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信頼関係破壊を理由に請負契約全部解除を認めた判例紹介2

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平成29年11月24日(金):初稿
○「信頼関係破壊を理由に請負契約全部解除を認めた判例紹介1」の続きで判決理由文前半です。


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理   由
第1 本訴について

1 本訴請求原因(1),(2)イ,(3)イ,(4)イ,(5)の事実は当事者間に争いがない。

2 本件の経緯等
(1)上記争いのない事実に証拠(甲1ないし3,4の1・2,5ないし9,13ないし20,26ないし29,31,32,35ないし38,43ないし45,48ないし51,63ないし67,74,乙2,4,5,6,10,11,16,17,41,43,44,47ないし50,60,61,証人H,同J,同C,被告代表者B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 原告は,大正8年生まれの高齢者であり,平成15年当時,自宅近くに本件土地,賃貸アパート2棟及び店舗用賃貸物件である別件建物を所有していた。同居の親族である長女のJ(以下「J」という。)及びその夫のH(以下,JとHを合わせて「Hら」という。)は,原告から包括的な委任を受けて,その原告所有賃貸物件の管理を行っており,被告との別件請負契約及び本件請負契約に関する折衝についても,原告から包括的な委任を受けて行っていた。
 被告は,土木,建築設計及び施工等を目的とする株式会社である。被告代表者Bは,仕事上,通称である「K」の姓を使用していた(甲63)。

イ 被告代表者Bは,平成15年2月17日,原告方を訪問し,Hらに対し,当時空き家となっていた別件建物について,1階を賃貸用事務所,2階を賃貸用倉庫とする改装工事を提案した。この改装工事は,被告が改装した別件建物を一括して賃借し被告の名で賃貸事業を行い,原告が安定した家賃収入を確保することを前提とした。

 Hらは,この提案に興味を持ち,被告代表者Bと別件建物の改装工事及びその後の賃貸事業に関して協議した。被告代表者Bは,Hらに対し,別件建物の改装費用及びその後の賃貸事業の収支計画が記載された事業計画書(甲5)を交付した。同書面には,縮尺100分の1の別件建物の立面図及び平面図が添付されていた。
 原告は,同月24日,被告との間で,別件建物について,1階を賃貸用事務所,2階を賃貸用倉庫に改装する設計及び施工に係る請負契約を締結した(別件請負契約,甲6,乙2)。同契約の請負代金は787万5000円で,契約時に52万5000円を,着工時・引渡時にそれぞれ367万5000円を支払うこととされた。
 原告は,被告に対し,別件請負契約の内金として,同月25日に52万5000円を,同月28日に367万5000円をそれぞれ支払った(甲28,29,35,36)。


(ア)被告代表者Bは,平成15年2月下旬ないし同年3月上旬ころ,Hらに対し,別件建物と同じく被告が一括して賃借することを前提に,原告が所有していた本件土地上に店舗付き共同住宅(本件建物)を建築することを提案した。Hらは,この提案に興味を持ち,被告代表者Bと本件建物の建築工事及びその後の賃貸事業に関して協議した。被告代表者Bは,Hらに対し,本件建物の建築費用及びその後の賃貸事業の収支計画が記載された事業計画書(甲8,9(乙5に同じ))を交付した。

 ところで,本件土地は,本来,第1種住居地域に指定され,高さ20メートル以内,建ぺい率60パーセント以内,容積率200パーセント以内の制限とされていたが(建築基準法68条の2,名古屋都市計画A南部地区計画に係る建築物の制限に関する条例,甲48),被告代表者Bは,本件土地がより厳しい制限を受ける第1種中高層住居専用地域に指定されているものと誤解していた。そのため,被告代表者Bは,Hらに対し,同協議の場で,本件土地の場合,高さは10メートルが限度で3階までしか建てられない旨説明した。Hらは,より高層の建物を建築するよう希望していたが,被告代表者Bの同説明を聞いて,同希望を断念し3階建てとした。

 また,Hらと被告代表者Bは,同協議で,本件建物をオール電化式とすることを決めた。

(イ)原告は,平成15年3月24日,被告との間で,1階を賃貸店舗物件,2階及び3階を共同住宅とする本件建物の設計及び施工に係る請負契約を締結した(本件請負契約,甲1)。同契約の請負代金は1億3923万円で,契約時に378万円を,着工時・上棟時・引渡時にそれぞれ4515万円を支払うこととされた。

 被告代表者Bは,本件請負契約締結時,Hらに対し,本件建物の概要及び縮尺200分の1の平面図・立面図が記載された書面一枚並びに工事請負契約約款が添付された契約書(甲1)を交付した。上記書面の本件建物の概要部分には,「用途地域:第1種中高層住居専用地域」「容積率:150%/128.65%」と記載されていた。

 被告代表者Bは,同契約に際し,Hらに対し,設計図書,見積書,工程表を交付しなかった。

(ウ)平成15年4月当時,被告の本店所在地は,名古屋市緑区D町E所在のLビルであった。同ビルは,被告が,原告に対する営業と同じ手法で,地主から店舗付き共同住宅物件の設計施工を請け負い,建築した建物の全部を賃借し,自己の名義で賃貸事業を行うとともに自らも店舗として利用していた建物であった。しかし,被告は,同月ころ,地主兼同ビル所有者との賃貸借契約を解消し,同ビルから退去した。

エ 平成15年4月7日,本件土地の地質調査が行われた(甲50,乙44)。被告は,当初,本件建物の基礎の工法を地盤改良の一種であるエスミコラム工法(原位置で地盤と固化剤を攪拌混合して,円柱状の地盤改良体(コラム)を築造する工法)を採用し,地盤の改良長は一律2.7メートルとし,直径800ミリのコラムを57本築造する予定であったが,この地質調査の結果,支持地盤までの深度は2.37メートルから4.37メートルであると判明したため,これを変更する必要が生じた(甲49の図面S-1,甲50,乙44)。

 原告は,同月17日,別件建物の改装工事費用の借入れを申請していたM農業協同組合から,同費用として850万円を借入れた(甲37,38)。
 Hらは,被告代表者Bから,上記借入金から別件請負契約の残代金のほか,本件請負契約の代金についても支払うよう求められ,同月22日,被告に対し,別件請負契約の残代金(367万5000円)及び本件請負契約の内金(432万5000円)として,合計800万円を支払った(甲2,37)。

 同年5月9日,本件建物の建築確認申請がなされた(甲49)。その申請書によれば,本件建物はオール電化式とされ,また,基礎の工法はエスミコラム工法とされたが,地盤の改良長は平均3.3メートルで,直径800ミリのコラムを88本築造するとされた(特に,甲49のA-2及びS-1の図面)。

 原告は,同月13日,被告に対し,別件建物及びその敷地内の駐車場を,第三者に転貸することを承諾した上,賃料1か月14万2900円(ただし,駐車場料金は,賃料とは別に実台数分の料金を支払う)で賃貸した。(甲7,乙4)。同契約においては,原告が,被告に対し,借上料名目で1か月1万2900円を支払うとされ,被告はこれを賃料及び駐車料金から差し引いて支払うものとされた。

 被告は,同月19日,Hらに対し,本件建物の仕様書付設計図書を交付した。
 株式会社Nは,同月23日,本件建物の建築確認申請につき認可した(乙16)。
 また,同日ころ,別件建物の改装工事が完成した。同建物の裏側には,別件請負契約締結時には予定されていなかった小型の倉庫が併設されたが(甲20),被告代表者Bは,Hらに対し,改装工事の代金の範囲内で行ったから問題はない旨説明した。

オ 平成15年6月始めころ,本件建物の建築工事が開始された。
 被告は,本件建物の着工前に,Hらに無断で,オール電化式を取り止めてガス給湯器を設置し,かつ,基礎の工法をエスミコラム工法から杭基礎の一種であるセメントミルク工法(掘削液を注入しながら所定深度(支持層)まで掘削した後,根固め液を掘削先端部に注入し,さらにその上に,杭周固定液を注入した上で,杭を掘削孔に建て込み,圧入又は軽打により杭を根固め液に固着させ,根固め液と杭周固定液の硬化によって,杭と地盤を一体化させる工法)に変更した(甲16,51,乙17)。

 原告は,同月11日,被告に対し,本件請負契約の代金として,4893万円を支払った(甲3,45)。
 Hは,同月下旬ころ,別件建物の敷地内に大型の倉庫(甲20)が建てられたことに気付き,被告代表者Bに説明を求めたところ,被告代表者Bは「仮設で基礎がなく撤去も簡単にできるし,被告の費用で建てたので被告が自分で使う,借り上げ式だからよいでしょう。」などと説明した。
 Jは,同年7月18日,偶々「A南部地区計画の手引き」と題する書面(甲48)を入手し,本件土地には,高さ20メートル以内,容積率200パーセント以内の建造物が建築可能であると知り,被告代表者Bに説明を求めたところ,同人は「RCにしたので後でも積める。」などと答えた。

カ Hらは,平成15年8月始めころ,被告が,前記本店所在地のビルを立ち退いていたことなどを知り,被告に対して不信感を持つようになった。
Hらは,知人のO建築士の協力を得て,本件建物の工事費用を借り入れていたM農業協同組合から,借入れの申請書類として提出されていた本件建物に係る建築確認書,工程表,ガス機器納入仕様図等(甲13ないし17)を入手して調査した。

 その結果,Hらは,〔1〕基礎の工法が変更されている,〔2〕ガス給湯器の設置が予定されている,〔3〕本来交付されるべき工事の内訳や積算に関する資料が交付されていないなどの点に疑問を持った。
 Hらは,同月8日,被告代表者Bに対し,「質問書」と題する書面(乙10)により,本件建物の建築工事を中止するよう要請するとともに,上記の点について説明を求めた。

 これに対し,被告代表者Bは,同日午後8時ころ,原告方を訪問し,Hらに対し,見積書(甲18),工程表(甲19)及び建築確認書(甲49)を交付した。
 被告は,同月12日までに,本件建物の建築工事を中止した。当時は,杭工事が終了し,コンクリート工事に着手された段階であった(甲26,27)。

 Hら,P(Hらの長男)及びO建築士と被告代表者Bは,同月12日,原告方において協議をした(甲66)。その席上で,被告代表者Bは,Hらに対し,オール電化式からガス式への変更や,基礎の工法の変更について,Hらに対する説明が不足していたこと,見積書,工程表,最終の設計図書を交付していなかったことについて謝罪し,上記「質問書」に対する回答書として「質疑応答書」と題する書面(乙11)を交付した。同書面には,以下の記載があった。
「・深層改良工法(地盤改良固化材)からセメントミルク併用PC杭に変更理由

 当初地盤面下3.84m以下の地層がN値50以上の固結シルト層なのであまりに硬くてPC杭では,杭挿入のキリが動かないだろうとの理由から,深層改良工法で行う事としていた,がしかし工事が始まってからなんとかPC杭にて施工できないかと,工事工程会議で(株)QK氏(被告代表者Bの通称)からの強力な意見があり,丈夫なキリを持っている杭打設業者を探した結果,該当者がみつかりPC杭にて施工できた。」
「・電気温水器からガス給湯機に変更理由
 当初オール電化にて入居率の安定,増加を計画していたが,日進市の地域特性及び単身入居者の昨今の湯利用状況,調理の実態,生活パターン及び名古屋市中区等に在るワンルームマンションの現在の状況等を不動産業者に問い合わせた結果,オール電化ワンルームマンションは今一つ入居状況が芳しくないとの回答があり,上記の箇所を基にR(S営業所)T氏を交えて工事工程会議にて打合せした結果,ガスのほうが有利との結論に至り電気温水器からガス給湯器に変更した。」
Hは,同月30日,原告方において再度協議をした際,被告代表者Bに対し,本件請負契約を白紙にしたい旨申入れた(甲67)。

 原告は,同年9月17日,被告に対し,本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
 原告は,平成17年5月,本件土地を売却した。

(2)被告は,「被告代表者Bが初めて原告方を訪問したのは,平成14年12月ころである。」旨主張し,被告代表者Bもこれに沿う供述をするが,別件請負契約及び本件請負契約に関する書面の作成日付はいずれも平成15年2月以降であること,被告が「原告と被告との打ち合わせの初期のころに被告が原告に交付したものである。」と主張する事業計画書(甲5)ですら,作成日は「平成15年2月吉日」とされていること,別件請負契約を締結する一週間前の平成15年2月17日に初めて被告代表者Bの訪問を受けた旨の証人H及び同Jの証言並びに同人ら作成の陳述書(甲64,65)の内容からすると,容易に採用できない。

 また,被告は,「本件請負契約締結時,Hらに対し,見積書(乙7)などを交付した。ガス給湯器の設置及び基礎の工法の変更についてHらの了解を得ていた。」旨主張し,被告代表者Bもこれに沿う供述をするが,平成15年8月12日に原告方で行われた協議において,被告代表者Bが,見積書,工程表及び最終の設計図書を交付していなかったこと及びガス給湯器の設置及び基礎の工法の変更についてHらに対する説明が不足していたことを謝罪したことが録音されたテープが存在すること(甲66)からして,到底採用できない。
以上:5,587文字

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