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別居に至らずとも婚姻破綻を認め不貞行為第三者責任を否定した判例紹介

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平成29年11月22日(水):初稿
○「不貞行為責任解除要件としての婚姻破綻とは」に「同居している場合に、『婚姻破綻』が認定される例は、双方が離婚に合意している場合を除いては殆どないと断言される裁判官も居るほどです。」と記載していました。

○同居中の不貞行為でも、慰謝料請求される側は、不貞行為相手方の夫婦関係は既に婚姻破綻しており、不法行為にはならないと主張することが定石です。しかし、同居しており、且つ、不貞行為をされた側が、婚姻破綻には到っていないと強く主張した場合、訴訟になると「婚姻破綻」の認定は極めてハードルが高く、殆ど認定されず、裁判官からは一定金額支払での和解を勧められることが殆どです。

○ところが、夫は、平成23年10月には不貞行為を行っていたことが認められ、それにより、妻が平成24年7月に離婚の意思を表明しているところから、別居していなくても不貞行為時には既に婚姻関係は破綻していると認定した平成25年3月27日東京地裁判決(TKC)全文を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成24年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の妻と不貞行為をしたと主張して不法行為に基づく慰謝料500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(括弧内に証拠等を摘示した事実以外に争いはない。)
(1)当事者等
ア 原告は,昭和47年○月○○日,中国黒竜江省で出生した男性であり,中国籍であったが,現在は帰化している。
イ C(以下「C」という。)は,昭和52年○月○○日,中国吉林省で出生した女性であり,中国籍であったが,現在は帰化している。
ウ 原告とCは,平成14年9月3日,婚姻し,長女(平成16年○月○○日生)及び二女(平成18年○月○○日生)をもうけた。

(2)原告及びCは,留学生として来日し,平成10年9月頃から交際するようになり,平成14年9月3日,帰国中の中国にて婚姻した。

(3)原告とCは,平成15年3月,大学を卒業し,東京都台東区αに転居した。原告は,その後,東京都βにおいて「和中薬膳房」と称する飲食店を出店し,オーナーシェフとして稼働するようになった。他方,Cは,d大学大学院に進学し,上記飲食店のメニュー作成を手伝うなどした。

(4)原告は,長女出生後の平成16年6月,東京都足立区γに中古マンションを購入し,Cら家族と転居した。原告は,平成17年11月,東京都中央区δに「王ちゃんの中華」と称する中華料理屋を開店した。Cは,この中華料理屋を手伝うことがあった。

(5)原告とCは,二女出生の直前である平成18年4月21日,帰化を許可された。

(6)原告は,平成19年12月,東京都江戸川区のマンション(現在の自宅)を取得し,平成20年8月,中国から原告の両親を呼び寄せて同居を開始した。

(7)被告とCは,平成24年7月29日,東京都新宿区内のホテルで肉体関係を持った。

2 争点及び争点に関する当事者の主張
 被告がCと不貞行為に及んだ時点において原告とCの婚姻関係は破綻していたか。

(原告)
 Cは,遅くとも平成23年8月頃から,被告と不貞行為をするようになり,その関係を継続していた。原告は,Cから離婚の申し出を受けたのを機に,Cの行動を調べたところ,被告は,平成24年7月29日午後5時頃,Cを同乗させた自動車でホテルから出て来た。原告は,被告とCの長期間にわたる不貞行為により多大な精神的苦痛を被っており,慰謝料は500万円を下らない。
 原告は,不貞行為も違法行為もしたことがない。原告は,平成24年7月,Cに対して条件が調えば離婚すると述べたが,離婚の合意が成立したわけではないし,Cと原告の夫婦関係は破綻していない。

(被告)
 原告は,平成22年頃から,不貞行為を疑わせる行為をするようになったが,Cは,平成24年5月19日,原告の携帯電話から原告が女性と性交中(不貞行為中)の写真を発見し,原告を問いつめると,原告はCの首を絞めるなどした。以後,原告とCは,食事を別々にし,寝室を分けるなど,家庭内別居の状態になった。Cは,原告の不貞行為に怒りを覚えて離婚を決意し,平成24年7月3日,原告に離婚を求め,原告は,同月11日,これに応じる意思を示したのである。他方,被告は,同月29日まで,Cと肉体関係を持ったことがなかった。
 したがって,被告がCと肉体関係を持つまでに原告とCの婚姻関係は破綻しており,被告は原告に対して不法行為責任を負わない。

第3 争点に対する判断
1 認定事実

 証拠(甲4,乙5,乙6,後掲書証,証人C,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(1)被告は,中国出身の中国人であったが,来日して帰化した。

(2)Cは,遅くとも平成21年頃,同じダンスサークルに参加していて被告と知り合い,遅くとも平成24年5月18日ころには,被告に対し,しばしば電話をかけるようになっていた(甲5の1ないし7)。

(3)Cは,同月19日頃,原告の携帯電話(画像及び動画撮影機能が付いたもの)から,裸体の女性の画像,その女性が顔の写っていない男性と性交している状況を撮影した画像及び動画を発見した(乙1,8,9)。裸体の女性の画像には,その女性の背後に原告のシャツ及びズボンに似たシャツ及びズボンが脱ぎ捨てられている状況が写っており(乙1,7),その撮影場所は原告が管理する賃貸アパートの付近であった(乙9)。また,女性が性交している動画は平成23年10月17日にJR亀戸駅付近で撮影され,女性が性交している画像は同年11月9日に撮影され,これらの画像及び動画は,原告が撮影した家族の画像等とともに原告の携帯電話に保存されていた(乙8)。

(4)Cは,平成24年5月20日頃,原告に対し,原告の携帯電話から前項の画像を見つけたとして,不貞行為をしているのか問いつめたところ,原告は友人からもらった画像であるなどと弁解し,言い争いになった。

(5)Cは,その後も自宅に住んでいるが,留守や外泊が多くなり,原告と食事し,性交をすることがなくなった。もっとも,Cは,その後も,原告に対し,電話をかけることがあった(甲5の1ないし7)。また,Cは,同年6月13日,原告の預金口座から引落しがされるクレジットカードで買い物をすることがあった(甲7)。

(6)Cは,平成24年5月下旬頃,原告の素行調査を探偵業者に依頼したところ,原告が同年6月4日に裸体で写っていた女性に似た女性(前記(3))を自動車に乗せて走行していたことが判明した(乙1,8ないし11)。

(7)Cは,その後,離婚の意思を固めて弁護士に相談し,C代理人は,同年7月3日到達の通知書により,原告に対し,不貞行為があるほか,経営する会社の関係で違法行為をしているなどとして離婚を求めた(乙2の1及び2)。原告は,その頃,これを受け取り,原告代理人は,同月11日頃,C代理人に対し,条件が調えば離婚する意思がある旨回答した(乙3)。

(8)Cは,同月29日午後1時過ぎ,JR代々木駅で被告と待ち合わせ,被告の自動車に乗って東京都新宿区εのホテルに行き,肉体関係を持った。原告は,同日,Cを尾行し,ホテルから被告とCが出てくるのを待ち受け,Cと口論になった(甲2の1ないし3)。

(9)Cは,その頃,東京家庭裁判所に,原告を相手として離婚を求める夫婦関係調整調停を申し立てたが,財産分与,親権等の条件について原告と折り合わず,同年8月31日,調停は不調に終わり(乙4),東京家庭裁判所に離婚訴訟を提起した。

(10)Cは,平成25年1月24日午前7時20分頃,被告の自宅から帰宅している(甲8の1ないし4)。

2 検討
(1)Cと被告との関係

 前記認定のとおり,被告は,遅くとも平成24年7月29日,原告の配偶者であるCと肉体関係を持っている。
 原告は,これ以前から被告がCと不貞行為をしていた旨主張する。確かに,Cは,遅くとも平成21年頃,ダンスサークルを通じて被告と知合い,遅くとも平成24年5月18日には,しばしば被告に電話をかけるようになっており,同年7月29日に被告と肉体関係を持ち,平成25年1月24日には,被告方から朝帰りしており,Cと被告が平成24年5月頃には親密な関係にあったことが窺われる。そして,原告は,本人尋問において,平成22年頃から,Cの帰る時間が特に遅くなったと供述する。しかし,これらを前提にしても,被告が平成24年7月29日に先立ってCと肉体関係を持ったと推認することまではできない。

(2)原告とCとの婚姻関係破綻の有無及びその時期
 ところで,甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において,甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,丙は,甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし,丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは,それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって,甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には,原則として,甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集第50巻4号993頁参照)。

 これを本件についてみるに,原告の携帯電話に保存されていた女性と男性が性交をしている画像及び動画には,相手の男性の顔は写っていないものの,その画像及び動画は原告が撮影した他の画像とともに原告の画像及び動画撮影機能付きの携帯電話に保存されていたこと,裸体の女性の画像には原告の衣服とみられるものが写っていたこと,原告はその女性に似た女性を自動車に乗せて運転していたこと,画像が原告の管理する賃貸アパートの付近で撮影されたこと,Cが動画に録音されている声が原告の声であると証言していることなどに照らし,原告は,女性と性交している場面を自ら携帯電話で撮影した画像及び動画を保存したものと推認できる。

 原告は,本人尋問において,画像(乙1)に写った女性は知らない、平成24年6月4日に自動車に乗せていた女性(前記1(6))は友人の彼女であり画像(乙1)の女性ではない,画像(乙1)に一緒に写っている男性は自分でない旨供述し,原告の陳述書(甲4)には,画像(乙1)は,友人が携帯電話からパソコンを経由して原告の携帯電話に送信したものであるとの記載があるが,何ら裏付けがないし,上記の各事実に照らしていささか不自然であり,採用できない。なお,画像の撮影場所を操作することは可能である(甲9)けれども,現にこれが操作されたことを認めるに足りる証拠はない。

 そして,女性と原告が性交している動画は平成23年10月17日に撮影されているから,原告は遅くとも同日までには不貞行為をしたと認められる。したがって,原告とCとの婚姻につき,同日の時点で離婚原因が存在したことになる(民法770条1項1号)。Cは,女性と原告が性交している画像及び動画を平成24年5月19日に発見して原告の不貞行為(離婚原因)を知り,原告との離婚を決意し,C代理人弁護士は,同年7月3日,原告に書面で離婚を求め,原告代理人からは,同月11日頃,条件が調えば離婚する意思がある旨の回答があったが,結局,調停で条件(財産分与,親権等)について折り合いがつかず,離婚訴訟を提起するに至っている。 

 このような経緯に照らし,原告とCの婚姻関係は修復不可能となって破綻に至っているが,その破綻の時期は,遅くとも,原告の不貞行為によりCが離婚の意思を固めてこれを表明した平成24年7月2日であると認めるのが相当である。Cは,平成25年5月19日以降も電話で原告に連絡を取ることがあり,別居するには至っていないけれども,これにより,原告とCの婚姻関係が破綻したことは左右されない。

 そうすると,被告がCと肉体関係を持った平成24年7月29日の時点で原告とCの婚姻関係は破綻していたから,被告は原告に対する不法行為責任を負わない。婚姻関係が破綻していたにもかかわらず,不法行為の成立を認めるべき特段の事情を認めるに足りる証拠もない。

3 結論
 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第4部 裁判官 小川嘉基

以上:5,232文字

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