か月)×0.67(労働喪失率)×11.274(ライプニッツ係数(17年))=約¥46735510
〔2〕合計
¥1489200+¥46735510+¥4602780=¥52827490
(9)相手方は,平成15年4月28日離婚調停(平成15年(家イ)第××××号)の申立てをし,他方,申立人も平成15年5月10日離婚調停(平成15年(家イ)第×○×○号)の申立てをした。
 平成15年9月19日,平成15年(家イ)第××××号事件につき次の内容の調停が成立した。なお,申立人は,同日,平成15年(家イ)第×○×○号事件を取り下げた。

       記
〔1〕申立人と相手方は調停離婚する。
〔2〕Cの親権者を申立人(母)と定める。
〔3〕相手方は,申立人に対し,Cの養育費として平成15年9月から同人が満20歳に達する月まで1か月4万円を毎月末日限り支払う。
〔4〕相手方は,申立人に対し,相手方の子であるDの平成15年9月から平成16年3月までの生活費として21万円を平成15年9月末日限り,申立人に支払う。
〔5〕調停費用は各自の負担とする。

(10)申立人は,離婚後,C,Dを引取り,C,Dと一緒に生活している。

(11)申立人は,前記調停において財産分与の請求をしていたが,財産分与につき合意が成立しなかったため平成15年10月9日本件申立てをした。
 申立人は,財産分与の対象となる財産については,上記和解金だけである旨述べており,これに対して,相手方は,上記和解金を含めて財産分与の対象となる財産はない旨述べている。

2 夫婦の生活原資という点で上記保険金を見ると,本件では症状固定時の翌月から離婚成立月までの期間の逸失利益額を財産分与の対象とするのが相当であって,本件では1年程度が相当と考える。そこで算定すると次のとおり394万7687円となる。
¥515600(月額給与)×12(12か月)×0.67(労働喪失率)×0.9523(ライプニッツ係数(1年))=約¥3947687

 また,平成16年1月から3月までは休業損害金156万円(=52万円×3月)が支払われており,これについても財産分与の対象に含めるのが相当である。
 そうすると,財産分与の対象額は550万7687円(=394万7687円+156万円)となる。


3 前記のとおり申立人と相手方とでは,申立人の△△△引越サービスの仕事への貢献,本件事故後の治療等への申立人の協力等で供述が齟齬しているが,婚姻中に申立人が,相手方と申立外Fの子であるDの養育(なお,前記のとおり申立人は離婚後もDを引き取り育てている。)を含め家事,育児全般の殆どをこなしてきたもので,その結果,相手方が事業に専念できたことなどに照らすと,本件財産分与についての申立人の寄与割合は5割が相当である。

4 以上をもとに財産分与額について検討する。
 財産分与の総額は550万7687円であり,申立人の寄与割合は5割であるので275万3843円となり,既に135万円の支払いを受けているので140万3843円となる。

5 よって,当裁判所は,参与員○○○○○及び□□の意見を聴いた上,主文のとおり審判する。
(家事審判官 野村明弘)
以上:4,992文字

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