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信頼関係破壊を理由に請負契約全部解除を認めた判例紹介1

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平成29年11月23日(木):初稿
○建物建築請負契約が信頼関係破壊を理由に解除できるかどうかについての判例を探しています。解除約款にはピタリ当てはまる解除理由がない事案の解除の可否が問題になっている相談を受けているからです。債務不履行を理由とした解除裁判例は山のようにあるのですが、信頼関係破壊を主な理由とした判例は余り見当たりません。

○請負人建築会社側に施主である原告に設計変更の打診をせず、設計図書、見積書、工程表を速やかに交付せず、無断で設計内容を変更するなどの付随的債務の不履行があり、その不履行は、施主である原告に対する著しい背信行為であり、これにより原告被告間の信頼関係は破壊されていることから、原告の本件請負契約の解除が認められ、本件建物の工事の進行程度などから、解除は本件請負契約の全部に及ぶとした平成18年9月15日名古屋地裁判決(判タ1243号145頁)全文を2回に分けて紹介します。



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主  文
1 被告は,原告に対し,4485万5000円及びこれに対する平成16年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。 

事実
第1 当事者の求めた裁判

1 原告
 主文同旨

2 被告
(1) 原告は,被告に対し,3497万5950円及びこれに対する平成15年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告の負担とする。
(4) 仮執行宣言

第2 当事者の主張
(本訴について)
1 本訴請求原因

(1) 契約の締結
 被告は,平成15年3月24日,原告から,同人の所有するA南部特定土地区画整理事業仮換地113街区10番地所在の土地(以下「本件土地」という。)上に,1階を店舗,2階及び3階を共同住宅とする3階建て建物(以下「本件建物」という。)の設計及び施工を代金1億3923万円で請け負った(以下「本件請負契約」という。)。

(2) 代金の支払
ア 原告は,平成15年4月22日,被告に対し,本件請負契約の代金として,432万5000円を支払った。ただし,同金員は,同日,原告が被告に交付した800万円のうち,原告と被告間の別の建物請負契約(別件請負契約)の代金367万5000円を差し引いたものである。
イ 原告は,同年6月11日,被告に対し,本件請負契約の代金として,4893万円を支払った。

(3) 債務不履行解除
ア 被告には,以下の債務不履行があり,原被告間の信頼関係が破壊された。
(ア) 本件請負契約締結時,設計図面及び仕様書は交付されず,契約書添付の概要書及び図面のほか,事業計画書(甲8,9(乙5に同じ)の2通)が交付されただけであった。被告は,平成15年5月19日,ようやく原告に仕様書付設計図書(乙6)を交付したが,建築確認書(甲49),工程表(甲19(乙14に同じ)),見積書(甲18)などは,同年8月8日まで交付しなかった。

(イ) 原告は,本件請負契約前から,被告代表者Bに対し,駐車場を広く造り,室数を多くしたいので,できるだけ高層の建物にしたい旨強く希望していたところ,本来,本件土地には20メートルの高さの建物が建築可能であり,6階ないし7階の建物も建てることができたにもかかわらず,被告代表者Bは,10メートルが建築可能な高さで,3階までしか建てられないと言い,本件請負契約の建物概要が決定された。
 この点につき,被告代表者Bは,後になって「RCにしたので後でもつめる。」などと弁解した。

(ウ) 被告は,原告に無断で,オール電化式マンションとする計画からガス給湯器付きに変更したり,基礎の工法を地盤改良のエスミコラム工法から杭工法のセメントミルク工法へ変更するなど,一方的に設計内容を変更した。
 また,被告によって設計監理者とされたCもしくは株式会社C建築設計は,原告に意向を聞くこともなく,平成15年4月16日の地鎮祭で顔を合わせただけで,被告の工事現場での監理体制も極めて杜撰であった。

(エ) 被告は,自ら建築した名古屋市緑区D町E所在のビルを借り上げ,同ビルの一部に入居し,同所を登記簿上の本店所在地としていたところ,地主兼ビル所有者に対する賃料を長期間滞納し,訴えの提起を受けて和解したが,その和解条項も守らず,強制執行の申立てをされ,平成15年4月末日,同ビルから退去していたにもかかわらず,原告に対しては引き続き被告の本店事務所が同ビルにあるかのように取り繕ってごまかすなどした。
 原告は,平成15年9月中旬に至り,被告が上記ビルから退去した経緯を知った。

イ 原告は,平成15年9月17日,被告に対し,第1次的に上記債務不履行による原被告間の信頼関係破壊を原因として,本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。

(4) 約款31条2項fに基づく解除
ア 仮に,債務不履行解除が認められないとしても,本件請負契約の約款31条2項f号は「被告が支払を停止する(資金不足による手形・小切手の不渡りを出すなど)などにより,被告が工事を続行できないおそれがあると認められるとき」契約を解除でき。る旨規定しているが,請求原因(3)ア(エ)記載の事情からすれば,本件はこれに該当するというべきであるから,同規定が直接適用ないし類推適用される。

イ 原告は,平成15年9月17日,被告に対し,第2次的に同規定に基づき,本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。

(5) 約款31条1項に基づく解除
ア 仮に,約款31条2項fに基づく解除が認められないとしても,本件請負契約の約款31条1項は「原告は,必要によって,書面をもって工事を中止しまたはこの契約を解除することができる。」旨規定しており,本件はこれに該当する。

イ 原告は,平成15年9月17日,被告に対し,第3次的に同規定に基づき,本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。

(6) よって,原告は被告に対し,本件請負契約解除による原状回復請求権に基づき,既払い代金5325万5000円から工事の出来高である840万円を除いた4485万5000円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成16年1月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 本訴請求原因に対する認否,反論
(1) 本訴請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)アの事実は否認し,同(2)イの事実は認める。
 被告は,平成15年4月22日,原告から800万円を受領したが,同金員は,本件請負契約の代金には充当されていない。すなわち,被告は,同年2月24日,原告から,愛知県日進市F町G106番地4所在の被告所有の建物(以下「別件建物」という。)の改装に係る設計及び施工を,代金787万5000円で請け負っているところ(以下「別件請負契約」という。),上記800万円は別件請負契約の残代金及び別件建物の追加工事の代金に充当されたものである。
 原告が,本件請負契約につき支払った代金としては,同契約の契約成立時金と着工時金としての4893万円が最初であり,それに先んじて,原告が本件請負契約の代金を支払う理由はない。

(3) 同(3)ア(ア)の事実は否認する。被告は,原告に対し,本件請負契約締結以前の平成15年3月上旬から中旬ころ,本件建物の事業計画書(乙5(甲9に同じ))を交付した上で,本件請負契約が締結された同月24日,契約書(甲1)のほか,仕様書付設計図面(乙6)及び見積書(乙7(甲18に同じ))を交付し,建築確認が降りた直後の同年5月24日ころ,建築確認済証写し(乙16),工程表(乙14(甲19に同じ))及び設計図の本図面(乙17)を交付した。

 同(3)ア(イ)のうち,被告がH(以下「H」という。)に対し「3階までしか建てられない。」旨述べたことは認め,その余の事実は否認する。原告から,駐車場,室数及び高層化について特に強い希望が述べられたことはない。名古屋市の都市計画事業(A南部地区計画)の用途制限としては,高さ20メートル以下,容積率200パーセント以下とされているが,建築基準法上の日影規制等種々の規制があることから,現実に建物の高さを7階(約20メートル)に変更できるわけではない。また,長期間継続して建物を管理する被告の意見も重視すべきである。

 同(3)ア(ウ)の事実は否認する。基礎の工法の変更は,よりよいものを造りたいという被告代表者Bの熱意に拠るところもあったが,元々は,Hらから水による地盤への影響が心配であるという意見が強く言われたため,その意向に従って変更したものであり,原告の同意を得た上で行った。ガス給湯器の設置は,当時,オール電化ワンルームマンションの入居情況はガス給湯器に比べて芳しくなかったことによるもので,原告の同意を得た上で行った。また,原告が本件建物の工事の中止を申し出た時点では,オール電化式へ戻すことが可能であったから,これをもって解除事由とすることはできない。

 同(3)ア(エ)の事実は否認する。当時の被告本店所在地のビルは,被告が借り上げ方式により賃借していた建物であるが,この建物の向かいに葬儀所が建設されたことから,新規の入居者が集まらないなど同ビルにおける被告の賃貸事業に多大な支障が生じるようになった。そこで,被告が,貸主(借上管理委託契約の委託者)に事情変更による契約解除を申し出たところ,賃貸人が拒否したため訴訟となり,相応の和解金を被告が支払って退去したのである。この経過は原告に詳しく説明してあり,被告は不良業者ではない。

同(3)イの事実は認める。

(4) 同(4)アのうち,本件請負契約の約款31条2項f号が「被告が支払を停止する(資金不足による手形・小切手の不渡りを出すなど)などにより,被告が工事を続行できないおそれがあると認められるとき。」契約を解除できる旨規定していることは認め,その余は争う。
 同(4)イの事実は認める。

(5) 同(5)の事実は認める。

(6) 被告の反論
 本件のように借上事業の一環として締結される建物建築工事契約については,施主側からの契約解除事由は制限的に解されるべきである。けだし,借上事業は,施主のみではなく施工業者にも利益をもたらすものであって,一般の住宅建築のように施主の意思のみを遵守することはできず,施工業者が将来得るであろう利益についてもこれを保護する要請が強く働くからである。

(反訴について)
1 反訴請求原因
(1) 契約の締結

 被告は,平成15年3月24日,原告との間で,本件請負契約を締結した。

(2) 契約の解除
 本件請負契約の約款31条1項には「原告は,必要によって,書面をもって工事を中止しまたはこの契約を解除することができる。この場合,原告は,これによって生じる被告の損害を賠償する。」旨規定されている。
 原告は,平成15年9月17日,被告に対し,同規定に基づき本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。

(3) 被告の損害
 原告が本件請負契約を解除したことによって生じる被告の損害は,以下のとおりであり,その合計は8390万5950円以上である。
ア 下請けへの支払い 3143万5950円
 被告は,本件建物の建築工事を発注したI建設株式会社に対し,同社作成の出来高管理表(乙35)に基づき,工事代金として3143万5950円を支払った。

イ 設計・管理費用 1219万円
 被告は,本件建物の設計を発注した株式会社C建築設計に対し,設計・管理費として1219万円を支払った。

ウ 被告にて要した費用 2000万円以上
 被告は,本件建物の建築工事に関して,人件費,現場の仮設電気代・水道代,農地転用申請費用を支出しており,その額は少なくとも2000万円以上に上る。

エ 履行利益 2028万円以上
 被告は,本件建物が完成すれば,少なくとも10年間は同建物を借り受けて賃貸事業を行う予定であった。この賃貸事業における被告の得べかりし利益は以下のとおりであり,その合計は2028万円以上である。

(ア) 建物管理費 634万4400円以上
(イ) 仲介手数料及び礼金 1231万5600円以上
(ウ) リフォーム・クリーニング 162万円以上

(4) よって,被告は,原告に対し,約款31条1項に基づき,本件請負契約の解除によって被告に生じた損害8390万5950円から,既払い代金4893万円を控除した3497万5950円及びこれに対する弁済期後である平成15年9月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 反訴請求原因に対する認否
(1) 反訴請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は認める。ただし,約款31条1項による解除は,本訴請求原因(3),(4)による解除が認められない場合の第3次的解除である。
(3) 同(3)の事実は否認する。

3 反訴抗弁
 本訴請求原因(3),(4)に同じ。

4 反訴抗弁に対する認否
 本訴請求原因に対する認否(3),(4)に同じ。


以上:5,430文字

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